俺だけ魔力が買えるので、投資したらチートモードに突入しました

白河リオン

文字の大きさ
148 / 173
第十一章 「デッドクロス」

第104話 「幻惑の夜Ⅰ」

しおりを挟む
 王女の結婚式が終わり、日が傾き始めた頃。

 ロピカルハの街は、昼とは別の顔を見せ始めていた。

 祝祭の余韻はまだ残っている。通りには人が多く、酒と香辛料の匂いが混ざった空気が漂っている。だが、それ以上に目につくのは、街の至るところに掲げられた新しい看板だった。

 ホテルのロビーから見える通りにも、いつの間にか新しい看板がいくつも立てられていた。

『新通貨リル、正式稼働』

 赤と金を基調にした派手な文字。

 魔導灯を内蔵したそれは、夜になるにつれて存在感を増していく。

 祝賀と改革。

 この国は、その両方を同時やろうとしている。

 フィリア、レイラ、クロエは王家主催の晩餐会に出席していて不在。

 エルヴィナとアリスタル公爵家の関係者数名も、迎えのため王宮に残った。

 ホテルは静かだ。

 各々疲れたのか部屋で休んでいる。

 ロビーに残っているのは、俺だけだった。

 ソファに腰掛け、今日の出来事を反芻する。

 王女の結婚式、赤く輝く指輪、そして新通貨リルの演説。

 どれもが嬉しくて正しい顔をしている。

 だが、どこか歪んで見えた。

 そのときだった。

――ぐらり。

 床が、ほんの一瞬だけ揺れた。

「……?」

 立ち上がるほどでもない、微かな揺れ。

 食器が鳴るほどでもない。

 だが、確かに感じた。

 地震か?

 ロピカルハで地震の話はあまり聞かないが、恐らく絶対にないわけじゃない。

 そう考えた直後――

「アルさん!!」

 血相を変えたアイラが、階段を駆け下りてきた。

「どうした!?」

「ヒカリさんの様子がおかしいんです!」

 切迫した声。

 その言葉に、胸の奥が嫌な音を立てた。

「地震で驚いたとかじゃないのか?」

 俺の問いに、アイラは首を振る。

「違います。揺れた直後から、ぼーっとして……声をかけても、返事がなくて……」

 日本人のヒカリが、地震程度で取り乱すはずがない。

 それどころか、さっきの揺れは気づかない人もいる程度のものだった。

「行こう!」

 そう言って立ち上がると、アイラはすぐに階段へ向かった。

 二階の廊下は静まり返っていた。

 部屋の前に立つ。

「ヒカリさん?」

 アイラがノックする。

 返事はない。

 嫌な予感が、確信に変わる。

「開けるぞ」

 断りを入れて、扉に手をかける。

――軽い。

 鍵はかかっていなかった。

 扉を開けた瞬間、夜風が吹き抜ける。

「……っ」

 窓が、開いている。

 カーテンが外へ向かって揺れていた。

 部屋の中は整然としている。争った形跡もない。

 だが――

 人が、いない。

「ヒカリさん……?」

 アイラの声が震える。

 窓際に駆け寄り、外を見る。

 下は中庭だ。落下すれば怪我くらいはするだろう高さ。

 そして――

「……いた!」

 俺の視界の端、建物の陰を走り抜ける影。

 黒髪。

 見間違えようがない。

「ヒカリだ!」

「え……!?」

 アイラが息を呑む。

「追うぞ!」

「でも、ここから……!」

「俺が行く!」

 そう言って、窓枠に手をかけた瞬間――

「待ってください!」

 アイラが即座に詠唱する。

「風よ、抱け。エアロクッション!」

 窓の外に、淡い風の魔法陣が展開される。

 空気がやわらかく膨らみ、下方向へと広がった。

「今です!」

 アイラの声に背中を押されるように、俺は窓枠を蹴った。

――ふわり。

 落下の衝撃は、ほとんど感じなかった。

 風に抱えられるようにして中庭へ降り立つ。

 アイラも続けて飛び降りる。

 もう一度風を操り、ほとんど音も立てずに地面へ降りた。

「ヒカリさん……!」

 俺たちは、ヒカリが消えた方向へ走り出す。

「速い……!」

 夜の街を縫うように、黒い影が遠ざかっていく。

 普通の人間の脚じゃない。

 アイラも全力でついてきているが、それでも距離は開く一方だった。

「……くそ」

「アルさん、身体強化行きます」

「頼む」

まとえ! フィジカルエンチャント!」

 次の瞬間、地面を蹴る感触が変わった。

 視界が速く流れ始める。

 足が、自分のものじゃないみたいに軽い。

「……これでも、まだ……!」

 ヒカリの背中は、相変わらず遠い。

「ヒカリ!」

 そう叫ぶが、こちらを振り返る気配はない。

 街の裏手に回る。

 観光客の多い通りから外れ、倉庫や古い建物が並ぶ区域だ。

 灯りは少なく、影が濃い。

 胸の奥が、ざわりとする。

 この感覚、覚えがあった。

――イオナを助けた、あの時だ。

 あの時も、ヒカリはこんなふうに何かに突き動かされるようだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔法至上主義の世界で『筋力』だけカンストした男が拳一つで全てを覆す

ポポリーナ
ファンタジー
魔法こそが至高——この世界では呼吸も移動も戦闘も、あらゆる営みが魔力で成り立っている。 筋力は「野蛮人の遺物」と蔑まれ、身体を鍛える者は最底辺の存在とされていた。 そんな世界に転生した元・体育教師の剛田鉄心は、魔力適性ゼロ、しかし筋力だけが測定不能のカンスト値。 魔法障壁を素手でぶち抜き、転移魔法より速く走り、最上位魔法を腹筋で弾く—— 「なぜ魔法を使わないんだ!?」と問われるたびに「だって使えないし」と笑う男の、 常識を腕力でねじ伏せる痛快・逆転無双が今始まる!

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜

犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。 この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。 これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

転生特典〈無限スキルポイント〉で無制限にスキルを取得して異世界無双!?

スピカ・メロディアス
ファンタジー
目が覚めたら展開にいた主人公・凸守優斗。 女神様に死後の案内をしてもらえるということで思春期男子高生夢のチートを貰って異世界転生!と思ったものの強すぎるチートはもらえない!? ならば程々のチートをうまく使って夢にまで見た異世界ライフを楽しもうではないか! これは、只人の少年が繰り広げる異世界物語である。

大国に囲まれた小国の「魔素無し第四王子」戦記(最強部隊を率いて新王国樹立へ)

たぬころまんじゅう
ファンタジー
 小国の第四王子アルス。魔素による身体強化が当たり前の時代に、王族で唯一魔素が無い王子として生まれた彼は、蔑まれる毎日だった。  しかしある日、ひょんなことから無限に湧き出る魔素を身体に取り込んでしまった。その日を境に彼の人生は劇的に変わっていく。  士官学校に入り「戦略」「戦術」「武術」を学び、仲間を集めたアルスは隊を結成。アルス隊が功績を挙げ、軍の中で大きな存在になっていくと様々なことに巻き込まれていく。  領地経営、隣国との戦争、反乱、策略、ガーネット教や3大ギルドによる陰謀にちらつく大国の影。様々な経験を経て「最強部隊」と呼ばれたアルス隊は遂に新王国樹立へ。 異能バトル×神算鬼謀の戦略・戦術バトル! 圧倒的不利な状況を武と知略で切り抜ける! ☆史実に基づいた戦史、宗教史、過去から現代の政治や思想、経済を取り入れて書いた大河ドラマをお楽しみください☆

異世界帰りのハーレム王

ぬんまる兄貴
ファンタジー
俺、飯田雷丸。どこにでもいる普通の高校生……だったはずが、気づいたら異世界に召喚されて魔王を倒してた。すごいだろ?いや、自分でもびっくりしてる。異世界で魔王討伐なんて人生のピークじゃねぇか?でも、そのピークのまま現実世界に帰ってきたわけだ。 で、戻ってきたら、日常生活が平和に戻ると思うだろ?甘かったねぇ。何か知らんけど、妖怪とか悪魔とか幽霊とか、そんなのが普通に見えるようになっちまったんだよ!なんだこれ、チート能力の延長線上か?それとも人生ハードモードのお知らせか? 異世界で魔王を倒した俺が、今度は地球で恋と戦いとボールを転がす!最高にアツいハーレムバトル、開幕! 異世界帰りのハーレム王 朝7:00/夜21:00に各サイトで毎日更新中!

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

魔力ゼロの俺だけが、呪いの装備を『代償なし』で使い放題 ~命を削る魔剣も、俺が持てば『ただのよく切れる剣』~

仙道
ファンタジー
現代日本で天才研究者だった相模登(さがみ のぼる)は、ある日突然、異世界へ転移した。  そこは『スキル』と『魔力』が全てを決める世界。   しかし登には、ステータス画面もなければ、魔力も、スキルも一切存在しなかった。   ただの一般人として迷宮に放り出された彼は、瀕死の女騎士と出会う。彼女の前には、使う者の命を瞬時に吸い尽くす『呪いの魔剣』が落ちていた。   武器はそれしかない。女騎士は絶望していたが、登は平然と魔剣を握りしめる。 「なぜ……生きていられるの?」  登には、剣が対価として要求する魔力は存在しない。故に、魔剣はデメリットなしの『ただのよく切れる剣』として機能した。   これは、世界で唯一「対価」を支払う必要がない登が、呪われた武具を次々と使いこなし、その副作用に苦しむ女騎士やエルフ、聖女を救い出し、無自覚に溺愛されていく物語。

処理中です...