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塔の上の穴の上?
(グリズリー様の目に触れないところで死ぬのを待つしかないわね…)
できれば餓死は避けたかったが仕方がない。入り口付近の階段なら邪魔にならないだろうかと考えていた時、いつの間にか立ち上がっていたグリズリーに頭をポンと撫でられ驚いて顔を上げた。どういうことかグリズリーが両手を広げている。ここに来いということだろうか?
「え、っと…そこに?」
そう聞くとこくこくグリズリーが頷く。アンジェルは恐る恐るグリズリーに近づいてその腕の中に入った。
(良かった…食べなくとも殺してはもらえるのかも…)
そう思って体を預けていたのだがグリズリーは軽々と片腕でアンジェルを抱き上げた。
「え、え?」
グリズリーが天井を指さした。すると天井に大きな丸い穴が開いていることに気がつく。
「穴、ですか?」
そう尋ねるとこくこく頷く。不思議なやり取りにいつのまにかアンジェルの涙は止まっていた。
「え、きゃあっ!」
一瞬のものすごい浮遊感に驚いて声をあげる。グリズリーはアンジェルを抱えたまま大ジャンプをし天井の穴を通り抜けた。
そして着地した先は――
「わ…すごい!」
穴の上はカントリー調の家具で揃えられたステキな部屋だった。キッチン、ダイニングテーブル、ベッド…。一体どういうことなのだろうと考えているとグリズリーはアンジェルを抱えたままキッチン横の棚の前にやってきた。グリズリーは棚を指さす。
「パンに野菜に果物?」
そう聞くとこくこくと頷く。そしてその指を今度はグリズリー自身に指さした。
「あ、グリズリー様が食べるのですね!」
グリズリーが大きく頷く。ということは。
「グリズリー様は人間は食べないということですか…」
アンジェルがそう納得すると今度は部屋の真ん中にあるダイニングテーブルの方に歩んでいき、そっと椅子に下ろされる。
「えっ…と」
困惑しているとどこからともなくモルモットがやって来てアンジェルの膝の上に乗った。グレイと白のまだら模様の柔らかそうな毛並みにつぶらな瞳。思わず自分の置かれている状況を忘れてしまいそうになるほど魅力的なフォルム。そっと背中に触れると鼻をひくひくさせた。
(ふわぁぁぁーっ!可愛すぎる!)
「モ、モルモット様…撫でてもいいですか?」
思わず尋ねると手をペロリと舐められた。これはOKということだろうか?もふもふの体を優しく撫でると体をぐでっと預けてきた。
「ふふ、かわいい…」
アンジェルはもうモルモットに夢中だ。こんなに心から癒されるのはいつぶりだろうか、そんなことを考えながらモルモットと戯れているとテーブルの上に何かがコトンと置かれた。バターの入った瓶だ。そしてはちみつ、ジャム、ミルクの入ったピッチャーなどが次々と置かれていく。
「あ、お食事をされるのですね!」
そう聞くとグリズリーがコクリと頷いた。アンジェルのすぐとなりに椅子を持ってきて座るとホットケーキがたくさん重ねられているお皿をドン、と自分の前に置く。ずいぶんと可愛らしい食事だ。
たっぷりのバターにはちみつをかけると膝の上に乗っていたモルモットがその美味しそうな匂いに我慢できなかったらしくホットケーキに飛びかかった、が。
「え」
あろうことかグリズリーがモルモットをつまんで後ろにぽいっと放り投げた。あまりのことに呆然としていると一口大に切ったホットケーキが目の前に差し出された。大きな手で器用にフォークを摘まみグッとアンジェルの口元に近づけてくる。
「え…えっ!?私が食べるのですか!?」
戸惑っているとグリズリーは口を開ける動作をする。これは所謂、
(あーん、というやつでは!?)
侯爵令嬢として厳しくしつけられていたアンジェルには初めての経験だ。いや、あったのかもしれないがそれはきっと乳児の時だろう。恥ずかしいやら何やらで頬を染めてぷるぷると震えていたアンジェルであったが、
「あっ」
ホットケーキにかかっているはちみつがポタリと落ちそうになり思わずぱくりと食いついた。
(た、食べてしまったわ…)
赤くなる頬を押さえてもぐもぐと口を動かす。それはとても、とても――
「美味しい…」
それを聞いたグリズリーはこくこくと頷き、ひと口、またひと口とアンジェルにホットケーキを食べさせた。
――この時のホットケーキの味は、ずっと凍てついていたアンジェルの心を溶かしていくとても優しい味だった。
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