地獄で捧げる狂死曲(ラプソディー)~夢見る道化は何度死んだって届けたい、笑顔を君に~

norikurun

文字の大きさ
14 / 41
地獄体験~あれ? 思ったよりも~

ボク、忘れてた?

しおりを挟む

「――『彼』は、生涯、ずっと……ずっと……あれ? さっきまではちゃんと思い出せたのに……なんで?」

 ……首をかしげても、何も出てこなかった。
 ……逆立ちしてみても、何も思い出せなくなった。

「落ち着くために回想しているのに! どどどどうしよう⁉」

 パニックの再来に思わず体も心も騒ぎ立てて身構える。
 脳裏にフラッシュバックするのは、存在消滅のあのトラウマだ。
 数時間も経っていないのに、またあの大事件は全身全霊でお引き取り願いたかった。こんな時にこそ――

 すうっと息を吸う。
 はぁぁっと長めに息を吐く。

 古代から連綿とその歴史を刻み続けてきた、人類最古の精神安定剤を投下した。

「こんな状況だもの。わからないことは気にしたら負けだよね!」

 口に出して、心に軌道修正をかける。
 もう先ほどまでのお子ちゃまじゃないのだ、自分から意識の切り替えができるようになった。そう、ボクは『やればできる子!』を実践するのだ。

 そうして、「無駄な抵抗はよすんだ!」と、混乱を無理やり羽交い絞めにした後で、今思い出せることを整理していく。

(……あの時のボクは『彼』の人生をじっくりと味わった)

 実際には刹那だと思うけど。
 ボクが『彼』になった。
 思考以外の全てを共有した。

『彼』の触れるもの、肌に当たる風、衣擦れの音なんかも、ボクのものだった。
『彼』のリアルは、『ボク』のリアルだった。

(……だけど、いまボクが思い出せるものは、ごくわずか……)

 走馬灯は人生の最後から流れていった。
 完全逆再生というわけじゃなくて、パートごと。
 ストーリーの最終章から、順番にセクションで流していく――そんな感じだった。

 ボクの頭脳が赤ちゃん状態だった時のことは、ほとんど何も思い出せない。
 少しずつ、言葉を理解していったから、わかるのは後の方に見たものだけ。

 『彼』の青年期から幼少期にかけての記憶にあたる。
 その頃の『彼』の記憶はおぼろげだった。
 ぼんやり――あるいは、バッサリ、除外されている記憶もあった……気がする。

(……じゃあ、何がボクに残っているの?)

 『彼』が、何度も何度も体に染み込ませていた色んなお稽古。
 『彼』が、必死に夢を追いかけるために繰り返した――そう、あれは“大道芸”!
 『彼』が、執念で身に着けたモノは、ボクにも染み込んでる。

「さっきの“子犬のモノマネ”もそうだ!」

 自問自答の成果に、ボクの気分は昂揚する!

「……あそこまで入り込めたのは、『彼』のおかげに他ならないね」

 ただ……、何がボクの引き出しに残ってるのかが、思い出せない。
 さっきみたいに“たまたま”のボクの行動が、『彼』の記憶のワンシーンをなぞった時。そんな時にだけ、思いがけないモノが飛び出すのかもしれない。

(……直前で飛び出したナニカは、今は触れてはいけない)

 心の叫びが飛び出したところで、それ以上は危険と察した。
 すぐさま思考を停止する。

 ボクは、無言で心の引き出しを使い分けることにした……。
 『封印』『おもしろいもの』『かなしいもの』『彼』
 四つの入れ物が心に出来上がった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

処理中です...