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第六章 「アキュムレーション」
第49話 「アイラの魔法」
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ダンジョンの第一層の奥は、広々とした天然の空洞になっていた。
岩壁は淡い光苔に照らされ、視界は思った以上に明るい。足元は乾いた岩肌で歩きやすい。ダンジョンと聞いて緊張していたが、拍子抜けするほど整っている。
「ここなら、ちょうどいいですわね」
フィリアが前に出て周囲を見回した。
「周囲に魔獣の気配もありません」
エルヴィナが剣に手を添えたまま警戒を解き、俺の方を振り返った。
「では、始めましょう」
「試験内容を、もう一度整理しておきます」
エルヴィナが前に出て説明を始める。
「公開査定で求められるのは、七大属性――水、火、雷、風、土、光、闇――そして無属性の魔法を一通り披露することです。審査員は、各魔法の威力、制御の正確さを測定します」
「威力と正確さ……」
アイラが小さな声で呟く。
「通常の魔法士は、得意とするのは一、二属性。他は補助的にしか使えません」
エルヴィナが説明を加える。
「ですが、お嬢様――フィリア様は雷と火、それに光魔法において卓越しておられます。本来ならS級に認定される力をお持ちですが、フィナ・セレスティアとして活動されているため、敢えてB級に留まっているのです」
「目立ちすぎれば何かと不都合がありますから」
フィリアは肩をすくめる。
「なるほどな」
「わたくしは今回もB級を継続。昇格は狙いませんわ」
フィリアは、さらりとそう言い切った。
だが今の目的はフィリアではなく、アイラの力を確かめることだ。
空洞の中央に立ったアイラは、緊張した面持ちで手を胸に当てていた。
「……わたし、本当にできるでしょうか」
「気にせず、全力で放ってみろ。ディムのことは気にしなくていい」
「でも…大事なお金が……」
「お金っていうのは使いどころが大切だ。アイラの全力を知る。これも大切なことだ」
「わかりました。やってみます……」
アイラは、そう言って両手を掲げる。
アイラの眼前には、青白い魔法陣が起動する。
同時に、俺のアルカナプレートが淡く光り、残高が減っていく。
-94ディム。
最近、少しだが魔力の流れというのを感じることができるようになってきた。俺を通してアイラに魔力が供給されていくのが分かる。
少しすると、アイラへの魔力供給が止まる。
透明な水が渦を巻く。
――つぎの瞬間。
高圧の水流が岩壁に向かって放たれる。轟音とともに岩片が飛び散り、岩壁には深々と抉れた痕が刻まれる。
「……これほどの威力を無詠唱で……」
エルヴィナが目を見張った。
「これは、ウォータースプラッシュですか? アイラさんは、水魔法が得意なのですね」
「水魔法は、好きです。術式がかわいいので……」
よくわからない答えをするアイラの横で、フィリアも紫の瞳を丸くする。
「無詠唱でここまで……信じられませんわ」
「次は、火属性を見せていただけますか?」
「わかりました」
アイラが手を掲げると、紅蓮の炎がほとばしり、岩壁を真っ赤に焼き焦がした。
熱気が空洞を満たし、俺たちは思わず後ずさる。
「っ……熱いですわ!」
フィリアが手で顔を覆う。
「水だけでなく、火まで……?」
アルカナプレートが光り、ディムが引かれていく。
-102ディム。
雷属性。
バチバチと音を立て、稲妻の槍が閃いた。
雷光は岩盤を貫き、爆音が空洞を震わせる。
「雷属性で、お嬢様に匹敵する……威力」
エルヴィナが息を詰める。
-101ディム。
風属性、土属性、闇属性。次々と高い威力の魔法を披露していく。
そして光属性。
アイラは深く息を吸い込み、両手を胸の前で組む。
今までの無詠唱とは違う――澄んだ声で長い詠唱が始まった。
「天に座す永遠の光よ、闇を払いし純白の輝きよ。我が声を聞き、我が祈りに応えたまえ。罪を洗い、傷を癒すは汝の務め。穢れを断ち、命を繋ぐは汝の誓い。いま此処に集う者に、救済と安寧を。迷える魂に、導きと希望を。――聖光満ちる天より降り注げ。ルーメン・サンクティス!」
幾重もの光の陣が展開され、洞窟全体が白昼のように輝く。肌に触れた光は優しく、傷や疲労が溶けるように癒されていく。聖堂に迷い込んだような、神聖さに満ちた光景。
-2048ディム。
「これは、最上級の光魔法、ルーメン・サンクティス……」
フィリアが感嘆の声を上げる。
「最上級魔法……どこで習得を……?」
エルヴィナの声も震えていた。
アイラは少し困ったように首を傾げ、申し訳なさそうに答える。
「えっと……座学は得意だったので。魔法学校の図書館にあった魔術式は……全部、覚えています」
「全部ですって?」
「全部ですか?」
二人が同時に絶句する。
「はい。実技はダメだったので、座学だけでもって。この魔法はさすがに無詠唱や短縮詠唱は無理なのでフルの詠唱が必要ですけど……」
アイラは小さく笑った。
フィリアは顔を覆い、深く溜息を吐いた。
「……驚きすぎて、もう呆れるしかありませんわ」
俺は最後の確認を口にする。
「これで七大属性はすべてだな。あとは無属性……」
アイラはふっと微笑んで首を振った。
「無属性は、攻撃じゃなくてもいいんです。本番では――オーダーフォームを出すつもりです」
「査定の場で、取引魔法を披露するということかしら?」
フィリアが確認する。
「はい。それが、わたしの魔法士としての本分ですから」
アイラの声は堂々としていた。
「誰かを傷つける力よりも、アルさんと一緒に築いてきた取引魔法士としての力を、胸を張って示したいんです」
その言葉に、俺は胸が熱くなった。
アイラはもう、自分をただの「弱い魔法士」だとは思っていない。
取引魔法士としての矜持を、自らの中に見つけ出したのだ。
◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆
【資産合計】1,431,530ディム
【負債合計】0ディム
【純資産】1,431,530ディム
◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆
岩壁は淡い光苔に照らされ、視界は思った以上に明るい。足元は乾いた岩肌で歩きやすい。ダンジョンと聞いて緊張していたが、拍子抜けするほど整っている。
「ここなら、ちょうどいいですわね」
フィリアが前に出て周囲を見回した。
「周囲に魔獣の気配もありません」
エルヴィナが剣に手を添えたまま警戒を解き、俺の方を振り返った。
「では、始めましょう」
「試験内容を、もう一度整理しておきます」
エルヴィナが前に出て説明を始める。
「公開査定で求められるのは、七大属性――水、火、雷、風、土、光、闇――そして無属性の魔法を一通り披露することです。審査員は、各魔法の威力、制御の正確さを測定します」
「威力と正確さ……」
アイラが小さな声で呟く。
「通常の魔法士は、得意とするのは一、二属性。他は補助的にしか使えません」
エルヴィナが説明を加える。
「ですが、お嬢様――フィリア様は雷と火、それに光魔法において卓越しておられます。本来ならS級に認定される力をお持ちですが、フィナ・セレスティアとして活動されているため、敢えてB級に留まっているのです」
「目立ちすぎれば何かと不都合がありますから」
フィリアは肩をすくめる。
「なるほどな」
「わたくしは今回もB級を継続。昇格は狙いませんわ」
フィリアは、さらりとそう言い切った。
だが今の目的はフィリアではなく、アイラの力を確かめることだ。
空洞の中央に立ったアイラは、緊張した面持ちで手を胸に当てていた。
「……わたし、本当にできるでしょうか」
「気にせず、全力で放ってみろ。ディムのことは気にしなくていい」
「でも…大事なお金が……」
「お金っていうのは使いどころが大切だ。アイラの全力を知る。これも大切なことだ」
「わかりました。やってみます……」
アイラは、そう言って両手を掲げる。
アイラの眼前には、青白い魔法陣が起動する。
同時に、俺のアルカナプレートが淡く光り、残高が減っていく。
-94ディム。
最近、少しだが魔力の流れというのを感じることができるようになってきた。俺を通してアイラに魔力が供給されていくのが分かる。
少しすると、アイラへの魔力供給が止まる。
透明な水が渦を巻く。
――つぎの瞬間。
高圧の水流が岩壁に向かって放たれる。轟音とともに岩片が飛び散り、岩壁には深々と抉れた痕が刻まれる。
「……これほどの威力を無詠唱で……」
エルヴィナが目を見張った。
「これは、ウォータースプラッシュですか? アイラさんは、水魔法が得意なのですね」
「水魔法は、好きです。術式がかわいいので……」
よくわからない答えをするアイラの横で、フィリアも紫の瞳を丸くする。
「無詠唱でここまで……信じられませんわ」
「次は、火属性を見せていただけますか?」
「わかりました」
アイラが手を掲げると、紅蓮の炎がほとばしり、岩壁を真っ赤に焼き焦がした。
熱気が空洞を満たし、俺たちは思わず後ずさる。
「っ……熱いですわ!」
フィリアが手で顔を覆う。
「水だけでなく、火まで……?」
アルカナプレートが光り、ディムが引かれていく。
-102ディム。
雷属性。
バチバチと音を立て、稲妻の槍が閃いた。
雷光は岩盤を貫き、爆音が空洞を震わせる。
「雷属性で、お嬢様に匹敵する……威力」
エルヴィナが息を詰める。
-101ディム。
風属性、土属性、闇属性。次々と高い威力の魔法を披露していく。
そして光属性。
アイラは深く息を吸い込み、両手を胸の前で組む。
今までの無詠唱とは違う――澄んだ声で長い詠唱が始まった。
「天に座す永遠の光よ、闇を払いし純白の輝きよ。我が声を聞き、我が祈りに応えたまえ。罪を洗い、傷を癒すは汝の務め。穢れを断ち、命を繋ぐは汝の誓い。いま此処に集う者に、救済と安寧を。迷える魂に、導きと希望を。――聖光満ちる天より降り注げ。ルーメン・サンクティス!」
幾重もの光の陣が展開され、洞窟全体が白昼のように輝く。肌に触れた光は優しく、傷や疲労が溶けるように癒されていく。聖堂に迷い込んだような、神聖さに満ちた光景。
-2048ディム。
「これは、最上級の光魔法、ルーメン・サンクティス……」
フィリアが感嘆の声を上げる。
「最上級魔法……どこで習得を……?」
エルヴィナの声も震えていた。
アイラは少し困ったように首を傾げ、申し訳なさそうに答える。
「えっと……座学は得意だったので。魔法学校の図書館にあった魔術式は……全部、覚えています」
「全部ですって?」
「全部ですか?」
二人が同時に絶句する。
「はい。実技はダメだったので、座学だけでもって。この魔法はさすがに無詠唱や短縮詠唱は無理なのでフルの詠唱が必要ですけど……」
アイラは小さく笑った。
フィリアは顔を覆い、深く溜息を吐いた。
「……驚きすぎて、もう呆れるしかありませんわ」
俺は最後の確認を口にする。
「これで七大属性はすべてだな。あとは無属性……」
アイラはふっと微笑んで首を振った。
「無属性は、攻撃じゃなくてもいいんです。本番では――オーダーフォームを出すつもりです」
「査定の場で、取引魔法を披露するということかしら?」
フィリアが確認する。
「はい。それが、わたしの魔法士としての本分ですから」
アイラの声は堂々としていた。
「誰かを傷つける力よりも、アルさんと一緒に築いてきた取引魔法士としての力を、胸を張って示したいんです」
その言葉に、俺は胸が熱くなった。
アイラはもう、自分をただの「弱い魔法士」だとは思っていない。
取引魔法士としての矜持を、自らの中に見つけ出したのだ。
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【資産合計】1,431,530ディム
【負債合計】0ディム
【純資産】1,431,530ディム
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