誘惑の延長線上、君を囲う。

桜井 響華

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新たな居場所

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美鈴ちゃんが勤務している3号店に仕事で立ち寄った。美鈴ちゃんに会う前に腫れぼったい目がいつも通りに戻って良かった。余計な詮索をされなくて済む。

「佐藤さん、何だかイライラしてません?入力の仕方が激しいから」

「え?そうかな?」

お客様が途切れた時に美鈴ちゃんが私に近寄り、話し掛けてきた。店舗にあるデスクトップPCから作業をしていると、美鈴ちゃんに指摘を受ける。確かに入力中に日下部君の事を思い出しては、指に力が入っていたかもしれない。

啖呵をきったのは良いけれど、あれから伊能さんからは連絡は無い。本当に私と一緒にクリスマスを過ごしたいと思ってくれているのか、と疑問に思う程にメッセージも何も無し。忙しいのかな?……それとも私が告白の返事もしてないから気まづいのかな?

「佐藤さんがイライラしてる時は勝手に日下部さん絡みだと思ってます。そんな時は大抵、日下部さんもイライラしてますから。二人共、同じなんです。イライラしてると異様に入力の仕方が荒いし、マウスもカチカチし過ぎるし。こう言ったらなんですけど……、分かりやすいし似たもの同士な感じがしますよ」

「はぁ?私と日下部君が似てる?ないないない、それは無いでしょー」

美鈴ちゃんは笑いながら、「本人達が気付かないだけで似てますよ。普段は仕事がキッチリしてるのに、仕事以外の事が頭に残っている日は凡ミスしてるし、上機嫌の時は分かりやすくてお菓子のお土産くれます。仕事上では怒られる日もありますけど、ムチと飴の使い方が上手いし……」と私に向かって言ってきた。

まぁ、確かにご名答だわ。日下部君もそんなところがあるよね。

「そして、お二人は何故か、本当に言いたい事って隠してると思うんですよ!早く言ったら良いのに!って、常に思います」

それはまさかの……!

「もうすぐクリスマスなんだから、気持ちを伝えてラブラブしましょうよ。ね?」

私の気持ちは、もしかして周囲にバレバレだったのかな?似たもの同士の話から、こんな話に発展すると思わなかった。私は痛いところを突かれて、顔に火照りを感じる。頬が熱い。なんて答えたら良いのか、言葉に出来ない。素直に好きだとも言い出せない。

「日下部さんも佐藤さんも素直じゃないんだから!そろそろ、私は上がり時間なので引き継ぎして来ますね!」

美鈴ちゃんにバシバシと背中を叩かれて、我に返った。以前からも美鈴ちゃんには言われてるけれど、彼女には日下部君が私を好きだと見えているんだよね。

けれども、都合の良い嬉しい話だけを鵜呑みにしてはいけない。日下部君の内心なんて、誰も分かりはしないんだから。

美鈴ちゃんが帰った後、3号店での仕事を終えた私は本社に戻ろうと駅に向かった。美鈴ちゃんに言われた事をぼんやりと思い出しながら、電車に揺られる。

クリスマスは伊能さんと過ごすにして、その前に日下部君に想いを伝えた方が良いのかな?なんて思ったりもして。でも、やっぱり……怖さが勝ってしまう。

断ち切ると決めたんだから、華麗に散れば良いじゃない?伊能さんに癒して貰えるんだから振られたって良いじゃない?

……こんな考え方じゃ、伊能さんはただの当て馬だな。本当に失礼極まりない。

高校時代からの想いを断ち切らないと前に進めないなら、一歩を踏み出す。そして、想い出も捨てよう。日下部君に啖呵をきったけれど、伊能さんと過ごすのもやめよう。余りにも伊能さんに失礼だもの。

「佐藤さん……?」

JRの改札口を抜けて私鉄の改札口に向かっていたら、こちらに向かって歩いていた伊能さんに偶然出会った。カツカツとヒールを鳴らしながら早い速度で歩いていた私を見つけて、顔が赤くなっていた。スーツ姿の伊能さんの左手には小さな紙袋が握られていた。

「わぁ、偶然ですね!お疲れ様です!」

「お、お疲れ様です」

「お買い物ですか……?」

「今日、たまたま半休が取れて……、仕事帰りにブラブラと買い物してました」

伊能さんは私に見られないように小さな水色の紙袋を背中に隠した。伊能さんは私から目線を外し、「あ、あの……クリスマスはどうなりましたか?」と聞いてきた。真っ赤な顔を覆い隠すように右手を顔にあてている伊能さんが、いじらしい。照れているのだ。

「やっぱり駄目、ですか?」

「駄目じゃないんですけど……、私的な事情がありまして……」

「同居人の方の件ですか?」

「え?まぁ、そんなとこなんですが……」

どうして同居人にこだわるのだろう。やはり、同居人が気になっているんだな。彼氏だと思われてるんだろうなぁ……。

「今日、会ったのも運命だと思うんで……、今、渡しますね。実はクリスマスの返事を貰ってないのに勝手に浮かれてしまい、プレゼントを選んでしまいました!も、もしも……付き合って頂けるなら、コレをつけてクリスマスに待ち合わせ場所に来て下さい!店員さんに選んで貰ったので、きっと気に入って貰えると思ってますが……気に入らなかったらごめんなさい!そして、返事がNOな場合は待ち合わせ場所に来なくて大丈夫です。待ち合わせ時間から30分待っても来ない場合は諦めますから……!」

真っ赤になりながら、しどろもどろに話す伊能さんが可愛い。童顔な顔が更に童顔に見える。伊能さんに小さな紙袋を差し出されたが、私は手を伸ばせなかった。真っ直ぐに気持ちを伝えてくれる人って良いなぁ。伊能さんを好きになれたら、どんなに幸せだったのかな?

「さ、佐藤さん……?そんなに俺からの誘いが嫌だった?」

「ち、違っ。そうじゃない、んです……」

立ち止まっている私達は、隅に居るにもかかわらずにすれ違う人にジロジロ見られる。それもそのはず、私がボロボロと泣き出してしまったから。

日下部君が伊能さんだったら良かったのに。良い大人なくせして、青春時代の恋愛から抜け出せない。

苦しくて切ない。
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