地獄で捧げる狂死曲(ラプソディー)~夢見る道化は何度死んだって届けたい、笑顔を君に~

norikurun

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地獄体験~あれ? 思ったよりも~

冷酷な青い水……独り浮いた少年……水が合わなかった

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 青い断崖……その中腹の『しゃくれ横穴』は、赤い灼熱のカーテンと、重々しい巌に閉ざされ、何人の侵入も許さない。だが、そうなる直前、奇跡的なタイミングで中に入り込んだ、ボク。

 荒々しく、消魂しい、足音を響かせながら内部の探索に明け暮れていた。

「どぉこぉかぁなぁ~?」

 「わりぃごはいねぇが~」的なおどろおどろしい声色を振り撒きながら、次々と行く手を遮る大岩を根元から突き崩し、時には頭上の大鍾乳石を崩落させながら、ボクは突き進んでいた。

 時には、やたらめったら大岩をひっくり返しまくって、その棲家をつきとめようとしていた。あいにく、大岩の裏には……魔王は不在だった……。

「ぶぅうう。せっかくサイキョーになったんだから、少しはお相手してほしかったのになぁ~」

 そんなことを言っても、居ないものは居ないのだ。借金取りから居留守を使い、息をひそめているわけでもない魔王は、きっとこの世界にはいない。いたとしてもそれは閻魔様である。

「はぁ、少し楽しすぎたな。ちょっとどこかに何かないかな?」

 箸休めを所望するボクだったが、一切振り返ることなく突き進んできたものだから、周囲に何があるのかすら見えていなかった。『魔王を探す』ただその一心だったのだ。
 ……岩をひっくり返そうと、岩盤をぶち抜こうと、その岩すら、岩盤すらがどのような物かも気にしていなかった。ただただ真っ直ぐにスキップしながらここまで来たから、今こうやって改めて周りを見渡して、驚く。

「へっ!? ここ、どこさ!?」

 自分の立ち位置……。対人コミュニケーションのデッドラインの事ではなくて、ボクのいま立っている場所のことである。
 ちなみにこの地獄、大天蓋に覆われた大地である。そのものまさに大々洞窟。
 さらにその中の、蒼い断崖の中腹『しゃくれ横穴』の奥だから、『大洞窟IN小洞窟』。そんなボクの目の前に広がっていた光景が――

「……え~っと……あれ、ここ洞窟の中だったよね? ボク、確か『しゃくれ横穴』の中にいたと思ったんだけど……一回外出ちゃったかな? いや、目の前……青一色だし……間違ってはないのか」

 この場所は、横穴の中の超広大な大空洞部分。
 そして目の前に広がる光景とは、青い輝く清水が滾々と湧き出す地底湖だった。

 青く輝くといってもほんのり淡く輝く程度で、その透明度はすさまじく高かったから、地底がまるまんま見通せる。
 それはもうとても美しく、水面の下にもさらに深い青の水晶、さらに藍に近い群青の岩々ひしめく湖底。見てるだけで震えが来るほどにさめざめとした青一色の地底湖なのだ。

 水面下も、その奥行きは果てしなく深く。
 まるで吸い込まれるような魔力があった。
 輝く水面は、そのものが光源となり、薄暗くもない。

「厳かな空気とはこのようなことか……」
と、呟きが漏れる程に、神秘的な空間だ。だから誰に気遣うわけでもないのに、声もひそひそ声になってしまう。
 ただ、ボクが目にしたのはそればかりではなかった。

 紅い灼熱の大地底湖とは異なり、さすがに対岸ははっきり見える程。
 広さとしては直径一キロ程度だろう。その先にぽっかりと開いた小さな小さな祠に続くような洞穴が顔を出していた。
 奥行は全くない。と言うかその全貌がここからでも見えた。

「よし、行ってみよう! 濡れてもきっと大丈夫。ボクの体は多分防水だ。溶岩だって弾いちゃうから、たぶん」

 急な入水は心臓に悪い。そんなにわか知識があったもんだから、その場で、屈伸から始めた。そして背筋を伸ばす運動や、アキレス腱を伸ばす体操。ラジオなんか聞いたこともないのに、ラジオ体操を完走した。
 何を隠そう、ボクは泳ぐ気満々だった。目の前には溶岩よりも遥かに泳ぎやすそうな透明な綺麗な水があるのだ。

「水を得たボクはお魚になるのだ!」

 そんなことを呟き、さっき体操はあくまでパフォーマンスでにわか知識だったことを露見させた。目に留まった『しゃくれ横穴』ならぬ、『しゃくれ高台』にいきなり駆け出し、勢いそのままに――

――どっぽん!

 そう、そもそも労わるべき心臓もアキレス腱も魂の体には関係がない。だから、というわけでもないが、いきなりドボンした。

 ……ただ、この時のボクは失念していた。

 溶岩の噴水は、下からものすごい勢いで天井に向かって吹き上げる溶岩の濁流だ。当然、その粘度は水に比べるまでもなく、ドロドロなのだ。そしてその圧力もまたあの巨体な牛すら一瞬で吹き飛んでいくレベルでもんのすごいのだ。

 そんな中で、数分泳げる魂の体、そしてそこから吐き出され、高空から『しゃくれ横穴』のシャクレ部分に叩きつけられた時にできたクレーターの大きさ。ボクの体の質量はすさまじいものである。鉄が水に沈むのと同様……当然の如く――

「――あれ? 沈まないよ……?」

(…………)

 顔があったなら、したり顔で説明していた内面のお兄さんなボクだったが、今は少々バツが悪い。今は口をへの字に曲げ、眉間に大いにしわを寄せていたことだろう。

 一度は水面を大きく撓ませ、若干の水柱を上げたのだ。そう、若干。
 体もわずかに沈んだ、一度だけ。

「……期待してたのに、なんで沈まないかなぁ」

 子供の期待を裏切る者は悪だ! そう、いかに神聖で静謐そのものと言っても、これはかなり悪質な水だった!

「……このお水、冷たいね……」

 外は荒れ狂うマグマだ。いうなればその中にある大空洞は恐ろしい程高温の地熱で温められている。ボクはまるで中華まん状態……常に保温どころではなく、蒸しあげられている最中の中華まんだった。だから、実際にこの水の水温が低いのではない。心情や性格的に冷たい……そうボクは言いたかった。

「せっかく泳ぎの練習したかったのに……。また今度だね。よさそうなとこ見つからなかったら、酸の湖でも何でもいいや。さっさと探しに行こ~っと……はぁ」

 とっとと冷酷な湖は立ち去るに限る。そう思いながら、ボクは水面をふよふよと歩き、対岸を目指すのだった……。
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みんなの感想(2件)

norikurun
2022.10.08 norikurun

面白いよ(b*'Д')b イョッ

解除
norikurun
2022.10.07 norikurun

テスト感想です(:D)┓ペコリンチョ

解除

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