彼岸の王と首斬り姫

KaoLi

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第八章

第六十八話 泡沫に消ゆ

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「頼守……! ああ、どうしてこんな無茶をしたんだ!」

 目を閉じると、あの精神世界の中にいた。そこで水埜辺が頼守を抱き支えている。頼守の体は表と同じく酷く傷ついていた。水埜辺は手で出来る限りの止血を試みるが、それが無駄だと理解すると顔を伏せながらゆっくりと傷口から手を離した。

「……そうですね。もう、難しいようです……」
「なんであんな約束をしたんだ!」
「水埜辺さまを守りたかった、では……理由にならない……?」
「頼、」
「碓氷さまは、ちゃんと、水埜辺さまのことを想っておられました。私の願いをお聞きくださった時も、ご心配をされていた」
「え……?」

 頼守の言葉に、水埜辺はまるで理解が出来ないという表情をした。その妙な表情に頼守は微笑んだ。

「……私の全ては貴方を守ること。それが、このような形で終わること、頼守は、大変、悔しいです……!」

 頼守の涙腺はついに決壊した。子供のように、泣きじゃくった。幼い頃、父と母の死に目に立ち会えず「死んでしまった」と言伝を受けた際でさえ泣かなかった彼が、感情をこんなにも剝き出して泣いている。突如、頼守の体が急激に姿を保てなくなった。淡い光に包まれ、今にも消えゆく存在となりつつある。

「頼守! お前体が……!」
「……あぁ……時間切れの、ようですね……。ふふ、水埜辺さま? そう悲しまないでください。頼守は今日こんにちまで……幸せでした」
「頼守」
「……はい?」

 水埜辺は頼守の両掌を優しく握った。頼守は首を傾けて水埜辺を見た。水埜辺は頼守に微笑みかけ、そして彼の左頬に右手で触れた。

「先にいって待っていてくれ。俺も、すぐに……そちらにいくから」

 そう言い告げると頼守は柔らかく笑い「それでは、守った意味がないではありませんか」と言って、泡沫へと消えていった。
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