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第一章 覚 醒
二十五 忍び寄るもの
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西の樹海の街の冒険者ギルドの前でハーレムパーティを見つけたけれどその中の一人の女性があり得ないほどの大荷物を背中に背負っていた。その人の服装もボロボロで顔も全身泥まみれの酷い有様だった。辛うじて女性と分かるのは結った長い髪と緩やかな体のラインだった。
侮蔑の表情に罵声を浴びせたあと、さっさと先に行くパーティメンバーの後ろから大荷物を背負っても確かな足取りでその人はついていった。
――まあ、なんて酷いの……。それでも通りすがりの者にパーティメンバーへ口出しはできないしね。
冒険者は危険な仕事だから本人の意思が強く尊重されるのでギルドでさえ口を挟むのは憚られるところがある。というのを元冒険者が出した手記を読んだことで知っている。
ガラハド卿が先頭で中に入るとギルドの中は活気に溢れていて外で感じた暗い闇のような靄は感じられなかった。
「よお! ガラハド。子守りは大変だな」
ずかずかと大声で男性が近寄って来た。
「やあ、サブマス。相変わらず元気そうだな。しかし、失礼なことを申すではない。不敬罪で吊るし上げるぞ」
「はいはい。上でギルマスがお待ちだぜ」
ガラハド卿の窘めは全く堪えていないようだった。彼の隣を通り過ぎるとき、一際強い視線を感じた上に私にだけ分かるように呟いた。
「……へえ、こんな小さいのがねぇ。エードラムの紐付きかよ」
――何だか失礼な人。サブマスと言うことはこの西の樹海の街のギルドで二番目に偉いということじゃない。それも実務的なことはこの人が握っていてもおかしくないのに。
ギルド二階のギルドマスターの部屋に近づくほど闇は濃くなっていた。
……何だか暗い。照明をもっとつけた方が良いのではなくて?
マスターの部屋を開けるともっと酷かった。まるで瘴気のようなものまでギルドマスターから漏れ出しているように見えたのだった。
私はその黒い霧のようなもので気分が一層悪くなるのをぐっと我慢していた。ガラハド卿はそんなものなど見えないようにギルドマスターに挨拶をしていた。本当に見えてないのかも知れない。
お兄様は私の様子を覗っているので私の気分が悪いのに気がついたと思う。だけどこの視界の悪さに気がついてはいないようだった。
「王子様方、ようこそ我がギルドにいらっしゃいました」
穏やかに微笑むギルマスはとても美しい容貌の人だったけれど底知れぬ不気味なものを感じた。そしてなにより瘴気と言っていいほどの黒い何かがギルマスの体から溢れだしていたのだ。
でも、誰もそれに気がついてなさそう。
気が遠くなりそうだったけれどバタンとドアを開ける大きな音がして辛うじて正気に戻れた。するとそこにはあの失礼だったサブマスが入ってきた。
「よう、邪魔するぜ」
サブマスが入ってくると部屋の闇が急速に消えていく。何なの? この人は。
「よう、そこの王女様に来客だ。連れて行くぜ」
「いくらサブマスでも自由過ぎるぞ」
ギルマスの抗議もどこ吹く風といった様子で私に近づいた。傍でいるお兄様とバルドが警戒する。
「あんたの安全を絶対に保障する。それに気分が良くないのだろう? 騙されたと思ってついてこい」
私がお兄様とガラハド卿にどうしていいのか目線を送った。
「サブマスが言うのは理解できるが、確かにリルアは少し疲れてはいる。バルド、一緒について行ってくれ」
「はっ、畏まりました」
バルドともう二人ほど騎士団からの護衛が付き添った。ギルマスの部屋を離れると気分も楽になった。そして、階下に私が呼ばれた意味が分かった。
こんなところにいるはずのない人物がいたからだった。
「やあ、私の姫君」
「まさか、アラ……」
階下の一室に案内されて行くと既に先客がいて、笑顔でアラス様から挨拶をされてしまった。バルドは気がついて礼を取る。騎士団は戸惑いを見せたがバルドに倣った。
「ここでは冒険者アスランだ」
「お前はお姫様を追っかけてきたんだよな。嘘みてえだが。あのお前がねえ。同性愛説を通り越してロリだったとは……」
「ろ……、ど……」
「いろいろ違う! 失礼な。私は……」
「はいはい。それでエードラム帝国の紐付きのお嬢ちゃんはお疲れだから少し休ませてやりな」
サブマスは揶揄うようにアラス様に言う。以前からの知り合いのようでお互いに気安い感じだった。あのアラス様がいじられていた。
部屋にはサブマス、私の護衛騎士、バルド、アラス様。
――紐付きって、どういう意味なの? こ、婚約は便宜上で……。
「姫君、腹立たしい気持ちはとても分かるがこれでも現役のSSクラスの冒険者なのだ。許してやってくれ」
「アスラン様がそう仰るなら……。仕方ありませんわね。それでどうしてこちらに」
「いや、もともとこの街に訪問予定だったが、そなたが行くと聞いて繰り上げてやってきたのだ」
「まあそうなのですか」
モンスターの以上氾濫が聞こえていったのかしら? 今まで冒険者だったと仰っていたなら気になるわよね。
「それより、そなたの具合は良くないようだな。どれ」
そう言うとアラス様は恐れ多くも私を膝の上に抱っこをしたのだ。
侮蔑の表情に罵声を浴びせたあと、さっさと先に行くパーティメンバーの後ろから大荷物を背負っても確かな足取りでその人はついていった。
――まあ、なんて酷いの……。それでも通りすがりの者にパーティメンバーへ口出しはできないしね。
冒険者は危険な仕事だから本人の意思が強く尊重されるのでギルドでさえ口を挟むのは憚られるところがある。というのを元冒険者が出した手記を読んだことで知っている。
ガラハド卿が先頭で中に入るとギルドの中は活気に溢れていて外で感じた暗い闇のような靄は感じられなかった。
「よお! ガラハド。子守りは大変だな」
ずかずかと大声で男性が近寄って来た。
「やあ、サブマス。相変わらず元気そうだな。しかし、失礼なことを申すではない。不敬罪で吊るし上げるぞ」
「はいはい。上でギルマスがお待ちだぜ」
ガラハド卿の窘めは全く堪えていないようだった。彼の隣を通り過ぎるとき、一際強い視線を感じた上に私にだけ分かるように呟いた。
「……へえ、こんな小さいのがねぇ。エードラムの紐付きかよ」
――何だか失礼な人。サブマスと言うことはこの西の樹海の街のギルドで二番目に偉いということじゃない。それも実務的なことはこの人が握っていてもおかしくないのに。
ギルド二階のギルドマスターの部屋に近づくほど闇は濃くなっていた。
……何だか暗い。照明をもっとつけた方が良いのではなくて?
マスターの部屋を開けるともっと酷かった。まるで瘴気のようなものまでギルドマスターから漏れ出しているように見えたのだった。
私はその黒い霧のようなもので気分が一層悪くなるのをぐっと我慢していた。ガラハド卿はそんなものなど見えないようにギルドマスターに挨拶をしていた。本当に見えてないのかも知れない。
お兄様は私の様子を覗っているので私の気分が悪いのに気がついたと思う。だけどこの視界の悪さに気がついてはいないようだった。
「王子様方、ようこそ我がギルドにいらっしゃいました」
穏やかに微笑むギルマスはとても美しい容貌の人だったけれど底知れぬ不気味なものを感じた。そしてなにより瘴気と言っていいほどの黒い何かがギルマスの体から溢れだしていたのだ。
でも、誰もそれに気がついてなさそう。
気が遠くなりそうだったけれどバタンとドアを開ける大きな音がして辛うじて正気に戻れた。するとそこにはあの失礼だったサブマスが入ってきた。
「よう、邪魔するぜ」
サブマスが入ってくると部屋の闇が急速に消えていく。何なの? この人は。
「よう、そこの王女様に来客だ。連れて行くぜ」
「いくらサブマスでも自由過ぎるぞ」
ギルマスの抗議もどこ吹く風といった様子で私に近づいた。傍でいるお兄様とバルドが警戒する。
「あんたの安全を絶対に保障する。それに気分が良くないのだろう? 騙されたと思ってついてこい」
私がお兄様とガラハド卿にどうしていいのか目線を送った。
「サブマスが言うのは理解できるが、確かにリルアは少し疲れてはいる。バルド、一緒について行ってくれ」
「はっ、畏まりました」
バルドともう二人ほど騎士団からの護衛が付き添った。ギルマスの部屋を離れると気分も楽になった。そして、階下に私が呼ばれた意味が分かった。
こんなところにいるはずのない人物がいたからだった。
「やあ、私の姫君」
「まさか、アラ……」
階下の一室に案内されて行くと既に先客がいて、笑顔でアラス様から挨拶をされてしまった。バルドは気がついて礼を取る。騎士団は戸惑いを見せたがバルドに倣った。
「ここでは冒険者アスランだ」
「お前はお姫様を追っかけてきたんだよな。嘘みてえだが。あのお前がねえ。同性愛説を通り越してロリだったとは……」
「ろ……、ど……」
「いろいろ違う! 失礼な。私は……」
「はいはい。それでエードラム帝国の紐付きのお嬢ちゃんはお疲れだから少し休ませてやりな」
サブマスは揶揄うようにアラス様に言う。以前からの知り合いのようでお互いに気安い感じだった。あのアラス様がいじられていた。
部屋にはサブマス、私の護衛騎士、バルド、アラス様。
――紐付きって、どういう意味なの? こ、婚約は便宜上で……。
「姫君、腹立たしい気持ちはとても分かるがこれでも現役のSSクラスの冒険者なのだ。許してやってくれ」
「アスラン様がそう仰るなら……。仕方ありませんわね。それでどうしてこちらに」
「いや、もともとこの街に訪問予定だったが、そなたが行くと聞いて繰り上げてやってきたのだ」
「まあそうなのですか」
モンスターの以上氾濫が聞こえていったのかしら? 今まで冒険者だったと仰っていたなら気になるわよね。
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