59 / 173
第六章 「アキュムレーション」
第48話 「過去との邂逅」
しおりを挟む
昼下がり。
俺たちは、ゴンドラに乗って北運河を渡り、初心者ダンジョン――『薄明の洞窟』と呼ばれる場所に到着した。
小さな丘陵に口を開けた洞窟は、昼の光が差し込むため内部も暗すぎることはない。入り口には簡素な石の門と管理用の小屋が並んでいるだけで、観光地の洞穴と変わらない印象だった。
「ここが……」
俺は口を開く。
「思ったより迫力に欠けるな」
「初心者向けですから」
エルヴィナが落ち着いた声で返す。
「五層までしかなく、魔獣も大したものは出ません。訓練には丁度よいでしょう」
そのときだった。
ダンジョンの入口付近に、既に先客のパーティが集まっているのが目に入った。
鎧を雑に着込んだリーダーと思しき男、前衛らしき戦士、軽装の弓使い、赤毛の魔法士。どこか柄の悪い雰囲気をまとった一団だ。
「おや、見ない顔だな」
リーダーと思われる男がこちらを値踏みするように睨みつける。
俺は答えずにいたが、代わりにフィリアが上品に一歩前へ出た。
「通りすがりの新参者ですわ。ご心配なく」
「ふん、貴族のお嬢様か? こんなとこで何やってやがる」
弓使いの女が鼻で笑った。
そこへ、戦士風の男が俺たちの後ろを見て目を細める。
「……おいおい、嘘だろ。そいつ……あの時の魔法士じゃねえか」
空気が一瞬にして凍りついた。
アイラは肩を震わせ、顔を強ばらせる
「お前、生きてたのかよ」
戦士が口の端を歪める。
「てっきり、あのとき魔獣に食われたもんだと思ってたぜ」
「…………」
アイラの唇からは声が出なかった。
「ははっ、なるほどな。今度はこの連中に拾われたわけか。お前らも物好きだな」
リーダーの男が嘲笑する。
「こいつは使えねえぞ? お前らも、捨て駒にして逃げるつもりなんだろ」
頭に血が上る。
思わず前に出かけたが、その瞬間フィリアが一歩進み出て、澄んだ声を響かせる。
「下卑た物言いは感心しませんわね」
フィリアの紫の瞳が、すっと鋭さを帯びた。
「わたくしたちは仲間を捨てるような真似はいたしません。――行きましょう、皆さま」
背後で笑い声が響いたが、振り返る気にはならなかった。
……
…
洞窟の手前まで来たとき、アイラがふらりと立ち止まった。
俺たちも足を止める。
「……ごめんなさい」
アイラが小さくつぶやいた。
「わたし……やっぱり怖いです。前に一度だけ、魔法士ギルドのお仕事であの人たち……宵の明星の人たちとダンジョンに入ったことがあって……」
アイラの声は震えていた。
「強い魔獣に出会ったとき、皆、わたしを置いて逃げました。わたしだけが、囮にされて……」
言葉が詰まり、喉が震える。
フィリアがそっとアイラの手を取った。
「でも、生きて戻ってきたのですわ。勇気を持って脱出したのでしょう? あなたは弱くなんてありません」
エルヴィナも低い声で続ける。
「アイラ様。あの者たちが臆病で卑怯だっただけです。仲間を見捨てるなど、騎士として恥に値する行為。あなたが責めを負う必要はありません」
俺も一歩前に出る。
「俺たちは違う。アイラを捨て駒にするなんてこと、絶対にしない。そのなんだ……家族みたいなものだろう…」
頭を搔きながら答える。
小恥ずかしいセリフの甲斐あってか、アイラは静かに顔を上げる。
金色の瞳に、涙が光っていた。
「……はい」
フィリアが嬉しそうに微笑む。
「そう……家族! ファミリーですわ! セレスティアファミリー。そう名付けたのは、伊達ではありませんわ」
アイラは唇を震わせ、そしてようやく小さく笑った。
「……ありがとうございます」
その笑みは弱々しかった。だが、前へ進もうとする意思があるようにも見えた。
そして俺たちは、洞窟の奥を見つめる。
ここに踏み入る意味は、図らずも大きなものとなった。
俺たちは、ゴンドラに乗って北運河を渡り、初心者ダンジョン――『薄明の洞窟』と呼ばれる場所に到着した。
小さな丘陵に口を開けた洞窟は、昼の光が差し込むため内部も暗すぎることはない。入り口には簡素な石の門と管理用の小屋が並んでいるだけで、観光地の洞穴と変わらない印象だった。
「ここが……」
俺は口を開く。
「思ったより迫力に欠けるな」
「初心者向けですから」
エルヴィナが落ち着いた声で返す。
「五層までしかなく、魔獣も大したものは出ません。訓練には丁度よいでしょう」
そのときだった。
ダンジョンの入口付近に、既に先客のパーティが集まっているのが目に入った。
鎧を雑に着込んだリーダーと思しき男、前衛らしき戦士、軽装の弓使い、赤毛の魔法士。どこか柄の悪い雰囲気をまとった一団だ。
「おや、見ない顔だな」
リーダーと思われる男がこちらを値踏みするように睨みつける。
俺は答えずにいたが、代わりにフィリアが上品に一歩前へ出た。
「通りすがりの新参者ですわ。ご心配なく」
「ふん、貴族のお嬢様か? こんなとこで何やってやがる」
弓使いの女が鼻で笑った。
そこへ、戦士風の男が俺たちの後ろを見て目を細める。
「……おいおい、嘘だろ。そいつ……あの時の魔法士じゃねえか」
空気が一瞬にして凍りついた。
アイラは肩を震わせ、顔を強ばらせる
「お前、生きてたのかよ」
戦士が口の端を歪める。
「てっきり、あのとき魔獣に食われたもんだと思ってたぜ」
「…………」
アイラの唇からは声が出なかった。
「ははっ、なるほどな。今度はこの連中に拾われたわけか。お前らも物好きだな」
リーダーの男が嘲笑する。
「こいつは使えねえぞ? お前らも、捨て駒にして逃げるつもりなんだろ」
頭に血が上る。
思わず前に出かけたが、その瞬間フィリアが一歩進み出て、澄んだ声を響かせる。
「下卑た物言いは感心しませんわね」
フィリアの紫の瞳が、すっと鋭さを帯びた。
「わたくしたちは仲間を捨てるような真似はいたしません。――行きましょう、皆さま」
背後で笑い声が響いたが、振り返る気にはならなかった。
……
…
洞窟の手前まで来たとき、アイラがふらりと立ち止まった。
俺たちも足を止める。
「……ごめんなさい」
アイラが小さくつぶやいた。
「わたし……やっぱり怖いです。前に一度だけ、魔法士ギルドのお仕事であの人たち……宵の明星の人たちとダンジョンに入ったことがあって……」
アイラの声は震えていた。
「強い魔獣に出会ったとき、皆、わたしを置いて逃げました。わたしだけが、囮にされて……」
言葉が詰まり、喉が震える。
フィリアがそっとアイラの手を取った。
「でも、生きて戻ってきたのですわ。勇気を持って脱出したのでしょう? あなたは弱くなんてありません」
エルヴィナも低い声で続ける。
「アイラ様。あの者たちが臆病で卑怯だっただけです。仲間を見捨てるなど、騎士として恥に値する行為。あなたが責めを負う必要はありません」
俺も一歩前に出る。
「俺たちは違う。アイラを捨て駒にするなんてこと、絶対にしない。そのなんだ……家族みたいなものだろう…」
頭を搔きながら答える。
小恥ずかしいセリフの甲斐あってか、アイラは静かに顔を上げる。
金色の瞳に、涙が光っていた。
「……はい」
フィリアが嬉しそうに微笑む。
「そう……家族! ファミリーですわ! セレスティアファミリー。そう名付けたのは、伊達ではありませんわ」
アイラは唇を震わせ、そしてようやく小さく笑った。
「……ありがとうございます」
その笑みは弱々しかった。だが、前へ進もうとする意思があるようにも見えた。
そして俺たちは、洞窟の奥を見つめる。
ここに踏み入る意味は、図らずも大きなものとなった。
0
あなたにおすすめの小説
魔法至上主義の世界で『筋力』だけカンストした男が拳一つで全てを覆す
ポポリーナ
ファンタジー
魔法こそが至高——この世界では呼吸も移動も戦闘も、あらゆる営みが魔力で成り立っている。
筋力は「野蛮人の遺物」と蔑まれ、身体を鍛える者は最底辺の存在とされていた。
そんな世界に転生した元・体育教師の剛田鉄心は、魔力適性ゼロ、しかし筋力だけが測定不能のカンスト値。
魔法障壁を素手でぶち抜き、転移魔法より速く走り、最上位魔法を腹筋で弾く——
「なぜ魔法を使わないんだ!?」と問われるたびに「だって使えないし」と笑う男の、
常識を腕力でねじ伏せる痛快・逆転無双が今始まる!
僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜
犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。
この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。
これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
転生特典〈無限スキルポイント〉で無制限にスキルを取得して異世界無双!?
スピカ・メロディアス
ファンタジー
目が覚めたら展開にいた主人公・凸守優斗。
女神様に死後の案内をしてもらえるということで思春期男子高生夢のチートを貰って異世界転生!と思ったものの強すぎるチートはもらえない!?
ならば程々のチートをうまく使って夢にまで見た異世界ライフを楽しもうではないか!
これは、只人の少年が繰り広げる異世界物語である。
大国に囲まれた小国の「魔素無し第四王子」戦記(最強部隊を率いて新王国樹立へ)
たぬころまんじゅう
ファンタジー
小国の第四王子アルス。魔素による身体強化が当たり前の時代に、王族で唯一魔素が無い王子として生まれた彼は、蔑まれる毎日だった。
しかしある日、ひょんなことから無限に湧き出る魔素を身体に取り込んでしまった。その日を境に彼の人生は劇的に変わっていく。
士官学校に入り「戦略」「戦術」「武術」を学び、仲間を集めたアルスは隊を結成。アルス隊が功績を挙げ、軍の中で大きな存在になっていくと様々なことに巻き込まれていく。
領地経営、隣国との戦争、反乱、策略、ガーネット教や3大ギルドによる陰謀にちらつく大国の影。様々な経験を経て「最強部隊」と呼ばれたアルス隊は遂に新王国樹立へ。
異能バトル×神算鬼謀の戦略・戦術バトル!
圧倒的不利な状況を武と知略で切り抜ける!
☆史実に基づいた戦史、宗教史、過去から現代の政治や思想、経済を取り入れて書いた大河ドラマをお楽しみください☆
異世界帰りのハーレム王
ぬんまる兄貴
ファンタジー
俺、飯田雷丸。どこにでもいる普通の高校生……だったはずが、気づいたら異世界に召喚されて魔王を倒してた。すごいだろ?いや、自分でもびっくりしてる。異世界で魔王討伐なんて人生のピークじゃねぇか?でも、そのピークのまま現実世界に帰ってきたわけだ。
で、戻ってきたら、日常生活が平和に戻ると思うだろ?甘かったねぇ。何か知らんけど、妖怪とか悪魔とか幽霊とか、そんなのが普通に見えるようになっちまったんだよ!なんだこれ、チート能力の延長線上か?それとも人生ハードモードのお知らせか?
異世界で魔王を倒した俺が、今度は地球で恋と戦いとボールを転がす!最高にアツいハーレムバトル、開幕!
異世界帰りのハーレム王
朝7:00/夜21:00に各サイトで毎日更新中!
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる