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四十三 未来はきっと(第一章了)

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 ふうとルークお兄様は溜息をおつきになると表情を曇らせて立ち上がった。

「アーシアをからかうと面白くて私がさんざん樹の下で拾ってきたなどと小さい頃に話していたことがある。そのせいで未だにこのようなことを言ってしまうのだろう。ガブリエラさんまで巻き込んでしまって申し訳ない。兄として謝らせていただくよ」

「お兄様。お待ちになって、私はそんな話など忘れてます……」

「で、でもルーク様。うちの諜報部から調査で赤子を抱きかかえていた者が戻すときに間違えたと証言があったのです!」

 唖然とする私とガブちゃんの方は我に返ってお兄様にそう食い下がっていた。

「それはあり得ない。何故なら、私もそのときにその部屋にいたのだよ。だから取り違えなど起こり得ない」

 ――お兄様がその場でいたですって?

「その場でいらしてたのですか? ルーク様が……」

「丁度そう、学校の帰りに寄っていたときだったよ。なんでも調理場からボヤが出たと慌てた付き添い人が私達の部屋に飛び込んできた。そのときには既に一人の赤子を抱いていたよ。あれが君だったのか」

 そのルークお兄様の話は合っていた。それに、ルークお兄様はガブちゃんの報告書に無いことまでお話になられた。それは確かにその場にいないと分からないことだった。だって、先にガブちゃんの方を抱いてたなんて見ていないと言えないもの。

「そして、その病院の者はアーシアをも抱き抱えると走りだしたのだ」

「え?    じゃあ、やっぱりそこで取り違えられたのではないのですか?」

     私の質問にルークお兄様は静かな微笑みを浮かべていた。ガブちゃんはやっぱりといった感じで呟いた。

「そうなればやっぱり私とアーシアは取り違えられている可能性が有るわよね」

    ルークお兄様は優しく手招きして、私達と一緒に執務室にある鏡の前に立たせた。

「ガブリエラさん、こちらへ、アーシア。お前もおいで」

    三人が並んで鏡の前に立つ。

    鏡に写っているお兄様の艶やかな黒髪に、アメジストの妖艶な瞳、しなやかそうな体躯などは長年見慣れていても整った顔立ちでイケメンだとしみじみ感じる。

    私は見慣れているからガブちゃんみたいにいちいちぽっと頬を染めたりしないけどね。お兄様はガブちゃんの肩に添えるように、寄り添っている。すると二人の違いが歴然となる。

    ガブちゃんには悪いけど彼女の方はよくある薄茶の髪に緑の瞳。可愛いけど誰もが振り向くようなという程ではない。私はと言うと黒髪に切れ長の黒銀の瞳で文句なしのクール系ビューティーよね。背も高く、だからお兄様と並ぶと……。

「どうかな?」

「ど、ど、どうかなって? どうなのでしょう?」

    顔を真っ赤したガブちゃんはしどろもどろに何だか分からない様子でルークお兄様に答えていた。

「ガブリエラさんと私は兄妹に見えるだろうか?」

「あっ!」

    ガブちゃんは私とお兄様を見比べてまた自分の姿を鏡越しに確認するようにしげしげと見ていた。私はガブちゃんとお兄様を……。悪いけどガブちゃんは可愛い系でも、ルークお兄様と並ぶと普通というかお世辞にも似ているとはとても言えなかった。

「アーシアとルーク様は髪の色といい似てるよね……」

    ガブちゃんがぼそりと言って私の方を見てきた。

「……それに見慣れてるから私はルークお兄様を見てもガブちゃんのようにいちいち感動したりしないわね」

 美形でも身内は意外とシビアに感じるものなの。美貌よりお兄様の言動の方が恐怖だったの。それから自由になれると思うと喜んでいたのに……。そう思いつつ私は二人が似ていないということから答を弾き出した。

「てことはじゃあ、似てないってことはどうなるの? 確かにガブちゃんより私の方がルークお兄様には似てるけれど……」

「お前は何を聞いていたのだ。全くそれでよくあの学園で新入生代表になれたものだ」

「だ、だって、似てない兄弟だって山のようにいるわよ」

「それはそうかもしれないが、やはりどことなく似ているものだよ。特にこう一緒に立つとね」

 ルークお兄様にそう仰られると私達は黙り込むしかなかった。困惑気味の私達にルークお兄様はくすりと笑った。

「それに私はね生まれたばかりのアーシアがとても可愛くて、つい落書きをしてあったのだ。アーシアの足の裏にね」

「「足の裏!?」」

「確かボヤは大したことはなく、避難の途中にさえ中止になるくらいだった。だから部屋に戻ったときに違うことは直ぐに分かった。だから私が元に戻しておいたのだ」

「お兄様が元に……」

「それにいくら何でも母親が我が子の違いに気がつかない訳が無いだろう? 私が戻したので騒ぎにならなかったのだよ。後から付添人が自分の間違いに気がついたかも知れないがな」

 そう仰って肩を竦められた。

「え?     あ……」

 私とガブちゃんは顔を見合わせた。そして、へなへなとガブちゃんの方は床に座り込んだ。そして力なく笑いだしていた。。

「何だったのよ。もう、私はこの家の子になるのだとてっきり思って……」 

「ガブリエラさんも妹として充分可愛いですよ。ですが、商会としてはその才能は手放すのは惜しまれるだろうね」

「そうなんですか? ルーク様にそう言って頂けると嬉しい!」

「え? ちょっと待って、取り違えは? 私は庶民になれるんじゃないの? こたつでみかんに半裸でアイスは?」

 ルークお兄様に褒められて浮かれ踊っているガブちゃんは放っておいて、私はお兄様に詰め寄った。ルークお兄様からは冷たい視線しか返ってこなかった。

「いつまでそんなことを言っている。兄として情けないぞ。全く学園ではどんな教育を受けていたのだ。もう一度やり直さないけないな」

「お、お兄様……」

「何だ?」

 返されたはいつもの横柄な口調のお兄様。それ以上に……。

 結局、ルークお兄様のお陰で取り違えということは無かったことが分かった。この世界ではまだDNA鑑定なんて無いしそれ以上は私達にはどうすることも出来なかった。でも、ガブちゃんは見違えるように元気になり、家に帰っていった。でも、私とはこれからも友達としてつき合ってくれそうだった。



「全くお前ときたら、そんなのでは嫁にいくのはまだまだだな。心配でやれんぞ。ユリアンのことは少し見直してやったがな」

「お兄様!    あ、ええとルークお兄様?」

「そこでどうして疑問系なのだ」

 ルークお兄様はいつものように深いため息をおつきになっていた。私は頭を下げた。

「妹として、これからもよろしくお願いします」

「ああ、分かったから、執務の邪魔をするな」


 そうルークお兄様にいつものように邪険に扱われしまったけれど、それも何だか楽しいと思ってしまった。



 私は侯爵家の自室に戻ると大きく伸びをして宣言してみた。

「さあ、そうとなったら、やっぱりユリアン様を攻略しなくちゃね!    でも、私の足の裏には何て書いてあったのか聞き忘れてた」






 これはよくある悪役令嬢にならなかった令嬢のお話です。一先ずここで終わります。ありがとうございました。

次は少し間をおいて、番外編などを掲載します。
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