俺だけ魔力が買えるので、投資したらチートモードに突入しました

白河リオン

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第七章 「ディストリビューション」

Intermission 14 「クーデター追放王女の割とガチ目な脱出劇」

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 時は遡り、アズーリア帝国の首都アズラフィア、クーデター勢力が宮殿になだれ込む数刻前。

 後宮の一角、ティタニア・アズーリアは、机に広げた文書に視線を落としていた。

 金糸を編み込んだ青のドレスが、窓から射す光に照らされてきらりと輝く。二十歳を迎えたばかりの第二王女。その灰青はいあおの瞳は、静かに文字を追う。

「……やはり、また財務報告が誤魔化されている」

 小さく吐息をついた。帝国財務局から届けられた最新の帳簿を繰るたびに、数字の辻褄が合わない。ティタニアは元より鋭い観察眼を持ち、宮廷政治の裏側にも精通していた。

 その時、重い扉が勢いよく開いた。

「姫様っ!」

 慌てた声と共に駆け込んできたのは、従者のラウラだった。

「どうしたの、ラウラ。廊下で転んだのかしら?」

 ティタニアは唇の端を持ち上げ、冗談めかして迎える。

「……密偵からの報告です。ルキウス様が……本当に、動き出しました!」

 その名を聞いた瞬間、ティタニアの瞳に冷たい光が宿る。

「ルキウスが?」

「はい。夕刻、軍を動かし、宮殿を掌握するつもりです。姫様を含め、側室筋の王族は――」

「粛清対象、というわけね」

 ティタニアは椅子から立ち上がった。

 足元に広がるドレスの裾を軽く払う。その仕草は、命を狙われる身にある者とは思えぬほど落ち着いていた。

「……馬鹿だと思っていたけど、ここまで愚かだとは」

 皮肉な吐息を漏らす。

 ルキウス。第二皇子。異母兄弟にあたる。

 その野心と短慮は、ティタニアにとって格好の観察対象だった。だが、ティタニアはまさか本当にクーデターに打って出るとは考えていなかったのだ。

「姫様、どうなさいますか。兵はすでに街に展開していると……」

 ラウラが不安げに声を震わせる。

「決まっているでしょう。逃げるのよ」

「逃げ……!」

「このまま残れば、夕刻には首が落ちているわ。私はまだ死にたくないもの」

 灰青の瞳に決意が宿る。

 ティタニアは机の引き出しを開け、包んであった粗末な布束を取り出した。

「……服、ですか?」

 ラウラが驚いたように目を丸くする。

「そう、万が一に備えて作らせておいたのよ。市井の女の子が着るような簡素な服」

 布を広げると、くすんだ茶色のスカートと白いブラウス、薄手の上着が現れる。

「ずっと着てみたかったのよね、こういうの」

 ティタニアはドレスの肩紐を外し、すらりと腕を抜く。ドレスが床に滑り落ちると、灰青の瞳がほんの少し楽しげに細められた。

「姫様、こんな時に……」

「こんな時だからよ、ラウラ」

 軽口を叩きながらも、動きは迷いがない。白いブラウスに袖を通し、上着を羽織る。

 鏡に映る自分の姿を見て、思わず笑みがこぼれる。

「どう? 市井の娘に見えるかしら」

 ラウラは一瞬だけ言葉を失い、それから小さく首を横に振る。

「……市井の娘、というよりは、貴族の娘が無理に庶民の真似をしているように見えます」

「まあ、そう見えるの? 残念ね。まあいいわ」

 ティタニアは肩をすくめ、楽しげに上着のボタンを閉める。

 灰青の瞳には、危機の最中とは思えぬほどの好奇心がきらめいていた。

「さて」

 ティタニアはそう言いながら、机の下から古びた地図を取り出した。羊皮紙に記された薄い線、暗号のような注記。

「姫様、それは……」

「古文書よ。王都の図書塔に保管されていたの。昔の王族が非常時に使うために作った地下道の記録。ルキウスは知らないはずだわ」

 そう言って、地図に指先を走らせる。

「ここから南の浴堂の方向に抜ける通路がある。そこから西門の外に通路が続いているはず」

「はず……ですか」

「はず、よ。だから試してみるしかないわね」

 二人は、頷き。後宮の奥へ向かった。

 夕刻が近づき、王都全体が不穏な空気に包まれる頃、二人は後宮の床下に隠された扉を開けていた。

 湿った石段を下り、ランプの光だけを頼りに進む。古代のレンガが積み上げられた狭い通路、かつて誰かが歩いた気配だけが残る。

「ここが……秘密の通路……」

 ラウラの声はかすれている。

「わくわくするわね、ラウラ。まるで小説のヒロインみたい」

「姫様、遊びじゃありません……」

「わかってるわよ」

 だが、楽しげなその声の奥には確かな緊張があった。

 通路の先がわずかに開け、石段の先に夕刻の光が見え始める。

「もう出口です……」

 ラウラが安堵しかけたその瞬間、外から甲冑の擦れる音が響いた。

「誰かいる……」

 ティタニアは立ち止まる。

 次の瞬間、外から兵士たちの怒号が響いた。

「そこだ! 抜け道を見つけたぞ!」

 クーデター勢力の兵士たちが通路の出口を塞いでいた。槍の穂先が光り、ティタニアたちに向けられる。

「……見つかったか」

 ティタニアは小さく息を吐いた。灰青の瞳が鋭く光る。

「ラウラ、下がって」

「姫様……!」

 その瞬間だった。

 外の空気がざわりと揺れた。

 甲冑の音、怒号、そして――風が渦を巻くような低い唸り。

 兵士たちが一瞬たじろぎ、通路の先に立つ影を見上げる。

 頭巾をかぶった、一人の魔法士がそこにいた。

 ただならぬ魔力だけが、石段を伝ってティタニアとラウラの肌にまで届く。

 青白い光が兵士たちの槍を弾き、火花が散った。

「な、何者だ……!」

 兵士の一人が叫ぶ。

 ティタニアは灰青の瞳を細めた。

 次の瞬間、兵士たちが一斉に吹き飛ばされた。風か、それとも別の何かか、見分ける暇もない。

 通路の出口に、ふわりと手が差し伸べられる。

 ティタニアは躊躇わなかった。

「行くわよ、ラウラ」

 二人はその手を取り、闇の中へと駆け出した。 
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