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条件2:社内では接近禁止!
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秋葉さんが降りた後、その場では自分の携帯の番号を相良さんに渡してもらうとか思いつかずに自分自身にガッカリした。
せっかくのチャンスを無駄にした感じだった。
あーぁ、我ながら機転の効かない女だな、私は…。
「おかえりなさい、先輩。頼まれていたデータ入力が終わったので、届けて来ますね」
「うん、お願いします」
会議室の掃除当番から戻ると、すぐに奈子ちゃんは席を外した。
奈子ちゃんが席を外してから来客は一件、その後はまたデータ入力作業。
「お疲れ様です。相良さんから頼まれました。では、また!」
データ入力作業に夢中になっていたら、目の前には秋葉さん。
小さいメモ紙を2つ、私の前にカサッと差し出して、お礼を言う間もなく、バイバイと可愛らしく手を振って行ってしまった。
奈子ちゃんも居ないので、来客が居ない内にメモ紙を広げる。
1つは携帯の番号に相良と記載されていた。
もう1つは手紙で、"くるみさわさんへ。相良さんの番号です。会えない時はかけてみてね。ついでに私の番号とアドレスです。良かったら仲良くして下さい(^^)"と書いてあった。
う…、嬉し過ぎるっ!
秋葉さんが副社長繋がりで私達の関係を知ったのかも知れないが、気遣いの根回しが早すぎる。
仕事の出来る女性は気遣いも出来るのね…!
さっき初めて会って話したのに、こんなにも優しく出来ちゃうなんて秋葉さんって内面も素敵な女性なんだな、と改めて実感。
メモ紙2つは奈子ちゃんが帰って来る前に、そっとポケットにしまう。
退勤時間になるまで、私はそわそわを抑えきらずに奈子ちゃんに怪しまれながらも仕事をこなして、時間になるとすぐに会社の外に出た。
エアコンの効いた社内とは正反対の暑さにぐらつきながら、足早に会社付近の公園に向かう。
汗ばむ身体を隠すように木陰に座り、メモ紙2つを取り出してスマホに登録する。
……これで、よしっと。
登録するとすぐにメッセージアプリから、"新しいお友達が登録されました"と更新があり、秋葉さんが登録された事に気付く。
すかさず秋葉さんにお礼のメッセージを送り、スマホを握りしめる。
そう言えば相良さんは?
メッセージアプリから、相良さんが登録されたお知らせがないので相良さんは利用してはいないかIDを設定しているのかもしれない。
もっと仲良くなりたいけれど、今、ここで電話しても良いものかどうか?
まだ勤務中だろうか?
私が相良さんに会える唯一の方法は、電話をする事しかない。
勤務中だと怒られても良いので電話してしまおうか?
私は思いを抑えきらずに、相良さんの連絡先をタップして電話をかける。
会いたい、声が聞きたい、話をしたい。
「……相良です」
出て欲しいと願いを込め、スマホを握りしめて耳に充てる。
何回目かのコールで心地良い低音ボイスが、耳に流れた。
「…あ、あの、わ、私…くるみ、…」
「…まだ勤務中です。勤務中は接近禁止と言ったはずです。勿論、電話も一緒の扱いです」
怒られる事は分かっていた。
……それでも相良さんと会いたくて、話したくて、けれども面と向かって言われるよりも電話で言われた方が言い方がよりキツく聞こえるなぁ…。
「ご、めんなさ、い…失礼しま、す…」
とだけ言い、電話を一方的に切った。
額に汗がうっすらと滲んで、目からは涙がボロボロとこぼれ落ちる。
私が告白して、私だけが相良さんを好きで、相良さんは仕方なくお付き合いしてくれると言ってくれたのかもしれない。
そんな事も分かってはいたけれど、現実がリアルで、なんて惨めなんだろう。
一人で浮かれて、はしゃいで、滑稽以外の何物でもない。
暑い中、公園に居ても無意味だ。
会社近くの公園に居たのは、電話をしたら相良さんと会えると思っていたからだ。
会えないのなら待つ必要もないし、公園から立ち去ろう。
こんなにも苦しくなるなら、片思いをしていた毎日の方が楽しかったよ。
「……ここに居たんですねっ、胡桃沢、さん」
「………!?」
「探しました、先ほどはすみませんっ…」
とぼとぼとゆっくり公園を歩いていた私の目の前には、一番会いたかった人物が居た。
息を切らして、眼鏡も少しズレ落ちていて、いつもからは想像出来ない姿をしている。
「…相良さん!?」
「あまり走るのは得意ではなくて、カッコ悪いのですが…。勤務中でしたし、副社長も隣におりまして、…あんな言い方しか出来なくてはすみませんでした」
息切れを少し残しつつ、相良さんは話しながら深々とお辞儀をする。
唖然としてしまった私の涙は自然に乾き、目の前の相良さんが愛おしくて抱き着く。
先程の電話の冷たさは何だったのか?
何故、息を切らしてまで探しに来てくれたのだろうか?
推定180センチはあるだろう相良さんに、155センチの私はすっぽりと収まる。
「…今日、秋葉さんから番号を教えて貰いました。相良さんに会いたくて仕方なくて、つい電話をかけてしまいました。勤務中かな?とは思ったんですけど…」
「最近忙しくて、帰りも遅いです。…なので、平日はしばらく会えません。先に言うべきでしたね」
上を見上げると相良さんの顔が近くに見えたので、これはこのままキスされちゃうのかな?とか抱き締め返してくれるのかな?と妄想したのも束の間、
「…なので、金曜日の夜まで大人しくしていて下さいね」
と言われて、抱きついていた身体を引き離された。
あれ?
「では、また」
先程までの焦った様子の姿はなくクールな相良さんに戻り、過ぎ去ろうとしたので腕を掴み引き止めた。
「あ、あのぉ…電話じゃなくて、メールならしても良いですか?」
「はい、返信は遅くなると思いますが…」
上目遣いで見て訴えるが、相良さんは動じない様で無表情のまま。
「それでもかまいません!メールならいつ送ってもいいですか?」
「…仕方ないですね、アドレス交換しましょう」
少しだけ、口角を上げて私に向けて微笑んだ気がした。
ドキン、と胸が跳ね上がる。
会社付近でも接近禁止と言われ、落ち込みを隠せなかったがメールは仕事中でも大丈夫だと言われたので少し回復中。
去り際、
「胡桃沢さんて、本当に小さいですね」
と頭をポンポンと軽く叩かれた。
不意打ちに驚き、顔に火照りを感じる。
何を考えて、頭をポンポンして来たのだろう?
本人には聞けないけれど、私には特別に感じられて嬉しかった。
帰りは別々に離れて歩いたのだが、頭を触られた感触が残っていて相良さんの後ろ姿にキュンとしっぱなし。
相良さんの手は大きくて、指が長く、骨張っていた。
帰りの電車に揺られながら、自分の手を眺めては思い出す。
手を繋ぎたい、触れられたい。
相良さんに近付けば近付く程、欲が出る。
メールを送りたいけれど、気の利いた言葉も出ずにありきたりな文章、"今日はありがとうございました。金曜日の夜、楽しみにしています"とドキドキしながら文字を入力した。
返事は直ぐに来ないだろうと油断していると、割かし早くきて、"みっともない姿をお見せしてしまい申し訳ありませんでした。金曜日、なるべく早く上がれるように調整します"と返ってきた。
相良さんの事だから、勤務中は返信しないと思うので退勤押した後なのかもしれない。
彼氏彼女になった様で舞い上がり、電車内でニヤついてしまい、他人からヒソヒソ話をされて恥ずかしい思いをしたのは誰にも内緒────……
せっかくのチャンスを無駄にした感じだった。
あーぁ、我ながら機転の効かない女だな、私は…。
「おかえりなさい、先輩。頼まれていたデータ入力が終わったので、届けて来ますね」
「うん、お願いします」
会議室の掃除当番から戻ると、すぐに奈子ちゃんは席を外した。
奈子ちゃんが席を外してから来客は一件、その後はまたデータ入力作業。
「お疲れ様です。相良さんから頼まれました。では、また!」
データ入力作業に夢中になっていたら、目の前には秋葉さん。
小さいメモ紙を2つ、私の前にカサッと差し出して、お礼を言う間もなく、バイバイと可愛らしく手を振って行ってしまった。
奈子ちゃんも居ないので、来客が居ない内にメモ紙を広げる。
1つは携帯の番号に相良と記載されていた。
もう1つは手紙で、"くるみさわさんへ。相良さんの番号です。会えない時はかけてみてね。ついでに私の番号とアドレスです。良かったら仲良くして下さい(^^)"と書いてあった。
う…、嬉し過ぎるっ!
秋葉さんが副社長繋がりで私達の関係を知ったのかも知れないが、気遣いの根回しが早すぎる。
仕事の出来る女性は気遣いも出来るのね…!
さっき初めて会って話したのに、こんなにも優しく出来ちゃうなんて秋葉さんって内面も素敵な女性なんだな、と改めて実感。
メモ紙2つは奈子ちゃんが帰って来る前に、そっとポケットにしまう。
退勤時間になるまで、私はそわそわを抑えきらずに奈子ちゃんに怪しまれながらも仕事をこなして、時間になるとすぐに会社の外に出た。
エアコンの効いた社内とは正反対の暑さにぐらつきながら、足早に会社付近の公園に向かう。
汗ばむ身体を隠すように木陰に座り、メモ紙2つを取り出してスマホに登録する。
……これで、よしっと。
登録するとすぐにメッセージアプリから、"新しいお友達が登録されました"と更新があり、秋葉さんが登録された事に気付く。
すかさず秋葉さんにお礼のメッセージを送り、スマホを握りしめる。
そう言えば相良さんは?
メッセージアプリから、相良さんが登録されたお知らせがないので相良さんは利用してはいないかIDを設定しているのかもしれない。
もっと仲良くなりたいけれど、今、ここで電話しても良いものかどうか?
まだ勤務中だろうか?
私が相良さんに会える唯一の方法は、電話をする事しかない。
勤務中だと怒られても良いので電話してしまおうか?
私は思いを抑えきらずに、相良さんの連絡先をタップして電話をかける。
会いたい、声が聞きたい、話をしたい。
「……相良です」
出て欲しいと願いを込め、スマホを握りしめて耳に充てる。
何回目かのコールで心地良い低音ボイスが、耳に流れた。
「…あ、あの、わ、私…くるみ、…」
「…まだ勤務中です。勤務中は接近禁止と言ったはずです。勿論、電話も一緒の扱いです」
怒られる事は分かっていた。
……それでも相良さんと会いたくて、話したくて、けれども面と向かって言われるよりも電話で言われた方が言い方がよりキツく聞こえるなぁ…。
「ご、めんなさ、い…失礼しま、す…」
とだけ言い、電話を一方的に切った。
額に汗がうっすらと滲んで、目からは涙がボロボロとこぼれ落ちる。
私が告白して、私だけが相良さんを好きで、相良さんは仕方なくお付き合いしてくれると言ってくれたのかもしれない。
そんな事も分かってはいたけれど、現実がリアルで、なんて惨めなんだろう。
一人で浮かれて、はしゃいで、滑稽以外の何物でもない。
暑い中、公園に居ても無意味だ。
会社近くの公園に居たのは、電話をしたら相良さんと会えると思っていたからだ。
会えないのなら待つ必要もないし、公園から立ち去ろう。
こんなにも苦しくなるなら、片思いをしていた毎日の方が楽しかったよ。
「……ここに居たんですねっ、胡桃沢、さん」
「………!?」
「探しました、先ほどはすみませんっ…」
とぼとぼとゆっくり公園を歩いていた私の目の前には、一番会いたかった人物が居た。
息を切らして、眼鏡も少しズレ落ちていて、いつもからは想像出来ない姿をしている。
「…相良さん!?」
「あまり走るのは得意ではなくて、カッコ悪いのですが…。勤務中でしたし、副社長も隣におりまして、…あんな言い方しか出来なくてはすみませんでした」
息切れを少し残しつつ、相良さんは話しながら深々とお辞儀をする。
唖然としてしまった私の涙は自然に乾き、目の前の相良さんが愛おしくて抱き着く。
先程の電話の冷たさは何だったのか?
何故、息を切らしてまで探しに来てくれたのだろうか?
推定180センチはあるだろう相良さんに、155センチの私はすっぽりと収まる。
「…今日、秋葉さんから番号を教えて貰いました。相良さんに会いたくて仕方なくて、つい電話をかけてしまいました。勤務中かな?とは思ったんですけど…」
「最近忙しくて、帰りも遅いです。…なので、平日はしばらく会えません。先に言うべきでしたね」
上を見上げると相良さんの顔が近くに見えたので、これはこのままキスされちゃうのかな?とか抱き締め返してくれるのかな?と妄想したのも束の間、
「…なので、金曜日の夜まで大人しくしていて下さいね」
と言われて、抱きついていた身体を引き離された。
あれ?
「では、また」
先程までの焦った様子の姿はなくクールな相良さんに戻り、過ぎ去ろうとしたので腕を掴み引き止めた。
「あ、あのぉ…電話じゃなくて、メールならしても良いですか?」
「はい、返信は遅くなると思いますが…」
上目遣いで見て訴えるが、相良さんは動じない様で無表情のまま。
「それでもかまいません!メールならいつ送ってもいいですか?」
「…仕方ないですね、アドレス交換しましょう」
少しだけ、口角を上げて私に向けて微笑んだ気がした。
ドキン、と胸が跳ね上がる。
会社付近でも接近禁止と言われ、落ち込みを隠せなかったがメールは仕事中でも大丈夫だと言われたので少し回復中。
去り際、
「胡桃沢さんて、本当に小さいですね」
と頭をポンポンと軽く叩かれた。
不意打ちに驚き、顔に火照りを感じる。
何を考えて、頭をポンポンして来たのだろう?
本人には聞けないけれど、私には特別に感じられて嬉しかった。
帰りは別々に離れて歩いたのだが、頭を触られた感触が残っていて相良さんの後ろ姿にキュンとしっぱなし。
相良さんの手は大きくて、指が長く、骨張っていた。
帰りの電車に揺られながら、自分の手を眺めては思い出す。
手を繋ぎたい、触れられたい。
相良さんに近付けば近付く程、欲が出る。
メールを送りたいけれど、気の利いた言葉も出ずにありきたりな文章、"今日はありがとうございました。金曜日の夜、楽しみにしています"とドキドキしながら文字を入力した。
返事は直ぐに来ないだろうと油断していると、割かし早くきて、"みっともない姿をお見せしてしまい申し訳ありませんでした。金曜日、なるべく早く上がれるように調整します"と返ってきた。
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