俺だけ魔力が買えるので、投資したらチートモードに突入しました

白河リオン

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第十一章 「デッドクロス」

第103話 「新通貨」

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 どよめき。

 だが、それは驚きよりも期待に近い。

 続けざまに、ファルハンは言葉を重ねる。

「このリルは、ロピカルハ全土で使用可能な通貨だ。中心であろうと、周縁であろうと関係ない」

 ファルハンは、まっすぐに会場を見渡す。

「アルカナプレートが使えなかった場所でも、リルは使える」

――そこが、肝だ。

 俺は、思わずニナの方を見た。

 ニナは、黙って聞いている。

 感情が読めない。

「これにより、我が国のすべての民は、同じ価値基準で取引ができる」

 ファルハンの声には、確信がある。

「同じ通貨を使い、同じ市場に参加できる。それは、単なる利便性ではない」

 言葉と同時に指を一本立てる。

「機会の平等だ」

 ざわめきが、賞賛に変わりつつある。

「これまで、トークンコアの恩恵から取り残されてきた地域にも、正当な評価と対価が行き渡る」

――格差是正。

 誰もが聞きたい言葉だ。

「リルは、価値が安定するよう設計されている」

 ファルハンは、少しだけ声の調子を落とす。

「ディムとの交換比率は、一定の範囲から逸脱することはない。急激なインフレも、理不尽なデフレも起こさない。市場の混乱を抑え、長期的な成長を支える」

 理屈としては、筋が通っている。

 少なくとも、ここに集まった多くの国民にとっては。

 王太子ファルハンは、わずかに間を置いた。

 聴衆が次の言葉を待っている、そのを正確に理解した間だ。

「もちろん、新しい通貨を導入するだけでは足りない」

 視線を、今度は王城の奥――玉座の方向へ一瞬だけ向ける。

「通貨は、使われてこそ意味を持つ。信用され、流通し、日々の生活に根づかなければならない」

 そして、ゆっくりとこちらを向いた。

「そのために、我々はもう一つの施策を用意した」

 ざわり、と空気が震える。

「明日より、リルに対応したを配布する」

 ファルハンは、懐から板状の魔道具を取り出し高く掲げる。

「ルミナプレートは、リル専用の取引装置だ」

 会場のあちこちからどよめきが起こった。

 アルカナプレートによく似ているそれは、日の光を受けて赤く輝く。

 だが、どこかが違う。

「このルミナプレートは、トークンコアに依存しない」

 ファルハンは、はっきりと言った。

「アルカナプレートが使えなかった場所でも、等しく取引を可能にするために設計された魔道具だ」

――依存しない。

 その言葉に、俺の胸の奥が小さくざわついた。

「島嶼部であろうと、辺境であろうと、山間であろうと関係ない」

 ファルハンの視線は、参列者席から関係者席、そしてその奥――まるで、ここにいない誰かにまで届かせるかのように広がっていく。

「生まれた場所によって、機会が奪われる時代は終わる」

 拍手が起こる。

 自然な流れだった。

 誰だって、そう言われれば喝采を送る。

「リルは、単なる通貨ではない」

 ファルハンは続ける。

「それは、我が国が次の段階へ進むための基盤だ」

 語調は熱を帯びすぎず、しかし冷静すぎもしない。

「ロピカルハは、変わる」

 ファルハンは、断言した。

「我が国は、過去の栄光にすがる国ではない。未来を選び続ける国だ」

 王太子の言葉は、力強い。

「王女の結婚が、新しい航路の始まりであるように――」

 そこで、ファルハンは王女の方を見た。

「この新通貨もまた、我が国の新しい航路となるだろう」

 拍手が、爆発した。

 歓声すら混じる。

 祝賀の空気に、改革という希望が重ねられる。

 完璧な演出。

 少なくとも、表向きは。

 だが。

 俺の脳裏には、いくつもの光景が重なっていた。

 固定された虹貝のレート。

 小さな船で運ばれていた奴隷たち。

 そして――

「……偽物」

 ニナの、あの一言。

 新通貨リル。

 ルミナプレート。

 格差是正、効率化、国民経済の発展。

 どれも、正しい。

 どれも、理屈としては完璧だ。

 だけど俺は、なぜか拍手をする気になれなかった。

 胸の奥で、小さな警鐘が鳴っている。

 市場は、人の欲と恐怖で動く。

 それをで抑え込めると、本気で信じているのか。

 それとも――

 抑え込めるがあるのか。

 ふと、横を見る。

 ニナは、両手をきゅっと握りしめていた。

 表情は硬い。

 これは――

 本当は、何のための通貨なんだ?

 王女の結婚式という祝祭の裏で、ロピカルハは確かに、新しい航路へと舵を切った。
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