4 / 10
〜自由と不自由〜
しおりを挟む
今日も俺は子分と一緒に外を歩いている。いつもの違うのは,子分だけなのである。
ご主人は一緒ではない。俺と子分だけで外に出掛けている。
これはチャンスではないか? そう俺は思った。
今までいつも隣にはご主人が居たために,好きに動こうと思っても制止されてしまい,好きに動けない事が多かった。
子分だけならいつでも逃げ切れる事が出来る。俺は自由に,好きにしてみたかった。
「ごめんな!!!」
俺は思いっきり駆け出した。
「コロー! コロー! 駄目ー!」
後ろで俺の事を叫ぶ声がしたが,俺には関係なかった。
「自由だーー!!」
俺はひた走った。知らない場所へと駆け巡る。
見るもの,匂い,音全てが新鮮だった。
息が切れ,肺が破裂しそうな程走った。子分の匂いもしなくなる程遠くへ来たようだった。
「はぁ~。はしゃぎすぎて疲れたな……」
俺は喉が渇いたので,とりあえず水場がある所を探した。
水の匂いがする方へと進んで行くと,水場を見つけた。
喉がカラカラだった俺は勢いよく喉を潤していく。
「何だオメェー。野良犬じゃねえな! でも一人か?」
人間の声が聞こえ俺はそっちに顔を向けた。
俺が知っている人間と同じとは思えない臭いを漂わせている人間が目の前に立っていた。
じっとお互い見つめていた。
「なんだ? 捨てられたのか? いや! 勝手に逃げてきたのか。捨てられたとしたらこの鎖が付けたままにはしないもんなぁ。首輪だって外すよなぁ。勝手に逃げて飼い主達はきっと心配してるぞ。いいのか?」
その人間はしゃがみ込んで俺の目線で話しかけてきた。敵意は感じられない。
「まあいい! 保健所の奴らに捕まって殺されるなよぉ。じゃあな!」
俺はその人間に興味が湧いて後を付いて行く事にした。
「なんだ? 付いてきてもしゃーないぞお前!」
付いて行くと,人間は青いビニールが張られている中へと入っていく。
「まあ……勝手にしろ」
一緒に中に入ると,中はごちゃごちゃした場所だった。
俺は自分が横になれる場所を探し,小さく包まって横になった。
俺の首に付いていた鎖をその人間は外してくれた。
「ん?? なんだ?? お前コロって名前なのか?? しかもご丁寧に住所まで書いてあるじゃねえか! お前さん……どうしたいんだ?」
「とりあえず,何か食わしてもらえないか?」
理解してもらえる分からないが,訴えてみる。
「なんだ? お腹空いてるのか? 本当にしょうがねえな」
奥のほうから人間が何かを取り出してきた。
人間は俺の前に何か出してきた。食べ物だった。
ニオイを嗅ぐが食べられない物ではないようなので俺は口にした。
「本当は俺の飯の一つだったんだぞ!」
初めて食べた味だったが,食べられなくない味だった。
腹が膨れた俺は,走り回ったせいか急激に眠くなり眠りについた。
人間が朝早く起きて準備する音がし,外に出ていった。
朝っぱら何をするんだ? 俺はそう思っていた。
「ちょっくら行ってくるからコロは待ってろ」
寝床から人間が出ていく。俺はまだ眠かったので再び眠りについた。
やっと目が覚めて俺は起きる。
体を伸ばし,体を目覚めさせる。そしてちょっと外へと出ていく事にした。
「あぁ~。よく寝たな~! だけどとりあえず腹減ったなぁ」
俺は自分でご飯を探しに行く事にした。
ニオイをたどって食べ物を探そうとするのだが,中々食べ物は見つからなかった。
仕方ないと俺は思い,そこら辺に生えてる草や虫を食べてどうにか飢えを凌いだ。
水だけは近くにあるので渇きを潤す。
ああ……自由を求めた分,苦労しなくてはいけない事もあるのか。
俺は自分が不自由だと思っていたけども,実は自由だったんだなとしみじみ感じていた。
時間が経って,少し冷えてくる頃になると人間が帰ってきた。
「おーい! コロ! どこだ? 帰って来たぞ!」
呼ぶ声がして俺は人間の元へと駆け寄った。
「コロ。今日は何をしてんだ? 楽しかったか?」
人間が俺の頭を撫でる。
俺にとってご主人でもない,子分でも兄貴でもない人間に触れられたけど,何故か嫌な気分にはならなかった。それが何故なのかは俺には分からなかった。
「ほら! コロ飯だぞ!」
昨日までなかった赤い器に入れられた,人間が食べるであろう食べ物を差し出してくれた。
お腹は減っていたが,俺は口を付けなかった。
「何だ? 食べねぇーのか? 心配すんな! ちゃんとコロ用に取ってきた飯だ。俺のじゃねえから安心して食っていいぞ!」
俺はその声を聞いて,出された食べ物を口にする。
正直美味しいとは思えなかったが,腹の足しにするには十分だった。
「なあコロ……お前さんはこんな所にいないで,自分の家に帰った方が良いんじゃねえか? 俺はそう思うんだよなぁ……」
人間に撫でられながら俺は欠伸をした。
「お前さんの事をもの凄く探していると思うんだよなぁ俺は。それに俺の所に居たって幸せにはなれないぞ!? 家族の元に帰った方が幸せだと思うぞ?」
俺のすぐ側で横になった人間はすぐに寝息を立てていた。
次の日も同じ様に朝早くから外へと人間は出ていく。
俺は普段より何故か眠かったので一日中ゆっくりして過ごした。
「コロー! コロー!」
ん? 子分が俺のことを呼んでいる? 子分が俺の事を呼ぶ声が聞こえた。
離れてからちょっとしか時間が経っていないのに,何故か懐かしく感じた。
気付くと,呼んでいた声は子分のものではなかった。
「コロ! 起きたか? ちょっと出掛けるぞ……」
俺の首に鎖を付けて,外へと連れ出された。
何処へ向かうのかは分かってないが大人しく付いていくことにした。
疲れているのか分からないけども,ご主人達と一緒に住んでいる時より力が出なかった。
辺りはすでに暗く,街灯の灯りだけが俺達を照らす。向かっている場所は余計に不明だった。
人間は俺に特に話す事はなく,ただただ歩いているだけだった。
しばらく歩いていると,知っている匂いが俺の鼻先をかすめた。
どんどん匂いが濃い方へと向かっていく。
とうとう俺でも分かる場所に到着した。
「コロ? お前は自分の家に戻った方がいい。俺なんかと一緒に居ないほうがいい」
人間がしゃがんで俺の顔を撫でてそっと立ち上がり,来た道を戻っていく。
「ありがとうな!! 楽しかったぜ!!」
俺の声に人間は手を振って答えてくれた。その後姿はすぐに闇夜に消えていった。
「コロ!? コロー!?」
家から子分とご主人達が出てきた。
「悪かったなー! ただいま」
「どこ行ってたのよ!!!」
子分が俺に感情をぶつけてくるのが分かった。
「心配してたんだぞ?」
ご主人も俺の事を怒っているようだった。
「とりあえず風呂とご飯だなコロ。体のあちこちが随分汚れているからなぁ」
俺は家の中へと入ると,風呂場に連れて行かれ体をご主人に洗ってもらった。
体を拭いてもらい,乾かしてもくれた。とっても気持ちがよかった。
その時に,ご主人には全く伝わってないと思うが,自分が何処で何をしていたのかを話した。
すっかり綺麗になった後,ご飯を出してくれた。俺は自分のヨダレが垂れるのが分かった。
「しっかり食いな」
すぐにがっついて俺は食べ尽くす。
不自由で自由がないと思っていた生活だけれども,俺はこんなにも恵まれていたのだと実感した瞬間だった。ご主人達は優しいし,子分の事を俺は手のかかる人間だという認識だったけれど,居なければ居ないで寂しいと感じてしまっていたようだった。
ご飯を食べた後に子分が鳴らす音が,少し前は雑音にしか聞こえなかったのに,改めて今聞くと,落ち着く音に変わっていた。
何処となく閉鎖された環境で毎日の繰り返しだった日常,そんな生活に飽きた俺が突然飛び出したはいいが,外で生きていくには厳しい環境だったのは間違いなかった。
飛び出した時にあの人間に出会ってなければ,もっと酷い事になっていたかもしれない。
俺は自分自身で勝手に不自由だと思っていたけれど,本当は一番自由なのかもしれない。
「それにしてもよくコロ戻って来れたわね」
「首輪に住所が書いてあるから誰かが届けてくれたんじゃないか?」
「もしそうなら届けてくれた人に感謝したいわね……」
子分が俺に抱きつく。
「コロ~! 本当に戻って来て良かったよー! 今度は逃げちゃ駄目だよ?」
「冒険したし楽しかったからもう逃げないかな?」
「コロはもう逃げたりしないよ! しっかり帰って来たのがその証拠だよ。コロそうだろ?」
ご主人が俺の頭を撫でてくれるから,俺はご主人の手を舐めた。
あの一件以来,外に行かせてもらえる事が少なくなってしまった。
ご主人と一緒じゃないと外に連れ出してもらえなくなったのだ。
それは確かに仕方ないよね本当に。
しかし,今日はご主人抜きで子分と二人で外に行く事になった。
「コロ! 散歩行くよ?」
「大丈夫か? また逃げちゃうぞ?」
「もうコロにあっちこっちに振り回されたりしないんだからね!」
「まあいいけども……じゃあ行こうか!」
私は子分と外に行くことに。
歩いていると向こうからピチピチのギャルが歩いてくるのが見えた。
「知らない犬を見るといつも飛び出して近くに行って興奮して吠えていたのに,コロどうしちゃったの?」
私の事を子分は覗き込んできた。
「私はもうそんなガキじゃなくなったんだ。紳士の嗜みとして,紳士的に話しかけるんだ」
「お嬢さん! 私と遊びませんか??」
「え? 私あんたみたいなおじさん嫌いなのよ。あっちいって」
おじさんって……私はもうそんな歳になってしまったのか??
いつかは番になって,幸せになりたいと思っているんだけどな。
「コロどうしたの? フラれちゃったの? 私が一緒に付いててあげるよ?」
「私はガキんちょには興味ないんだ。レディーがいいんだ」
前からピチピチのギャルが歩いて来た。私は興奮して飛び出してしまった。
しまった……紳士の嗜みが……。
行こうとしたが途中で私は,止められてしまった……。
振り向くと子分が私に繋がれた鎖をギュッと握って,私をある一定の距離から動けなくしていた。
あれ?? いつの間に子分は私より力が強くなったんだ?
それとも私が弱くなったのか?
「エヘヘッ! もうコロに負けたりしないんだからね」
私は驚いた。
そういえば子分の姿が,前より遥かに大きくなっている。
以前は私とそこまで変わらない大きさだったのに……。
その後は普段と変わらない散歩をして,家へと戻った。
「ママ~,ただいま!」
「おかえり優子,お散歩どうだった!?」
「大丈夫だったよ。私一人でも大丈夫だった」
「そう? なら良かった。優子も大きくなったのね」
「エッヘン!」
私は沢山動いたので,水を飲んで喉の渇きを潤す。
子分が私の事を撫でてくるが,首を振って私は嫌がった。
「コロは私の事嫌いなの? そんな事ないよね?」
「子分なんだから気軽に触るなよ!」
「コロはいい子だなぁ~」
ご主人ならまだしも子分に触られるのはプライドが許さない。しかし,自分の中で徐々に子分を受け入れてしまっている心がある事もまた事実だった。
ご主人は一緒ではない。俺と子分だけで外に出掛けている。
これはチャンスではないか? そう俺は思った。
今までいつも隣にはご主人が居たために,好きに動こうと思っても制止されてしまい,好きに動けない事が多かった。
子分だけならいつでも逃げ切れる事が出来る。俺は自由に,好きにしてみたかった。
「ごめんな!!!」
俺は思いっきり駆け出した。
「コロー! コロー! 駄目ー!」
後ろで俺の事を叫ぶ声がしたが,俺には関係なかった。
「自由だーー!!」
俺はひた走った。知らない場所へと駆け巡る。
見るもの,匂い,音全てが新鮮だった。
息が切れ,肺が破裂しそうな程走った。子分の匂いもしなくなる程遠くへ来たようだった。
「はぁ~。はしゃぎすぎて疲れたな……」
俺は喉が渇いたので,とりあえず水場がある所を探した。
水の匂いがする方へと進んで行くと,水場を見つけた。
喉がカラカラだった俺は勢いよく喉を潤していく。
「何だオメェー。野良犬じゃねえな! でも一人か?」
人間の声が聞こえ俺はそっちに顔を向けた。
俺が知っている人間と同じとは思えない臭いを漂わせている人間が目の前に立っていた。
じっとお互い見つめていた。
「なんだ? 捨てられたのか? いや! 勝手に逃げてきたのか。捨てられたとしたらこの鎖が付けたままにはしないもんなぁ。首輪だって外すよなぁ。勝手に逃げて飼い主達はきっと心配してるぞ。いいのか?」
その人間はしゃがみ込んで俺の目線で話しかけてきた。敵意は感じられない。
「まあいい! 保健所の奴らに捕まって殺されるなよぉ。じゃあな!」
俺はその人間に興味が湧いて後を付いて行く事にした。
「なんだ? 付いてきてもしゃーないぞお前!」
付いて行くと,人間は青いビニールが張られている中へと入っていく。
「まあ……勝手にしろ」
一緒に中に入ると,中はごちゃごちゃした場所だった。
俺は自分が横になれる場所を探し,小さく包まって横になった。
俺の首に付いていた鎖をその人間は外してくれた。
「ん?? なんだ?? お前コロって名前なのか?? しかもご丁寧に住所まで書いてあるじゃねえか! お前さん……どうしたいんだ?」
「とりあえず,何か食わしてもらえないか?」
理解してもらえる分からないが,訴えてみる。
「なんだ? お腹空いてるのか? 本当にしょうがねえな」
奥のほうから人間が何かを取り出してきた。
人間は俺の前に何か出してきた。食べ物だった。
ニオイを嗅ぐが食べられない物ではないようなので俺は口にした。
「本当は俺の飯の一つだったんだぞ!」
初めて食べた味だったが,食べられなくない味だった。
腹が膨れた俺は,走り回ったせいか急激に眠くなり眠りについた。
人間が朝早く起きて準備する音がし,外に出ていった。
朝っぱら何をするんだ? 俺はそう思っていた。
「ちょっくら行ってくるからコロは待ってろ」
寝床から人間が出ていく。俺はまだ眠かったので再び眠りについた。
やっと目が覚めて俺は起きる。
体を伸ばし,体を目覚めさせる。そしてちょっと外へと出ていく事にした。
「あぁ~。よく寝たな~! だけどとりあえず腹減ったなぁ」
俺は自分でご飯を探しに行く事にした。
ニオイをたどって食べ物を探そうとするのだが,中々食べ物は見つからなかった。
仕方ないと俺は思い,そこら辺に生えてる草や虫を食べてどうにか飢えを凌いだ。
水だけは近くにあるので渇きを潤す。
ああ……自由を求めた分,苦労しなくてはいけない事もあるのか。
俺は自分が不自由だと思っていたけども,実は自由だったんだなとしみじみ感じていた。
時間が経って,少し冷えてくる頃になると人間が帰ってきた。
「おーい! コロ! どこだ? 帰って来たぞ!」
呼ぶ声がして俺は人間の元へと駆け寄った。
「コロ。今日は何をしてんだ? 楽しかったか?」
人間が俺の頭を撫でる。
俺にとってご主人でもない,子分でも兄貴でもない人間に触れられたけど,何故か嫌な気分にはならなかった。それが何故なのかは俺には分からなかった。
「ほら! コロ飯だぞ!」
昨日までなかった赤い器に入れられた,人間が食べるであろう食べ物を差し出してくれた。
お腹は減っていたが,俺は口を付けなかった。
「何だ? 食べねぇーのか? 心配すんな! ちゃんとコロ用に取ってきた飯だ。俺のじゃねえから安心して食っていいぞ!」
俺はその声を聞いて,出された食べ物を口にする。
正直美味しいとは思えなかったが,腹の足しにするには十分だった。
「なあコロ……お前さんはこんな所にいないで,自分の家に帰った方が良いんじゃねえか? 俺はそう思うんだよなぁ……」
人間に撫でられながら俺は欠伸をした。
「お前さんの事をもの凄く探していると思うんだよなぁ俺は。それに俺の所に居たって幸せにはなれないぞ!? 家族の元に帰った方が幸せだと思うぞ?」
俺のすぐ側で横になった人間はすぐに寝息を立てていた。
次の日も同じ様に朝早くから外へと人間は出ていく。
俺は普段より何故か眠かったので一日中ゆっくりして過ごした。
「コロー! コロー!」
ん? 子分が俺のことを呼んでいる? 子分が俺の事を呼ぶ声が聞こえた。
離れてからちょっとしか時間が経っていないのに,何故か懐かしく感じた。
気付くと,呼んでいた声は子分のものではなかった。
「コロ! 起きたか? ちょっと出掛けるぞ……」
俺の首に鎖を付けて,外へと連れ出された。
何処へ向かうのかは分かってないが大人しく付いていくことにした。
疲れているのか分からないけども,ご主人達と一緒に住んでいる時より力が出なかった。
辺りはすでに暗く,街灯の灯りだけが俺達を照らす。向かっている場所は余計に不明だった。
人間は俺に特に話す事はなく,ただただ歩いているだけだった。
しばらく歩いていると,知っている匂いが俺の鼻先をかすめた。
どんどん匂いが濃い方へと向かっていく。
とうとう俺でも分かる場所に到着した。
「コロ? お前は自分の家に戻った方がいい。俺なんかと一緒に居ないほうがいい」
人間がしゃがんで俺の顔を撫でてそっと立ち上がり,来た道を戻っていく。
「ありがとうな!! 楽しかったぜ!!」
俺の声に人間は手を振って答えてくれた。その後姿はすぐに闇夜に消えていった。
「コロ!? コロー!?」
家から子分とご主人達が出てきた。
「悪かったなー! ただいま」
「どこ行ってたのよ!!!」
子分が俺に感情をぶつけてくるのが分かった。
「心配してたんだぞ?」
ご主人も俺の事を怒っているようだった。
「とりあえず風呂とご飯だなコロ。体のあちこちが随分汚れているからなぁ」
俺は家の中へと入ると,風呂場に連れて行かれ体をご主人に洗ってもらった。
体を拭いてもらい,乾かしてもくれた。とっても気持ちがよかった。
その時に,ご主人には全く伝わってないと思うが,自分が何処で何をしていたのかを話した。
すっかり綺麗になった後,ご飯を出してくれた。俺は自分のヨダレが垂れるのが分かった。
「しっかり食いな」
すぐにがっついて俺は食べ尽くす。
不自由で自由がないと思っていた生活だけれども,俺はこんなにも恵まれていたのだと実感した瞬間だった。ご主人達は優しいし,子分の事を俺は手のかかる人間だという認識だったけれど,居なければ居ないで寂しいと感じてしまっていたようだった。
ご飯を食べた後に子分が鳴らす音が,少し前は雑音にしか聞こえなかったのに,改めて今聞くと,落ち着く音に変わっていた。
何処となく閉鎖された環境で毎日の繰り返しだった日常,そんな生活に飽きた俺が突然飛び出したはいいが,外で生きていくには厳しい環境だったのは間違いなかった。
飛び出した時にあの人間に出会ってなければ,もっと酷い事になっていたかもしれない。
俺は自分自身で勝手に不自由だと思っていたけれど,本当は一番自由なのかもしれない。
「それにしてもよくコロ戻って来れたわね」
「首輪に住所が書いてあるから誰かが届けてくれたんじゃないか?」
「もしそうなら届けてくれた人に感謝したいわね……」
子分が俺に抱きつく。
「コロ~! 本当に戻って来て良かったよー! 今度は逃げちゃ駄目だよ?」
「冒険したし楽しかったからもう逃げないかな?」
「コロはもう逃げたりしないよ! しっかり帰って来たのがその証拠だよ。コロそうだろ?」
ご主人が俺の頭を撫でてくれるから,俺はご主人の手を舐めた。
あの一件以来,外に行かせてもらえる事が少なくなってしまった。
ご主人と一緒じゃないと外に連れ出してもらえなくなったのだ。
それは確かに仕方ないよね本当に。
しかし,今日はご主人抜きで子分と二人で外に行く事になった。
「コロ! 散歩行くよ?」
「大丈夫か? また逃げちゃうぞ?」
「もうコロにあっちこっちに振り回されたりしないんだからね!」
「まあいいけども……じゃあ行こうか!」
私は子分と外に行くことに。
歩いていると向こうからピチピチのギャルが歩いてくるのが見えた。
「知らない犬を見るといつも飛び出して近くに行って興奮して吠えていたのに,コロどうしちゃったの?」
私の事を子分は覗き込んできた。
「私はもうそんなガキじゃなくなったんだ。紳士の嗜みとして,紳士的に話しかけるんだ」
「お嬢さん! 私と遊びませんか??」
「え? 私あんたみたいなおじさん嫌いなのよ。あっちいって」
おじさんって……私はもうそんな歳になってしまったのか??
いつかは番になって,幸せになりたいと思っているんだけどな。
「コロどうしたの? フラれちゃったの? 私が一緒に付いててあげるよ?」
「私はガキんちょには興味ないんだ。レディーがいいんだ」
前からピチピチのギャルが歩いて来た。私は興奮して飛び出してしまった。
しまった……紳士の嗜みが……。
行こうとしたが途中で私は,止められてしまった……。
振り向くと子分が私に繋がれた鎖をギュッと握って,私をある一定の距離から動けなくしていた。
あれ?? いつの間に子分は私より力が強くなったんだ?
それとも私が弱くなったのか?
「エヘヘッ! もうコロに負けたりしないんだからね」
私は驚いた。
そういえば子分の姿が,前より遥かに大きくなっている。
以前は私とそこまで変わらない大きさだったのに……。
その後は普段と変わらない散歩をして,家へと戻った。
「ママ~,ただいま!」
「おかえり優子,お散歩どうだった!?」
「大丈夫だったよ。私一人でも大丈夫だった」
「そう? なら良かった。優子も大きくなったのね」
「エッヘン!」
私は沢山動いたので,水を飲んで喉の渇きを潤す。
子分が私の事を撫でてくるが,首を振って私は嫌がった。
「コロは私の事嫌いなの? そんな事ないよね?」
「子分なんだから気軽に触るなよ!」
「コロはいい子だなぁ~」
ご主人ならまだしも子分に触られるのはプライドが許さない。しかし,自分の中で徐々に子分を受け入れてしまっている心がある事もまた事実だった。
0
あなたにおすすめの小説
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
秘書と社長の秘密
廣瀬純七
大衆娯楽
社内の調査のため、社長・高橋健一はこっそり秘書・木村由紀と不思議なアプリで入れ替わることに。
突然“社長役”を任された由紀と、自由に動ける立場を手に入れた高橋。
ふたりの秘密の入れ替わり作戦は、どの様な結末になるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる