美しく舞い堕ちる可憐な音色のように

夢想猫

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初色編

変わり始める風景

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「ねぇ、神崎さん…」

休み時間、教室でクラスの仲の良い友達と話していると別の女子達がやってきて声を掛けてきた。

最近、別のクラスにいる幼馴染が気になっているらしく紹介してほしいということだった。

サッカー部で初めて、大会優勝へ導いた1年生ということで、女子達の間でも密かに人気になっていた。

紹介されないことはわかっていたようで、幼馴染との関係性を確認したかったみたいだった。

お互い部活で、もう何か月も会っていないことと兄弟みたいな感覚だと伝えた。

それでも好きなのかを聞かれるけど、話していた友達が転校していったと思われている同じクラスだった同級生の名前を挙げた。

それに少し納得をしたみたいで、幼馴染との話から逸れて、同級生との関係性の話になってしまった。

「もしかして、実は付き合っていて、遠距離とか?」

「ち、違うよ…そんなのじゃ…」

話し易くて親しくはしていたけど、付き合っていないことを告げた。

「そういえば舞音の好みのタイプって聞いたことないけど、どんな感じなの?」

話の内容は変わったけど、みんな興味が自分へ集中し始めたことに戸惑っていると次の授業のチャイムが鳴って救われた。


「っ…ご、ごめんなさい。」

放課後、吹奏楽の部活で自分のピアノのパートで音がズレた。

同級生がいなくなって真実を知った日からピアノをうまく弾けなかった。

一斉にみんなの演奏が止まって心配の声が寄せられる。

「少し早いけど、今日はここまでにしようか?」

指揮を振っていた2年生の副部長が掛けてある時計を見て、部活の終了を指示するとみんなが片づけを始めた。

「最近、調子悪いみたいだけど、大丈夫?」

副部長が近づくと心配そうに声を掛けてきた。

「本当にごめんなさい。最近…うまく弾けなくて…」

「神崎さんの音色、伸び伸びしていてすごく好きなんだけど、最近ちょっと変わったよね?…もしかして彼氏と別れた…とか?」

申し訳なさに俯いていると副部長の言葉に慌てて顔をあげた。

「そ、そんなのじゃ…誰とも付き合ってなんて…」

一時期、放課後に同級生と帰ることがよくあった。

もしかすると彼氏とは、そのことを言っているのかもしれなかった。

「ごめん。ごめん。冗談だよ。そっか…まあ、でも、そういう時期もあるよ。」

部活へ来る前に校舎から見慣れた幼馴染の後ろ姿と一緒に女子生徒が校門を出てゆくのが見えた。

もう戻ることはできなくて、関係ないはずだったけど、それが一瞬だけ過って演奏を乱していた。

「ごめんなさい。ありがとうございます。」

自分が分からなかった。

「気にしないで!さぁ、片付けて帰ろう…」

副部長に促されて片づけを始めると部活のみんなと音楽室を後にした。
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