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大切な家族として
再会の喜びにひとしきり泣いてお互いの目が真っ赤になった頃、そういえば、とレネが切り出した。
「姉さん、どうやって助かったの?」
「あ…それはきちんと説明するね」
アンジェルはベッドから下りて扉の方に向かった。今回宿泊している部屋はコネクティングルームで、内扉から隣の部屋と行き来できるようになっている。内扉を軽くノックすると程なくしてティト達が顔を覗かせた。
「もう良いのか?」
「はい。ありがとうございます」
そう答えるとティトが嬉しそうに頭をポン、と撫でながら頷いてくれた。レネの視線を受けてアンジェルが振り返る。
「レネ、この方達がジラルの塔で助けてくださったの。今日屋敷でレネを止めてくれたのもそうなのよ」
「えっ…あ!そうだ!俺何でここに…!?」
アンジェルと会えた衝撃ですっかり忘れていたのだろうがレネは今日父親を襲撃するつもりだったのだ。それなのに気がつけばベッドで寝ていたのだから混乱するのも無理はない。
「まぁ色々聞きたいこともあるでしょうしお茶でも飲みながらにしませんか」
「レネがいつ起きても良いようにあっちに用意しといたよ!」
「レネ、歩けるか?」
「あ…はい…大丈夫です」
いきなり無遠慮にぐいぐい来られてレネは少し戸惑っているようだが、明るい方へと導いてくれるこの強引さにアンジェルもずっと助けられてきたのだ。レネとティト達が一緒にいるなんて何だか夢のように感じる。
(ああ…嬉しいなぁ)
アンジェルはベッドから下りたレネの背中をそっと押して隣の部屋に誘導した。
*
「えっと、まだ理解が…」
レネは告げられたこれまでの経緯にポカンとした顔をしている。
アンジェルがジラルの塔で助けられた事やギマールまで会いに行った事、そして今回セルトン侯爵家にレネを止めに行った事。それに加えて、彼らがなくなったはずのジラルディエール出身で魔力があって、しかもティトが王太子殿下である事実。
夢の中のような出来事にレネは理解が追い付かず、頭の中はすでにキャパシティを超えてしまっているようだ。
「まぁ魔力云々はこれからわかってくるだろうから深く考えなくていいぞ」
「はぁ…」
「レネはアンジェルの事を聞いてギマールからペルランに迎えに来たんだよね?」
ルシアナに水を向けられて今度はレネが口を開く。
「…俺はずっと罪悪感を持っていて」
「罪悪感?」
そう尋ねるとレネは目を伏せて頷いた。あの悪の巣窟のような家に姉を置いて自分だけメルテンス子爵家でのびのびと暮らせていることにいつも心のどこかで罪悪感を抱いていた。だからクレールとの婚約が破棄されたと聞いた時は怒るよりもホッとしたのだという。
「これからは一緒に暮らせるんじゃないかって」
「レネ…」
「やっと俺も姉さんを守れるって…思ったんだけど」
ペルラン王都に乗り込んだ矢先にアンジェルが魔物の生け贄になったと聞かされた。そしてその怒りの矛先はただ一点、父親に向かう事になる。王都でしばらくアンジェルの生きた足跡を辿った後はもう父親を討ち取ることしか考えられなくなったのだという。
「でも今警備がすごいのによく入り込めたね」
「あ、それは…俺小さい時に母の部屋から敷地外に繋がる通路を見つけてたんだ」
「なるほど…有事の際の隠し通路ですね。宮殿や大きな屋敷には付き物ですから」
「そこから侵入できたのか」
「はい」
使用人も知らない脱出ルートがあるのは珍しいことではない。長年そこで生活したアンジェルでさえ屋敷の隠し通路をすべて把握しているわけではなかった。
「使用人の服を何とか入手して、父が一番無防備になる時を待ってた」
「それがあの時か」
コクリと頷くとレネは膝の上でぎゅっと拳を握りしめた。
「どうしても、アイツだけは許せなかったっ…!」
母を裏切り、レネを追い出し、アンジェルを虐げ罪を被せた。あの父親に良いところなど一つもなかったとアンジェルだってそう思う。
「まぁその気持ちはわかる。だが、レネがアイツを殺す前に止められて良かった」
「……」
「今は納得できないかもしれないが」
レネの手がわなわなと震えている。それほどまでに父親に対し激しい憤りを感じているのだ。
「アンジェルとレネが無事だったことが一番重要なことですから」
「そうだな。セルトン侯爵家の事は後々考えていこう。俺ももちろんこのままで終わらせるつもりはない」
「…はい」
アドルフィトとティトに諭され悔しそうにしながらもレネが頷いたことにアンジェルもホッとした。隣に座るレネの手をそっと握るとアンジェルは頭を下げる。
「私と弟を救ってくださって本当にありがとうございました」
それを見たレネも同じように頭を下げた。三人にはどれだけ感謝しても足りないくらいだ。
「当然の事をしただけだ。二人とも俺の家族になるんだからな」
「ん?え…?」
「結婚するから、俺とアンジェル」
「え、ええっ!?姉さんホントなの!?」
「う、うん」
何ということもないように軽ーく結婚宣言されてレネが狼狽えている。またもや絶句状態だ。
「あはは、反応がアンジェルとそっくりだね」
「確かに似てますね」
「!?」
レネの反応を見てルシアナが笑うとアドルフィトも同意している。いつもあんな顔で驚いているのかとアンジェルは思わず頬を手に当ててしまった。
「よし、これからは俺が皆まとめて幸せにしてやるからな!とりあえず今日は騒ぐぞ!」
「お菓子もいっぱいあるよ!」
「はぁ…他の客から苦情が来なければ良いですが」
はじめは戸惑っていたレネも三人のペースに巻き込まれ、いつの間にか笑顔を見せている。こうして皆が笑っていられる事に感謝しながらアンジェルもまた、ロバナ最後の夜を楽しんだのだった。
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