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再会
「(痛って…)」
焼けつくような痛みが襲いふと見るとポタ、ポタ、と鮮血が絨毯を汚していく。走り出したレネを止めるのに思わず体当たりしたが、勢いよく突き出したナイフを避けることができず腕に当たってしまったらしい。
『(きゃあっ…ティトさまっ!!)』
「(大丈夫、ちょっと掠っただけだ。アド、)」
ティトが指示を出すまでもなくアドルフィトはレネを後ろから羽交い締めにしていた。これで周りにレネの姿が見えることはない。
レネはパニック状態になって暴れている。それもそのはず狙っていたセルトン侯爵はすでに廊下の先に居て、自分は体を拘束されて動くことができないのだ。しかもレネからは何も見えていないだけに何でこんな状態になっているのかわけがわからないだろう。
「(ティト様止血!)」
「(自分でするから良い。それよりレネを眠らせて床の血を消してくれ)」
「(了解!)」
暴れるレネの額をルシアナが軽く突くとカクンと力が抜けた。手から滑り落ちたナイフを素早く拾い絨毯を手で払うと小さな光を飛散させながら血痕が消えていく。それを見ながらティトはナイフが掠った腕を反対の手で押さえて傷に魔力を吹き込んだ。傷痕はしばらく残るだろうが血と痛みはすぐに止まるだろう。次はアンジェルだ。
『(っ…あ、ぁ…)』
「(アンジェル、もう大丈夫だからゆっくり息を吸って…吐いて…そう、良いぞ)」
パニックになったのはアンジェルも同じだった。衝撃的なレネとの再会に、ティトの怪我。ショックで過呼吸になっていたアンジェルの背中をゆっくり撫でると少しずつ落ち着いてくる。
(あいつは…)
廊下の先に鋭い視線を送ると何か勘づいたのかセルトン侯爵が振り返った。しかし侯爵からは何も見えていないため首を捻っただけでその姿は部屋に消えていく。
(このままでいられると思うなよ)
心の中でそう吐き捨てるとティトは小さくため息を吐いた。すぐにでも闇に葬ってやりたいところだが、今ここでこれ以上できることは何もない。
ティトはポン、と手を叩いた。
「(よし、レネも回収したし宿に戻るか!)」
「(はぁ、阻止できて何よりです…)」
「(良かったね、アンジェル!)」
『(っ…はい、ありがとうございます!)』
アドルフィトに背負われているレネを見てアンジェルが涙を流している。少し時間が掛かってしまったがレネが事件を起こす前に会えて安堵した。
ずっと欠けていた物がようやく埋まった瞬間だった。
**
いつの間にか夜を迎え部屋の中はほんのり明かりが灯っている。宿に戻ってからもレネは眠り続けていた。強制的に起こすこともできるが心身ともに疲れているだろうから眠らせておいた方が良いというティトの助言に従い、アンジェルは眠るレネの側から離れることなくその手をずっと握っている。
(この手を汚させるところだった…)
どうやって屋敷に入り込んだのかはわからないがレネは使用人の服を着ている。それにアンジェルと同じハニーブラウンの髪色は焦げ茶色に染められていた。かなり計画的に事を進めていたのだろう。父親に刃を向けようと決意させるまで追い込んでしまったその原因は紛れもなく自分にあるのだとアンジェルは申し訳なく思う。
眠るレネの顔色は青白く、前回会ったときよりもずいぶん痩せている。この数ヶ月、どれだけ思い悩み傷ついただろうか。
(ごめんなさい…)
その柔らかな髪を撫でていると意識が浮上したのかレネが身動ぎした。
「……ん」
「っ、レネ!」
「え…えっ!?」
目を覚ましたレネがアンジェルの姿を捉えがばっと起き上がった。しかし一瞬驚いた顔をしたものの、急に肩を落としてため息を吐く。
「…何だ、ダメだったか…」
「レネ?」
せっかく会えたのに思いの外リアクションが薄くアンジェルは首を傾げた。なぜか目の前のレネはとっても落ち込んでいる。
「姉さんがいるってことは俺も死んだんだよね?」
「……ん?」
レネの言う事の意味を理解するまで数秒かかった。
(もしかして死後の世界だと思ってる!?)
「レネ!死んでないの、私も、あなたも!!」
「……え」
「無事だったのよ!」
この温もりは嘘なんかじゃない、そう伝えたくてアンジェルはレネを強く抱き締めた。しかし抱き締めたのも束の間、レネはアンジェルを勢いよく離した。
「あ、あれ…?」
「……夢か?」
何かを確認するようにレネはジーッと見ながらアンジェルの肩や腕をぺたぺた触る。そして最後に頬を触られもう一度目が合うと、
「……レネ」
レネの目から涙が溢れだしポタポタと布団を濡らしていく。
「ホントに、姉さん…?」
「うん」
「生き、て」
「うんっ」
今度はレネがアンジェルを強く抱き締めた。我慢できずに声をあげて泣き出したレネをアンジェルも抱き締め返す。
「良かっ…本、当に」
「うん…」
「姉さ、ん…ごめんっ」
守ってあげられなくて、と途切れ途切れにレネが訴えかけてくる。そんなことどうでも良い。こうして生きて会えただけで十分だ。あのジラルの塔の階段を上がるとき、レネに再び会えるなんて夢にも思っていなかった。
(もう絶対にレネに苦しい思いはさせない)
泣きじゃくるレネの背中を撫でながらアンジェルはそう誓ったのだった。
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