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地獄体験~あれ? 思ったよりも~
ブルーメリー(仮)の遺言 2
しおりを挟む走馬灯は、記憶の逆再生で始まった。
といっても完全逆再生ではなく、エンディングからオープニングに向かって、各パートごとに再生されていく形だ。なので、理解に難くない……が、“赤ちゃん”状態では理解できない部分だらけだった。――ボクがおバカちゃんなのではない!!
特に始まり――『彼』の人生の終焉パートから遡って、おじさん時代のことはほとんど何も覚えていない。『彼』は時間さえあれば、難しい勉強に没頭しており、理解ができなかったからだ。それに、会う人会う人でどうも喋っている言語が異なっていたのも原因だった。
――今の『かしこさ』があれば――と、おじさん時代の理解できなかった部分を惜しんでしまうね。
(……一言いいたい。“赤ちゃん”知育に向かないにも程があったと。けど、わからないなりにも人の努力を間近で見たことで、努力とはどういうものかをボクは学んでったんだよ!! えらいでしょ!?)
そして、色んなことが理解できるようになったのはずいぶん後。
『彼』の若い時代。学校に通っていた時にまで遡る。
『彼』は小さな頃から大変な努力家で、色んな勉強に手を出していた。それに、合間を見つけては何度も何度も“芸事”の練習を繰り返していた。おかげで、ボクも知らず知らずに色んな事が身につけられた。――『彼』の体験はボクの体験でもあったんだ。体の動かし方も一緒に練習したんだよ!!
実はそれが“走馬灯体験中の詰め込み学習”の正体だ。
睡眠学習のようなインプットが、強制的にノンストップで続いた。
かしこくならないはずがなかった。
ちなみに『彼』は、子供の頃から周囲を笑顔にする才能に満ち溢れた“クラウン”だった。
披露するショー――マジックを含めたパフォーマンスの“タネや仕掛け”は、機械工学や化学、先端技術が大盤振る舞いされていた。そのほとんどを自前でセッティングしていたから、あらゆる分野への理解が欠かせなかったんだ。
ただ――、そんな“ショーも無いこと”に割けるだけの脳の容量が、ボクには無かったため、印象に残っているのは“ショーそのもの”だ。
(……初めて学んだことは“楽しい時間はあっという間に過ぎていく”ってこと。できることなら『彼』のショーをもう一度見たいな♪ 『彼』のやることなすことが全て可笑しくて、愉しかったんだ~♪)
再生は『彼』視点だったから、手元やお客さんの反応を見てただけだけど、それでも十分以上に楽しめたし『彼』や観客の感動はボクにも共感できたんだ。実際、当初の目的――生きるための知恵探し――を忘れるくらい『彼』のショーに没頭したよ。
走馬灯体験は長いようで短く感じた。――ボクがショーを何度も頭の中で反芻していたこともあっていつの間にか最後の記憶に辿り着いていたんだ。
最後は、『彼』が幼子から赤ちゃんになった時、視界に暗幕が突然張られた。
瞬間、ボクは、長い長い逆行旅行が終わりを告げたと悟った。――すごく残念だった。
そして――、次第に、極限の集中から徐々に解放され、ボク自身の体の感覚が徐々に甦った。
――最初に、周囲の喧騒を感じた。
慌ただしい大人たちの声なのに、まるでスローモーションのようだった。
だけど、間延びしていた声は徐々に聞き取りやすいものに戻っていき――ボクの耳元で聞こえた「ブルーメリー」というやさし気な呼び声を境に、時間感覚が完全に通常のものに切り替わった。
瞬間的に「ブルーメリー」はボクの名前だと確信した。
僕に向かって話しかけられている感覚――はなかったけどね。
間違いはないと思う――確証がないだけで。
ただ、その言葉が言い切られると同時、思い出したくなかった“死の苦しみ”が再燃した。
それは、人を一瞬で絶命させる痛みだった。
喉と肺に届くのは、鼻を刺す燻されたような熱い空気。
全身から届くのは、高温の蒸気を直接当てられたかのような火傷の痛み。
体の内と外両方から危急を知らせるシグナルが一気に殺到した。
瞬間、瞼のカーテンが一瞬で真っ白な電流に染まった。
今思うとショック死だと思った。あれ以上は精神が耐えられなかった。
そこで、ボクの意識はまた暗い闇の底に……。
せっかく持ち帰った知識と記憶だったけど、思い出そうとする時に頭の中に、瞼を染めた白い電流が奔ることがある。いくつかの記憶が、なぜか死の瞬間の苦しみに紐づいているようだった。
きっとそれ以上を求めると……痛みまで再現……ブルブルと身震いしてしまう。
できることなら「そちらの“おかわり”はもういりません」「お腹いっぱいです」とご遠慮願いたい。だけど、それでもまた見れるのなら――と一考してしまうのは『彼』の人生ショーは色んな意味でかけがえのないものだったから。
「“三回目”があるのなら、ぜひ“おかわり”をよろしくお願いします!」
ことさら大きな声で、天に手を挙げて、お願いをしてみたのだった。
肉体に置いてきたであろう生存本能さんに向けて。
(……死んだかな? 生存本能さんも……?)
余談も余談だけど、最後に一つ。
『彼』の中で過ごした時間は数十年単位。
ボクはきっと精神的にも子供とは呼べないし、知識もいくつも零れ落ちてはいるとはいえ、子供のそれではない。なのに、ボクの言動が子供じみてしまっているのは、走馬灯の最後が幼児期から赤ちゃんで終わったこと。本体が赤ちゃんだったこと。そして最期の強い痛みで魂に焼き付けられてしまったからだろう。――そうとしか思えない!!
半端な“赤ちゃん返り”のおかげで、思考と行動がボクの中で分離する。
――ボクだけの心の病はどうやって克服したらいいのだろうか?
「誰かいいお医者さんをボクに紹介して――――!!」
(……本体は赤ちゃんだから。問題ないよね……たぶん)
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