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7歳

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王宮の庭園は季節の花々で彩られていた。

主催である王妃様のテーブルから一番離れた場所でセシルは薔薇を眺めていた。

『お茶会には行きたくないんだけど…』
やり直し7歳の1日目がお茶会だったので行きたくないとお母様に言ってみたものの、前日楽しみでなかなか眠れなかったくせに何を言うのかと呆れられた。

1回目は我が儘いっぱいの嫌な子供で家族や使用人を困らせてばかりいた。
幼い頃から目付きがキツくあまり似合わないのにピンクのふわふわしたドレスを着たがった。
ああでもないこうでもないとドレスや髪飾りを用意する使用人達を困らせた。


2年前、セシルは大罪を犯した。
王妃様とお母様は友人。王太子であるユリウス様と年齢も近い事から5歳でお茶会に招かれた。
初めて会ったユリウス様に一目で恋に落ち、追いかけ回して転ばせてしまった。
ユリウス様の側にいたアレンに突き飛ばされテーブルで頭を打ち気を失い割れたカップで手首を切った。
2年間王宮出禁となったが、ユリウス様に手紙を送り続けるというストーカーじみた事をしていた。勿論返事は1通も来なかったものの、7歳の時に再びお茶会に招かれとにかく王妃様に気に入られて12歳の時にはまんまとユリウス様の婚約者に収まった。
やり直しではユリウス様には近付かない覚悟だったのに。

使用人のみんなには謝りながら一番地味なドレスを引っ張り出して着た。地味に目立たないように。
ユリウス様の視界に入らないように。

1回目はこの世で自分が一番可愛いと思い込んでいたし、爵位でしか相手を見なかった。
ずっとユリウス様しか眼中になくどうすれば気に入られるかばかり考えていた。

冷静に見ると男の子も女の子もたくさんいて、女の子はお行儀が良くとても可愛いかった。
1回目の自分はなぜあんなに自信過剰だったんだんだろう…。

「座らないの?」
小さなテーブルには椅子が3脚あって、美味しそうなお菓子が並んでいる。
そのテーブルに座っているのはかなりぽっちゃりした女の子だった。
ソフィアだ。王都の街の大きな商家の娘で、国への貢献も多い事から男爵の爵位を与えられていた。
1回目は男爵だからと口をきいたこともなかった。

「あ、ありがとう」
ソフィアは5歳の時のセシルの大罪を知らない。
知っている者もいたがセシルがあまりにも地味になっている為気付いていないようだった。
ソフィアは周りを見ることもなくひたすらお菓子を食べている。

「それ、おいしい?」
「おいしいよ!食べなよ」
「うん」
1回目は性格が悪すぎて取り巻き的な女子はいたが、何でも話せる親友はいなかった。

「あたし、セシルです」
「ソフィア」
ソフィアは笑うと愛嬌があって可愛い。
「セシルはユリウス様に会ったことある?」
「…あ…1回だけ」
「へえ。遠くて見えないね」
「うん」
「どんな人?」
「…会ったの2年前だったから…忘れちゃった」

ソフィアとお菓子を食べながら話していると、それぞれのテーブルにユリウス様が挨拶をしにまわっているのが見えた。

「ここにもくるのかな…」
「くるんじゃないかな。近くで見れるね」

手に汗が滲んでくる。
2年前の事覚えてるのかな…どうしよう。手紙の事怒ってるかな。
ユリウス様の近くには常にアレンがいた。
公爵家の三男で年の近いアレンが幼い頃から支えていた。
今はユリウス様は8歳でアレン様は9歳か…。

「あれ、セシル?」
「は、はい。お、お招きありがとうございます…」
「…なんだか大人っぽくなったね。手紙のお返事書けなくてごめんね」
「いえ、申し訳ありませんでした。もう手紙は書きません。お許し下さい」

アレンのキツイ眼差しが突き刺さる。こいつまた何かやらかす気じゃないかと警戒されている。

ひたすらに頭を下げるしかない。
「セシル嬢、右腕を見せていただけますか」
アレンに言われて袖を捲る。いや、クスリとかやってませんけど!
右腕の手首にクッキリ何かの傷痕が残っている。
なんだろう。記憶にない。

「痕、残ったんだ…」
アレンの指が傷痕を撫でた。
「?」


2人と大人達は去っていき、またソフィアとお菓子を食べた。

「うちで扱ってるお菓子も美味しいよ」
「そうなの?遊びにいってもいい?」
「いいけど、うちは一応男爵だけど元々平民なんだ」
「そんなことどうでもいいよ」
そう。1度は家から追い出され貧しい修道院で治療費がなく死んだ自分にこんなに親切にしてくれる人がいるなんて。



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