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終わるもふもふ生活
癒しのもふもふ生活は唐突に終わりを告げた――
それは夜が明ける少し前のこと。
「…ん?」
階下からコツ、コツ、という音が聞こえてきてアンジェルは目を覚ました。
(誰かが塔に入ってきた…?)
明らかに階段を上がってくる音だ。もしかして魔物をやっつけようと誰かが来たのではないかと驚き、眠っているグリズリーを起こそうと声を掛ける。
「グリズリー様!起きてください!」
「……?」
「誰かが階段を上がってきてます!」
ぽやーっと目を開けたグリズリーはしばらくアンジェルを見つめていたがぽんぽんと頭を撫でるとそのまま目を閉じた。
「え、ええっ!?グリズリー様!?」
危機かもしれないのに目を覚まさないグリズリーに驚いているとまるで「大丈夫、大丈夫」とでも言うように背中をぽんぽんと叩かれる。
(本当に大丈夫なの!?)
枕元のモルモットを見てもぐっすり眠っているしどうしていいかわからず不安でグリズリーにしがみつくしかない。
その足音はすぐ下の階で聞こえてきてアンジェルはぎゅっと目を閉じた。
「おや?」
(っ…!)
まだ下の階に居ると思っていたのにベッドのすぐ横で誰かが声を発した。アンジェルは恐怖で震え、目を開けることができない。
(ど、どうしよう!)
どうしていいかわからず固まっていると薄暗かった部屋が強烈にパッと明るくなった。その光が眩しくて気がついたのかグリズリーはアンジェルを抱えたままのそっと起き上がる。グリズリーの胸に顔を埋めていたアンジェルが恐る恐る目を開けるとベッドの横に青年が立っていた。オリーブ色の髪で眼鏡を掛けとてもキレイな顔立ちをしている。グリズリーが特に慌てていないということは知り合いだろうか。
「はぁ…屋敷に戻っていないから何事かと思えば女性を連れ込んでイチャイチャしてただけですか」
(い、いちゃいちゃっ!?)
その言葉に驚いたアンジェルだがグリズリーはなぜか嬉しそうにアンジェルをぎゅっと抱きしめて頬擦りした。その時花びらがふわりと舞う。喜んでいるのだろうか。
「とにかく不便なので獣姿を解いていただけませんか?」
そう言われてもグリズリーもいつの間にかそばに座っていたモルモットも何のこと?というように可愛らしく首を傾げた。それを見て青年はため息を吐く。
「わかりました。では私が解いて差し上げましょう」
「!」
青年が人差し指をくるっと回した直後、ぶわっと風が巻き起こってアンジェルは目を閉じた。風が収まった後にそこに現れたのは――
「え…」
グリズリーもモルモットも消え、現れたのは琥珀色の髪の青年とシルバーグレイの髪の少年。しかも、
「きゃあっ!?」
「あ、しまった。俺服着てないんだったわ」
「○¥$*△~っ!!」
そう、彼らは全裸だった。アンジェルは声にならない声をあげ急いで両手で顔を覆ったがきっと耳まで真っ赤だろう。早く服着て下さい!という声とガタガタ棚を漁る音が聞こえてくる。
「アンジェル、着替えたから目開けて良いよ」
「あ…」
そっと目を開けると目の前にはクリっとした真ん丸の目でニコニコしている少年がいた。
「…モルモット様?」
「そう。あっちがグリズリーね」
そう言って少年が指さした先には琥珀色の髪の青年。何が何だか理解ができずにいると眼鏡の青年がパンパンと手を叩いた。
「とにかく夜が明ける前に屋敷に戻りましょう。聞きたいことは色々ありますが帰ってからです」
ちらりとアンジェルを見た眼鏡の青年は何かに気がつき、自分が着ていたフードつきのマントを被せてくれた。
「顔とドレスを見られないように」
「わかってる。アンジェル行こう」
「え」
グリズリーの時と同じように抱き上げられた。もちろん片腕ではなく俗にいうお姫様抱っこというやつだが。
「あの、でも…私塔を出ても良いのでしょうか?」
一応懲罰としてこの塔に来たのだから出たらマズいのではないかと思う。逃げたと思われたら今度こそ死罪かもしれない。しかしアンジェルの不安など何でもないことのように青年は笑う。
「当たり前だ。お前は魔物の生け贄なんだろう?」
「っ…」
「だったら俺がお前をどうしようが誰にも文句は言わせない」
ロゼワインのようなバラ色の目を細めてニヤリと笑いながら青年は言う。その表情に思わず胸がトクンと鳴った。
「お前は俺のもんだ」
「!」
ちゅ、と唇にキスを落とされぼぼぼっと頬が赤くなった。しかし初めてのキスの余韻に浸ることも許されず青年が走り出す。
「アンジェル、しっかり捕まっとけよ!」
「……へ、」
何の忠告かと考える隙もなく青年がアンジェルを抱えたまま…塔の窓から飛び降りた!
「あ~~~っ!!」
目を閉じる間もなく襲ってきた落下の恐怖に……
塔の下に降り立った三人がアンジェルを覗き込む。
「あ、気失ってるわ」
「普通そうだろうね」
「さぁもう夜が明けますよ」
その一言に三人が夜明けの街へ走り出す。ほのかに明るくなってきた東の空、その薄明かりに見えたアンジェルの顔は。
「…やっぱりカワイイ」
誰の耳にも届かない小さな呟き。三人が走り抜けた道には、花びらがふわりふわりと舞っていたのだった。
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