俺だけ魔力が買えるので、投資したらチートモードに突入しました

白河リオン

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第十一章 「デッドクロス」

第101話 「婚姻」

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~憲章暦997年8月6日(火の日)~

 王女の結婚式当日。

 ロピカルハ王都は、色彩に満ちていた。

 通りには花輪が吊るされ、カラフルな布飾りが風に揺れている。建物の柱や門には、南国特有の鮮やかな花が使われ、甘い香りが街全体を包み込んでいた。

「……すごいな」

 思わず、そんな感想が漏れる。

 裏の顔を見てしまった後でも、この光景だけを切り取れば、まぎれもなく楽園だった。

 人々は民族衣装に身を包み、首には花の首飾りをかけている。打楽器と弦楽器が混じった陽気な音楽が、途切れることなく街を流れていた。

 ロピカルハの文化は、どこか海と共に生きることを前提にしている。

 厳粛さよりも、祝福を分かち合うことを大切にする国――そんな印象を受ける。

 結婚式の会場は、王城の中庭と大広間をつなぐ形で設えられていた。

 屋根は高く、柱の間は開放され、外から潮風と光がそのまま入り込む。重厚な城というより、自然と一体化した神殿に近い。

 招待客であるフィリア、レイラ、クロエは参列者席。

 俺を含むそれ以外の面々は、参列者の関係者として少し奥まった関係者席へと案内された。

「……わ、私、ここで本当に大丈夫なんでしょうか……」

 隣で、ニナが不安そうに呟く。

 無理もない。

 香料諸島西部の小さな島で育ったニナにとって、王族の結婚式など遠い世界の話だろう。それが今、なぜか関係者として席に座らされているのだから、緊張しない方がおかしい。

「だ、大丈夫だよ、ニナ」

 リーリアが小声で励ます。

「変なことしなければ、怒られたりしないから!」

「そ、そういう問題じゃ……」

 ニナは背筋を伸ばしたまま、ぎこちなく頷いた。

 その前の席では、エルヴィナが落ち着かない様子で周囲を見回している。フィリアと離れた席になったのが、どうにも気になるらしい。護衛としての本能だろう。

 一方、ヒカリはというと。

「……ほんとに、ファンタジー世界の結婚式だ……」

 小さく呟き、目を輝かせている。

 転生者らしい、素直な感想だった。

 アイラやイオナ、ティタニアもそれそれの目線でこの式を見ているのだろう。

 そして俺は。

 関係者席の端から、自然に視線を巡らせていた。

――随行文官。

 レクスと、カイル。

 二人とも表情は穏やかで、姿勢も完璧だ。だが、どうにも視線が気になる。

 レクスは、全体を均等に見ている。

 一方で、カイルは――

 時折、王城の奥、あるいは参列者席の一角に、ほんの一瞬だけ視線を送っている。

 目的がはっきりしない。

 それが、余計に不気味だった。

 やがて、音楽が変わる。

 低く、ゆったりとした太鼓の音。

 会場が、自然と静まり返った。

 王族の入場だ。

 まず現れたのは、マハロス王。

 体調が悪いと聞いていたが、歩みは確かだった。年齢を感じさせる白髪はあるが、その背筋はまっすぐで、王としての威厳を失っていない。

 隣には、王妃。

 柔らかな微笑みを湛え、深紅の布に包まれた小箱を大切そうに抱えている。

 その後ろに、王女が続いた。

 白を基調とした衣装に、淡い青と金の刺繍。布地は軽やかで、歩くたびに柔らかく揺れる。頭には花と羽根を組み合わせた飾りが添えられ、首元には、他の参列者よりもひときわ大きな花輪がかけられていた。

 ゆったりと歩いてくる王女の姿勢は正しく、所作も完璧だ。

 笑みは浮かべている。

 けれど、その目の奥にあるのは、喜びよりも静かな距離感。

――明らかな政略結婚だしこんなものか

 そう自分に言い聞かせる。

 王女が中央に立つと、楽の音が少しだけ高まる。

 次に現れたのは、新郎だ。

 セディオ家の嫡男、かつては商人だった一族。

 経済的功績で貴族に列せられ、今やロピカルハの交易と金融を支える存在だ。

 表情は落ち落ち着いていて、王女を見る視線は柔らかい。

 司祭役を務める長老が、一歩前に出る。

 音楽が静まり、式が始まったことを知らせた。
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