俺だけ魔力が買えるので、投資したらチートモードに突入しました

白河リオン

文字の大きさ
158 / 173
第十一章 「デッドクロス」

Intermission 35 「疑念」

しおりを挟む
 ロピカルハ王国、王都郊外の山中。

 結婚式の喧騒が嘘のように遠ざかった深い緑の中、獣道を二人の男が慎重に進んでいた。

 前を行くのはレクス、背後に続くのがカイルだ。

 レクスの足取りは迷いがない。地面のわずかな魔力の揺らぎを、視線だけで追っている。

「反応、まだ続いていますか?」

 後ろから小声が飛ぶ。

「続いている」

 レクスは振り返らない。

「徐々に反応が濃くなっている」

 風が、枝葉を揺らす。

 だが、この場に満ちる気配は自然のものではない。レクスは立ち止まり、地面に手をかざした。

「……虚牢の蕾」

 低く呟く。

 カイルが息を呑む。

「やっぱり、ですか」

「起動して間もない」

 レクスの声は冷静だった。

「魔力の層が浅い。根を張りきっていない」

 カイルは周囲を見渡す。

 この山は、王宮の背後に連なる峰のひとつ。王都から見上げれば、ただの緑の壁にしか見えない。だが実際は、王宮ののような位置関係だ。

「こんな場所で……」

「王宮に近い」

 レクスは短く言う。

「結婚式の直後に、こんなものを動かすなんて……偶然じゃありませんよね」

 カイルは眉をひそめた。

「偶然ではない、とみるべきだろう」

 レクスは断言した。

「まだ浅い。だが、確実に流れが形成されている」

「流れ……?」

「この山そのものを、導線にしている」

 カイルは、思わず王都の方角を振り返った。峰の向こうに、王宮の尖塔がかすかに覗いている。

「まさか……王宮へ?」

「王宮か、あるいはその地下」

 レクスは視線を細める。

「儀式は、すでに始まっている」

 その一言が、空気を重くした。

 結婚式という華やかな儀式の裏で、別の儀式が進行している。

 しかも、現在進行形で。

「ですが……」

 カイルは、携帯式の測定具を取り出す。

「虚牢の蕾の反応とは、別の波形も出ています」

 小さな水晶板が、淡い青を帯びて揺らめいた。

「……これです」

 レクスの眉が、わずかに動く。

「性質が違うな」

「はい。虚牢の蕾は人工的な魔力波形です。でも、こっちは……」

 カイルは言葉を探す。

「もっと原始的というか……生き物みたいな揺らぎです」

 レクスは水晶板をじっと観察した。

 規則性はある。だが、術式由来の整った波形ではない。脈打つように、強弱を繰り返している。

「強さは?」

「虚牢の蕾と比べれば、桁が違います。弱いです。ですが……質が違う」

 カイルは測定具を操作する。

「先日、報告に上がっていたと、近似しています」

 レクスの目が、鋭くなる。

「例の少女か」

「はい。ニナという名前でしたか。アディスさんの関係者です」

 カイルは少しだけ肩をすくめた。

「正直、あのときは単なるお守りタリスマンだと思っていました。でも、この波形……似ています。強さは全然違いますけど」

「同系統の魔力」

「おそらくは」

 レクスはしばし黙り込む。

 虚牢の蕾が人工的なら、こちらは自然発生に近い何か。

 だが、双方がこの山域で同時に検出されているという事実は無視できない。

「虚牢の蕾は、大きな魔力源を必要とする」

 レクスは山の奥へ視線を向けた。

「この別の反応……」

「ペンダントと似た波形の方ですか?」

「これを虚牢の蕾の起動に使った可能性は?」

 カイルは一瞬、言葉を詰まらせる。

「理論上はゼロではありません」

「ですけど……不自然です」

 カイルははっきり言った。

「出力が違いすぎます。あれを動かすには桁が足りません」

 レクスは黙って頷く。

「ならば、主たる供給源は別にある」

「はい」

「……やはり奴隷か……その線の調べは?」

 カイルは、一瞬だけ苦い顔をした。

「調べました」

 水晶板を収納し、代わりに薄いメモ帳を取り出す。

「港に入った奴隷船は三隻。表向きは大陸の農場向けの労働力という名目でした」

 ページをめくる。

「ですが、記録上は大陸へ送られたはずの奴隷たち――実際には、輸送経路に痕跡がありません」

 レクスは無言のまま視線を促す。

「つまり?」

「消えています」

 カイルは淡々と言った。

「積み下ろし後の移送記録が偽装。人数も合わない。港湾管理局も王宮付きの役人も、口を揃えて『問題なし』です」

 小さく息を吐く。

「この国、完全に黒ですね。やっちゃってます」

 軽い言い方だが、目は笑っていない。

「虚牢の蕾を動かすには、大規模な魔力供給が必要です」

 カイルは続ける。

「一人や二人では足りません。数十、場合によっては百単位の生命力があれば、起動は可能です」

「……奴隷を、燃料にしたか」

「可能性は高いです。アーガナスの時と同規模かそれ以上……行方不明の人数を考えると辻褄は合います」

 森の奥から、かすかな風が吹き抜ける。

「……先輩」

 カイルが少しだけ声を落とした。

「もう一つ、奴隷船の件で一応報告なんですが……」

「言え」

「現場を、覗いていた人物がいます」

 レクスの目が、わずかに細まる。

「誰だ」

「アディスさんです」

 森の空気が、わずかに張り詰めた。

 カイルは、慌てて続けた。

「ただし、関与を示す証拠はありません。あくまでというだけです。しかも――」

「しかも?」

「同行していたのは、イオナ・セイランです。魔法植物学者。あの人、結構いろんな場所をうろついてますから」

 レクスは無言のまま、山の奥を見据える。

「アルヴィオ・アディスは、奴隷船の積み荷を確認していた?」

 カイルは肩をすくめる。

「正確には、覗いていたですね。何かを調べている様子でした。取引絡みか、単なる興味かは不明です」

「今回の件に関与している可能性は?」

「現時点ではなんともですね」

 カイルは素直に答える。

「ただアディスさんは、金の匂いには敏感ですが、血の匂いを好むタイプには見えませんでした」

「印象論だな」

「はい。でも現場で見た限りでは、奴隷取引に何かしらの関わりがあるようには見えませんでした」

 レクスは一瞬だけ目を閉じる。

「だが、偶然にしては重なりすぎている」

 低く呟き、ゆっくりと目を開けた。

「奴隷船の近くにいた。青いペンダントの少女と接点がある。そして今、ここで同系統の波形が検出されている」

 淡々と事実を並べる。

「偶然にしては、出来すぎだ」

 カイルは苦笑した。

 その時だった。

 カイルが、ふと視線を下方へ向けた。

「……先輩」

「なんだ」

「人影があります」

 山道の下、王都へ続く獣道。

 数人の影が、急ぎ足でこちらへ向かっている。

 最初に目に入ったのは、黒髪の少女。レクスは、その後ろを追いかけてきた影を確認する。

「……アルヴィオ・アディス」

 レクスの声が、わずかに沈む。

 カイルが小声で言った。

「どうして、ここに……」

 偶然にしては、あまりにも出来すぎている。

 すべての線が、ゆっくりと一本に収束していく。

 レクスの瞳が、静かに細められた。

「やはり――」

 低い声。

「無関係とは、言えなくなったな」

 アルヴィオたちの動きを見据える。その視線には、明確な疑念が宿っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔法至上主義の世界で『筋力』だけカンストした男が拳一つで全てを覆す

ポポリーナ
ファンタジー
魔法こそが至高——この世界では呼吸も移動も戦闘も、あらゆる営みが魔力で成り立っている。 筋力は「野蛮人の遺物」と蔑まれ、身体を鍛える者は最底辺の存在とされていた。 そんな世界に転生した元・体育教師の剛田鉄心は、魔力適性ゼロ、しかし筋力だけが測定不能のカンスト値。 魔法障壁を素手でぶち抜き、転移魔法より速く走り、最上位魔法を腹筋で弾く—— 「なぜ魔法を使わないんだ!?」と問われるたびに「だって使えないし」と笑う男の、 常識を腕力でねじ伏せる痛快・逆転無双が今始まる!

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜

犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。 この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。 これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

転生特典〈無限スキルポイント〉で無制限にスキルを取得して異世界無双!?

スピカ・メロディアス
ファンタジー
目が覚めたら展開にいた主人公・凸守優斗。 女神様に死後の案内をしてもらえるということで思春期男子高生夢のチートを貰って異世界転生!と思ったものの強すぎるチートはもらえない!? ならば程々のチートをうまく使って夢にまで見た異世界ライフを楽しもうではないか! これは、只人の少年が繰り広げる異世界物語である。

大国に囲まれた小国の「魔素無し第四王子」戦記(最強部隊を率いて新王国樹立へ)

たぬころまんじゅう
ファンタジー
 小国の第四王子アルス。魔素による身体強化が当たり前の時代に、王族で唯一魔素が無い王子として生まれた彼は、蔑まれる毎日だった。  しかしある日、ひょんなことから無限に湧き出る魔素を身体に取り込んでしまった。その日を境に彼の人生は劇的に変わっていく。  士官学校に入り「戦略」「戦術」「武術」を学び、仲間を集めたアルスは隊を結成。アルス隊が功績を挙げ、軍の中で大きな存在になっていくと様々なことに巻き込まれていく。  領地経営、隣国との戦争、反乱、策略、ガーネット教や3大ギルドによる陰謀にちらつく大国の影。様々な経験を経て「最強部隊」と呼ばれたアルス隊は遂に新王国樹立へ。 異能バトル×神算鬼謀の戦略・戦術バトル! 圧倒的不利な状況を武と知略で切り抜ける! ☆史実に基づいた戦史、宗教史、過去から現代の政治や思想、経済を取り入れて書いた大河ドラマをお楽しみください☆

異世界帰りのハーレム王

ぬんまる兄貴
ファンタジー
俺、飯田雷丸。どこにでもいる普通の高校生……だったはずが、気づいたら異世界に召喚されて魔王を倒してた。すごいだろ?いや、自分でもびっくりしてる。異世界で魔王討伐なんて人生のピークじゃねぇか?でも、そのピークのまま現実世界に帰ってきたわけだ。 で、戻ってきたら、日常生活が平和に戻ると思うだろ?甘かったねぇ。何か知らんけど、妖怪とか悪魔とか幽霊とか、そんなのが普通に見えるようになっちまったんだよ!なんだこれ、チート能力の延長線上か?それとも人生ハードモードのお知らせか? 異世界で魔王を倒した俺が、今度は地球で恋と戦いとボールを転がす!最高にアツいハーレムバトル、開幕! 異世界帰りのハーレム王 朝7:00/夜21:00に各サイトで毎日更新中!

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

魔力ゼロの俺だけが、呪いの装備を『代償なし』で使い放題 ~命を削る魔剣も、俺が持てば『ただのよく切れる剣』~

仙道
ファンタジー
現代日本で天才研究者だった相模登(さがみ のぼる)は、ある日突然、異世界へ転移した。  そこは『スキル』と『魔力』が全てを決める世界。   しかし登には、ステータス画面もなければ、魔力も、スキルも一切存在しなかった。   ただの一般人として迷宮に放り出された彼は、瀕死の女騎士と出会う。彼女の前には、使う者の命を瞬時に吸い尽くす『呪いの魔剣』が落ちていた。   武器はそれしかない。女騎士は絶望していたが、登は平然と魔剣を握りしめる。 「なぜ……生きていられるの?」  登には、剣が対価として要求する魔力は存在しない。故に、魔剣はデメリットなしの『ただのよく切れる剣』として機能した。   これは、世界で唯一「対価」を支払う必要がない登が、呪われた武具を次々と使いこなし、その副作用に苦しむ女騎士やエルフ、聖女を救い出し、無自覚に溺愛されていく物語。

処理中です...