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第六章【エルフの隠れ里】
6-6 明かされる秘密
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――――【 真夜中 ツリーハウスの外 】
……ザッ!
猛竜騎士「…夜中だぞウィッチ」
幼ウィッチ「すまぬな、起こしてしまったか」
猛竜騎士「謝るくらいなら、そんな妙な気を飛ばすか?」
幼ウィッチ「ふふ、分かっておったか」
猛竜騎士「俺に気が付くように、そんな気を飛ばしていたんだろ」
幼ウィッチ「夜中にすまないな」
猛竜騎士「……どうしたんだ。問題でも起きたか?」
幼ウィッチ「いや……。そういうわけではないのじゃが……」
猛竜騎士「じゃあなんだ」
幼ウィッチ「……相談がある」
猛竜騎士「相談?」
幼ウィッチ「魔剣士のことじゃ」
猛竜騎士「なんだ?」
幼ウィッチ「……あいつの動きや戦い方を見て、あのまま殺すのはもったいないと思ったのじゃ」
猛竜騎士「殺すだと…?」ピクッ
幼ウィッチ「あ…いや、そういうことではない」
幼ウィッチ「魔剣士の魔力がないのは昼間にわかっただろう?」
幼ウィッチ「つまり、このまま技量を磨いても魔剣士の良さは殺されるだけだという意味ということじゃ」
猛竜騎士「……仕方ないことだ」
幼ウィッチ「あいつは繊細ながらも一撃型。魔力がないのは勿体ないじゃろう」
猛竜騎士「魔力がなければ、ないなりに戦い方はある」
幼ウィッチ「だから、それでは良さも何もない。魔剣士の良さは殺されてしまうといっているんじゃぞ?」
猛竜騎士「そうは言っても、どうしようもないだろうが……」
猛竜騎士「いつの時代も、偉人になれるような強さを持つ戦士はいたがな」
猛竜騎士「あいつの身体は所詮そこまでだったってことだろう」
幼ウィッチ「……チャンスがなければ、のう」
猛竜騎士「なに?」
幼ウィッチ「先ほど言うただろう、今は相談しに来たと」
猛竜騎士「どういうことだ」
幼ウィッチ「…魔剣士は面白い。チャンスを与えてもいいと思ったのじゃ」
猛竜騎士「だからどういうことだ」
幼ウィッチ「……前に、私の地下室で見たアイテムを覚えてる?」
猛竜騎士(口調が……)ピクッ
幼ウィッチ「あの時、一番奥にあった道具。あのことよ」
猛竜騎士「あぁ、覚えている。強烈な魔力を放っていたあれか」
幼ウィッチ「そう、そのこと」
猛竜騎士「……あれがどうかしたのか」
幼ウィッチ「ふふ、分からない?」
猛竜騎士「……何?」
幼ウィッチ「…分かるでしょ?」
猛竜騎士「…」
猛竜騎士「……!」ハッ
猛竜騎士「……まさか!」
幼ウィッチ「そう。魔力増幅効果のある凄いアイテムなのよ…?」ニコッ
猛竜騎士「…バカな!」
幼ウィッチ「私が嘘をつくと思う?」
猛竜騎士「そ、それは思わないが…。いや、いくらお前でも魔力を増幅させるなど!」
幼ウィッチ「あり得ないは、あり得ない……ってね」
猛竜騎士「どうやって作ったというんだ…!」
幼ウィッチ「レガシー品よ」
猛竜騎士「何っ!?」
幼ウィッチ「古代の魔石、オーブと呼ばれる代物を腕輪に改良したの」
猛竜騎士「……レガシー品だと」
幼ウィッチ「私が見つけたレガシーは、古代魔石オーブと呼ばれる魔力が超濃縮された魔石でね」
幼ウィッチ「闇魔法とほぼ同じ時代に生まれた、一種のバーサク効果をもたらす道具なのよ」
猛竜騎士「ば、馬鹿な…!」
幼ウィッチ「本当よ?」
猛竜騎士「……それを魔剣士に渡す気か!?」
幼ウィッチ「だとしたら…?」
猛竜騎士「魔力はそれぞれにタンクのような貯蔵があるのは知ってるだろうが!」
猛竜騎士「それ以上の魔力を受けると破裂するんだぞ!」
猛竜騎士「もしそれが本当なら、装備した時点で使用者は耐え切れずに破裂…死ぬんだぞ!」
幼ウィッチ「だから、それをもタンクすらも広げる効果があるってことよ?」
猛竜騎士「無理やり成長させるというのなら、それは完全なる闇魔法と一緒だ!」
幼ウィッチ「使用者には思った以上の魔力、魔法能力となる。確かにバーサクと変わらないわね」
猛竜騎士「そんなもの渡す許可を出すと思うか!」
幼ウィッチ「…」
猛竜騎士「それが本当ならば、研究次第で魔力のない生物へ魔力をもたらす効果を……」
幼ウィッチ「えぇ…。新種の魔族を生む可能性がある、最悪の代物ともなるかもね」
猛竜騎士「……ふざけるな!そんなものを魔剣士に渡せるわけがない!」
幼ウィッチ「そう…?」
猛竜騎士「…なぜこんな話を持ってきた。俺が許可するわけがないのを知っているだろう」ギリッ…
幼ウィッチ「あの子が気に入ったからよ。チャンスを与えてもいいかなって思ったの」
猛竜騎士「…それはチャンスじゃない、自殺と一緒だ!」
幼ウィッチ「身体に合えば、それは力になるけど?」
猛竜騎士「賭けさせるものか!」
幼ウィッチ「……でも」
猛竜騎士「でもじゃない!」
幼ウィッチ「そういうことじゃなくて。う、し、ろ」
猛竜騎士「何だというんだ!」バッ!
魔剣士「…っ!!」
魔剣士「……い、今の話は本当なのか」
猛竜騎士「…魔剣士!?」
幼ウィッチ「良い夜でしょう、魔剣士」
猛竜騎士「いつから…いたんだ……」
魔剣士「…俺が魔力を有さない人間っていうあたりからだ」
猛竜騎士「!」
魔剣士「……その腕輪があれば、俺は強くなれるのか」
猛竜騎士「ば、馬鹿野郎!話を聞いてなかったのか、それは嘘だ!」
魔剣士「ウィッチは嘘をつく輩じゃないんだろ…?」
猛竜騎士「うっ…!」
幼ウィッチ「…そうよ。力を得るというのは本当のこと」
猛竜騎士「だ、黙ってろウィッチッ!!」
猛竜騎士「魔剣士、今の話は聞かなかったことにしろ。強くなる近道なんてありゃしないんだ!」
魔剣士「……その腕輪ってのは、どこにあるんだ」
猛竜騎士「魔剣士ッ!!」
幼ウィッチ「私の家の、台所から入れる地下の一番奥、その箱の中かな」
猛竜騎士「おまえっ…!」
魔剣士「……それを、くれるのか?」
幼ウィッチ「望むなら、反対はしない」
魔剣士「いいんだな」
幼ウィッチ「ただし、責任は知らないからね」
魔剣士「!」
幼ウィッチ「……そのレガシーが身体になじまなければ、あなたは死ぬ」
幼ウィッチ「つまり白姫を守ることも、白姫を感じることも、二度と出来なくなる」
魔剣士「…っ!」
猛竜騎士「もうやめろ、ウィッチ!」
幼ウィッチ「…あのねぇ、猛竜騎士」
猛竜騎士「なんだ!」
幼ウィッチ「魔剣士が強くなる"きっかけ"を得たのに、邪魔する権利があなたにあるの?」
猛竜騎士「ッ!」
幼ウィッチ「あなたが言った言葉でしょ。それなら納得する?」
猛竜騎士「…そ、それは」
幼ウィッチ「…」
猛竜騎士「…」
幼ウィッチ「…」
猛竜騎士「……す、するわけがない。できるわけがないだろう…!」
幼ウィッチ「どうして?」
猛竜騎士「目の前で、弟子を失うかもしれないことに首を突っ込ませる程俺は腐ってねぇ!」
幼ウィッチ「世界踏破のきっかけと一緒でしょう」
猛竜騎士「違うッ!!」
幼ウィッチ「……そんなこと言ってていいの?」
猛竜騎士「今度はなんだ…!」
幼ウィッチ「…後ろ、もういないわよ」
猛竜騎士「は…」バッ!
…シーン…
猛竜騎士「あ、あのバカ……!」ダッ!
ダダダダッ……!
幼ウィッチ「…」
幼ウィッチ「…」
幼ウィッチ「……ふぅ」
幼ウィッチ「ごめんなさいね、あなたが察知能力が使えないように魔力を発していたのよ」
幼ウィッチ「だから魔剣士の行動に全く気が付けなかったってわけ……」
幼ウィッチ「……ごほっ!」
幼ウィッチ「ごほごほっ、げほっ……!」
幼ウィッチ「ご、ごめんなさいこんなこと……」
幼ウィッチ「だけど、も…元パーティ同士、最後まで面倒を見てあげたいのよ」パァァ!
月夜の明かりの下、
幼ウィッチは静かに変身を解き、黄金の輝きを放ちながら元の姿へと戻った。
それと同時に、騒ぎで目を覚ました白姫がツリーハウスから「何の音…?」と寝ぼけながら顔を出した。
ウィッチ「……白姫、起きたのね。こっちにいらっしゃい」クイッ
白姫「う、うぃっち…さん……?」
白姫は眠そうにしながらも、手招きされるがままフラフラとウィッチのもとへと近寄った。
ウィッチ「……白姫、話をしたいことがあるの」
白姫「は、はい……?」ゴシゴシ…
ウィッチ「猛竜騎士たちがココへ戻ってきた時、それは願わない形かもしれない」
白姫「え…?」
ウィッチ「でも、こうなったことには事情があるの」
白姫「な、何がですか…?話が見えてこないです……」
ウィッチ「もし猛竜騎士が戻ったら伝えてほしい。私は、いよいよ時が来たんだって」
白姫「どういうことですか…?」
ウィッチ「願わくば、ここからの旅にもう一度行っても良かったかなって思ったけどね」
白姫「ウィッチさん…?」
ウィッチ「…また、いつか会いましょうね」ニコッ
白姫「え?ど、どういう……」
ウィッチ「…ゴホッ!」フラッ
と、大きな咳に膝を落とすウィッチ。
その顔色は悪く、今にも倒れ込んでしまいそうなほどに見えた。
寝ぼけていた白姫だったが、突然のことに目が覚め、声を荒げた。
白姫「う、ウィッチさん!?」
ウィッチ「…ッ!」
白姫「どうしたんですか、ウィッチさん!?」
ウィッチ「……ごほっ!!げほげほっ!」
白姫「ウィッチさん、ウィッチさん!?」
ウィッチ「…っ」フラフラ……
白姫「あ、危ないですよっ…!」
ウィッチ「私はね、呪いを受けたの……」
ウィッチ「人間ならば絶命となる呪いに、私はエルフ族の寿命を大きく縮められた…」
ウィッチ「その時から、私はあの腕輪を作ることに…使命を変えて……」
白姫「な、なんのことですか…!」
白姫「しっかりしてください、ウィッチさん!」
ウィッチ「それをいつか渡そうと思ってた……相手が来て……」
ウィッチ「自分が待っていたのに、運命と一緒みたいで…」
白姫「え、えっ!?」
ウィッチ「猛竜騎士、あの箱を見て、私の体調をうかがって、見抜けないなんてまだまだね……」
ウィッチ「察知能力ももうちょっと…教えてあげたほうが良かったかな……?」
白姫「な、何が……」
ウィッチ「……白姫、ごめんね」パァァ
白姫「え…?」
ウィッチ「おやすみなさい」
…バシュンッ!…
白姫「えっ…」
白姫「…あ、あれっ?」フラッ…
白姫「…」ガクッ
ウィッチ「部屋には戻してあげるから、安心して」
ウィッチ「私の言った言葉、頼んだからね……」
ウィッチ「ごほっ…!げほげほ、ごほっ……!」
白姫(ウィッチ…さ……)
白姫(…ん……)
白姫(……)
白姫(…)
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 そして ウィッチの家の地下 】
ダダダダッ、ドシャッ!!ゴロゴロッ!!
魔剣士「…いっつ!」
猛竜騎士「やっと捕まえたぞ、魔剣士ッ!!」
魔剣士「オッサン…!は、離せよ!目の前に強くなれるチャンスがあるんだぞ!?」
猛竜騎士「馬鹿…言うんじゃないっ!!目を覚ませ魔剣士ッ!!」ビュッ!!!
バキィッ!!
魔剣士「がっ!?」
猛竜騎士「レガシー品、バーサクの魔法がどれほど恐ろしいか教えただろうが!」
魔剣士「ウィッチが使えっていうんだ、いいじゃないかよ!」
猛竜騎士「強さに目がくらみ、目の前のことが見えなくなったら終わりだぞ!」
魔剣士「どのみち俺はこのままじゃ強くなれないんだろ!?」
猛竜騎士「だからといって、それに頼るんじゃない!!」
魔剣士「……んだよ、なんで邪魔すんだよ!」
猛竜騎士「お前がもしいなくなったら、白姫だけを残すつもりか!」
魔剣士「っ!」
猛竜騎士「……強くなりたい気持ちは分かる!」
猛竜騎士「だが、何度お前に"成長しろ"と、"落ち着け"の言葉を繰り返せば分かるんだ…?」
猛竜騎士「もう自分一人なんかじゃない、仲間がいるんだ!どうして分からないんだ!!」
魔剣士「……く、悔しいって気持ちだけじゃダメなのかよ!」
猛竜騎士「何…?」
魔剣士「俺は魔法に長けてるのに、魔力がないんだろ…!聞いちまった以上、止まるわけがねえだろうが!!」
猛竜騎士「…」
魔剣士「意味わかんねぇよ…っ」
猛竜騎士「…」
魔剣士「このまま強くなれないのなら、それに賭けたほうがマシだと思ったんだよ!」
猛竜騎士「……代償を知っていても、そう思えるのか」
魔剣士「何が!」
猛竜騎士「失う代償は、でかいんだぞ……」
魔剣士「は…?」
猛竜騎士「失敗したときの代償も、成功したときの代償も、闇魔法は大きすぎるんだよ…」
魔剣士「……何がだ?」
猛竜騎士「…っ」
魔剣士「なんの話だよ」
猛竜騎士「……覚えているか。白姫が俺に"猛竜騎士さんは闇魔法が使えるのですか"と聞いた時を」
魔剣士「…ん」
………
…
白姫「…でも、猛竜騎士さんはずいぶん詳しいんですね?」
白姫「もしかして、そのバーサクという魔法をつかえたりするんですか?」
猛竜騎士「…」
猛竜騎士「……いや、俺は使えないな」
…
………
魔剣士「あ、あぁ……。ジャングルの時に……」
猛竜騎士「…"俺が"闇魔法は使えないのは正しい」
魔剣士「ん…?」
猛竜騎士「だが、使える存在、使われる存在の奴を俺は知っている」
魔剣士「……誰だ?」
猛竜騎士「ウィッチだ」
魔剣士「!?」
猛竜騎士「…ッ」
魔剣士「そ、それって…どういう……!」
猛竜騎士「……そういうことだよ」
魔剣士「は…?」
猛竜騎士「……いいか、よく聞け」
猛竜騎士「もう、20年前になる」
猛竜騎士「俺らは古代遺跡の深部で、とある箱を見つけたんだ……」
…………
……
…
…
……
…………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 20年前 古代遺跡深部 】
猛竜騎士「……おい、なんかあるぜ!?」
大剣術師「はしゃぐな。罠だったらどうするつもりだ」
古武士「なんだ汚い箱だな」
ウィッチ「まだ開けないでよ。私が調べるからね」
――俺らのパーティは、古代遺跡の最深部へとたどり着いた。
そこに、いわゆる宝物庫という部屋があってな。
だが、古代遺跡は罠も多く、それに関しては慎重に扱うのが普通だった。
ウィッチ「……ずいぶんと汚い箱ね」
猛竜騎士「クソみてぇなガラクタが詰まってるんじゃねえの?」ハハハ
ウィッチ「でも、この古代遺跡は冒険者が入った形跡はないでしょ」
猛竜騎士「当時の古代人がゴミ入れにでもしてたんじゃねーの?」
ウィッチ「宝物庫にわざわざ?」
猛竜騎士「あぁ、それもそうか……」
古武士「他の宝箱から目ぼしいもんは出したし、あとはソレだけだぞ」
大剣術師「あからさまに怪しい箱。触らないほうがいいんじゃないのか」
古武士「罠って可能性もあるわけだしな?」
――そこにあるのは小さく、汚らしい箱。
怪し過ぎたものだったが、当時の俺はバカだった。
猛竜騎士「……逆に、こういった目立たない箱だから宝があるんじゃねぇのか!?」バッ!
ウィッチ「あっ、ちょっと!」
――箱を無理やり開けたんだ。
猛竜騎士「うおっ、なんか輝いてるぞ!?」
――中には、黄金色の光が輝いていた。
猛竜騎士「お宝だろ、やっぱり!!」
――……本当に、馬鹿だった。
ウィッチ「…」
ウィッチ「……この光、まさか!」ハッ!
――その中身は、宝光なんかじゃなかった。
ウィッチ「どいて、猛竜騎士ッ!!」ドンッ!!
猛竜騎士「うおっ、なにすんだっ!」
――それは……
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
猛竜騎士「…ゴミ箱だったんだ。本当にな」
魔剣士「へ?」
猛竜騎士「失敗したレガシー品を封印していた箱、レガシーのゴミ箱。それが劣化したものだったんだよ」
魔剣士「!」
猛竜騎士「モロに光を浴びたウィッチは、その光から"膨大過ぎる魔力"を受け取った」
猛竜騎士「普通の人間なら、俺なら、恐らく一瞬で全身が溶けているレベルだろう」
魔剣士「…ッ!」
猛竜騎士「彼女はエルフ族が故に、その光を浴びて、それを力にすることになった」
猛竜騎士「それがあの、普通のエルフ族より遥かに優れた"感知能力"になった」
猛竜騎士「…し、しかしだ!」
猛竜騎士「その代償は…とてつもなく大きかった……」
魔剣士「代償って…」
猛竜騎士「……寿命がなくなったんだ。エルフ族としてのな」
魔剣士「なっ…」
猛竜騎士「おかしいとは思わなかったか?彼女が小さい恰好をしていたのが」
魔剣士「あ…。それは確かに……」
猛竜騎士「彼女の身体は蝕まれていた。あの身体じゃないと、もはや満足に生活すらできなかったんだよ」
魔剣士「……っと、まさかウィッチが変身したときに出ていた黄金の煌きって!」
猛竜騎士「彼女に宿った呪いの光だ」
魔剣士「そ、そういうことだったのか……」
猛竜騎士「そしてレガシーの力は、エルフ族として忌み嫌われるものだ」
猛竜騎士「俺がお前らに話さなかったのは、この里でもし彼女の話をして、誰かに聞かれていたらどうなったと思う?」
魔剣士「里から…追い出されていた…………!」
猛竜騎士「……殺されて、な」
魔剣士「…っ!」
猛竜騎士「だ、だからこそ!俺は今回のことが腑に落ちないんだ!」
魔剣士「…?」
猛竜騎士「なんであれほど恐ろしい道具の存在だと知っていたのに、アイツはレガシーを蘇らせたんだ…!」ギリッ…
魔剣士「…!」
猛竜騎士「あれが何の役割をする!」
猛竜騎士「あいつ自身、自らの命を削らせて得たものは感知能力を増やしただけだ!!」
猛竜騎士「なのに、また、あの悪夢を、誰かに、誰かに、誰かに……ッ!!!」
魔剣士「お、オッサン……」
猛竜騎士「好きだった女が、命を削られる様、しかも自分のせいで……」ブルッ…
猛竜騎士「それがどんな気持ちか、分かるか……魔剣士……っ」グスッ…!
魔剣士(なみ…だ……)
猛竜騎士「お前があの腕輪を手にし、万が一命を削り、失ったらどうする……」
猛竜騎士「俺はまた同じ悲しみを繰り返すのか?」
猛竜騎士「それとも、白姫が朽ちたお前を見て涙を流すのを、止められなかったと嘆けばいいのか…?」
猛竜騎士「いや、分かってるよ」
猛竜騎士「必ずしも失敗するわけじゃなく、完璧に闇魔法を扱える可能性だってある」
猛竜騎士「だが、それに賭けさせるほど俺の心は強く…ないんだよっ……!」
魔剣士(……そうか、俺がオッサンとウィッチのやり取りを見て感じたのって)
………
…
猛竜騎士「……相変わらず、美しいようで」
ウィッチ「また惚れてくるかしら?」
猛竜騎士「あぁ、惚れてるよ」ククク
ウィッチ「嬉しい言葉…。だけど、あなたはまだ、私にはちょっと役不足かな…」クスッ
猛竜騎士「あの時と同じ言葉か。そこも変わっていなくて安心するよ」
ウィッチ「…ふふっ」
猛竜騎士「くくく……」
魔剣士(……な、なんだ)
白姫(なんか、大人ーって感じがする~……!)
…
………
魔剣士(…大人っぽいとかじゃない)
魔剣士(哀しみの…感傷だったんだ…………)
猛竜騎士「……まだ、腕輪が欲しいか」
魔剣士「え…」
猛竜騎士「俺の話を聞いて、力が欲しいか?」
魔剣士「…」
猛竜騎士「魔剣士」
魔剣士「…」
猛竜騎士「……力が欲しいのかと聞いているんだ」
魔剣士「…っ」
猛竜騎士「…」
魔剣士「ば、バカ野郎……」
猛竜騎士「…」
魔剣士「そんなこと言われたら、欲しがれるわけがねぇじゃねえかよ……」
猛竜騎士「…!」
魔剣士「分かったよ。もう、欲しがらねぇよ……」
猛竜騎士「そ、そうか…。安心したぞ……」
魔剣士「…っ」
――初めて見た猛竜騎士の涙。
そして、鬼気迫る勢いの言葉。
その全てが魔剣士の行動を抑制した。
魔剣士「……じゃ、じゃあ戻ろうぜ」
猛竜騎士「あぁ…。ウィッチには何故造ったのかを改めて話を聞かねばならないからな」
魔剣士「…そうだな」
猛竜騎士「戻ろうか」
魔剣士「あぁ…」
ようやくひと段落が終えた一瞬の安堵。
……だが。
それは突然に訪れた。
二人が地下室を出ようとした瞬間。
妙な音が、狭い部屋へと響き渡った。
……ドスッ!……
魔剣士「…ん?」
猛竜騎士「…」
魔剣士「…なんか鈍い音がしたな」
猛竜騎士「…」
魔剣士「オッサン、聞こえなかったか?」
猛竜騎士「…」
魔剣士「……オッサン?」
猛竜騎士「…」フラッ
魔剣士「…んあ?」
……ドサッ!!
猛竜騎士「…」
魔剣士「……お、オッサン!?」
魔剣士「ど、どうして倒れ……!!おいっ!!?」
―――音の正体。
それは猛竜騎士を瞬時にして気絶させるほどに強烈な猛毒を持ち、腹部へと突き刺さった"一本の矢"であった。
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――――【 真夜中 ツリーハウスの外 】
……ザッ!
猛竜騎士「…夜中だぞウィッチ」
幼ウィッチ「すまぬな、起こしてしまったか」
猛竜騎士「謝るくらいなら、そんな妙な気を飛ばすか?」
幼ウィッチ「ふふ、分かっておったか」
猛竜騎士「俺に気が付くように、そんな気を飛ばしていたんだろ」
幼ウィッチ「夜中にすまないな」
猛竜騎士「……どうしたんだ。問題でも起きたか?」
幼ウィッチ「いや……。そういうわけではないのじゃが……」
猛竜騎士「じゃあなんだ」
幼ウィッチ「……相談がある」
猛竜騎士「相談?」
幼ウィッチ「魔剣士のことじゃ」
猛竜騎士「なんだ?」
幼ウィッチ「……あいつの動きや戦い方を見て、あのまま殺すのはもったいないと思ったのじゃ」
猛竜騎士「殺すだと…?」ピクッ
幼ウィッチ「あ…いや、そういうことではない」
幼ウィッチ「魔剣士の魔力がないのは昼間にわかっただろう?」
幼ウィッチ「つまり、このまま技量を磨いても魔剣士の良さは殺されるだけだという意味ということじゃ」
猛竜騎士「……仕方ないことだ」
幼ウィッチ「あいつは繊細ながらも一撃型。魔力がないのは勿体ないじゃろう」
猛竜騎士「魔力がなければ、ないなりに戦い方はある」
幼ウィッチ「だから、それでは良さも何もない。魔剣士の良さは殺されてしまうといっているんじゃぞ?」
猛竜騎士「そうは言っても、どうしようもないだろうが……」
猛竜騎士「いつの時代も、偉人になれるような強さを持つ戦士はいたがな」
猛竜騎士「あいつの身体は所詮そこまでだったってことだろう」
幼ウィッチ「……チャンスがなければ、のう」
猛竜騎士「なに?」
幼ウィッチ「先ほど言うただろう、今は相談しに来たと」
猛竜騎士「どういうことだ」
幼ウィッチ「…魔剣士は面白い。チャンスを与えてもいいと思ったのじゃ」
猛竜騎士「だからどういうことだ」
幼ウィッチ「……前に、私の地下室で見たアイテムを覚えてる?」
猛竜騎士(口調が……)ピクッ
幼ウィッチ「あの時、一番奥にあった道具。あのことよ」
猛竜騎士「あぁ、覚えている。強烈な魔力を放っていたあれか」
幼ウィッチ「そう、そのこと」
猛竜騎士「……あれがどうかしたのか」
幼ウィッチ「ふふ、分からない?」
猛竜騎士「……何?」
幼ウィッチ「…分かるでしょ?」
猛竜騎士「…」
猛竜騎士「……!」ハッ
猛竜騎士「……まさか!」
幼ウィッチ「そう。魔力増幅効果のある凄いアイテムなのよ…?」ニコッ
猛竜騎士「…バカな!」
幼ウィッチ「私が嘘をつくと思う?」
猛竜騎士「そ、それは思わないが…。いや、いくらお前でも魔力を増幅させるなど!」
幼ウィッチ「あり得ないは、あり得ない……ってね」
猛竜騎士「どうやって作ったというんだ…!」
幼ウィッチ「レガシー品よ」
猛竜騎士「何っ!?」
幼ウィッチ「古代の魔石、オーブと呼ばれる代物を腕輪に改良したの」
猛竜騎士「……レガシー品だと」
幼ウィッチ「私が見つけたレガシーは、古代魔石オーブと呼ばれる魔力が超濃縮された魔石でね」
幼ウィッチ「闇魔法とほぼ同じ時代に生まれた、一種のバーサク効果をもたらす道具なのよ」
猛竜騎士「ば、馬鹿な…!」
幼ウィッチ「本当よ?」
猛竜騎士「……それを魔剣士に渡す気か!?」
幼ウィッチ「だとしたら…?」
猛竜騎士「魔力はそれぞれにタンクのような貯蔵があるのは知ってるだろうが!」
猛竜騎士「それ以上の魔力を受けると破裂するんだぞ!」
猛竜騎士「もしそれが本当なら、装備した時点で使用者は耐え切れずに破裂…死ぬんだぞ!」
幼ウィッチ「だから、それをもタンクすらも広げる効果があるってことよ?」
猛竜騎士「無理やり成長させるというのなら、それは完全なる闇魔法と一緒だ!」
幼ウィッチ「使用者には思った以上の魔力、魔法能力となる。確かにバーサクと変わらないわね」
猛竜騎士「そんなもの渡す許可を出すと思うか!」
幼ウィッチ「…」
猛竜騎士「それが本当ならば、研究次第で魔力のない生物へ魔力をもたらす効果を……」
幼ウィッチ「えぇ…。新種の魔族を生む可能性がある、最悪の代物ともなるかもね」
猛竜騎士「……ふざけるな!そんなものを魔剣士に渡せるわけがない!」
幼ウィッチ「そう…?」
猛竜騎士「…なぜこんな話を持ってきた。俺が許可するわけがないのを知っているだろう」ギリッ…
幼ウィッチ「あの子が気に入ったからよ。チャンスを与えてもいいかなって思ったの」
猛竜騎士「…それはチャンスじゃない、自殺と一緒だ!」
幼ウィッチ「身体に合えば、それは力になるけど?」
猛竜騎士「賭けさせるものか!」
幼ウィッチ「……でも」
猛竜騎士「でもじゃない!」
幼ウィッチ「そういうことじゃなくて。う、し、ろ」
猛竜騎士「何だというんだ!」バッ!
魔剣士「…っ!!」
魔剣士「……い、今の話は本当なのか」
猛竜騎士「…魔剣士!?」
幼ウィッチ「良い夜でしょう、魔剣士」
猛竜騎士「いつから…いたんだ……」
魔剣士「…俺が魔力を有さない人間っていうあたりからだ」
猛竜騎士「!」
魔剣士「……その腕輪があれば、俺は強くなれるのか」
猛竜騎士「ば、馬鹿野郎!話を聞いてなかったのか、それは嘘だ!」
魔剣士「ウィッチは嘘をつく輩じゃないんだろ…?」
猛竜騎士「うっ…!」
幼ウィッチ「…そうよ。力を得るというのは本当のこと」
猛竜騎士「だ、黙ってろウィッチッ!!」
猛竜騎士「魔剣士、今の話は聞かなかったことにしろ。強くなる近道なんてありゃしないんだ!」
魔剣士「……その腕輪ってのは、どこにあるんだ」
猛竜騎士「魔剣士ッ!!」
幼ウィッチ「私の家の、台所から入れる地下の一番奥、その箱の中かな」
猛竜騎士「おまえっ…!」
魔剣士「……それを、くれるのか?」
幼ウィッチ「望むなら、反対はしない」
魔剣士「いいんだな」
幼ウィッチ「ただし、責任は知らないからね」
魔剣士「!」
幼ウィッチ「……そのレガシーが身体になじまなければ、あなたは死ぬ」
幼ウィッチ「つまり白姫を守ることも、白姫を感じることも、二度と出来なくなる」
魔剣士「…っ!」
猛竜騎士「もうやめろ、ウィッチ!」
幼ウィッチ「…あのねぇ、猛竜騎士」
猛竜騎士「なんだ!」
幼ウィッチ「魔剣士が強くなる"きっかけ"を得たのに、邪魔する権利があなたにあるの?」
猛竜騎士「ッ!」
幼ウィッチ「あなたが言った言葉でしょ。それなら納得する?」
猛竜騎士「…そ、それは」
幼ウィッチ「…」
猛竜騎士「…」
幼ウィッチ「…」
猛竜騎士「……す、するわけがない。できるわけがないだろう…!」
幼ウィッチ「どうして?」
猛竜騎士「目の前で、弟子を失うかもしれないことに首を突っ込ませる程俺は腐ってねぇ!」
幼ウィッチ「世界踏破のきっかけと一緒でしょう」
猛竜騎士「違うッ!!」
幼ウィッチ「……そんなこと言ってていいの?」
猛竜騎士「今度はなんだ…!」
幼ウィッチ「…後ろ、もういないわよ」
猛竜騎士「は…」バッ!
…シーン…
猛竜騎士「あ、あのバカ……!」ダッ!
ダダダダッ……!
幼ウィッチ「…」
幼ウィッチ「…」
幼ウィッチ「……ふぅ」
幼ウィッチ「ごめんなさいね、あなたが察知能力が使えないように魔力を発していたのよ」
幼ウィッチ「だから魔剣士の行動に全く気が付けなかったってわけ……」
幼ウィッチ「……ごほっ!」
幼ウィッチ「ごほごほっ、げほっ……!」
幼ウィッチ「ご、ごめんなさいこんなこと……」
幼ウィッチ「だけど、も…元パーティ同士、最後まで面倒を見てあげたいのよ」パァァ!
月夜の明かりの下、
幼ウィッチは静かに変身を解き、黄金の輝きを放ちながら元の姿へと戻った。
それと同時に、騒ぎで目を覚ました白姫がツリーハウスから「何の音…?」と寝ぼけながら顔を出した。
ウィッチ「……白姫、起きたのね。こっちにいらっしゃい」クイッ
白姫「う、うぃっち…さん……?」
白姫は眠そうにしながらも、手招きされるがままフラフラとウィッチのもとへと近寄った。
ウィッチ「……白姫、話をしたいことがあるの」
白姫「は、はい……?」ゴシゴシ…
ウィッチ「猛竜騎士たちがココへ戻ってきた時、それは願わない形かもしれない」
白姫「え…?」
ウィッチ「でも、こうなったことには事情があるの」
白姫「な、何がですか…?話が見えてこないです……」
ウィッチ「もし猛竜騎士が戻ったら伝えてほしい。私は、いよいよ時が来たんだって」
白姫「どういうことですか…?」
ウィッチ「願わくば、ここからの旅にもう一度行っても良かったかなって思ったけどね」
白姫「ウィッチさん…?」
ウィッチ「…また、いつか会いましょうね」ニコッ
白姫「え?ど、どういう……」
ウィッチ「…ゴホッ!」フラッ
と、大きな咳に膝を落とすウィッチ。
その顔色は悪く、今にも倒れ込んでしまいそうなほどに見えた。
寝ぼけていた白姫だったが、突然のことに目が覚め、声を荒げた。
白姫「う、ウィッチさん!?」
ウィッチ「…ッ!」
白姫「どうしたんですか、ウィッチさん!?」
ウィッチ「……ごほっ!!げほげほっ!」
白姫「ウィッチさん、ウィッチさん!?」
ウィッチ「…っ」フラフラ……
白姫「あ、危ないですよっ…!」
ウィッチ「私はね、呪いを受けたの……」
ウィッチ「人間ならば絶命となる呪いに、私はエルフ族の寿命を大きく縮められた…」
ウィッチ「その時から、私はあの腕輪を作ることに…使命を変えて……」
白姫「な、なんのことですか…!」
白姫「しっかりしてください、ウィッチさん!」
ウィッチ「それをいつか渡そうと思ってた……相手が来て……」
ウィッチ「自分が待っていたのに、運命と一緒みたいで…」
白姫「え、えっ!?」
ウィッチ「猛竜騎士、あの箱を見て、私の体調をうかがって、見抜けないなんてまだまだね……」
ウィッチ「察知能力ももうちょっと…教えてあげたほうが良かったかな……?」
白姫「な、何が……」
ウィッチ「……白姫、ごめんね」パァァ
白姫「え…?」
ウィッチ「おやすみなさい」
…バシュンッ!…
白姫「えっ…」
白姫「…あ、あれっ?」フラッ…
白姫「…」ガクッ
ウィッチ「部屋には戻してあげるから、安心して」
ウィッチ「私の言った言葉、頼んだからね……」
ウィッチ「ごほっ…!げほげほ、ごほっ……!」
白姫(ウィッチ…さ……)
白姫(…ん……)
白姫(……)
白姫(…)
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 そして ウィッチの家の地下 】
ダダダダッ、ドシャッ!!ゴロゴロッ!!
魔剣士「…いっつ!」
猛竜騎士「やっと捕まえたぞ、魔剣士ッ!!」
魔剣士「オッサン…!は、離せよ!目の前に強くなれるチャンスがあるんだぞ!?」
猛竜騎士「馬鹿…言うんじゃないっ!!目を覚ませ魔剣士ッ!!」ビュッ!!!
バキィッ!!
魔剣士「がっ!?」
猛竜騎士「レガシー品、バーサクの魔法がどれほど恐ろしいか教えただろうが!」
魔剣士「ウィッチが使えっていうんだ、いいじゃないかよ!」
猛竜騎士「強さに目がくらみ、目の前のことが見えなくなったら終わりだぞ!」
魔剣士「どのみち俺はこのままじゃ強くなれないんだろ!?」
猛竜騎士「だからといって、それに頼るんじゃない!!」
魔剣士「……んだよ、なんで邪魔すんだよ!」
猛竜騎士「お前がもしいなくなったら、白姫だけを残すつもりか!」
魔剣士「っ!」
猛竜騎士「……強くなりたい気持ちは分かる!」
猛竜騎士「だが、何度お前に"成長しろ"と、"落ち着け"の言葉を繰り返せば分かるんだ…?」
猛竜騎士「もう自分一人なんかじゃない、仲間がいるんだ!どうして分からないんだ!!」
魔剣士「……く、悔しいって気持ちだけじゃダメなのかよ!」
猛竜騎士「何…?」
魔剣士「俺は魔法に長けてるのに、魔力がないんだろ…!聞いちまった以上、止まるわけがねえだろうが!!」
猛竜騎士「…」
魔剣士「意味わかんねぇよ…っ」
猛竜騎士「…」
魔剣士「このまま強くなれないのなら、それに賭けたほうがマシだと思ったんだよ!」
猛竜騎士「……代償を知っていても、そう思えるのか」
魔剣士「何が!」
猛竜騎士「失う代償は、でかいんだぞ……」
魔剣士「は…?」
猛竜騎士「失敗したときの代償も、成功したときの代償も、闇魔法は大きすぎるんだよ…」
魔剣士「……何がだ?」
猛竜騎士「…っ」
魔剣士「なんの話だよ」
猛竜騎士「……覚えているか。白姫が俺に"猛竜騎士さんは闇魔法が使えるのですか"と聞いた時を」
魔剣士「…ん」
………
…
白姫「…でも、猛竜騎士さんはずいぶん詳しいんですね?」
白姫「もしかして、そのバーサクという魔法をつかえたりするんですか?」
猛竜騎士「…」
猛竜騎士「……いや、俺は使えないな」
…
………
魔剣士「あ、あぁ……。ジャングルの時に……」
猛竜騎士「…"俺が"闇魔法は使えないのは正しい」
魔剣士「ん…?」
猛竜騎士「だが、使える存在、使われる存在の奴を俺は知っている」
魔剣士「……誰だ?」
猛竜騎士「ウィッチだ」
魔剣士「!?」
猛竜騎士「…ッ」
魔剣士「そ、それって…どういう……!」
猛竜騎士「……そういうことだよ」
魔剣士「は…?」
猛竜騎士「……いいか、よく聞け」
猛竜騎士「もう、20年前になる」
猛竜騎士「俺らは古代遺跡の深部で、とある箱を見つけたんだ……」
…………
……
…
…
……
…………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 20年前 古代遺跡深部 】
猛竜騎士「……おい、なんかあるぜ!?」
大剣術師「はしゃぐな。罠だったらどうするつもりだ」
古武士「なんだ汚い箱だな」
ウィッチ「まだ開けないでよ。私が調べるからね」
――俺らのパーティは、古代遺跡の最深部へとたどり着いた。
そこに、いわゆる宝物庫という部屋があってな。
だが、古代遺跡は罠も多く、それに関しては慎重に扱うのが普通だった。
ウィッチ「……ずいぶんと汚い箱ね」
猛竜騎士「クソみてぇなガラクタが詰まってるんじゃねえの?」ハハハ
ウィッチ「でも、この古代遺跡は冒険者が入った形跡はないでしょ」
猛竜騎士「当時の古代人がゴミ入れにでもしてたんじゃねーの?」
ウィッチ「宝物庫にわざわざ?」
猛竜騎士「あぁ、それもそうか……」
古武士「他の宝箱から目ぼしいもんは出したし、あとはソレだけだぞ」
大剣術師「あからさまに怪しい箱。触らないほうがいいんじゃないのか」
古武士「罠って可能性もあるわけだしな?」
――そこにあるのは小さく、汚らしい箱。
怪し過ぎたものだったが、当時の俺はバカだった。
猛竜騎士「……逆に、こういった目立たない箱だから宝があるんじゃねぇのか!?」バッ!
ウィッチ「あっ、ちょっと!」
――箱を無理やり開けたんだ。
猛竜騎士「うおっ、なんか輝いてるぞ!?」
――中には、黄金色の光が輝いていた。
猛竜騎士「お宝だろ、やっぱり!!」
――……本当に、馬鹿だった。
ウィッチ「…」
ウィッチ「……この光、まさか!」ハッ!
――その中身は、宝光なんかじゃなかった。
ウィッチ「どいて、猛竜騎士ッ!!」ドンッ!!
猛竜騎士「うおっ、なにすんだっ!」
――それは……
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
猛竜騎士「…ゴミ箱だったんだ。本当にな」
魔剣士「へ?」
猛竜騎士「失敗したレガシー品を封印していた箱、レガシーのゴミ箱。それが劣化したものだったんだよ」
魔剣士「!」
猛竜騎士「モロに光を浴びたウィッチは、その光から"膨大過ぎる魔力"を受け取った」
猛竜騎士「普通の人間なら、俺なら、恐らく一瞬で全身が溶けているレベルだろう」
魔剣士「…ッ!」
猛竜騎士「彼女はエルフ族が故に、その光を浴びて、それを力にすることになった」
猛竜騎士「それがあの、普通のエルフ族より遥かに優れた"感知能力"になった」
猛竜騎士「…し、しかしだ!」
猛竜騎士「その代償は…とてつもなく大きかった……」
魔剣士「代償って…」
猛竜騎士「……寿命がなくなったんだ。エルフ族としてのな」
魔剣士「なっ…」
猛竜騎士「おかしいとは思わなかったか?彼女が小さい恰好をしていたのが」
魔剣士「あ…。それは確かに……」
猛竜騎士「彼女の身体は蝕まれていた。あの身体じゃないと、もはや満足に生活すらできなかったんだよ」
魔剣士「……っと、まさかウィッチが変身したときに出ていた黄金の煌きって!」
猛竜騎士「彼女に宿った呪いの光だ」
魔剣士「そ、そういうことだったのか……」
猛竜騎士「そしてレガシーの力は、エルフ族として忌み嫌われるものだ」
猛竜騎士「俺がお前らに話さなかったのは、この里でもし彼女の話をして、誰かに聞かれていたらどうなったと思う?」
魔剣士「里から…追い出されていた…………!」
猛竜騎士「……殺されて、な」
魔剣士「…っ!」
猛竜騎士「だ、だからこそ!俺は今回のことが腑に落ちないんだ!」
魔剣士「…?」
猛竜騎士「なんであれほど恐ろしい道具の存在だと知っていたのに、アイツはレガシーを蘇らせたんだ…!」ギリッ…
魔剣士「…!」
猛竜騎士「あれが何の役割をする!」
猛竜騎士「あいつ自身、自らの命を削らせて得たものは感知能力を増やしただけだ!!」
猛竜騎士「なのに、また、あの悪夢を、誰かに、誰かに、誰かに……ッ!!!」
魔剣士「お、オッサン……」
猛竜騎士「好きだった女が、命を削られる様、しかも自分のせいで……」ブルッ…
猛竜騎士「それがどんな気持ちか、分かるか……魔剣士……っ」グスッ…!
魔剣士(なみ…だ……)
猛竜騎士「お前があの腕輪を手にし、万が一命を削り、失ったらどうする……」
猛竜騎士「俺はまた同じ悲しみを繰り返すのか?」
猛竜騎士「それとも、白姫が朽ちたお前を見て涙を流すのを、止められなかったと嘆けばいいのか…?」
猛竜騎士「いや、分かってるよ」
猛竜騎士「必ずしも失敗するわけじゃなく、完璧に闇魔法を扱える可能性だってある」
猛竜騎士「だが、それに賭けさせるほど俺の心は強く…ないんだよっ……!」
魔剣士(……そうか、俺がオッサンとウィッチのやり取りを見て感じたのって)
………
…
猛竜騎士「……相変わらず、美しいようで」
ウィッチ「また惚れてくるかしら?」
猛竜騎士「あぁ、惚れてるよ」ククク
ウィッチ「嬉しい言葉…。だけど、あなたはまだ、私にはちょっと役不足かな…」クスッ
猛竜騎士「あの時と同じ言葉か。そこも変わっていなくて安心するよ」
ウィッチ「…ふふっ」
猛竜騎士「くくく……」
魔剣士(……な、なんだ)
白姫(なんか、大人ーって感じがする~……!)
…
………
魔剣士(…大人っぽいとかじゃない)
魔剣士(哀しみの…感傷だったんだ…………)
猛竜騎士「……まだ、腕輪が欲しいか」
魔剣士「え…」
猛竜騎士「俺の話を聞いて、力が欲しいか?」
魔剣士「…」
猛竜騎士「魔剣士」
魔剣士「…」
猛竜騎士「……力が欲しいのかと聞いているんだ」
魔剣士「…っ」
猛竜騎士「…」
魔剣士「ば、バカ野郎……」
猛竜騎士「…」
魔剣士「そんなこと言われたら、欲しがれるわけがねぇじゃねえかよ……」
猛竜騎士「…!」
魔剣士「分かったよ。もう、欲しがらねぇよ……」
猛竜騎士「そ、そうか…。安心したぞ……」
魔剣士「…っ」
――初めて見た猛竜騎士の涙。
そして、鬼気迫る勢いの言葉。
その全てが魔剣士の行動を抑制した。
魔剣士「……じゃ、じゃあ戻ろうぜ」
猛竜騎士「あぁ…。ウィッチには何故造ったのかを改めて話を聞かねばならないからな」
魔剣士「…そうだな」
猛竜騎士「戻ろうか」
魔剣士「あぁ…」
ようやくひと段落が終えた一瞬の安堵。
……だが。
それは突然に訪れた。
二人が地下室を出ようとした瞬間。
妙な音が、狭い部屋へと響き渡った。
……ドスッ!……
魔剣士「…ん?」
猛竜騎士「…」
魔剣士「…なんか鈍い音がしたな」
猛竜騎士「…」
魔剣士「オッサン、聞こえなかったか?」
猛竜騎士「…」
魔剣士「……オッサン?」
猛竜騎士「…」フラッ
魔剣士「…んあ?」
……ドサッ!!
猛竜騎士「…」
魔剣士「……お、オッサン!?」
魔剣士「ど、どうして倒れ……!!おいっ!!?」
―――音の正体。
それは猛竜騎士を瞬時にして気絶させるほどに強烈な猛毒を持ち、腹部へと突き刺さった"一本の矢"であった。
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