社内恋愛の絶対条件!"溺愛は退勤時間が過ぎてから"

桜井 響華

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条件1:業務外の報告禁止!

沈黙は続いて、しばらく無口のままドライブした後、目的地周辺まで来たのか細い路地裏の駐車場に車を停めた。

辿り着いた先は、照明をダウンさせ、中央にグランドピアノが置いてある落ち着いたカフェバーだった。

「いらっしゃいま…、大貴久しぶり。仕事お疲れ様」

「お疲れ様…」

相良さんの後ろに隠れる様にして、店内へと進む。

カウンターに居る若いバーテンダーと相良さんは知り合いらしく、店に入るなり挨拶を交わしていた。

「今日は女の子連れ?珍しいね!1曲弾いてあげたら?」

「今日はやめとく…」

そんな会話が聞こえたので、座ると同時に興味本位で質問する。

「ピアノ弾けるんですか?」

「……弾けますけど、大して上手ではありません。それより、何を注文しましょうか?」

あっさりと流されて、話の流れがオーダーへと転換された。

オーダーも大事だけども、少しくらい話題を膨らませてくれても良いのに…。

「私は運転もありますしカフェオレにしますが、胡桃沢さんは飲みたいものを注文して下さい。帰りは送りますから、遠慮なくどうぞ」

「送ってくれるんですか?でも、ここから遠いかもしれませんよ?」

「連れ出したのは私なので、きちんと送らせていただきます」

「あっ…ありが、と、ござい…ます…」

相良さんは表情を変えないままにサラリと言ってのけたが、私には重大な内容だ。

車でドライブして、カフェバーで過ごし、帰りは送って貰えるなんて完全なるデート。

告白の返事を待たずして、私は舞い上がってしまう。

「お待たせしました、お任せカクテルです」

お言葉に甘えて、甘めのカクテルをオススメで作って貰った。

「可愛い…!」

運ばれて来たのは、大きめな深めのグラスにフルーツの角切りが入った、苺味のカクテルだった。

見た目がとにかく可愛くて、思わずうっとりしてしまう。

「彼女、可愛いから特別ね。大貴、後から紹介してよ」

「……紹介するも何も、彼女は同僚で…」

「ハイハイ、また手が空いたら来るから!彼女、ゆっくりしていってね」

相良さんが同僚だと言った直後、相良さんを否定するかの様に返事をし、バーテンダーは私に微笑みを残してからカウンターへと去った。

カフェミュージックには、有線からジャズピアノの演奏が流れている。

薄暗い照明の下で、角席に座る私達。

カクテルの中のフルーツをスプーンですくって口に頬張りながら、考える。

私達は、他のお客様に彼氏彼女に見られているのだろうか?

左手でソーサーを押さえ、右手でカフェオレのカップを持ち平然と飲んでいる相良さんの胸の内が知りたい。

相良さんが注文してくれたオススメ料理が出揃い、取り分けながら聞いてみる。

「…あの、告白の返事をいただけたら…と思うのですが…」

タイミングも分からず思い立ったままに聞き、心臓の鼓動が早くなった。

どうせ断られるなら、期待しない内が良い。

誘って貰えたからと浮かれていては、駄目だ。

「……勤務外ならいいですよ」

カチャリ、とソーサーにカフェオレのカップを置き、私の顔を見て答えた。

「……え?」

上を向かない様にわざとゆっくり取り分けをした私は予想外の返事に驚き、取り分け様のトングを握り締めたまま、相良さんを見た。

「……いや、だから、退勤押してからなら、お付き合いしましょう…って事です」

そう言った相良さんは口角を上げて、少しだけ笑った様に見えた。

お断りされるとばかり思っていた私は咄嗟の返事に返す言葉もなく、目を見開いて瞬きをし、驚きを隠せなかった。

「…ただし、条件があります。私は副社長専属の秘書ですので、社内ではお付き合いしている事は他人には言わないでいただきたいのですが…」

「は、はいっ。勿論、誰にも言いません!」

「それから社内では他人の振りをして下さい。噂が立つと副社長にもご迷惑がかかる場合もありますので…」

「分かりました、絶対に守ります!」

憧れていた相良さんとお付き合い出来るなんて夢の様で、信じられない。

社内恋愛するんだもの、相良さんの出した条件は必ず守る事にする。

「…答えが聞けて安心したから、お腹が空きました。食べてもいいですか?」

「どうぞ、召し上がれ」

相良さんから返事を貰い、悩み事がなくなった途端、お腹が空いてきた。

取り分けたビーフシチューのお肉がとても柔らかくて美味しいし、オリジナルドレッシングをかけてフリフリ振ってから食べる瓶に入ったサラダも、野菜が中心となっている盛り合わせのプレートも全部が美味しい。

カクテルも料理も美味しいし、目の前に相良さんも居るし、こんなに幸せで良いのでしょうか?

悩んでいた気持ちが嘘の様に消えていく。

心の中は今、幸せで満たされている。

「カクテルおかわりしますか?」

「今度は綺麗な色のカクテルが良いです」

次に届いたのは、澄んだ海の色みたいなブルーのカクテル。

キラキラしていて、凄く綺麗。

会社帰りに寄る、ジャズが流れている落ち着いた雰囲気のカフェバーに彼氏の車で送り付き。

何もかも初めてで胸が踊る。

「カフェオレ好きなんですか?」

「暖かいカフェオレを飲むと心が和みます」

少しづつ、相良さんの事を知っていこう。

距離感もゆっくり縮めていこう。

……と思っていたのに、私はやらかしてしまいました!

「おはようございます!胡桃沢さん、起きて下さい!」

何だろう、どこからか相良さんの声がする。

ゆっくりと目を覚ますと目の前に相良さんが居た。

辺りを見渡すと知らない部屋にベッドが二つある、ビジネスホテルの様な狭い空間。

二つあるベッドの一つに私は寝ていた様だ。

昨日の夜は相良さんにカフェバーに連れて行って貰って、カクテルとお料理を頂いて、それからは…記憶がない。

「…洋服、来てる!」

「…胡桃沢さんは酔いつぶれて寝てしまいました。安心して下さい、何もしてませんから」

記憶を辿りながら布団をめくると洋服は脱いだ様子もなく、昨日の服装のままだった。

相良さんは冷静なのに対して、私は知らぬ間に何かしちゃったかも?と思い、洋服の有無を確認してしまった。

迷惑をかけた分際なのに、この後に及んで、"何か"を期待していた私は恥ずかしくて頬が赤くなる。

「まだ早い時間ですが着替えなど必要でしょうからお声かけました。それより、無断外泊になってしまいましたが大丈夫でしょうか?」

まだベッド上に座って居る私に、ネクタイを締め直しながら相良さんが問いかける。

伏し目がちな姿もカッコイイ!…と見とれている場合じゃなくて、
「一人暮らししてますから大丈夫です」
と遅れながらも返事をする。

「……胡桃沢さん、1つ忠告しときますが、無防備過ぎるのもどうかと思いますよ。自分の身は自分でしか守れませんからね。

今も、」

相良さんは途中で話を止めて、チラリと私の姿を見ると

「私が男である事を忘れないで下さい」

と言い切り、窓際の椅子に座った。

髪の毛はボザボサだし、ブラウスもスカートもはだけていて、下着は見えないギリギリのラインで肌が露出していた。

は、恥ずかしいっ!

朝の5時に起こされて、準備が整い次第、自宅のアパートまで送ってくれた。

付き合う事になった初日から、酔いつぶれて失態を晒し迷惑をかけて、無防備過ぎるとお叱りを受け、この先、行き先不安です───……
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