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地獄体験~あれ? 思ったよりも~
ボク、忘れてた?
しおりを挟む「――『彼』は、生涯、ずっと……ずっと……あれ? さっきまではちゃんと思い出せたのに……なんで?」
……首をかしげても、何も出てこなかった。
……逆立ちしてみても、何も思い出せなくなった。
「落ち着くために回想しているのに! どどどどうしよう⁉」
パニックの再来に思わず体も心も騒ぎ立てて身構える。
脳裏にフラッシュバックするのは、存在消滅のあのトラウマだ。
数時間も経っていないのに、またあの大事件は全身全霊でお引き取り願いたかった。こんな時にこそ――
すうっと息を吸う。
はぁぁっと長めに息を吐く。
古代から連綿とその歴史を刻み続けてきた、人類最古の精神安定剤を投下した。
「こんな状況だもの。わからないことは気にしたら負けだよね!」
口に出して、心に軌道修正をかける。
もう先ほどまでのお子ちゃまじゃないのだ、自分から意識の切り替えができるようになった。そう、ボクは『やればできる子!』を実践するのだ。
そうして、「無駄な抵抗はよすんだ!」と、混乱を無理やり羽交い絞めにした後で、今思い出せることを整理していく。
(……あの時のボクは『彼』の人生をじっくりと味わった)
実際には刹那だと思うけど。
ボクが『彼』になった。
思考以外の全てを共有した。
『彼』の触れるもの、肌に当たる風、衣擦れの音なんかも、ボクのものだった。
『彼』のリアルは、『ボク』のリアルだった。
(……だけど、いまボクが思い出せるものは、ごくわずか……)
走馬灯は人生の最後から流れていった。
完全逆再生というわけじゃなくて、パートごと。
ストーリーの最終章から、順番にセクションで流していく――そんな感じだった。
ボクの頭脳が赤ちゃん状態だった時のことは、ほとんど何も思い出せない。
少しずつ、言葉を理解していったから、わかるのは後の方に見たものだけ。
『彼』の青年期から幼少期にかけての記憶にあたる。
その頃の『彼』の記憶はおぼろげだった。
ぼんやり――あるいは、バッサリ、除外されている記憶もあった……気がする。
(……じゃあ、何がボクに残っているの?)
『彼』が、何度も何度も体に染み込ませていた色んなお稽古。
『彼』が、必死に夢を追いかけるために繰り返した――そう、あれは“大道芸”!
『彼』が、執念で身に着けたモノは、ボクにも染み込んでる。
「さっきの“子犬のモノマネ”もそうだ!」
自問自答の成果に、ボクの気分は昂揚する!
「……あそこまで入り込めたのは、『彼』のおかげに他ならないね」
ただ……、何がボクの引き出しに残ってるのかが、思い出せない。
さっきみたいに“たまたま”のボクの行動が、『彼』の記憶のワンシーンをなぞった時。そんな時にだけ、思いがけないモノが飛び出すのかもしれない。
(……直前で飛び出したナニカは、今は触れてはいけない)
心の叫びが飛び出したところで、それ以上は危険と察した。
すぐさま思考を停止する。
ボクは、無言で心の引き出しを使い分けることにした……。
『封印』『おもしろいもの』『かなしいもの』『彼』
四つの入れ物が心に出来上がった。
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