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10 伯爵家において
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伯爵家に戻り、早速お父様にリチャード様との婚約のことを話したが信じてもらえなかった。
何処で知り合ったのかと言われたので教会でと話をした。嘘ではないし。
でもお父様はやはり私の言うことを信じようとはせず、ため息交じりに私に諭すように話した。
「サンドストーン公爵家と婚姻など、そこまでリリエラも嘘をついて出て行かなくてもいいのだぞ」
「いいえ、お父様。嘘ではありませんわ。本当のことなのです」
お父様は私の話を取り合うことはなく厳めしい顔つきをして話してきた。
「冗談でも言うものじゃないぞ。リリエラ。相手は公爵家なのだからだ。とんでもないことなのだぞ」
私はお父様の説得は半ば諦めて部屋に戻りマーゴに頼んで荷物の準備をすることにした。
「お嬢様にもとうとう輿入れが決まったのですね」
「ええ、サンドストーン公爵家にね」
「まああ! 公爵家ですか? それは……」
マーゴも驚いているようだった。確かにそうでしょうね。私も驚いているもの。詳しい話は明日にしてもらった。
荷物といってもそんなにないので早々に纏めるとその日は休んだ。とても精神的に疲れたもの。
翌朝、廊下をバタバタと走る音がして私はお父様に起こされた。
「り、リリエラ! サンドストーン公爵様がうちに見えられたぞ! 直ぐ応接間に来るようにっ」
私はとりあえず慌てふためくお父様を宥めた。
――だから言ったでしょうに。それにしても早いわね。リチャード様ったら。
「お父様。落ち着いてくださいな」
私はお父様に水差しからお水を汲んで飲ませてあげた。
すると少しは落ち着きを取り戻してくれた。
お父様は私を見ると肩を落として呟いていた。
「お前の話は本当だったのだな……」
私達は身支度を済ませて急いで客間に行くとリチャード様が家令のエバンスも連れて来ていた。
リチャード様は豪華そうな勲章まで付いた正装をされていて、私は豪奢なそのお姿につい見惚れてしまった。
「ぼやっとするな。リリエラ」
そう言われて慌てて私はお父様の隣に座った。
「今日はお父上へ挨拶に参った。お父上は驚かせてしまったが、正式な婚姻の話をしよう」
――早い。早すぎると思う。
昨日、初めてお話をしたばかりなのですよ。ああ、以前に会っていたと言えば会っていたのよね。
私は内心を押し隠してにこやかな笑みを浮かべた。
お父様は顔中汗だらけで拭いたら手布が絞れるくらいになっていた。
「ええと、その、サンドストーン公爵様はうちのリリエラと結婚したいと仰っているのですね?」
「ええ。リリエラ嬢とは以前、教会の治療所でお会いしました。その時に真摯な対応をしていただいたのです。その時から気になっておりました」
その通りかどうかはお父様には分からないだろうと私は黙って聞いていた。
死ねば良かったと言って壁に頭をぶつけていた公爵様を諫めたとかまでは言う必要はない。
「ああ、教会の治療所ですか、確かにリリエラは教会に熱心に通っておりました」
それだけ言うとお父様は私をまじまじと見返していた。
「リリエラが話したのは本当だったとは……」
納得していない様子でお父様は公爵様へ向き直った。
「父親としてお恥ずかしい話になりますが、リリエラは貴族の学園にも通わせておらず、公爵夫人として務まるとはとても思えません。……リリエラを迎え入れれば公爵家には不名誉になりましょう」
その言葉にリチャード様は少し驚いたようだった。
――出ていくように言ったのにお父様は反対しているみたいじゃない。
それは私を本当に心配して言っているのか分からないのでリチャード様とお父様を黙って眺めていた。
お父様の言葉にリチャード様は穏やかな笑みを浮かべた。
「公爵夫人としての振る舞いは結婚してから学んでも良いと思いますよ。私も公爵になって未だ領地や貴族のことなど分からぬことばかりだ。だから、私としてはリリエラ嬢が御身一つで来てくれたって構わない。いっそその方が良いかもしれないな。こちらで公爵夫人として必要なものを揃えればいいのだから。それにリリエラ嬢がマナーがなってないというならばこの国のご令嬢方だって大半はマナーを身につけてはいないと思われますよ」
「……」
リチャード様の言葉に今度はお父様の方が黙り込んでしまった。気のせいか顔色も真っ青になっている。
リチャード様は私を熱の籠った瞳でご覧になっていたのだ。
――演技が上手すぎますわ。リチャード様。まるで本当に私を求めているように錯覚してしまうではありませんか。私が小娘ならうっかり騙されてしまいますわ。
でも、正直リチャード様の言葉と視線に私は勇気づけられたのだ。
お父様はいつも私を否定するだけだったから。
公爵様はこれからのことを話してくれた。
だから私も同じように目に力を入れてリチャード様を見つめ返した。
仮初の公爵夫人として頑張りますわ。
でも真の花嫁とか仰っていたわね。だから私は真の花嫁として頑張りましょう。
あら、公爵様は目を逸らしてしまったわ。
気のせいか公爵様の頬に赤みが差していらっしゃるようね。
部屋が暑いのかしら? リチャード様は大層立派な正装ですもの。
それにしても私のような者を表の公爵夫人にしても良いと思えるほどリチャード様の噂は酷かったのかしら? 私にはリチャード様は普通の人に見えますけどね。
私はリチャード様に安心していただけるように微笑んで見せた。
するとお父様が私達を見ていて急にがくりと大きく肩を落としてしまった。
リチャード様はお父様に話しかけた。
「もしかしてブルーレイク伯爵は私の噂を気にされてリリエラ嬢を嫁に出すのを渋られているのでしょうか? それならばあれは根も葉もないことです。いずれは証明されます」
リチャード様の言葉にお父様は肯定するような様子を見せていた。
「……リリエラは妻の忘れ形見です。大事な私達の……、その、ブルーレイク家の娘なのです。ですが、娘が了承しているのなら私としても反対はいたしません。リリエラ」
そう言うとお父様は私を見遣った。
その姿はいつのも私を否定していた姿ではなく、しょぼくれた様子だったけれど何だかいつものお父様とは違うわね。
昔のお父様に戻ったようだわ。
「リリエラ、もし、公爵家でやっていけないと思ったならいつでも戻ってきなさい。私がしてやれることはそれくらいだ」
意外なことにお父様はうっすら涙まで浮かべていらした。
伯爵家の経営ができないから戻ってくるようにではないことくらいは私にも分かった。
「お父様……」
「ああ。リリエラ! 私は今までどうして……」
そういってお父様は私に取り縋るようにした。私は少し戸惑っていた。
お母様が亡くなって腑抜けになっていたのにこうしていざ私が家を出るようになった時、昔のようなお父様に戻ったようだったから。
「……」
リチャード様は黙って私達のやり取りをご覧になっていた。
それでも私の出した答えは揺るぐことはない。そう思ってリチャード様を見返した。
リチャード様には私の気持ちが伝わったと思う。
力強く頷いてくれたから。
――私の生きる場所は私が掴み取って見せる。私が決めるの。お父様が今更引き止めても。
「それでは婚姻の細かい取り決めをしましょう」
リチャード様は静かにそう言うとお父様はもう何も言わなかった。
後は細かい両家の婚姻についての取り決めを三人で話し合うとエバンスが書類に纏めてくれていた。
何処で知り合ったのかと言われたので教会でと話をした。嘘ではないし。
でもお父様はやはり私の言うことを信じようとはせず、ため息交じりに私に諭すように話した。
「サンドストーン公爵家と婚姻など、そこまでリリエラも嘘をついて出て行かなくてもいいのだぞ」
「いいえ、お父様。嘘ではありませんわ。本当のことなのです」
お父様は私の話を取り合うことはなく厳めしい顔つきをして話してきた。
「冗談でも言うものじゃないぞ。リリエラ。相手は公爵家なのだからだ。とんでもないことなのだぞ」
私はお父様の説得は半ば諦めて部屋に戻りマーゴに頼んで荷物の準備をすることにした。
「お嬢様にもとうとう輿入れが決まったのですね」
「ええ、サンドストーン公爵家にね」
「まああ! 公爵家ですか? それは……」
マーゴも驚いているようだった。確かにそうでしょうね。私も驚いているもの。詳しい話は明日にしてもらった。
荷物といってもそんなにないので早々に纏めるとその日は休んだ。とても精神的に疲れたもの。
翌朝、廊下をバタバタと走る音がして私はお父様に起こされた。
「り、リリエラ! サンドストーン公爵様がうちに見えられたぞ! 直ぐ応接間に来るようにっ」
私はとりあえず慌てふためくお父様を宥めた。
――だから言ったでしょうに。それにしても早いわね。リチャード様ったら。
「お父様。落ち着いてくださいな」
私はお父様に水差しからお水を汲んで飲ませてあげた。
すると少しは落ち着きを取り戻してくれた。
お父様は私を見ると肩を落として呟いていた。
「お前の話は本当だったのだな……」
私達は身支度を済ませて急いで客間に行くとリチャード様が家令のエバンスも連れて来ていた。
リチャード様は豪華そうな勲章まで付いた正装をされていて、私は豪奢なそのお姿につい見惚れてしまった。
「ぼやっとするな。リリエラ」
そう言われて慌てて私はお父様の隣に座った。
「今日はお父上へ挨拶に参った。お父上は驚かせてしまったが、正式な婚姻の話をしよう」
――早い。早すぎると思う。
昨日、初めてお話をしたばかりなのですよ。ああ、以前に会っていたと言えば会っていたのよね。
私は内心を押し隠してにこやかな笑みを浮かべた。
お父様は顔中汗だらけで拭いたら手布が絞れるくらいになっていた。
「ええと、その、サンドストーン公爵様はうちのリリエラと結婚したいと仰っているのですね?」
「ええ。リリエラ嬢とは以前、教会の治療所でお会いしました。その時に真摯な対応をしていただいたのです。その時から気になっておりました」
その通りかどうかはお父様には分からないだろうと私は黙って聞いていた。
死ねば良かったと言って壁に頭をぶつけていた公爵様を諫めたとかまでは言う必要はない。
「ああ、教会の治療所ですか、確かにリリエラは教会に熱心に通っておりました」
それだけ言うとお父様は私をまじまじと見返していた。
「リリエラが話したのは本当だったとは……」
納得していない様子でお父様は公爵様へ向き直った。
「父親としてお恥ずかしい話になりますが、リリエラは貴族の学園にも通わせておらず、公爵夫人として務まるとはとても思えません。……リリエラを迎え入れれば公爵家には不名誉になりましょう」
その言葉にリチャード様は少し驚いたようだった。
――出ていくように言ったのにお父様は反対しているみたいじゃない。
それは私を本当に心配して言っているのか分からないのでリチャード様とお父様を黙って眺めていた。
お父様の言葉にリチャード様は穏やかな笑みを浮かべた。
「公爵夫人としての振る舞いは結婚してから学んでも良いと思いますよ。私も公爵になって未だ領地や貴族のことなど分からぬことばかりだ。だから、私としてはリリエラ嬢が御身一つで来てくれたって構わない。いっそその方が良いかもしれないな。こちらで公爵夫人として必要なものを揃えればいいのだから。それにリリエラ嬢がマナーがなってないというならばこの国のご令嬢方だって大半はマナーを身につけてはいないと思われますよ」
「……」
リチャード様の言葉に今度はお父様の方が黙り込んでしまった。気のせいか顔色も真っ青になっている。
リチャード様は私を熱の籠った瞳でご覧になっていたのだ。
――演技が上手すぎますわ。リチャード様。まるで本当に私を求めているように錯覚してしまうではありませんか。私が小娘ならうっかり騙されてしまいますわ。
でも、正直リチャード様の言葉と視線に私は勇気づけられたのだ。
お父様はいつも私を否定するだけだったから。
公爵様はこれからのことを話してくれた。
だから私も同じように目に力を入れてリチャード様を見つめ返した。
仮初の公爵夫人として頑張りますわ。
でも真の花嫁とか仰っていたわね。だから私は真の花嫁として頑張りましょう。
あら、公爵様は目を逸らしてしまったわ。
気のせいか公爵様の頬に赤みが差していらっしゃるようね。
部屋が暑いのかしら? リチャード様は大層立派な正装ですもの。
それにしても私のような者を表の公爵夫人にしても良いと思えるほどリチャード様の噂は酷かったのかしら? 私にはリチャード様は普通の人に見えますけどね。
私はリチャード様に安心していただけるように微笑んで見せた。
するとお父様が私達を見ていて急にがくりと大きく肩を落としてしまった。
リチャード様はお父様に話しかけた。
「もしかしてブルーレイク伯爵は私の噂を気にされてリリエラ嬢を嫁に出すのを渋られているのでしょうか? それならばあれは根も葉もないことです。いずれは証明されます」
リチャード様の言葉にお父様は肯定するような様子を見せていた。
「……リリエラは妻の忘れ形見です。大事な私達の……、その、ブルーレイク家の娘なのです。ですが、娘が了承しているのなら私としても反対はいたしません。リリエラ」
そう言うとお父様は私を見遣った。
その姿はいつのも私を否定していた姿ではなく、しょぼくれた様子だったけれど何だかいつものお父様とは違うわね。
昔のお父様に戻ったようだわ。
「リリエラ、もし、公爵家でやっていけないと思ったならいつでも戻ってきなさい。私がしてやれることはそれくらいだ」
意外なことにお父様はうっすら涙まで浮かべていらした。
伯爵家の経営ができないから戻ってくるようにではないことくらいは私にも分かった。
「お父様……」
「ああ。リリエラ! 私は今までどうして……」
そういってお父様は私に取り縋るようにした。私は少し戸惑っていた。
お母様が亡くなって腑抜けになっていたのにこうしていざ私が家を出るようになった時、昔のようなお父様に戻ったようだったから。
「……」
リチャード様は黙って私達のやり取りをご覧になっていた。
それでも私の出した答えは揺るぐことはない。そう思ってリチャード様を見返した。
リチャード様には私の気持ちが伝わったと思う。
力強く頷いてくれたから。
――私の生きる場所は私が掴み取って見せる。私が決めるの。お父様が今更引き止めても。
「それでは婚姻の細かい取り決めをしましょう」
リチャード様は静かにそう言うとお父様はもう何も言わなかった。
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