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第十章 「フラクチュエーション」
第90話 「取引魔法士フィリア」
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契約の間を出た瞬間、フィリアは胸を張って歩き出した。
「さあアルヴィオ! 取引ですわよ、取引!」
「……フィリア、本当に元気だよな」
俺は契約の余韻でまだ頭がジンジンしていたが、
フィリアは完全にモードに入っていた。
「まずは何を? 講習とか、ありますの?」
「いや、その……普通はあるけどな」
横からリアナが申し訳なさそうに説明する。
「フィリア様……」
「そとではフィナでお願いしますわ! それで?」
「えっと……フィナ様。取引魔法士は最初にリクエストリンクとオーダーフォームの基礎講習を――」
「あら、それなら講習は結構ですわ。毎日アイラのを見ていましたもの。できますわよ?」
「えっ……できるんですか……?」
「当然ですわ!」
なんの迷いもなく、フィリアは片手をすっと掲げた。
「結べ、リクエストリンク」
美しい術式が一瞬で展開される。
流れるように、鮮やかに、正確に。
リアナの口がぽかんと開いた。
「……ほんとに……できてます……」
「当然ですわ? アイラのを見てましたもの。全部覚えましたわ」
誇らしげに胸を張るフィリアを見て、リアナが苦笑する。
「そ、そんな……ことが……あるんだ……」
「ありますのよ?」
フィリアはずいっと俺の肩を押した。
「さ、行きますわよアルヴィオ! 中央広場へ!」
「お、おい……そんな急ぐなって……!」
広場に着くやいなや、フィリアはトークンコアの魔力場にのって浮遊を始めた。
<さあアルヴィオ! 相場を見ますわよ!>
何の躊躇もなく念話が飛んでくる。
<了解。早速だけどサンクタム同盟の株価情報を頼む>
<任されましたわ!>
俺はアルカナプレートを起動し、状況を確認する。
しばらく静かな値動きを見つめていると──
<アルヴィオ、ひとつ聞いてもよろしくて?>
<どうした>
<いろいろ覗いていて気になったのですけれど……>
フィリアはふわふわ浮いたまま首をかしげていた。
<スパイスが……ずっと安くありませんこと?>
<……スパイス?>
<ええ。コリンダ、ルドラペッパー、ミントシード、ドラゴンチリ、それからトリカラ樹脂──どれもずっと安値ですわよ?>
思っていたより多かった。
<ちょ、ちょっと待て……そんなに見てたのか?>
<当然ですわ。気になりましたもの。いまそちらに送りますわ>
俺はフィリアから送られた来たスパイスの値動きを確認する。
すると──
「……本当だ」
1年ほど前から下落トレンドが続いている。ここ3ヶ月は下落は止まった様に見えるが安値圏だ。
ロピカルハ王国の主要輸出品のはずだが、不自然な安値だった。
なのに──
<ロピカルハの景気が悪いって話は聞かないんだよな……むしろいいという話をばかり聞く>
<そうですわよね? わたくしもそう思いまして>
「どういうことだ……」
しばらく考え込んだが、今ここで結論は出ない。
<……あとで調べる必要があるな>
<そうですわね>
<さて……株のほうも見ますわよ!>
<頼む。まずは持っているブルースミス工房を売りたい! 234ディムで10000株だせるか?>
<了解ですわ!>
フィリアがオーダーフォームを発動する。
その瞬間だった。
ごく僅か、ほんの一拍。
フィリアの注文より早く注文が入る。
<……あれ?>
俺は眉をひそめる。
その小さな遅れのせいで、狙った値段で約定が出来ない。
<フィリア、いま……ちょっと遅れたか?>
<え? そんなはずありませんわよ。わたくしの操作は完璧ですわ>
フィリアは首をかしげながらも、次の注文に備える。
<次、カナル製鉄を買いで頼む。54.2ディムで50000株だ>
<任されましたわ>
まただ。
ほんのコンマ何秒。
しかし相場の世界では、その誤差が致命的になる。
これで二回連続。
確かに、フィリアはアイラに比べると魔法の発動は遅い。だがほかの魔法士と比べれば十分に速い。
それなのに──
<また……先に入られたな>
<おかしいですわ……わたくし、最速で発動しているはずですのに……>
フィリアが悔しそうに眉を寄せる。
<フィリア、ちょっと待て……>
<なんですの?>
<……おかしい。これは……先回りされている感じだ>
<先回り……?>
フィリアがわずかに目を細める。
<わたくしの発動より早く? でも、どうして?>
<たぶん……干渉じゃない。妨害ってほど強いものじゃない。オーダーフォームを阻害するんじゃなくて──フィリアの気配を読んで一瞬早く注文を入れてる>
<気配を……読む?>
フィリアはしばらく黙り──
<……そんな芸当、普通の魔法士には不可能ですわよ?>
<だろうな。だからこそ妙だ>
俺は相場を読みながら、もう一つの疑問に気づく。
<アイラのときには……こんなことは一度も起きなかった>
<確かに……アイラの注文が遅れたところなんて見たことありませんわね>
<おそらく……アイラの発動が早すぎるんだ。相手が予測しようにも、発動が速すぎて追いつけない>
<つまり、わたくしの魔法が遅いとということですわね>
フィリアの声には、悔しさと興味と怒りが混ざったような色が出ていた。
<いや、フィリアは、普通の魔法士より十分速い>
<でも相手が……わたくしの発動を見て先に動いている、ということですのね?>
<たぶんそうだな>
フィリアがふわりと空中で回転し、指先に魔力を集める。
<……いやですわね。わたくしの魔力操作を読めるなんて>
<次、もう一度やるぞ。ミグラッド商会を売りで30000株、98.9だ>
<了解ですわ!>
フィリアがオーダーフォームを展開し──
その刹那。
またも、フィリアが魔力を流し込む瞬間に、別の魔法が走った
「さあアルヴィオ! 取引ですわよ、取引!」
「……フィリア、本当に元気だよな」
俺は契約の余韻でまだ頭がジンジンしていたが、
フィリアは完全にモードに入っていた。
「まずは何を? 講習とか、ありますの?」
「いや、その……普通はあるけどな」
横からリアナが申し訳なさそうに説明する。
「フィリア様……」
「そとではフィナでお願いしますわ! それで?」
「えっと……フィナ様。取引魔法士は最初にリクエストリンクとオーダーフォームの基礎講習を――」
「あら、それなら講習は結構ですわ。毎日アイラのを見ていましたもの。できますわよ?」
「えっ……できるんですか……?」
「当然ですわ!」
なんの迷いもなく、フィリアは片手をすっと掲げた。
「結べ、リクエストリンク」
美しい術式が一瞬で展開される。
流れるように、鮮やかに、正確に。
リアナの口がぽかんと開いた。
「……ほんとに……できてます……」
「当然ですわ? アイラのを見てましたもの。全部覚えましたわ」
誇らしげに胸を張るフィリアを見て、リアナが苦笑する。
「そ、そんな……ことが……あるんだ……」
「ありますのよ?」
フィリアはずいっと俺の肩を押した。
「さ、行きますわよアルヴィオ! 中央広場へ!」
「お、おい……そんな急ぐなって……!」
広場に着くやいなや、フィリアはトークンコアの魔力場にのって浮遊を始めた。
<さあアルヴィオ! 相場を見ますわよ!>
何の躊躇もなく念話が飛んでくる。
<了解。早速だけどサンクタム同盟の株価情報を頼む>
<任されましたわ!>
俺はアルカナプレートを起動し、状況を確認する。
しばらく静かな値動きを見つめていると──
<アルヴィオ、ひとつ聞いてもよろしくて?>
<どうした>
<いろいろ覗いていて気になったのですけれど……>
フィリアはふわふわ浮いたまま首をかしげていた。
<スパイスが……ずっと安くありませんこと?>
<……スパイス?>
<ええ。コリンダ、ルドラペッパー、ミントシード、ドラゴンチリ、それからトリカラ樹脂──どれもずっと安値ですわよ?>
思っていたより多かった。
<ちょ、ちょっと待て……そんなに見てたのか?>
<当然ですわ。気になりましたもの。いまそちらに送りますわ>
俺はフィリアから送られた来たスパイスの値動きを確認する。
すると──
「……本当だ」
1年ほど前から下落トレンドが続いている。ここ3ヶ月は下落は止まった様に見えるが安値圏だ。
ロピカルハ王国の主要輸出品のはずだが、不自然な安値だった。
なのに──
<ロピカルハの景気が悪いって話は聞かないんだよな……むしろいいという話をばかり聞く>
<そうですわよね? わたくしもそう思いまして>
「どういうことだ……」
しばらく考え込んだが、今ここで結論は出ない。
<……あとで調べる必要があるな>
<そうですわね>
<さて……株のほうも見ますわよ!>
<頼む。まずは持っているブルースミス工房を売りたい! 234ディムで10000株だせるか?>
<了解ですわ!>
フィリアがオーダーフォームを発動する。
その瞬間だった。
ごく僅か、ほんの一拍。
フィリアの注文より早く注文が入る。
<……あれ?>
俺は眉をひそめる。
その小さな遅れのせいで、狙った値段で約定が出来ない。
<フィリア、いま……ちょっと遅れたか?>
<え? そんなはずありませんわよ。わたくしの操作は完璧ですわ>
フィリアは首をかしげながらも、次の注文に備える。
<次、カナル製鉄を買いで頼む。54.2ディムで50000株だ>
<任されましたわ>
まただ。
ほんのコンマ何秒。
しかし相場の世界では、その誤差が致命的になる。
これで二回連続。
確かに、フィリアはアイラに比べると魔法の発動は遅い。だがほかの魔法士と比べれば十分に速い。
それなのに──
<また……先に入られたな>
<おかしいですわ……わたくし、最速で発動しているはずですのに……>
フィリアが悔しそうに眉を寄せる。
<フィリア、ちょっと待て……>
<なんですの?>
<……おかしい。これは……先回りされている感じだ>
<先回り……?>
フィリアがわずかに目を細める。
<わたくしの発動より早く? でも、どうして?>
<たぶん……干渉じゃない。妨害ってほど強いものじゃない。オーダーフォームを阻害するんじゃなくて──フィリアの気配を読んで一瞬早く注文を入れてる>
<気配を……読む?>
フィリアはしばらく黙り──
<……そんな芸当、普通の魔法士には不可能ですわよ?>
<だろうな。だからこそ妙だ>
俺は相場を読みながら、もう一つの疑問に気づく。
<アイラのときには……こんなことは一度も起きなかった>
<確かに……アイラの注文が遅れたところなんて見たことありませんわね>
<おそらく……アイラの発動が早すぎるんだ。相手が予測しようにも、発動が速すぎて追いつけない>
<つまり、わたくしの魔法が遅いとということですわね>
フィリアの声には、悔しさと興味と怒りが混ざったような色が出ていた。
<いや、フィリアは、普通の魔法士より十分速い>
<でも相手が……わたくしの発動を見て先に動いている、ということですのね?>
<たぶんそうだな>
フィリアがふわりと空中で回転し、指先に魔力を集める。
<……いやですわね。わたくしの魔力操作を読めるなんて>
<次、もう一度やるぞ。ミグラッド商会を売りで30000株、98.9だ>
<了解ですわ!>
フィリアがオーダーフォームを展開し──
その刹那。
またも、フィリアが魔力を流し込む瞬間に、別の魔法が走った
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