1 / 15
プロローグ
プロローグ1
しおりを挟む
・冬には辺り一面が白く雪に覆われるらしい。
・春には花が咲き辺り一面が色とりどりの花に覆われるらしい。
・夏には太陽が木々を照らし辺り一面が新緑に包まれるらしい。
・秋には草木が枯れ始め辺り一面が紅葉した落ち葉で敷き詰められるらしい。
全部大切な人に教えてもらった事だ。
気がついた時にはも視界に何も映っていなかった。
これを暗闇と言うのだと、それと似た様な景色を夜と言うのだと昔に教えてもらった。
いつから視界が暗闇に覆われたのだろうか。
その記憶は思い出せない。
気がついた時にはもう目の前は暗闇だった。
起きている時も、眠っている時もそれに大した違いは無かった。
生きる上で問題や不安、偏見などはどうやっても付き纏う。
私が生きるこの世界に限った事ではない、「普通」と少し違うだけで、ほんの少し違うだけで「普通」は私たちに牙を向ける。
食べる物、吸い込む空気、浴びる日の光、それらは同じでも周囲とほんの少し違うだけでそれらは簡単に崩れ去っていく。
科学技術がどんなに進歩しようと、魔術が一般にどれだけ浸透しようと人の心は進化しない。
自分たちと違う、ただそれだけで人は他人を殺す事ができる。
貧富の差が広がりその現象がより顕著に現れた世界に生まれ、地獄を見せられ、それでも生きなければならない理由を探す方が難しかった。
しかし、私は恵まれていた。
朝の香りに夏の日差し朝日で目が覚めた。
給仕の朝は誰もがバタつきながら朝食の用意や掃除、洗濯などを行うが、私が仕えている主人様の給仕達の朝は全く違う
朝起きて晴れていたら窓を開け、井戸から水を汲み、顔を洗い寝癖のついた髪を梳かし歯を磨く。
リズミカルに薪を割る音を聴きながら雲ひとつない空を見上げ、つい先週くらいまで雨音を聞きながら歯を磨いていたことボーッと思い出していた。
自室に戻り服を着替えキッチンに向かう。
キッチンの扉を開けると肉の燻製を焼く良い香りが鼻をくすぐった。三十歳前後の背の高い細身の男性が肉の燻製が焼けるのを今かいまかと待っているのが後ろ姿からでも伝わってきた。
その男性は雑に後ろに一本結びにされた髪をぴょこぴょこさせながら子供のようにフライパンを覗き込んでいた。
「主人様おはようございます」
私は食卓を挟んで肉の燻製が焼ける音がする方向に声をかけ頭を下げた。
私の声を聞くとゆっくりとこちらに体を向け優しく柔らかな声で
「おはよう、さゆり。今日は久々に雲一つない良い天気だよ」
と笑いながら返事をし、フライパンの中で焼かれている肉の燻製を見せてくれた。
脂身の弾ける音と肉の焼ける匂いが私に直接襲い掛かってきた。
それを察してか笑みを浮かべながフライパンを細い体で遮るようにゆっくりと火の上に戻し鼻歌を歌い始めた。
きっと私が肉の燻製の香りによって空腹と戦っているのが分かったのだろう。
そう思うと急に恥ずかしくなり顎を下げ俯いた。
この人の前ではどんなに取り繕っても自分は子供なのだといつも感じざるを得なかった。
私が自分の子供っぽさに対して嫌悪感を抱いているとキッチン横の扉が開き細身の女性が手籠いっぱいに野菜を持ってきた。
女性は二十歳半ばから後半ぐらいで女性としては背が高く落ち着いた雰囲気にスラリと伸びた手足が大人の女性だと私に感じさせていた。
心の中で私はこんな大人になりたいと密かに思っていた。
手籠いっぱいに綺麗に並べられた野菜からはまだ土の香りがし、今さっき収穫してきた事が分かった。
細身の女性はキッチン横のシンクに手籠を置くと靴を脱ぎ綺麗に揃えると中履きに履き替えた。
私はハッと我に返った。
「みのりさん、おはようございます。」
少し慌て吃りながら野菜を持ってきた女性に挨拶をした。
女性は洗っていた手をタオルで拭きながらそんな私を見て少し微笑みながらおはようと返し歩み寄ってきた。
スラリと伸びた綺麗な手で私の髪を二、三度撫でると
「今日は久々にいい天気だから朝ごはんを食べたら洗濯するのを手伝ってね」
と絹のように柔らかで母のように優しい声で語りかけた。
私はその声に自分が先程まで感じていた劣等感を忘れ吸い込まれていた。
その様子を見ていた主人様は目を細めニコニコ笑いながらこちらを見ていた。
その視線を感じ私は頬を赤らめながら小さく頷いた。
食器棚の横に掛けられた振り子時計の長身が動きボーン、ボーンと音が響いた。
その音を聴き主人様が私の方を見ると
「まだ起きてない寝坊助さんと、たくましく元気に薪割りをしてる二人に朝ごはんがもうできると伝えてもらってもいいかな?」
と優しく柔らかい声と視線で語りかけてきた。
私はまた頬を赤らめながらでもできる限り冷静さを装いながら短く
「はい、かしこまりました」
と返事をし、手すりに手をかけキッチンのドアを開けた。
ドアを閉める際も二人は優しく微笑みながら私を見送っていたのが分かった。
パタンとドアを閉めると私は誰にも聞こえないように深呼吸をし、まだ起きてこない寝坊助の給仕の元に向かうため、二階に続く階段へ向かう手すりを左手で掴んだ。
・春には花が咲き辺り一面が色とりどりの花に覆われるらしい。
・夏には太陽が木々を照らし辺り一面が新緑に包まれるらしい。
・秋には草木が枯れ始め辺り一面が紅葉した落ち葉で敷き詰められるらしい。
全部大切な人に教えてもらった事だ。
気がついた時にはも視界に何も映っていなかった。
これを暗闇と言うのだと、それと似た様な景色を夜と言うのだと昔に教えてもらった。
いつから視界が暗闇に覆われたのだろうか。
その記憶は思い出せない。
気がついた時にはもう目の前は暗闇だった。
起きている時も、眠っている時もそれに大した違いは無かった。
生きる上で問題や不安、偏見などはどうやっても付き纏う。
私が生きるこの世界に限った事ではない、「普通」と少し違うだけで、ほんの少し違うだけで「普通」は私たちに牙を向ける。
食べる物、吸い込む空気、浴びる日の光、それらは同じでも周囲とほんの少し違うだけでそれらは簡単に崩れ去っていく。
科学技術がどんなに進歩しようと、魔術が一般にどれだけ浸透しようと人の心は進化しない。
自分たちと違う、ただそれだけで人は他人を殺す事ができる。
貧富の差が広がりその現象がより顕著に現れた世界に生まれ、地獄を見せられ、それでも生きなければならない理由を探す方が難しかった。
しかし、私は恵まれていた。
朝の香りに夏の日差し朝日で目が覚めた。
給仕の朝は誰もがバタつきながら朝食の用意や掃除、洗濯などを行うが、私が仕えている主人様の給仕達の朝は全く違う
朝起きて晴れていたら窓を開け、井戸から水を汲み、顔を洗い寝癖のついた髪を梳かし歯を磨く。
リズミカルに薪を割る音を聴きながら雲ひとつない空を見上げ、つい先週くらいまで雨音を聞きながら歯を磨いていたことボーッと思い出していた。
自室に戻り服を着替えキッチンに向かう。
キッチンの扉を開けると肉の燻製を焼く良い香りが鼻をくすぐった。三十歳前後の背の高い細身の男性が肉の燻製が焼けるのを今かいまかと待っているのが後ろ姿からでも伝わってきた。
その男性は雑に後ろに一本結びにされた髪をぴょこぴょこさせながら子供のようにフライパンを覗き込んでいた。
「主人様おはようございます」
私は食卓を挟んで肉の燻製が焼ける音がする方向に声をかけ頭を下げた。
私の声を聞くとゆっくりとこちらに体を向け優しく柔らかな声で
「おはよう、さゆり。今日は久々に雲一つない良い天気だよ」
と笑いながら返事をし、フライパンの中で焼かれている肉の燻製を見せてくれた。
脂身の弾ける音と肉の焼ける匂いが私に直接襲い掛かってきた。
それを察してか笑みを浮かべながフライパンを細い体で遮るようにゆっくりと火の上に戻し鼻歌を歌い始めた。
きっと私が肉の燻製の香りによって空腹と戦っているのが分かったのだろう。
そう思うと急に恥ずかしくなり顎を下げ俯いた。
この人の前ではどんなに取り繕っても自分は子供なのだといつも感じざるを得なかった。
私が自分の子供っぽさに対して嫌悪感を抱いているとキッチン横の扉が開き細身の女性が手籠いっぱいに野菜を持ってきた。
女性は二十歳半ばから後半ぐらいで女性としては背が高く落ち着いた雰囲気にスラリと伸びた手足が大人の女性だと私に感じさせていた。
心の中で私はこんな大人になりたいと密かに思っていた。
手籠いっぱいに綺麗に並べられた野菜からはまだ土の香りがし、今さっき収穫してきた事が分かった。
細身の女性はキッチン横のシンクに手籠を置くと靴を脱ぎ綺麗に揃えると中履きに履き替えた。
私はハッと我に返った。
「みのりさん、おはようございます。」
少し慌て吃りながら野菜を持ってきた女性に挨拶をした。
女性は洗っていた手をタオルで拭きながらそんな私を見て少し微笑みながらおはようと返し歩み寄ってきた。
スラリと伸びた綺麗な手で私の髪を二、三度撫でると
「今日は久々にいい天気だから朝ごはんを食べたら洗濯するのを手伝ってね」
と絹のように柔らかで母のように優しい声で語りかけた。
私はその声に自分が先程まで感じていた劣等感を忘れ吸い込まれていた。
その様子を見ていた主人様は目を細めニコニコ笑いながらこちらを見ていた。
その視線を感じ私は頬を赤らめながら小さく頷いた。
食器棚の横に掛けられた振り子時計の長身が動きボーン、ボーンと音が響いた。
その音を聴き主人様が私の方を見ると
「まだ起きてない寝坊助さんと、たくましく元気に薪割りをしてる二人に朝ごはんがもうできると伝えてもらってもいいかな?」
と優しく柔らかい声と視線で語りかけてきた。
私はまた頬を赤らめながらでもできる限り冷静さを装いながら短く
「はい、かしこまりました」
と返事をし、手すりに手をかけキッチンのドアを開けた。
ドアを閉める際も二人は優しく微笑みながら私を見送っていたのが分かった。
パタンとドアを閉めると私は誰にも聞こえないように深呼吸をし、まだ起きてこない寝坊助の給仕の元に向かうため、二階に続く階段へ向かう手すりを左手で掴んだ。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
万物争覇のコンバート 〜回帰後の人生をシステムでやり直す〜
黒城白爵
ファンタジー
異次元から現れたモンスターが地球に侵攻してくるようになって早数十年。
魔力に目覚めた人類である覚醒者とモンスターの戦いによって、人類の生息圏は年々減少していた。
そんな中、瀕死の重体を負い、今にもモンスターに殺されようとしていた外神クロヤは、これまでの人生を悔いていた。
自らが持つ異能の真価を知るのが遅かったこと、異能を積極的に使おうとしなかったこと……そして、一部の高位覚醒者達の横暴を野放しにしてしまったことを。
後悔を胸に秘めたまま、モンスターの攻撃によってクロヤは死んだ。
そのはずだったが、目を覚ますとクロヤは自分が覚醒者となった日に戻ってきていた。
自らの異能が構築した新たな力〈システム〉と共に……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる