俺だけ魔力が買えるので、投資したらチートモードに突入しました

白河リオン

文字の大きさ
162 / 173
第十一章 「デッドクロス」

第114話 「龍脈」

しおりを挟む
 その問いにクロエは、あっさりと答えた。

「いるよ」

「……いるのかよ」

 ヒカリの肩がびくりと跳ねる。

 リーリアが慌ててヒカリの腕を掴む。

「え、え、じゃあヒカリちゃん魔王と戦うの!?」

「む、無理ですよ!? わ、私そんな……!」

 クロエはため息をついた。

「落ち着きなって。勇者と魔王ってのは、あくまで呼び名だよ。役割に名前をつけただけ」

「……倒さなきゃいけない相手、ってわけじゃないのか?」

 俺が問うと、クロエは意味ありげに笑う。

「必ずしも、ね」

 それ以上は言わない。

 だが、ヒカリの表情はわずかに和らいだ。

「……よかった」

 小さな安堵の息が漏れる。

「次」

 間髪入れず、クロエは話を続ける。その視線は、ニナへ向いた。

 ニナはびくっと肩を揺らす。

「わ、私ですか……?」

「そう。ニナちゃん」

 クロエの赤い瞳が、ニナの胸元に落ちる。

「そのペンダント、見せてくれる?」

 ニナは戸惑いながらも、胸元の青いペンダントを外した。

 透き通るような蒼。内側から淡く光を宿している。

 ニナは両手でそれを包み込むように持ち、少しだけ照れたように笑った。

「これ……先祖代々、家に伝わっている家宝なんです。言い伝えでは、青龍様の鱗で作られているって」

 リーリアが目を輝かせる。

「やっぱりかっこいいよねこれ! 本当に龍の鱗なの?」

 ニナは、困ったように首を振った。

「いえ……ただのおとぎ話です。子どものころ、祖母がよく聞かせてくれましたけど……本当に龍なんて、いるわけないですよね?」

 その言葉に、クロエが再びはっきりと言った。

「いるよ」

「それは、おとぎ話じゃない」

 ニナの瞳が揺れる。

「……え?」

「そのペンダントをニナちゃんが持っていること。それ自体が証拠だ」

 クロエは一歩近づく。

「ニナちゃん。あなたは青龍の鍵だよ」

「か、鍵……? それはどういう?」

 ニナの指先が震える。

 俺は眉をひそめた。

「待て。さっきから龍だの鍵だの……そもそも龍ってなんだ」

 クロエは、わずかに口元を上げた。

「いい質問だね、アル」

 そして淡々と説明を始める。

「龍ってのは、単なる巨大生物のことじゃない。龍脈――この星を流れる魔力の大河。その流れに、直接触れられる存在の総称だよ」

「龍脈……」

「私たちエルフは、アストラルラインって呼んでるけどね」

 イオナが小さく息を呑む。

「アストラルライン……文献で読んだことがある。この世界の深部を走る不可視の魔力の流れ……実在したんだね」

「そう。それを直接扱えるのが龍。あるいは、それに準ずる存在」

 クロエは窓の外――島の中心方向を指した。

「ロピカルハには、その龍脈の支流が走ってる珍しい国だ。確認されている龍脈口は二つ。そのうちの一つは、この島を通ってる」

「そしてもう一つが――アバタオ島だ」

 ニナが、はっと息をのむ。

「アバタオ……それ、私の故郷です」

「そう」

 クロエはうなずいた。

「アバタオ島は、香料諸島の中でも特に龍脈の影響が強い場所だ」

 フィリアが、すっと顔を上げる。

「……アバタオ島」

 紫の瞳が、わずかに光る。

「トークンコアの方が、仰っていた島ですわ」

 全員の視線がフィリアに集まる。

 俺は眉をひそめた。

「あの装置か」

 フィリアは静かにうなずく。

「ええ。トークンコアの方は、アバタオ島のダンジョンにある装置を動かしてほしいと」

「装置?」

 ティタニアが腕を組む。

 クロエが、ため息まじりに口を開いた。

「昔……と言っても千年くらい前だけど、ロピカルハは龍脈の干渉を抑えるために制御装置を設けていた」

 イオナが思わず前のめりになる。

「古代の龍脈制御装置……!? そんなものが実在していたとは……実に興味深いね!」

 クロエは静かに続ける。

「龍脈の流れを整え、過剰な干渉を抑え、トークンコアとのリンクを安定させるための装置だよ」

 俺は腕を組み直した。

「つまり……龍脈の影響が強すぎると、トークンコアとの接続が不安定になるってことか」

「その通り」

 クロエはあっさり肯定する。

 フィリアが静かに補足する。

「だから、昔はアバタオ島の装置で龍脈の揺らぎを抑え、アルカナプレートとのリンクを維持していた……というわけですわね」

 クロエは頷いた。

「でも、その装置は止まった」

 イオナが小さく息をのむ。

「だから香料諸島の一部でアルカナプレートが使えないと言われていたわけだね」

「そういうこと」

 クロエは、窓の外――島の中心を見た。

「そして今回」

 声が、わずかに低くなる。

「ロピカルハは、寝かせていたこの島の龍脈も叩き起こした」

「……叩き起こした、って」

 リーリアが引きつった笑みを浮かべる。

「なんか、やっちゃいけないものを起こしたみたいな言い方だね……」

「その通りだよ」

 クロエは淡々と頷く。

 俺は喉の奥が乾くのを感じた。

「……つまり、リルを動かすために、無理やり龍脈から吸い上げ始めた。そして、そのせいでここでもトークンコアとのリンクが切れたということか」

「そう。あんな大規模術式を動かせる魔力はそう簡単に手に入るものじゃない。世界そのものから引っこ抜くしかない。それができる血筋がある。これがあの王太子の勝算だろうね」

 クロエは言葉を続ける。

「最も今は、龍脈の魔力をうまく取り出せていない。だから使える魔力は限られてるはずだ」

「今は……ね」

 レイラが、腕を組んだまま言葉を継いだ。表情には、いつもの余裕がない。

「今は制御できてないから、出力が安定しない。でも、もし安定して回り始めたら……」

 クロエが肩をすくめる。

「ロピカルハは、無限に近い魔力を手に入れる」

 部屋の空気が、さらに冷える。

 俺は、唇を噛んだ。

「……無限に近い魔力、か」

 投資家としての直感が、嫌な方向に走る。

「ロピカルハが魔力を際限なくに引き出せるなら、魔力を担保にしてるトークンコアの通貨システムは……」

 クロエが、うなずいた。

「致命傷になりかねない」

 フィリアの表情が、すっと引き締まる。

「価値の裏付けが崩れますわね。制約が消えた瞬間、希少性が消える。トークンコアのディムは、として成立していましたのに」

 俺の背中に汗が滲んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔法至上主義の世界で『筋力』だけカンストした男が拳一つで全てを覆す

ポポリーナ
ファンタジー
魔法こそが至高——この世界では呼吸も移動も戦闘も、あらゆる営みが魔力で成り立っている。 筋力は「野蛮人の遺物」と蔑まれ、身体を鍛える者は最底辺の存在とされていた。 そんな世界に転生した元・体育教師の剛田鉄心は、魔力適性ゼロ、しかし筋力だけが測定不能のカンスト値。 魔法障壁を素手でぶち抜き、転移魔法より速く走り、最上位魔法を腹筋で弾く—— 「なぜ魔法を使わないんだ!?」と問われるたびに「だって使えないし」と笑う男の、 常識を腕力でねじ伏せる痛快・逆転無双が今始まる!

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜

犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。 この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。 これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

転生特典〈無限スキルポイント〉で無制限にスキルを取得して異世界無双!?

スピカ・メロディアス
ファンタジー
目が覚めたら展開にいた主人公・凸守優斗。 女神様に死後の案内をしてもらえるということで思春期男子高生夢のチートを貰って異世界転生!と思ったものの強すぎるチートはもらえない!? ならば程々のチートをうまく使って夢にまで見た異世界ライフを楽しもうではないか! これは、只人の少年が繰り広げる異世界物語である。

大国に囲まれた小国の「魔素無し第四王子」戦記(最強部隊を率いて新王国樹立へ)

たぬころまんじゅう
ファンタジー
 小国の第四王子アルス。魔素による身体強化が当たり前の時代に、王族で唯一魔素が無い王子として生まれた彼は、蔑まれる毎日だった。  しかしある日、ひょんなことから無限に湧き出る魔素を身体に取り込んでしまった。その日を境に彼の人生は劇的に変わっていく。  士官学校に入り「戦略」「戦術」「武術」を学び、仲間を集めたアルスは隊を結成。アルス隊が功績を挙げ、軍の中で大きな存在になっていくと様々なことに巻き込まれていく。  領地経営、隣国との戦争、反乱、策略、ガーネット教や3大ギルドによる陰謀にちらつく大国の影。様々な経験を経て「最強部隊」と呼ばれたアルス隊は遂に新王国樹立へ。 異能バトル×神算鬼謀の戦略・戦術バトル! 圧倒的不利な状況を武と知略で切り抜ける! ☆史実に基づいた戦史、宗教史、過去から現代の政治や思想、経済を取り入れて書いた大河ドラマをお楽しみください☆

異世界帰りのハーレム王

ぬんまる兄貴
ファンタジー
俺、飯田雷丸。どこにでもいる普通の高校生……だったはずが、気づいたら異世界に召喚されて魔王を倒してた。すごいだろ?いや、自分でもびっくりしてる。異世界で魔王討伐なんて人生のピークじゃねぇか?でも、そのピークのまま現実世界に帰ってきたわけだ。 で、戻ってきたら、日常生活が平和に戻ると思うだろ?甘かったねぇ。何か知らんけど、妖怪とか悪魔とか幽霊とか、そんなのが普通に見えるようになっちまったんだよ!なんだこれ、チート能力の延長線上か?それとも人生ハードモードのお知らせか? 異世界で魔王を倒した俺が、今度は地球で恋と戦いとボールを転がす!最高にアツいハーレムバトル、開幕! 異世界帰りのハーレム王 朝7:00/夜21:00に各サイトで毎日更新中!

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

魔力ゼロの俺だけが、呪いの装備を『代償なし』で使い放題 ~命を削る魔剣も、俺が持てば『ただのよく切れる剣』~

仙道
ファンタジー
現代日本で天才研究者だった相模登(さがみ のぼる)は、ある日突然、異世界へ転移した。  そこは『スキル』と『魔力』が全てを決める世界。   しかし登には、ステータス画面もなければ、魔力も、スキルも一切存在しなかった。   ただの一般人として迷宮に放り出された彼は、瀕死の女騎士と出会う。彼女の前には、使う者の命を瞬時に吸い尽くす『呪いの魔剣』が落ちていた。   武器はそれしかない。女騎士は絶望していたが、登は平然と魔剣を握りしめる。 「なぜ……生きていられるの?」  登には、剣が対価として要求する魔力は存在しない。故に、魔剣はデメリットなしの『ただのよく切れる剣』として機能した。   これは、世界で唯一「対価」を支払う必要がない登が、呪われた武具を次々と使いこなし、その副作用に苦しむ女騎士やエルフ、聖女を救い出し、無自覚に溺愛されていく物語。

処理中です...