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地獄体験~あれ? 思ったよりも~
『彼』のオンステージ 1
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――目の前の『彼』。年の頃は十代……前半だろうか?
――クラウンに扮している。顔が真っ白で、全身がカラフルでコミカルだ!
――緑のもじゃもじゃ髪が生い茂る頭の上にも、赤・青・白のとんがり帽子がちょこんと乗っかっている。その先端には黄色い星もついていた。
「……特にその、帽子が……欲しい……」
ゴクリとつばを飲み込みながら、ボクは積み荷の上から『彼』を眺めていた。――厳密に言うと衣装に熱視線――喉がかわく程に口からアレを溢れさせながら、羨望のまなざしを送っていた。
心惹かれるもの以外を認識できなくなる――そんなボクの視野の狭さは、ここでも顕在だった。
(俯瞰してるのに、ピンポイントで奇抜な装いに目を奪われているのはご愛嬌ってもんだよね?)
そう、心中で呟いたとき、……ふと感じた。違和感を。
「……あれ? この視点って初めてじゃない? 今までは『彼』の目を通してたのに……これはどういうことでしょう?」
今度は口に出してみた。そして、必死に考えるも、理由はわからない。分からないなりにも何とか考えをまとめようとした矢先――
『彼』がペコリと頭を下げた。――ポトッと帽子が落ちる。
慌てて帽子を拾おうとして――なぜか逃げられる。
逃げる帽子を、ドタバタしながら追いかける『彼』。
勢いをつけて~――ジャンプ! 手を前に出してヘッドスライディング!
……なのに、帽子はまるで生き物のように手と手の間をすり抜ける!
――こうして、帽子との追いかけっこが始まった。そう、『彼』のパフォーマンスが始まったのだ。
ちなみに、遅まきながら、「今注目すべきは“ボクの置かれた状況”だ」と思いたったのは、この時だった。決して「一番よく見える場所を陣取ろう」と、周りを見渡したついでではない。
ただ、それがなければ、涎を垂らしながら、あの格好を穴があくまで見つめていたのは想像に難くない。それに、よく見ると、自分の格好も『彼』とお揃いに近い格好だったと気付いた。
違うのは帽子の有無だけだ。――そう、『彼』が追いかけているソレである。
目の前の面白そうなことを見す見す見逃すボクではないのだ!
最前のアリーナ席を勝ち取るため、血を見る覚悟で観客たちの前に回り込んだ。
だが、どうやら『彼』にも周りの人にもボクの姿は見えていないようだった。
反射的に「透明人間になったからには、色んなことをしてみたい」とは思ったけれど、それよりもまず、『彼』が面白いことを始めているのだ。ひとまずそちらを見てからだ――と頭を振った。
それにしても、こんな風にお客さんとして『彼』を見るのも、おそらく初めての経験。
ボクは、最前列のさらに前で『彼』のパフォーマンスに声援を送ることにした。
――クラウンに扮している。顔が真っ白で、全身がカラフルでコミカルだ!
――緑のもじゃもじゃ髪が生い茂る頭の上にも、赤・青・白のとんがり帽子がちょこんと乗っかっている。その先端には黄色い星もついていた。
「……特にその、帽子が……欲しい……」
ゴクリとつばを飲み込みながら、ボクは積み荷の上から『彼』を眺めていた。――厳密に言うと衣装に熱視線――喉がかわく程に口からアレを溢れさせながら、羨望のまなざしを送っていた。
心惹かれるもの以外を認識できなくなる――そんなボクの視野の狭さは、ここでも顕在だった。
(俯瞰してるのに、ピンポイントで奇抜な装いに目を奪われているのはご愛嬌ってもんだよね?)
そう、心中で呟いたとき、……ふと感じた。違和感を。
「……あれ? この視点って初めてじゃない? 今までは『彼』の目を通してたのに……これはどういうことでしょう?」
今度は口に出してみた。そして、必死に考えるも、理由はわからない。分からないなりにも何とか考えをまとめようとした矢先――
『彼』がペコリと頭を下げた。――ポトッと帽子が落ちる。
慌てて帽子を拾おうとして――なぜか逃げられる。
逃げる帽子を、ドタバタしながら追いかける『彼』。
勢いをつけて~――ジャンプ! 手を前に出してヘッドスライディング!
……なのに、帽子はまるで生き物のように手と手の間をすり抜ける!
――こうして、帽子との追いかけっこが始まった。そう、『彼』のパフォーマンスが始まったのだ。
ちなみに、遅まきながら、「今注目すべきは“ボクの置かれた状況”だ」と思いたったのは、この時だった。決して「一番よく見える場所を陣取ろう」と、周りを見渡したついでではない。
ただ、それがなければ、涎を垂らしながら、あの格好を穴があくまで見つめていたのは想像に難くない。それに、よく見ると、自分の格好も『彼』とお揃いに近い格好だったと気付いた。
違うのは帽子の有無だけだ。――そう、『彼』が追いかけているソレである。
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だが、どうやら『彼』にも周りの人にもボクの姿は見えていないようだった。
反射的に「透明人間になったからには、色んなことをしてみたい」とは思ったけれど、それよりもまず、『彼』が面白いことを始めているのだ。ひとまずそちらを見てからだ――と頭を振った。
それにしても、こんな風にお客さんとして『彼』を見るのも、おそらく初めての経験。
ボクは、最前列のさらに前で『彼』のパフォーマンスに声援を送ることにした。
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