俺だけ魔力が買えるので、投資したらチートモードに突入しました

白河リオン

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第六章 「アキュムレーション」

第50話 「出立の日」

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~憲章暦997年3月25日(土の日)~ 

 セレスティア商会の正面玄関。

 広い石畳の玄関前には、すでに馬車が待機していた。磨き抜かれた木製の車体には商会の紋章が小さく刻まれている。御者台には熟練の社員が腰掛け、護衛役として二人の社員が立っている。
 
 そして、玄関前の中央に立つ少女。オレンジ色の髪をサイドテールに結ったリーリアが、大きな荷物を抱え、俺を見上げていた。

「アル兄……今日は、ついに出発の日だよ」

 リーリアの声は明るいけれど、どこか寂しさが混じっている気がする。

「ああ。思ったよりも早かったな」

 俺は、リーリアの頭を軽く撫でる。

 リーリアは目を細め、子供のころのように甘えるような表情を見せた。
 
「……えへへ。アル兄にこうして撫でてもらうと、まだ子供のままでもいい気がしちゃう」

「おいおい。これからは立派な魔法士になるんだろ? いつまでも子供じゃ困る」

「分かってるよ。でも……やっぱり寂しいんだもん」

 リーリアは俺のことを兄のように慕ってくれている。守るべき存在が遠く離れてしまうことに、すこしばかりの寂しさを覚える。
 
 そんな俺たちを、少し離れた場所からアイラとフィリアが見守っていた。
 
 アイラは両手を前に組み、穏やかな笑顔を浮かべている。けれど、金色の瞳がわずかに揺れていた。
 
 フィリアは相変わらずの涼やかな表情で、隣には護衛のエルヴィナが控えている。

「リーリア様、道中は我らが責任をもってお守りいたします」

 商会の社員の一人が深々と頭を下げる。

「うん、ありがとう!」

 リーリアは元気よく答え、振り返って俺の手をぎゅっと握った。

「アル兄、私、絶対に強くなって帰ってくるから!」

「ああ、期待してる。でも無茶はするなよ」

「うん」

 リーリアは名残惜しそうに手を離し、馬車へと乗り込む。扉が閉まり、やがて御者の掛け声とともに馬車がゆっくりと動き出した。

 俺たちは馬車が角を曲がり、見えなくなるまで見送った。
 
 胸の奥にぽっかりと穴が開いたような感覚を覚える。

「……行ってしまいましたわね」

 フィリアが小さく呟く。

 俺は深く息を吐き出し、気持ちを切り替えるように背筋を伸ばした。
 
 リーリアを見送ったあと、フィリアに呼び止められた。
 
「アルヴィオ、アイラ。少しお時間をいただけますか?」

 俺とアイラは視線を交わし、頷いてから応接室へ向かう。
 
 ソファに腰を下ろすと、フィリアは正面に座り、エルヴィナは背後に控えた。

「さて――単刀直入にお聞きしますわ」

 紫の瞳が俺を射抜くように見つめる。
 
「アイラの魔法、どうしてあれほど強いのですの?」

 アイラが小さく身を縮める。
 
「わ、わたしは……ただ、アルさんのおかげで――」

「ええ、わたくしもそう感じていますの。アイラ、普段あなたには魔力がほとんど感じられませんの。なのに、あの魔法の威力。魔法を使うときだけ魔力が、湧いて出てくるような感覚……アルヴィオ、あなた、何をしたのかしら?」
 
 フィリアは、真剣な眼差しでこちらを見据えている。

 フィリアをどこまで信用するか。少しの間、思考を巡らす。

――このまま誤魔化すこともできる。

――だが下手な嘘が通じる相手でもない。ここを切り抜けても必ずボロがでる。

――フィリアなら、秘密を明かしても無闇に広めることはしないだろう。

 俺は一度、フィリアから視線を外し、隣のアイラを見た。
 
「……アイラ。話していいか?」

 アイラは驚いたように目を見開く 。

「アルさん、それって……」

「俺一人の判断じゃ決められない。アイラの力にも関わることだからな」

「……アルさんが信じていいと思うなら、わたしは信じます。フィリア様は……きっと裏切らない方だと思いますから」

 その言葉に、俺は小さく頷いた。

 再びフィリアの紫の瞳を正面から見据える。

  しばらくの沈黙の後、俺は口を開く。
  
「……俺は、ディム、金で魔力を買える」

「――っ!」

 フィリアの目が大きく見開かれる。

「俺自身は魔法を使えない。けど、金を魔力に変えて、アイラに渡すことができる」

 フィリアは息を整え、じっと俺とアイラを見比べる。
 
 やがて、ふっと口元に笑みを浮かべた。
 
「……なるほど。ようやく謎が解けましたわ」

 その笑みには驚きと同時に、妙な期待の色が混じっていた。
 
「では――もしわたくしも、あなたのものになれば……その力を使えるのかしら?」

「お嬢様!?」

 エルヴィナの驚く声が響く。

 思わず声を詰まらせる俺の横で、アイラが真っ赤になって俯いた。
 
 「ふふふ、冗談ですわ」
 
 フィリアは、いたずらっぽく笑う。
 
「けれど――いずれ本気でお願いする日が来るかもしれませんわね」

 俺は頭を掻きながら、曖昧に笑うしかなかった。

「ともあれ、この力は外に知られてはなりません。あなた方の身を危険にさらすことになります」

 フィリアは真剣な表情に戻り、アイラへ視線を向ける。
 
「アイラ、わたくし同様あなたも実力を隠すのです。明日の試験では、せいぜいDランク程度の力を見せるにとどめたほうがいいですわ。……とりわけ、あなたの姉――エリーナに気づかれるのは避けるべきですわ」

 アイラははっと顔を上げ、そして小さく首を振った。
 
「お姉様は……わたしのことなんか、気にしてないと思いますけど……」

 その声はかすかに震えていた。まるで自分に言い聞かせるように。

「いいえ、だからこそ危ういのですわ」

「出来損ないと蔑んでいた妹が、突然才能を見せたらどうなるか。プライドの高いエリーナ様なら、必ず詮索を始めますわ」

 俺は力強く頷き、言葉を添えた。
 
「フィリアの言う通りだ。力を隠すこともまた、身を守る手段だ。今はまだ、その時じゃない」

 アイラはしばし迷ったあと、小さく頷いた。
 
「……わかりました。アルさんがそう言うなら」

 応接室を後にし、廊下に出る。
 
 背中にはまだ、フィリアの視線が突き刺さっている気がした。
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