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1回目のお話

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遠縁だった少女であるアリシアを両親が養女として迎えたのはセシルが17歳の時だった。

アリシアは男爵家の一人娘だったが、早くに両親を亡くし祖父と2人で暮らしていたが祖父が亡くなり、爵位も継げない為16歳の時に養女として引き取られた。
栗色の髪に青い瞳。整った美しい顔立ちで、頭脳明晰、楽器やダンス、刺繍に至るまで何をやらせても優秀だった。

そんな義理の妹が現れた事で、セシルは転がり落ちるように孤独な死への運命を歩む事になる。

12歳の時にセシルがユリウスの婚約者に選ばれた。
王妃様と国王とセシルの母親が決めた事でユリウスの意思はほとんど無視されて決められた事だった。

セシルが主催したお茶会に珍しく訪れたユリウスはアリシアと出会い恋に落ちた。

セシルは嫉妬しアリシアをいじめるようになる。
アリシアは美しく聡明でユリウスとも相思相愛だった為、徐々に周囲はアリシアこそ王太子妃に相応しいと噂するようになった。
さすがに両親も味方をしなくなり、セシルにユリウスを諦めるように諭した。

しかし、嫉妬で周りが見えなくなっていたセシルはとうとうアリシアを殺そうとしてしまう。
アレンが中心のユリウスの側近達が警戒していた為、セシルはすぐに捕らえられ言い分が聞かれる事もなく数日入牢された後すぐに王都を追放された。
ヴェルディ家からも縁を切られた。切らなければ爵位を剥奪される為仕方なかったらしい。

アレンには思い切り突き飛ばされ、剣を突きつけられた。殺されると思った。
憎しみの籠った冷たい瞳だった。あの瞳を見るとセシルは今も身がすくむ。
そして怯えるアリシアを優しく抱き締めるユリウスを見た時にセシルの恋は終わった。

数日かけて寒く貧しい村の修道院に着いた。
セシルは薄汚れた囚人服を纏い荷物もなく、ほとんど飲まず食わずの状態で衰弱していた。

セシルの乗せられた馬車の後ろからアレンの乗った馬車が付いてきていた。
セシルは浅く雪の残る道に裸足で馬車から降りると、アレンは短剣でセシルの白金の髪を掴んで言った。

『王都に戻ってきたりしたら、私が必ず殺す』
『行かないわ、や、止めて、殺さないで…』
短剣は髪を切り落とし、不揃いな醜い髪型にされてセシルは命乞いをする自分が情けなくて泣いた。
切り落とされた髪が冷たい風に舞って泥と雪の混じった地面に落ち、去っていく馬車に踏まれた。

修道院から出てきた神父様と修道女が優しく声を掛けてくれた。
「こんな風に切るなんてひどいわ…」
「私が悪いのです……」
修道院は貧しく、日々の食べ物さえない時もあった。

部屋に入りきらないくらいのドレスや靴やアクセサリーに囲まれ身の回りの事は侍女や使用人が全てしてくれた中で生きてきたセシルにとっては大変な毎日だったが、なぜか心はすっきりとしていて慣れない毎日を過ごす中で王都での事はほとんど思い出さなくなっていた。

皆で助け合いながら質素に暮らし神に祈る毎日に慣れた頃、王都でユリウスとアリシアが結婚したと風の噂で聞いた。
もう一度冬が巡ってきた時に風邪をこじらせて肺炎に罹り死亡した。

『修道院ではよく頑張りましたね』
光に包まれた美しい女神が真っ白な世界でセシルを迎えた。
「え?」
『婚約者がいるのに他の女性に心変わりするなんてどうなんでしょうね』
「あ、まあはい」
『私、個人的にそういうの許せないので、あなたにはもう一度7歳からやり直しのチャンスを与えます』
「やり直し…」
『同じ運命にならないように気を付けてね』
「はあ…」

目を覚ますと7歳の朝に戻っていた。
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