地獄で捧げる狂死曲(ラプソディー)~夢見る道化は何度死んだって届けたい、笑顔を君に~

norikurun

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地獄体験~あれ? 思ったよりも~

『彼』のオンステージ 2

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 一生懸命に帽子を追いかける『彼』は、とても小さな体をしてる。

 ボク自身も十歳もいかないくらいの容姿だと思うので、あまり人のことは言えないが、彼もボクに負けず劣らず。細身で華奢な体だけど、今はクラウンの衣装でふっくらとしたシルエットをしている。太さはあまり関係ない。

 気になるのは身長。
 大人と比べると、頭は胸元の下あたりに届くか届かないか程度だ。

 そんな小さなクラウンが一生懸命手を伸ばして、小ぶりな体をめいいっぱいに動かして、ドタバタと帽子を追いかけ続けているのだ。当然人目を惹く。

 帽子を捕まえようと、飛びつく――逃げられる。

 隙を見て、飛びつく――逃げられる。

 そんなに意地悪をされたら、もう知らないよ~っと油断をさせて、飛びつく――逃げられる。

 逆に、帽子から誘いをかけられ――飛びつく――逃げられる。

 ただの帽子相手なのに、そこには互いの感情があって、何度も繰り返したからパターンはわかっているのにハラハラしてしまう。

 悪戦苦闘する姿は真剣そのもので、一切ふざけていない。
 ふざけていないのに、結果は散々。
 必死な『彼』を、笑っちゃ失礼と思いつつも、逆にそこが可笑しくて、ついつい笑いを誘われる。

――帽子はたまに観客のもとに飛んでいく。

 思わず手を貸したくなるほど、可愛らしい『彼』に、お節介するチャンスが飛んできた観客は、喜んで帽子を捕まえてあげようと手を伸ばす――が、『彼』と同じ羽目になる。

 お客さんも、まさか自分も⁉ なんて少し裏切られたことに少し恥ずかしそうだが……それも『彼』が描いた予定調和の一つ。
 一般参加型の『たのしい芸』を彼は構成し、披露しているのだ。

 広くもなく狭くもない。大きな黄色い天幕前。
 十メートル四方の狭いステージで、しばし興じるドタバタ劇。
 道行く人は足を止め、そんな『彼』に笑顔をこぼす。
 中にはこらえようもなく噴き出し笑いをする人もいる。

 少し多くなり過ぎた衆人環視の中。
 彼の当初の目的はお客をテント内に呼び込むこと。
 なのになのに、そこで『彼』の欲が出てきたから――彼のステージは終わらなかった。

 次に繰り広げられたのは、『彼』だけのオンステージだったのだ。
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