地獄で捧げる狂死曲（ラプソディー）～夢見る道化は何度死んだって届けたい、笑顔を君に～

地獄体験～あれ？ 思ったよりも～

誤認 そして 乾燥

「想定以上の結果を伴うから、これは要注意だ！」

　全身が今までにない震えに襲われていた。
　……ズボンとパンツが干されているのとは全く関係がない。
　……下半身が風邪をひいたわけでもない。

　考えなし、本能のままに駆け回る。
　その行いに対して、どういう結果が付きまとうのか、身をもって味わったのだ。
　溢れる獣性はあまりに凶暴で手が付けられなかった。身もだえしているだけだ。
　
　だから、「もう二度と眠れるあの子を呼び覚ますな！」と口に出して、注意喚起を行ったわけである。

「……でも、発動条件が全く分からないから、意味があるかなぁ？」

（子犬のモノマネとか、ピンポイントすぎてさ……。むしろ狙って当たるようなモノじゃないと思うんだけどな……）

　心と体の両方でぼやきながらも、続けて、散らばった記憶の糸を手繰り寄せる作業に取り掛かる。乾くまで、しばしの時間が必要だったのだ。

「え～と、あとは、今度は光が薄くなって……暗転して……。体が忘れていた痛みと苦しみが……徐々に……」

（……じっくり弱火でコトコト煮込まれる感じだった）

　ちょうどいい表現に、すっごくげんなりした。
　
「……これ以上は思い出しても良いこと無いね」

　結局、二人分の人生の中にも、生存に役立つようなモノは無かったのだ。
　最終的に死んで、ここにいる。結果はそれ以上でも以下でもない。

（……幽体離脱の感覚を思い出したところで、どうしようもない）

　意識が暗闇に溶けていく中、どこかに引っ張られ、魂が抜けだす感覚があって…………「それが何でしょう？」だった。
　
「その後は、………………ん？　え？　あれ⁉」

　目覚めて直ぐの光景――鍾乳石で犇めく天井が目に飛び込んできたのを思い出した。
　それは、今に至るまで地続きだった記憶の景勝地とは全く異なる観光スポット。

「……さっきまでは、宝石ゴロゴロ、金銀財宝ザックザクな洞穴のイメージだったよ⁉」

　じっくりと辿ってきた記憶の足跡。それが、先ほどまで思い浮かべていたのとは全く違うゴールに辿り着いていたのだ。驚愕するのも無理のない話である。そして行き着いた。思考の落とし穴に。

「あれ？　ボク、記憶が飛んでた？　え？　なんで⁉」

　――という事実に気づいた。

「…………パンツとズボンを乾かす時間も、少し延びたね」

　――少し悲しい事実にも、気づいたのだった。