俺だけ魔力が買えるので、投資したらチートモードに突入しました

白河リオン

文字の大きさ
165 / 173
第十二章 「レラティブバリュー」

第116話 「スムース」

しおりを挟む
~憲章暦997年8月7日(水の日)~

 すでにカルハ島の港は遠ざかっていた。

 甲板の上で、俺は潮風を胸いっぱいに吸い込む。

 夜はまだ完全には明けきっていない。空が薄く白み始めたばかりだ。港を出たのは、空が群青に沈んでいた時間帯だった。

――静かすぎる。

 帆はゆるやかに風を受け、船体はほとんど揺れない。波も穏やかだ。まるで、こちらの出航を歓迎しているかのように。

 俺たちが選んだのは、公爵家の紋章が入った豪華な船じゃない。

 地味な商船だ。

 色もくすんでいて、普段の積み荷も香辛料と日用品ばかり。港の誰が見てもにしか見えない。

 目立たない。追われにくい。追われる前提で動いていた。

「……妙だな」

 俺は小さく呟く。

 背後でフィリアがマントを押さえながら海を見ていた。

「ええ。妙ですわ」

 フィリアの声音も硬い。

 クロエは船縁に腰掛け、足をぶらぶらと揺らしている。

「なにが?」

「妨害がない」

 俺は即答した。

 シギルと王太子が裏で繋がっているなら、俺たちがニナを連れてアバタオ島に向かうのを黙って見送るはずがない。

 港で足止め。検問。あるいは海上での襲撃。いくらでも手はあったはずだ。

 だが――

 検問は形式的なものだけ。

 誰もニナを確認しようとしなかった。

 出航許可も驚くほどあっさり下りた。用意していた強行突破の策も不要だった。

 風向きまで味方している。

「逆に、怪しいですわね」

 フィリアが小さくため息をつく。

 レイラが腕を組んだまま、海を睨む。

「罠、かもしれないね」

 その言葉が、俺の胸に落ちる。

「……出発を止めないってことは」

 俺はゆっくり整理する。

「向こうも、ニナをアバタオ島に連れていきたいってことかもしれない」

 その可能性に、空気が一段重くなる。

 ニナは、青龍の鍵だ。

 もし向こうが龍脈を完全に掌握するつもりなら、鍵をそこへ導くのは自然な流れだ。

「止める必要がない」

 クロエがぼそりと言う。

「どうせ、到着したあとで回収すればいいって考えてるのかもね」

 ぞくりと背筋が冷える。

「つまり」

 俺は甲板の手すりを握る。

「本番はアバタオ島ってことか」

「そういうことかなぁ」

 クロエは軽く肩をすくめるが、その赤い瞳は笑っていない。

 ニナは船室で休んでいる。

 リーリアが付き添っているから、少しは安心だ。

 ヒカリも同じ船に乗っている。勇者の力とどう付き合っていくのかは未知数だ。

 万全とは言い難い半日の航海。

 時間にすれば短い。

 だが、この何も起きない時間が、妙に長く感じる。

 空はすっかり明るくなり、海面が青く輝き始める。

 海鳥が何羽か、船の上空を旋回している。

 静かだ。

 平和だ。

――だからこそ、不気味だ。

「アルヴィオ」

 フィリアが静かに呼ぶ。

「もし奴らも同じ目的なら、アバタオ島でのトラブルは覚悟する必要があるかもしれませんわ」

「ああ」

 俺は頷く。

「龍脈の中枢。向こうにとっても最重要地点だ」

 公然と襲撃するより、島に着いてから絡めとるほうが効率はいい。

 逃げ場も少ない。

「なら、到着後は慎重に動く必要があるな」

 俺の言葉にレイラがにやりと笑う。

「久々に戦いがいがありそうだね」

 クロエは空を見上げたままだ。

 昼が近づく。

 陽光が強くなり、水平線の彼方に、ぼんやりとした影が浮かび上がる。

「あれ……?」

 リーリアの声が、船室の入り口から聞こえた。

 俺は目を細める。

 青い海の向こうに、緑の輪郭。

 山の稜線が、ゆっくりと形を持つ。

 ニナの故郷、アバタオ島。

 そして――龍脈が眠る場所。

 俺は、無意識に拳を握っていた。

 ここまでは、あまりにもスムーズだ。

 だが――。

 本当に怖いのは、いつだって静かな時間のあとだ。

 投資でもリスクが見えずらい取引ほど、危険なのだ。

 帆がはためき、船はさらに速度を上げる。

 アバタオ島の輪郭が、はっきりと視界に浮かび上がった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔法至上主義の世界で『筋力』だけカンストした男が拳一つで全てを覆す

ポポリーナ
ファンタジー
魔法こそが至高——この世界では呼吸も移動も戦闘も、あらゆる営みが魔力で成り立っている。 筋力は「野蛮人の遺物」と蔑まれ、身体を鍛える者は最底辺の存在とされていた。 そんな世界に転生した元・体育教師の剛田鉄心は、魔力適性ゼロ、しかし筋力だけが測定不能のカンスト値。 魔法障壁を素手でぶち抜き、転移魔法より速く走り、最上位魔法を腹筋で弾く—— 「なぜ魔法を使わないんだ!?」と問われるたびに「だって使えないし」と笑う男の、 常識を腕力でねじ伏せる痛快・逆転無双が今始まる!

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜

犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。 この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。 これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

転生特典〈無限スキルポイント〉で無制限にスキルを取得して異世界無双!?

スピカ・メロディアス
ファンタジー
目が覚めたら展開にいた主人公・凸守優斗。 女神様に死後の案内をしてもらえるということで思春期男子高生夢のチートを貰って異世界転生!と思ったものの強すぎるチートはもらえない!? ならば程々のチートをうまく使って夢にまで見た異世界ライフを楽しもうではないか! これは、只人の少年が繰り広げる異世界物語である。

大国に囲まれた小国の「魔素無し第四王子」戦記(最強部隊を率いて新王国樹立へ)

たぬころまんじゅう
ファンタジー
 小国の第四王子アルス。魔素による身体強化が当たり前の時代に、王族で唯一魔素が無い王子として生まれた彼は、蔑まれる毎日だった。  しかしある日、ひょんなことから無限に湧き出る魔素を身体に取り込んでしまった。その日を境に彼の人生は劇的に変わっていく。  士官学校に入り「戦略」「戦術」「武術」を学び、仲間を集めたアルスは隊を結成。アルス隊が功績を挙げ、軍の中で大きな存在になっていくと様々なことに巻き込まれていく。  領地経営、隣国との戦争、反乱、策略、ガーネット教や3大ギルドによる陰謀にちらつく大国の影。様々な経験を経て「最強部隊」と呼ばれたアルス隊は遂に新王国樹立へ。 異能バトル×神算鬼謀の戦略・戦術バトル! 圧倒的不利な状況を武と知略で切り抜ける! ☆史実に基づいた戦史、宗教史、過去から現代の政治や思想、経済を取り入れて書いた大河ドラマをお楽しみください☆

異世界帰りのハーレム王

ぬんまる兄貴
ファンタジー
俺、飯田雷丸。どこにでもいる普通の高校生……だったはずが、気づいたら異世界に召喚されて魔王を倒してた。すごいだろ?いや、自分でもびっくりしてる。異世界で魔王討伐なんて人生のピークじゃねぇか?でも、そのピークのまま現実世界に帰ってきたわけだ。 で、戻ってきたら、日常生活が平和に戻ると思うだろ?甘かったねぇ。何か知らんけど、妖怪とか悪魔とか幽霊とか、そんなのが普通に見えるようになっちまったんだよ!なんだこれ、チート能力の延長線上か?それとも人生ハードモードのお知らせか? 異世界で魔王を倒した俺が、今度は地球で恋と戦いとボールを転がす!最高にアツいハーレムバトル、開幕! 異世界帰りのハーレム王 朝7:00/夜21:00に各サイトで毎日更新中!

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

酔っぱらったせいで、勇者パーティーを洗脳してしまった

透けてるブランディシュカ
ファンタジー
悪友のせいで酔ったら。(※重複投稿しています)仲仁へび

処理中です...