33 / 41
地獄体験~あれ? 思ったよりも~
サービス精神が欠けた……『牛』
しおりを挟む「……どうしてこうなったんだろう」
意識を浮上させた時には、すでに遅かった。
目を離すというか……今回はちょっとだけ‘トリップ’している間。
どうやらボクは、本来享受できるはずだった‘感動’を、逃してしまったようだ。
『彼』はジャンプの練習を必死にしたことがあったみたいで……。
川を飛び越える瞬間。ほんの一瞬だけボクの意識を奪った。
『彼』にお誘いを受け、あっちに行っていたのは本当にほんの一瞬。
着地の後にボクは意識を取り戻したんだけど、その間に変化は起きていた。
◇◇◇
川を飛び越えるきっかけとなった『牛さん』。
(……もう『牛』でいいや)
川を飛び越えた後に見たのが……『牛』だった『ナニカ』。
ボクの駆け寄る気配に野生の勘が働いたのか、突如として仁王立ち。前足がなぜか人の手になった『牛モドキ』に変貌を遂げていた。
ボクの視界の先に『牛』はいなくなっていた。それと同時、入れ替わるように未知すぎる生き物……『牛モドキ』が現れたのだ。
――厳密に言うと、最初に目に飛び込んできたの『牛』じゃなかった。
これは巧妙なトリックで、ボクはみすみすミスリードされた。
『牛』の演技に、ボクは騙されたのだ。
「ボクを騙すなんて、相当な腕前……迫真の演技は認める。だけど……」
推理小説では、最後の犯人明かしや、追い詰める過程が楽しい。そして『彼』が行っていたショーも、お客さんをドキドキハラハラさせることが何より大事だ。
いきなり犯人をばらされた気分だった。
いきなりマジックの結果だけを見せられたようだった。
(……『牛』には罪はない。……ボクが悪いのはわかっている)
だけど、いち演技者であれば、少しはエンターテインメントというものを、少しは観客の反応を気にして動くべきだと一言モノ申したい。
(どうせ、アレでしょ? これ見よがしにつけた鼻輪……自分でつけたんでしょ?)
だから、ボクの心は一気に荒んだ。悪態をつくのも無理もなかった。
――『牛』から変化した『牛モドキ』。
こんな環境だから他人の視線を気にしないのも無理はない。無理はないのだが、少しは理解する姿勢でも見せてほしかった。
乏しいサービス精神のおかげで、ボクの心は荒れた。
「どうせなら責任をとってもらおう。オッパイの大きな、いい娘《うし》紹介してもらおう。……今夜は自棄ミルクだ!」
かなり先の方、十数キロ先に仁王立ちする『牛モドキ』。
ボクと『牛モドキ』の間――地獄の荒野に木枯らしが吹きすさんでいた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
6
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる