俺だけ魔力が買えるので、投資したらチートモードに突入しました

白河リオン

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第十一章 「デッドクロス」

Intermission 37 「痕始末」

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 夜の戦闘が終わった丘には、まだ焦げた草と裂けた大地が残っていた。

 ヒカリが目を覚まし、レイラとアイラたちがその場を去ったあと。

 そこに残っていたのは、レクスとカイルの二人だけだった。

「……では、始めましょうか、先輩」

 カイルが軽く肩を回しながら言う。

 レクスは無言で頷き、地面に手をかざした。

 指先から淡い魔力が広がり、空気中に残る術式の残滓がゆっくりと浮かび上がる。目に見えないはずの魔力痕が、淡い光の粒となって可視化された。

「勇者の覚醒反応……それに、あの魔獣と謎の手……ずいぶん派手にやりましたね」

「目撃者が出なかったのが幸いだ」

 レクスの声は低い。

「街中でこれやったら大問題ですよね」

「ここはまだはずれだ。隠せる」

 レクスは短く答えた。

 倒れた木々の切断面、焼け焦げた地面、剣圧の痕。戦闘の爪痕は徹底的に処理されていく。カエルム機関の人間としての手際は、もはや習慣の域だった。

 やがて大まかな処理が終わり、静寂が戻る。

 カイルが、ふと口を開いた。

「……先輩」

「なんだ」

「あの記章ってやっぱり……」

「詮索はするな。それが機関の掟だ」

 即答だった。

 だがカイルは、少しだけ食い下がる。

「でも、あれ……見間違いじゃないですよね?」

 レクスは、しばし沈黙した。

 夜風が、焦げた匂いを運ぶ。

「見間違いではない」

 低く、断言する。

「あれはカエルム機関最高位の記章だ」

 カイルの喉が、ごくりと鳴った。

「最高位って……局長級とか、そういう……?」

「いや」

 レクスは首を横に振る。

「もっと上だ」

 短い言葉。

 だがその重みは、十分だった。

「知る限り、あれと同等のものはレオリア王しか持っていないはずだ。もしくは……」

「……もしくは?」

 カイルが思わず聞き返す。

 レクスは一瞬だけ視線を伏せ、それから淡々と続けた。

「機関の創設に関わった者だ」

 夜風が、丘を吹き抜ける。

 カイルは目を見開いた。

「え……ちょ、ちょっと待ってくださいよ。創設って……あのカエルム機関ですよ? 数百年前の――」

「正確な年数は公表されていない」

 レクスは淡々と訂正する。

「だが、少なくとも我々が知る限り、機関は何世代も前から存在している」

 カイルは困ったように頭をかいた。

「いやいや……さすがに、それはないでしょう。あの人、見た目どう見ても若いじゃないですか」

「外見と年齢は一致しない」

 短い言葉。

 エルフという種族を知る者なら、誰でも理解している事実だった。

 カイルは小さく息を呑む。

「……じゃあ、本当に……?」

「詮索はするな」

 レクスは、きっぱりと言い切った。

「我々が知る必要があるのは、あの記章が本物だったという事実だけだ」

 レクスの声は、そこでわずかに低くなった。

「そして、あの人が“我々より上位にある存在”だということもな」

 カイルは、乾いた笑いを漏らした。

「今日だけで情報が多すぎませんか? 勇者が出てきて、謎の魔獣が出てきて、最高位の記章まで出てくるって……胃が痛くなりそうなんですが」

「慣れろ」

 レクスは淡々と返す。

「機関の任務は常に想定外だ」

「想定外にも限度ってものが――」

 ぼやきながらも、カイルの手は止まらない。

 痕跡は、消える。

 丘は、ただ荒れた地面に戻る。

 やがて作業が終わり、二人は静かに立ち上がった。

「戻るぞ」

「了解です、先輩」

 夜道を下りながら、カイルはもう一度だけ口を開いた。

「でも……あの人、本当に何者なんでしょうね」

「知らなくていい」

 レクスは短く言う。

「知れば、巻き込まれる」

「もう十分巻き込まれてる気がしますけど」

 その言葉に、レクスは答えなかった。

 丘を下り、街灯の灯る通りへ出る。

 ホテルへ戻る頃には、夜もだいぶ更けていた。

 廊下は静まり返り、絨毯が足音を吸い込む。

 レクスは自室の前で立ち止まった。

「先に休め。報告は明朝でいい」

「はーい。……あ、でも先輩」

「なんだ」

「本当に、あの記章の件は上に上げなくていいんですか?」

 一瞬の沈黙。

「不要だ」

 即答だった。

「機関の上層は、知っている可能性が高い」

「……ああ、なるほど」

 カイルはそれ以上追及しなかった。

 レクスが扉に手をかけた、その時だった。

 廊下の奥から、足音が響く。

 規則正しい、迷いのない歩調。

 二人は同時に振り向いた。

 廊下の灯りの下に立っていたのは――

 黒髪の青年と、赤い瞳のエルフ。

 アルヴィオとクロエだった。

「……こんな時間に、どうしましたか」

 レクスは表情を変えずに問う。

 アルヴィオは静かに答える。

「少し、話がある」

 クロエは、いつもの気怠げな笑みを浮かべていた。

 だが、その胸元には。

 さきほど丘で見た、あの記章が、確かにあった。

 カイルの喉が、小さく鳴る。

 レクスは、ほんのわずかに目を細めた。

「……部屋へどうぞ」

 静かな夜の廊下に、扉の開く音が響いた。
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