居酒屋主人と不思議な客

suzuri

文字の大きさ
1 / 1

居酒屋主人と不思議な客

しおりを挟む
この店の男主人は勤勉であった。いつでも店のため、そしてやってくる客のために努力できる人であった。主人の人柄と味に定評があり、その店は人気の店であった。
最近不思議な客が訪れる。といっても主人は気づいておらず、従業員と常連が変だと思い、主人に教えたのである。

その客は三日に一度訪れる。その度に大きなリュックを携え、その中には奇妙なものが入っているのが見えたという。
あるときはたくさんのキャンドル
あるときは長いマフラー
あるときは強力殺虫剤
あるときは五本のヘアスプレー
またあるときは松ぼっくりが入っていたという。

「今夏ですし、マフラー持ってなんて変だなって思って…もちろん持ってるだけでおかしいなんて良くないかもですけど、なんだか他のお客様と何かが違うんです。」
「別に女の人だしヘアスプレーなんて持ってておかしくないけどさぁ、五本って多くない?っ思ってさ。それからなんか妙な空気を感じたんだよ。これはマスターに言っといたほうがいいかなって思ってさ。」
日ごろから怪しい客がいたら伝えるように教えていたからかアルバイトがそう言ってきたり、不審に思った客が教えてくれた。
本当にできたアルバイトと優しい客だと思いながら、主人が答える。「教えてくれてありがとう。これからは気に掛けてみますね。」
しかし主人は気に掛けると言ってはいたものの、たいして対処は考えていなかった。
これまでおかしな行動は取っていないし、何より仕込みや事務処理でいつもてんてこまいだ。不思議なものを持っていたところで、その客一人を気にし続けるより、まずは明日の仕込みだ。
そう考え、主人は結局その客をしっかり把握していなかった。

それから一週間後、主人が出勤すると、居酒屋が焼失していた。そこから三人の遺体が見つかった。
警察によると、閉店した後に店の裏で出火し、火が全て店に燃え移ったのだという。
その場に店に置いてあった油の缶が置いてあった。どうやら店に盗みに入ったようである。
出火した後からは、あの奇妙なものが多く残っていた。
キャンドル、マフラーに松ぼっくりは火の着火剤となり、殺虫剤とヘアスプレーはエアゾール缶(可燃性ガス入り缶)でさらに燃えた。
三人の遺体の身元は、あの不思議な女と、主人に不審だと教えてくれていたアルバイトと常連客だった。
さらに女はここで焼身自殺を図ろうとしたのだろう。それを止めようとして二人が犠牲となった。

主人は話を聞きながら泣き崩れる。
あの時、話をもっと聞いていれば。
あの時、もっと女を確認していれば。
あの時、明日の仕込みより目の前の客を大事にしていれば。

主人は店と同時に、店を愛してくれていた人も失ってしまった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【短編集】こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

ナースコール

wawabubu
大衆娯楽
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

バーチャル女子高生

廣瀬純七
大衆娯楽
バーチャルの世界で女子高生になるサラリーマンの話

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

熱のせい

yoyo
BL
体調不良で漏らしてしまう、サラリーマンカップルの話です。

リアルフェイスマスク

廣瀬純七
ファンタジー
リアルなフェイスマスクで女性に変身する男の話

誰の金で生活してんの?

広川朔二
ライト文芸
誰よりも家族のために尽くしてきた男がいた。朝早くから働き、家事を担い、家庭を支えてきた。しかし、帰ってきたのは妻の裏切りと娘の冷たい視線。不倫、嘲笑——すべてを悟った男は、静かに「計画」を始める。仕組まれた別れと制裁、そして自由な人生の再出発。これは、捨てられた“だけの男”が、すべてをひっくり返す「静かなる復讐劇」。

処理中です...