俺だけ魔力が買えるので、投資したらチートモードに突入しました

白河リオン

文字の大きさ
60 / 173
第六章 「アキュムレーション」

第49話 「アイラの魔法」

しおりを挟む
 ダンジョンの第一層の奥は、広々とした天然の空洞になっていた。

 岩壁は淡い光苔に照らされ、視界は思った以上に明るい。足元は乾いた岩肌で歩きやすい。ダンジョンと聞いて緊張していたが、拍子抜けするほど整っている。

「ここなら、ちょうどいいですわね」

 フィリアが前に出て周囲を見回した。
 
「周囲に魔獣の気配もありません」

 エルヴィナが剣に手を添えたまま警戒を解き、俺の方を振り返った。

「では、始めましょう」

「試験内容を、もう一度整理しておきます」

 エルヴィナが前に出て説明を始める。

「公開査定で求められるのは、七大属性――水、火、雷、風、土、光、闇――そして無属性の魔法を一通り披露することです。審査員は、各魔法の威力、制御の正確さを測定します」

「威力と正確さ……」

 アイラが小さな声で呟く。

「通常の魔法士は、得意とするのは一、二属性。他は補助的にしか使えません」

 エルヴィナが説明を加える。

「ですが、お嬢様――フィリア様は雷と火、それに光魔法において卓越しておられます。本来ならS級に認定される力をお持ちですが、フィナ・セレスティアとして活動されているため、敢えてB級に留まっているのです」

「目立ちすぎれば何かと不都合がありますから」

 フィリアは肩をすくめる。

「なるほどな」

「わたくしは今回もB級を継続。昇格は狙いませんわ」

 フィリアは、さらりとそう言い切った。
 
 だが今の目的はフィリアではなく、アイラの力を確かめることだ。
 
 空洞の中央に立ったアイラは、緊張した面持ちで手を胸に当てていた。
 
「……わたし、本当にできるでしょうか」

「気にせず、全力で放ってみろ。ディムのことは気にしなくていい」

「でも…大事なお金が……」

「お金っていうのは使いどころが大切だ。アイラの全力を知る。これも大切なことだ」

「わかりました。やってみます……」

 アイラは、そう言って両手を掲げる。

 アイラの眼前には、青白い魔法陣が起動する。
 
 同時に、俺のアルカナプレートが淡く光り、残高が減っていく。
 
マイナス94ディム。

 最近、少しだが魔力の流れというのを感じることができるようになってきた。俺を通してアイラに魔力が供給されていくのが分かる。
 
 少しすると、アイラへの魔力供給が止まる。

 透明な水が渦を巻く。

――つぎの瞬間。
 
 高圧の水流が岩壁に向かって放たれる。轟音とともに岩片が飛び散り、岩壁には深々と抉れた痕が刻まれる。

「……これほどの威力を無詠唱で……」

 エルヴィナが目を見張った。

「これは、ウォータースプラッシュですか? アイラさんは、水魔法が得意なのですね」

「水魔法は、好きです。術式がかわいいので……」

 よくわからない答えをするアイラの横で、フィリアも紫の瞳を丸くする。
 
「無詠唱でここまで……信じられませんわ」

「次は、火属性を見せていただけますか?」

「わかりました」

 アイラが手を掲げると、紅蓮の炎がほとばしり、岩壁を真っ赤に焼き焦がした。
 
 熱気が空洞を満たし、俺たちは思わず後ずさる。

「っ……熱いですわ!」

 フィリアが手で顔を覆う。
 
「水だけでなく、火まで……?」

 アルカナプレートが光り、ディムが引かれていく。

マイナス102ディム。

 雷属性。
 
 バチバチと音を立て、稲妻の槍が閃いた。
 
 雷光は岩盤を貫き、爆音が空洞を震わせる。

「雷属性で、お嬢様に匹敵する……威力」

 エルヴィナが息を詰める。

マイナス101ディム。

 風属性、土属性、闇属性。次々と高い威力の魔法を披露していく。

 そして光属性。
 
 アイラは深く息を吸い込み、両手を胸の前で組む。

 今までの無詠唱とは違う――澄んだ声で長い詠唱が始まった。

「天に座す永遠の光よ、闇を払いし純白の輝きよ。我が声を聞き、我が祈りに応えたまえ。罪を洗い、傷を癒すは汝の務め。穢れを断ち、命を繋ぐは汝の誓い。いま此処に集う者に、救済と安寧を。迷える魂に、導きと希望を。――聖光満ちる天より降り注げ。ルーメン・サンクティス!」

 幾重もの光の陣が展開され、洞窟全体が白昼のように輝く。肌に触れた光は優しく、傷や疲労が溶けるように癒されていく。聖堂に迷い込んだような、神聖さに満ちた光景。
 
マイナス2048ディム。

「これは、最上級の光魔法、ルーメン・サンクティス……」

 フィリアが感嘆の声を上げる。

「最上級魔法……どこで習得を……?」

 エルヴィナの声も震えていた。

 アイラは少し困ったように首を傾げ、申し訳なさそうに答える。

「えっと……座学は得意だったので。魔法学校の図書館にあった魔術式は……全部、覚えています」

「全部ですって?」
「全部ですか?」

 二人が同時に絶句する。

「はい。実技はダメだったので、座学だけでもって。この魔法はさすがに無詠唱や短縮詠唱は無理なのでフルの詠唱が必要ですけど……」

 アイラは小さく笑った。
 
 フィリアは顔を覆い、深く溜息を吐いた。
 
「……驚きすぎて、もう呆れるしかありませんわ」

 俺は最後の確認を口にする。
 
「これで七大属性はすべてだな。あとは無属性……」

 アイラはふっと微笑んで首を振った。
 
「無属性は、攻撃じゃなくてもいいんです。本番では――オーダーフォームを出すつもりです」

「査定の場で、取引魔法を披露するということかしら?」

 フィリアが確認する。

「はい。それが、わたしの魔法士としての本分ですから」

 アイラの声は堂々としていた。
 
「誰かを傷つける力よりも、アルさんと一緒に築いてきた取引魔法士としての力を、胸を張って示したいんです」

 その言葉に、俺は胸が熱くなった。
 
 アイラはもう、自分をただの「弱い魔法士」だとは思っていない。
 
 取引魔法士としての矜持きょうじを、自らの中に見つけ出したのだ。


◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆
 【資産合計】1,431,530ディム
 【負債合計】0ディム
 【純資産】1,431,530ディム
◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔法至上主義の世界で『筋力』だけカンストした男が拳一つで全てを覆す

ポポリーナ
ファンタジー
魔法こそが至高——この世界では呼吸も移動も戦闘も、あらゆる営みが魔力で成り立っている。 筋力は「野蛮人の遺物」と蔑まれ、身体を鍛える者は最底辺の存在とされていた。 そんな世界に転生した元・体育教師の剛田鉄心は、魔力適性ゼロ、しかし筋力だけが測定不能のカンスト値。 魔法障壁を素手でぶち抜き、転移魔法より速く走り、最上位魔法を腹筋で弾く—— 「なぜ魔法を使わないんだ!?」と問われるたびに「だって使えないし」と笑う男の、 常識を腕力でねじ伏せる痛快・逆転無双が今始まる!

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜

犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。 この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。 これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

転生特典〈無限スキルポイント〉で無制限にスキルを取得して異世界無双!?

スピカ・メロディアス
ファンタジー
目が覚めたら展開にいた主人公・凸守優斗。 女神様に死後の案内をしてもらえるということで思春期男子高生夢のチートを貰って異世界転生!と思ったものの強すぎるチートはもらえない!? ならば程々のチートをうまく使って夢にまで見た異世界ライフを楽しもうではないか! これは、只人の少年が繰り広げる異世界物語である。

大国に囲まれた小国の「魔素無し第四王子」戦記(最強部隊を率いて新王国樹立へ)

たぬころまんじゅう
ファンタジー
 小国の第四王子アルス。魔素による身体強化が当たり前の時代に、王族で唯一魔素が無い王子として生まれた彼は、蔑まれる毎日だった。  しかしある日、ひょんなことから無限に湧き出る魔素を身体に取り込んでしまった。その日を境に彼の人生は劇的に変わっていく。  士官学校に入り「戦略」「戦術」「武術」を学び、仲間を集めたアルスは隊を結成。アルス隊が功績を挙げ、軍の中で大きな存在になっていくと様々なことに巻き込まれていく。  領地経営、隣国との戦争、反乱、策略、ガーネット教や3大ギルドによる陰謀にちらつく大国の影。様々な経験を経て「最強部隊」と呼ばれたアルス隊は遂に新王国樹立へ。 異能バトル×神算鬼謀の戦略・戦術バトル! 圧倒的不利な状況を武と知略で切り抜ける! ☆史実に基づいた戦史、宗教史、過去から現代の政治や思想、経済を取り入れて書いた大河ドラマをお楽しみください☆

異世界帰りのハーレム王

ぬんまる兄貴
ファンタジー
俺、飯田雷丸。どこにでもいる普通の高校生……だったはずが、気づいたら異世界に召喚されて魔王を倒してた。すごいだろ?いや、自分でもびっくりしてる。異世界で魔王討伐なんて人生のピークじゃねぇか?でも、そのピークのまま現実世界に帰ってきたわけだ。 で、戻ってきたら、日常生活が平和に戻ると思うだろ?甘かったねぇ。何か知らんけど、妖怪とか悪魔とか幽霊とか、そんなのが普通に見えるようになっちまったんだよ!なんだこれ、チート能力の延長線上か?それとも人生ハードモードのお知らせか? 異世界で魔王を倒した俺が、今度は地球で恋と戦いとボールを転がす!最高にアツいハーレムバトル、開幕! 異世界帰りのハーレム王 朝7:00/夜21:00に各サイトで毎日更新中!

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

魔力ゼロの俺だけが、呪いの装備を『代償なし』で使い放題 ~命を削る魔剣も、俺が持てば『ただのよく切れる剣』~

仙道
ファンタジー
現代日本で天才研究者だった相模登(さがみ のぼる)は、ある日突然、異世界へ転移した。  そこは『スキル』と『魔力』が全てを決める世界。   しかし登には、ステータス画面もなければ、魔力も、スキルも一切存在しなかった。   ただの一般人として迷宮に放り出された彼は、瀕死の女騎士と出会う。彼女の前には、使う者の命を瞬時に吸い尽くす『呪いの魔剣』が落ちていた。   武器はそれしかない。女騎士は絶望していたが、登は平然と魔剣を握りしめる。 「なぜ……生きていられるの?」  登には、剣が対価として要求する魔力は存在しない。故に、魔剣はデメリットなしの『ただのよく切れる剣』として機能した。   これは、世界で唯一「対価」を支払う必要がない登が、呪われた武具を次々と使いこなし、その副作用に苦しむ女騎士やエルフ、聖女を救い出し、無自覚に溺愛されていく物語。

処理中です...