強肉弱食の世界より愛を込めて

Damボール

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1章

空腹コンビと『知』の恐怖

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「ふざっけんじゃねえ!!!!」

ギルは納得がいかなかった。できるわけがない。目の前で本をめくっている男――ブリードは一度カナから五光を奪うことに成功しているのだ。それをここまで持ち帰ればよかっただけだったのだ。なのに………

「どうしてあんなことをした!?俺たちの目的は!五光を!回収することだろうがっ!!」

ギルは吠える。怒りの矛先はもちろんブリードだ。俺がこんなにも怒っているというのに、あいつはソファに寝っ転がったまま起き上がろうともしない。仮面も付けたままなので、表情も全く読めない。

「何って…そりゃあ俺たちはあの嬢ちゃんから見たら『悪役』だからな。悪役にはそれなりの礼儀ってもんが必要なんだよギルさん。」

悪びれもなくブリードはそう言った。コイツはいつもそうだ。唐突に何かを思いついては俺に何も言わずに勝手に一人で行動する。そのせいで俺がどれだけ迷惑しているか…

《ブリード。私もあの行動の意図が読めない。ギルが言ったことが真実なら…私もその理由を聞きたい。》

放送機材を使って俺達の『首領ボス』もブリードに問いかける。ちなみにギルはまだ首領の姿を見たことはなかった。

「そんなに気になんのか?全く…まぁボスさんがそう言うならもう少し詳しく言ってやるよ。」

ブリードはようやくソファから起き上がった。感情のこもっていない合成音声が響く。

「あの武器はまだあの子の手にあるべきだと俺は感じたからさ。イレギュラーにこの世の法則さえ変えられるかもしれない危険な代物を渡しておくのは確かに気が引けるが…アイツはまだ使い方さえ分かってないチビ助。まだ放置で大丈夫さ。俺はキチンと従ってるぜ?コイツによ。」

そう言いながらブリードは持っていた本をパンパン叩きながらギルの方を見た。
相変わらず訳の分からないことを言う奴だ。俺の指示に従っていたなら今頃あの薙刀はここに持ち帰られているはずなのに。

《………ふむ。なるほど。五光の1つの持ち主が判明しただけ収穫と考えよう。ギルも納得いかないと思うが、ブリードも考えも無しにやる男ではない。何か考えていることがあるのだろう。分かってくれないだろうか。》

首領は俺にも問いかける。

「チッ…わぁったよ…。」

正直言い返そうとも思ったが、首領は丸め込むのがうまい。口論で勝てたためしもない。どうせ今回も色々言われて納得させられるのだ。ならもう最初から分かったようにしていればいい。

「怒んなってギルさん、お前があの嬢ちゃんから五光を奪えたら、俺は何も邪魔しねぇよ。ほらよ、これやるよ。」

ブリードはギルにあるものを手渡した。

「…ここに行けってか?」

「おうよ。嬢ちゃんたちにも同じモンをプレゼントしたからな。」

ブリードはクククと笑った。












「ハァ…ハァ…もういないかな…?」

ある程度走ったところでカナは歩みを止めた。後ろを振り返ったが、あの2人はどこかへ行ってしまったようだ。それにしても恐ろしい人だった。ブリード。ただの剣で五光相手に圧勝したのだから。

「とにかくシロウにもこのこと話しておかないと…」

シロウのいる場所まではもう少し距離がある。歩きでは疲れてしまうだろう。さっきまでダッシュしてたし。とここでカナはあることを思い出した。五光所持者は身体能力が飛躍的に上がるということだ。もしかすると…

「足に思いっきり力込めてジャンプすれば飛べるんじゃない?」

思い立ったが吉日、カナは強く地面を蹴って飛び上がってみた。地面が一瞬で遠ざかっていく。これは移動が楽になりそうだ。そしてカナはもう1つの問題点を見つけた。

「飛んだはいいけどどうやって降りれば………」

最高到達点まで飛び上がったらあとは重力によって地面に激突する。飛ぶことしか考えていなかったカナは降りるときのことを全く考えていなかった。

「うひゃああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

落下速度はどんどん上がっていく。カナの目にシロウの姿が映った。

「あ、シロウいたーー!」

その瞬間だった。カナを何とも言えない感覚が襲ったのは。
ふわりと浮き上がる感触。そして冷たくなる体。目の前が一瞬暗くなり………

カナの瞳は茶色から、真っ黒へ。
カナの足を氷のような冷たさのオーラが纏う。

カナは何が起きているのかが全く分からなかった。でもなぜかこれだけは分かった。


蹴らなきゃ、と。


カナは空中でおもむろに足を出す。まるで空気が幕になっているかのように、そこを踏むことが出来る。想えば想ったとおりに体が動く。また空を蹴る。シロウの元へ向かう。空中を歩くように、カナはシロウの真上までやってくることが出来た。

「よくわかんないけど…シロウのとこに行けたしいいか。」

カナは呟いた。また体を感覚が襲う。でも今度は力が抜けていくような感覚だった。

「???」

もう足を出しても空は蹴れない。カナはそのままシロウの下へ落ちていく。

「カナさん結構遠くまで飛ばしたんだなぁ…もう帰ってもらわないと危ないんですがいったあああああああああ!!??」

そしてシロウと激突した。

「な、な、なにしてるんですかカナさん!?瓶拾いに行ってなんで空から降ってくるんですか!?めっちゃ頭痛いんですけど!?」

「うわわ、ゴメン!なんか変なことになっちゃって………」

「変なこと…?カナさんが降ってきたことですか?」

「う、うん。それもなんだけど…。」

カナは向こうでの経緯を話した。ブリードという剣士に出会ったこと。その剣士になすすべもなく倒されたこと。でもその剣士は自分を逃がしてくれたこと。そして、あの不思議な感覚のことを。

「シロウ………」

カナは呟く。

「私、この世界のこととか、自分がどうなってるのか分かんない…全然知らないでやってきたけど…。私ももっと知らなきゃって思ったの。分かんないってこんなに怖いことだったなんて知らなかった…。」

カナは項垂うなだれる。シロウは黙っていた。そのまま5分ほどが経過し、シロウがおもむろに話し出す。

「無知とは恐怖です。それは分かりますね。でも知るということは、それなりのリスクが伴うんです。今カナさんが僕に聞こうとしていることは、聞いてしまったら後戻りはできなくなる領域の話です。それでも聞こうと……思いますか…?」

カナは顔を上げた。いつもより真剣みを帯びたシロウの顔がそこにある。本気で自分のことを心配してくれている眼だ。カナはその表情を見て、自分にできることは何でもやりたいと思った。

「うんっ…!私、頑張るよ…!」

シロウを真正面から見てカナはそう言った。










シロウの説明は非常に難しく、カナの脳では処理が追いつくのに時間がかかった。要点をまとめると、

・この世界が始まった原因は、人口増加による食糧問題の解決のため、食物そのものを巨大化させる実験が行われていた。
・しかし、とある学者がその中の1つのDNAにとある情報を書き込んだ。内容は『その土地に合った進化の仕方を自身で考える力』
・それにより、食物達が自身の生き残りをかけて、人類へ敵対。この現状が続いているということ。

・カナの持つ『五光』はカナの持っているもののほかに4つあり、それぞれに名前が割り振られている。
内容は『よう』『おう』『せん』『りん』『きわみ
それぞれの五光には力があり、それを使いこなすには一定の感情が必要。必要な感情は五光ごとに違う。

・五光の持つ力で現段階分かっているのは、
妖…自身の拳や脚による打撃が当たった時、その威力を向上させる。
桜…自身のイメージを具現化させる
扇…自信を巨大な盾で守り、要塞のようになれる
凛…足に魔力の結晶ができ、空中機動力が非常に高くなる
極…不明
・五光の力を使用している際は、使用者の瞳が完全な黒になる。

というものだった。この点を踏まえて、シロウは言った。

「カナさんが言ったことが真実なら、その武器は『凛』です。空を蹴る感覚…それは凛以外には感じることが出来ない感覚だと思うので。ちなみに力を使ったとき、どんなことを考えていましたか?」

「うーん、よく覚えてないや。」

なんてこった。これではカナは自分のタイミングで力を使えないということだ。

「そうですか…多分この先そのような感覚があると思います。その時は自分はどうしたいのかを改めて考えてみてくださいね。」

「うん、わかった!じゃあ私、髪だけ洗ってくるね!」

そう言いカナは髪留めを外す。大きなサイドテールがばらける。そこでカナは何かに気付いた。

「ん、なんだろこれ…。」

髪留めに何かついている。見てみると何かのチケットのようなものだった。よくわからない文字で色々なことが書いてある。

「ねぇシロウ、これなに?」

「ん?どれですか?」

シロウはそう言ってカナの手をちらりと見て…すぐにその正体を察した。

「え、これってベイチケットじゃないですか!?」

「べ…?」

また知らない単語が出てきた。シロウは「あっ、説明し忘れてましたね」といい、カナに話す。

「さっき食物達は人間に敵対しているといいましたけど、例外もあるんです。その1つが小麦などの穀物類で、これは、東の方の島に大きな国を持っている『米』の国の入国券みたいなものなんです。」

「米って、ごはんのこと?」

「そうです。今年、大きな闘技大会が行われるのですが、それに参加するためのものです。しかもこれ結構レアですよ。転移の魔法が掛かっているので、これを破れば、一気にそこまで移動できるみたいです。」

「へぇー、とりあえず行ってみる?」

そう言ってカナはそのチケットを破ろうとして、シロウに止められた。

「待ってください。そのチケット、カナさんのものじゃないとしたら、あの仮面の剣士がカナさんに渡したっていう風に考えるのが自然です。もしかすると何かあるのかもしれません…。まずカナさんにそこまで対処ができるかと言ったら出来なさそうですし…」

最悪罠だとしたら、カナの身が危険だ。ただでさえ狙われやすい武器を持っているというのに。一応このチケットは最大4人まで一度に転送できるみたいだから、シロウが付いて行くという事も出来るのだが…。

「やっぱり私じゃ力不足かな…」

ポツンと呟く。あまりにも力のこもっていないその声にシロウは一瞬思考が止まった。シロウはカナの方を見る。下を向いているためよくわからなかったが、テントの底幕にあるの正体はすぐに分かった。

「私ね、いろんなことをやってみるのが好きで、いつも一人で走ってたの。多分捕り屋になったのも、そのせいだと思う。きっと、ほかの人が出来ないようなことをやってみたかったんだと思うの。シロウは、私がもっとシロウのいう事聞くようになったら、楽…?」

カナは顔を上げる。若干目が赤い。シロウは思った。そりゃあカナさんが自分の言うとおり、もっと慎重に行動してくれれば、僕もこんな苦労はしなくていいだろう。でも………それはカナさんの為になるのだろうか。おそらく近いうちに僕とカナさんは離れることになる。そしたらカナさんは1人でも出来るのだろうか。

「(何考えてるんだろう…)」

シロウは軽く頭を振る。迷ってなんていられない。カナさんは自分を信頼してくれたうえで、こんなことを言っているのだ。僕もきちんと自分の意見を言わなくてはならないだろう。

「カナさん――――――」












朝になった。シロウとカナは向かい合わせで立っている。

「もう一度確認します。カナさんはあの闘技大会に参加して、なんでもいいから情報を得る。僕はここに残り、牛と、そしてあの仮面の男の素性を探る。」

「うん、私頑張る!!」

カナはこぶしを握って見せた。そうだ、やはりカナさんはこうでなくては。

「きっと一定の日数が立てばここに戻ってこられるはずです。僕はしばらくここに張り付くので、いつ戻ってきても大丈夫ですよ。」

そう言って親指を立てる。カナも同じく親指を立てる。

「じゃあ、いってくるねーー!」

迷いなくカナはチケットを破り、そして虚空へ消えた。平野に1人になったシロウはしばらくそこに立ち、そしてとりあえずカナの醤油瓶が飛んで行った方へ歩き出した。カナさんなら無事に戻ってこられるだろう。なぜなら、カナさんなのだから。
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