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09 真の花嫁とは?
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「シスターからお聞きしたところ公爵様はお相手が見つからないので仮初の花嫁を求めているのですよね?」
私が念押しすると、公爵は驚いたように私を見返した。
こうして見るとまだ公爵様は十分お若いし、目つきが鋭いけれど端正な顔立ちだった。
これで恋人もいないとか本当だろうか?
彼の花嫁になりたいという女性の列ができていてもおかしくないと思う。
「いや、仮初ではなく真の花嫁だ」
彼は真っすぐ私をご覧になった仰った。
は? 真のなんですって、最近はそんな言い回しをするのかしら。
公爵様の眼差しがあまりにも真摯で何だか居心地が悪くなって私のほうから視線を逸らせてしまった。
「……まあ、そうでしたの。それでは私では務まりませんね。失礼いたします」
公爵夫人という役目は私ではとても務まる自信はないわね。
そう言って部屋を出ようと立ち上がりかけた。
「い、いや。君が良いんだ! 君には私の真の花嫁としてっ、私と結婚して欲しい!」
公爵様が叫びのような声だったので、帰ろうと腰を浮かせていた私は驚いて再び座っていた。
「はあ、真の花嫁として、ですか……」
――だから真の花嫁って何よ?
でも、嫁にいき遅れているので彼の提示してくれた花嫁というのは私にはありがたいのだけど公爵家の妻というのは正直荷が重いと思う。
「小さな頃には家庭教師がおりましたけれど学園で学んでいない私が公爵家の妻として務められるかどうかは分かりませんよ?」
「では社交界のマナーを教えてくれる人を雇おう。それに他にも気になることなら何でも言って欲しい」
「直ぐには思いつきませんけれど……」
正直に言うと領地経営のために語学や経済のことは執事や我が家の顧問会計士に尋ねながら覚えたのよね。
お父様が執事のハモンドに丸投げしてしまったから私が領主代行としてやるしかなかったの。
「では気がついたときにでも相談してくれれば構わない。私でできることは手配しよう」
目の前の公爵様は私の様子をじっとご覧になっていた。私は一つ訊ねたいことがあった。
「それでいつから私はこちらに来てもよろしいですか? 実は弟に花嫁が来るのでなるべく早く家から出て行くようにと父に言われておりまして」
「弟の花嫁のために君に早く出て行けだと? それは本当のことだったのか!」
公爵様の声に私はびくりとなってしまった。
私に怒鳴ったという訳ではないと分かっているけれど声が大きいので体が反射的に動いたのだ。
公爵様はそんな私にごほんと咳払いをすると気まずそうにされていた。
「ああ、大声で驚かせてしまったようだ。私は騎士団でいたからどうしても声が大きくなってしまってね。その、君が良いならいつでもこの屋敷に来てくれてかまわない。家令のエバンスに言って準備をさせておこう」
「ありがとうございます。公爵様」
「リチャードだ」
「え?」
「婚約するのだ。名前で呼んでくれ。リリエラ」
真っ直ぐ目を合わせて公爵様の形の良い口から名を呼ばれると心臓がどきりと跳ねた。
「り、リチャード様。あの、それではお言葉に甘えて荷物をまとめ次第こちらでお世話になろうと思います」
「そうか、ではうちの家令のエバンスにそのように手配を頼んでおこう」
私は早速公爵家の馬車を借り、といっても家紋は無しの簡素なものをお借りした。それでも伯爵家の古びた馬車よりは立派な物だった。
公爵家の寂れた庭を見てここからまず手を入れないと……。そんなことを考えていた。
私が念押しすると、公爵は驚いたように私を見返した。
こうして見るとまだ公爵様は十分お若いし、目つきが鋭いけれど端正な顔立ちだった。
これで恋人もいないとか本当だろうか?
彼の花嫁になりたいという女性の列ができていてもおかしくないと思う。
「いや、仮初ではなく真の花嫁だ」
彼は真っすぐ私をご覧になった仰った。
は? 真のなんですって、最近はそんな言い回しをするのかしら。
公爵様の眼差しがあまりにも真摯で何だか居心地が悪くなって私のほうから視線を逸らせてしまった。
「……まあ、そうでしたの。それでは私では務まりませんね。失礼いたします」
公爵夫人という役目は私ではとても務まる自信はないわね。
そう言って部屋を出ようと立ち上がりかけた。
「い、いや。君が良いんだ! 君には私の真の花嫁としてっ、私と結婚して欲しい!」
公爵様が叫びのような声だったので、帰ろうと腰を浮かせていた私は驚いて再び座っていた。
「はあ、真の花嫁として、ですか……」
――だから真の花嫁って何よ?
でも、嫁にいき遅れているので彼の提示してくれた花嫁というのは私にはありがたいのだけど公爵家の妻というのは正直荷が重いと思う。
「小さな頃には家庭教師がおりましたけれど学園で学んでいない私が公爵家の妻として務められるかどうかは分かりませんよ?」
「では社交界のマナーを教えてくれる人を雇おう。それに他にも気になることなら何でも言って欲しい」
「直ぐには思いつきませんけれど……」
正直に言うと領地経営のために語学や経済のことは執事や我が家の顧問会計士に尋ねながら覚えたのよね。
お父様が執事のハモンドに丸投げしてしまったから私が領主代行としてやるしかなかったの。
「では気がついたときにでも相談してくれれば構わない。私でできることは手配しよう」
目の前の公爵様は私の様子をじっとご覧になっていた。私は一つ訊ねたいことがあった。
「それでいつから私はこちらに来てもよろしいですか? 実は弟に花嫁が来るのでなるべく早く家から出て行くようにと父に言われておりまして」
「弟の花嫁のために君に早く出て行けだと? それは本当のことだったのか!」
公爵様の声に私はびくりとなってしまった。
私に怒鳴ったという訳ではないと分かっているけれど声が大きいので体が反射的に動いたのだ。
公爵様はそんな私にごほんと咳払いをすると気まずそうにされていた。
「ああ、大声で驚かせてしまったようだ。私は騎士団でいたからどうしても声が大きくなってしまってね。その、君が良いならいつでもこの屋敷に来てくれてかまわない。家令のエバンスに言って準備をさせておこう」
「ありがとうございます。公爵様」
「リチャードだ」
「え?」
「婚約するのだ。名前で呼んでくれ。リリエラ」
真っ直ぐ目を合わせて公爵様の形の良い口から名を呼ばれると心臓がどきりと跳ねた。
「り、リチャード様。あの、それではお言葉に甘えて荷物をまとめ次第こちらでお世話になろうと思います」
「そうか、ではうちの家令のエバンスにそのように手配を頼んでおこう」
私は早速公爵家の馬車を借り、といっても家紋は無しの簡素なものをお借りした。それでも伯爵家の古びた馬車よりは立派な物だった。
公爵家の寂れた庭を見てここからまず手を入れないと……。そんなことを考えていた。
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