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第七章 「ディストリビューション」
Short Stories 2 「新商品開発会議」
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昼下がりのセレスティア商会。
帳簿を閉じたフィリアが、机の上に並べた小瓶を前にして腕を組んでいた。
「……ヒカリ。少し、時間いいかしら?」
呼び出されたヒカリは、慌ててノートとペンを閉じて立ち上がる。
「は、はいっ! なんでしょうか、フィリアさん」
「これよ」
フィリアが示したのは、琥珀色の液体が入った小瓶だった。
「マンタイム産の調味料らしいのだけれど、アルヴィオが『ヒカリの故郷の味だ』と言って渡してくれたの」
少し観察して香りを嗅いだ後、ヒカリの目がぱっと輝く。
「わあっ……これ、しょうゆです! 本物ですよ! どうしてこれを……」
「やはり故郷の味なんですわね。ずいぶんと独特な香りだと思ったの。けれど、これをどう使えばいいのか、まるで見当がつかなくて」
フィリアは興味津々といった顔で小瓶を傾ける。
「少し舐めてみたのだけれど……とても塩辛くて、単体では使えない代物ね」
「そ、そりゃあ……そのまま飲むものじゃないですから」
ヒカリは、小さく笑った。
「これはかけるとか混ぜる調味料なんです。お魚とか、お豆を煮るときに入れると、うま味が増して……」
「うま味?」
フィリアが首をかしげる。
「えっと……塩味とか甘みとかじゃなくて、全部が仲良くなる味です!」
「全部が仲良く……?」
フィリアは顎に手を当て、真剣に考え込んだ。
「なるほど。味覚の調和、ですわね。……美しい概念ですわ」
そこへ、帳簿を抱えたアイラが入ってきた。
「お二人とも、何をしてるんですか?」
「ちょうどいいところに。アイラ、これを見て」
フィリアが小瓶を差し出すと、アイラは恐る恐る蓋を開けた。
「……うっ、ちょっと変わった匂いですね……焦げた穀物みたいな……」
「それがマンタイムのしょうゆというものらしいのよ」
「へえ……そんなものまで流通してるんですね……」
アイラが感心して瓶を覗き込むと、ヒカリは少し気まずそうに視線をそらした。
――マンタイム……? そんな名前の国、聞いたことないですけど……
もちろん、ヒカリが知る「しょうゆ」は異世界のもの。
けれど、この世界では偶然にも、似た製法の調味料が遠い西方で作られているのだ。
「それでね、ヒカリ。これを使って新商品を作りたいの。セレスティア商会の看板にふさわしい、香り高く、異国情緒のある料理を」
「えっ、わ、わたしが、ですか?」
「当然でしょう? あなたの出身地なのだから」
「えっ!? ちょ、ちょっと待ってくださいっ!? わたしそんな――」
「遠慮はいらないわ。あなたの舌と発想、アルヴィオも高く買っているもの」
そう言われてしまっては、否定の言葉も続かない。
ヒカリは観念して、机の上の瓶をじっと見つめた。
――しょうゆ、かあ。お刺身も、白いごはんもないけど……
思い出すのは、帰れぬ故郷の味。
それでも、できる限り近づけてみたいと思った。
「……じゃあ、試しに焼き野菜のたれとか、どうでしょう。しょうゆに果実のしぼり汁を混ぜて、少し甘くして……」
「焼き野菜、ですの?」
「はい! 火で炙って、表面を少し焦がして、このたれを塗ると……香ばしい香りが出るんです!」
「ふむ……焦がした香りを加味するのね。香料諸島のスパイスと組み合わせれば、異国風の献立として売り出せそうですわ」
フィリアの瞳がきらりと輝く。
「『マンタイム風ソース』として売り出しましょう」
「ま、マンタイム風……」
ヒカリは苦笑をこぼしたが、もう訂正する気も失せていた。
こうして、「しょうゆ」を使った新商品は、セレスティア商会の人気ラインナップのひとつとして加わることになる。
その発祥が異世界の少女の思いつきだったことなど、誰も知る由もない。
帳簿を閉じたフィリアが、机の上に並べた小瓶を前にして腕を組んでいた。
「……ヒカリ。少し、時間いいかしら?」
呼び出されたヒカリは、慌ててノートとペンを閉じて立ち上がる。
「は、はいっ! なんでしょうか、フィリアさん」
「これよ」
フィリアが示したのは、琥珀色の液体が入った小瓶だった。
「マンタイム産の調味料らしいのだけれど、アルヴィオが『ヒカリの故郷の味だ』と言って渡してくれたの」
少し観察して香りを嗅いだ後、ヒカリの目がぱっと輝く。
「わあっ……これ、しょうゆです! 本物ですよ! どうしてこれを……」
「やはり故郷の味なんですわね。ずいぶんと独特な香りだと思ったの。けれど、これをどう使えばいいのか、まるで見当がつかなくて」
フィリアは興味津々といった顔で小瓶を傾ける。
「少し舐めてみたのだけれど……とても塩辛くて、単体では使えない代物ね」
「そ、そりゃあ……そのまま飲むものじゃないですから」
ヒカリは、小さく笑った。
「これはかけるとか混ぜる調味料なんです。お魚とか、お豆を煮るときに入れると、うま味が増して……」
「うま味?」
フィリアが首をかしげる。
「えっと……塩味とか甘みとかじゃなくて、全部が仲良くなる味です!」
「全部が仲良く……?」
フィリアは顎に手を当て、真剣に考え込んだ。
「なるほど。味覚の調和、ですわね。……美しい概念ですわ」
そこへ、帳簿を抱えたアイラが入ってきた。
「お二人とも、何をしてるんですか?」
「ちょうどいいところに。アイラ、これを見て」
フィリアが小瓶を差し出すと、アイラは恐る恐る蓋を開けた。
「……うっ、ちょっと変わった匂いですね……焦げた穀物みたいな……」
「それがマンタイムのしょうゆというものらしいのよ」
「へえ……そんなものまで流通してるんですね……」
アイラが感心して瓶を覗き込むと、ヒカリは少し気まずそうに視線をそらした。
――マンタイム……? そんな名前の国、聞いたことないですけど……
もちろん、ヒカリが知る「しょうゆ」は異世界のもの。
けれど、この世界では偶然にも、似た製法の調味料が遠い西方で作られているのだ。
「それでね、ヒカリ。これを使って新商品を作りたいの。セレスティア商会の看板にふさわしい、香り高く、異国情緒のある料理を」
「えっ、わ、わたしが、ですか?」
「当然でしょう? あなたの出身地なのだから」
「えっ!? ちょ、ちょっと待ってくださいっ!? わたしそんな――」
「遠慮はいらないわ。あなたの舌と発想、アルヴィオも高く買っているもの」
そう言われてしまっては、否定の言葉も続かない。
ヒカリは観念して、机の上の瓶をじっと見つめた。
――しょうゆ、かあ。お刺身も、白いごはんもないけど……
思い出すのは、帰れぬ故郷の味。
それでも、できる限り近づけてみたいと思った。
「……じゃあ、試しに焼き野菜のたれとか、どうでしょう。しょうゆに果実のしぼり汁を混ぜて、少し甘くして……」
「焼き野菜、ですの?」
「はい! 火で炙って、表面を少し焦がして、このたれを塗ると……香ばしい香りが出るんです!」
「ふむ……焦がした香りを加味するのね。香料諸島のスパイスと組み合わせれば、異国風の献立として売り出せそうですわ」
フィリアの瞳がきらりと輝く。
「『マンタイム風ソース』として売り出しましょう」
「ま、マンタイム風……」
ヒカリは苦笑をこぼしたが、もう訂正する気も失せていた。
こうして、「しょうゆ」を使った新商品は、セレスティア商会の人気ラインナップのひとつとして加わることになる。
その発祥が異世界の少女の思いつきだったことなど、誰も知る由もない。
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