社内恋愛の絶対条件!"溺愛は退勤時間が過ぎてから"

桜井 響華

文字の大きさ
10 / 31
条件5*休憩中の密会禁止!

今日は週半ばの水曜日。

夢の様な先週の金曜日の夜から抜け出せずにいる私は、仕事中もボーッとする事が多かった。

データ入力をすればミスは起きるし、会議室を掃除すれば掃除機を倒してゴミをぶちまけてしまった。

そんな姿を見られたら、『浮つくな』と相良さんに指摘されてしまうだろう。

お昼の休憩時間になり、会社付近にあるパン屋さんでランチしようと公園を抜け道にする。

公園を通るとパン屋さんが近いのだ。

木陰を選んで進んで行くと猫の様な鳴き声がした。

「にゃぁ」

猫の鳴き声がした方向に歩き、付近のベンチを見渡すとトラ猫を膝に乗せた相良さんが座っていた。

「あっ!さ、相良さん!?…お疲れ様です」

木陰とは言え、真夏なので空からも地面からもジリジリと照りつける暑さ。

相良さんは暑さなどものともせず、猫の背中を撫でていた。

「お疲れ様です…」

仕事モードの相良さんはいつも通りの眼鏡に紺色のスーツ姿で、金曜日の姿とは掛け離れている。

猫を膝の上に乗せていても無表情で、ただ単に背中を撫でているだけな感じ。

猫も怖がらずに近寄るという事は、動物の本能が本当の姿を見抜いているのかもしれない。

ゴロゴロして、猫も懐いているみたい。

「猫好きなんですね」

私を見つけても、挨拶しか交わさない相良さんを覗き込むように問いかけた。

「人間1つくらいは好きなモノがあっても良いと思いますが…」

低い声のトーン、冷たい言い方で返事をされ、凹む。

会社付近では接近禁止なので、その反応は理解出来なくはないが、金曜日のデートの後だからか正直言ってキツい。

「お昼はもう済ませましたか?」

「はい、済みました」

ベンチの隅にはお弁当箱の包みが見えた。

「お弁当…ですか?」

「…毎朝、用意してあるので」

「…そうですか」

「…………」

会話が続かなくなってきた。

多分、相良さんは私に近寄って欲しくないのだろう。

分かりました、理解のあるフリをしてこの場を去ります。

「では、失礼します」

一礼をし、パン屋さんまで歩く。

そう言えば、相良さんはエチケットブラシ持っているかな?

猫の毛がスーツについてしまってるんじゃないか?

私はガザガサとバッグの中からエチケットブラシを取り出しUターンし、暑い中、急ぎ足で引き返す。

「はぁっ、良かった。まだ居た!はい、これ、使って下さいねっ。では、今度こそ失礼します」

戻ると相良さんはまだ同じ場所に座って居たので、ベンチにそっと置いてパン屋さんへと急いだ。

時間が少なくなってしまったので定番のパンを購入し、手早く口に放り込み、お茶で流し込む。

パン屋さんの中は涼しくて、足早に歩いて火照った身体を冷やしてくれた。

会社に戻る途中、バッグの中からスマホが震えているのに気付いて取り出す。

"心配されなくても、エチケットブラシくらい持ってる"

相良さんからのメールだったが、お礼の言葉はない訳ね!

…つまり、私が余計な事をしたと言いたい訳?

"余計なお世話をしてすみませんでした"と返信すると"いえ、ありがとう"と間隔を空けずに返信が戻ってきた。

今更、ありがとうって…?

素直じゃないから良く分からない。

相良さんの攻略方法があるならば知りたい。

けれどもメールをくれたり、気にかけてくれるので付き合っているんだと実感は出来る。

一歩ずつ、歩み寄って行こう。

スマホをバッグに戻し、公園通りを抜ける。

相良さんと猫の姿は既になかったが、思い出すと微笑ましかった。

またお昼休みに通ってみよう、っと。

指摘されるのは覚悟の上、で───……

金曜日、奈子ちゃんが体調不良の為に私は一人で受付カウンターに座っていた。

急な場合は他の派遣社員が捕まらない時もあり、一人で業務をこなす。

データ入力をこなしながら御案内をして、時にはお茶出しもする時もある。

パソコンと睨めっこしていた午後、カウンターにパサリと何かが置かれた。

目の前には相良さんが立っていて、置かれたのは先日のハンカチとエチケットブラシだった。

「お疲れ様です、ありがとうございました」

「お疲れ様です。こちらこそ、届けて頂きありがとうございます」

社交辞令の様な挨拶を交わし、スマートに過ぎ去る相良さんの後ろ姿を見てはキュンと心が締め付けられる。

ハンカチは隅々まで綺麗にアイロンがかけられ、エチケットブラシは貸した時以上に綺麗にメンテナンスされていた。

几帳面な相良さんらしい対応におもわず、笑みが溢れた。

適わないな、相良さんには…!

ハンカチとエチケットブラシをしまおうと手に取ると、ハンカチからカサカサと言う音がしたので広げると小さなメモが挟まっていた。

"土日の件、どうしたいかメール入れといて下さい"と手帳から切り取った様なメモに書かれていた。

相良さんの字はとても綺麗で、教科書のお手本の様だった。

真っ先に手帳に挟んで、私の宝物になる。

ハンカチもエチケットブラシも勿体なくて使えそうもなく、保管用になりそうだ。

一喜一憂して、些細な事でときめいて、まるで学生時代の様な恋。

今日は一人だから忙しいけれど、相良さんのおかげでやる気が増す単純な私。

仕事が終わったら、早速メールしよう。

ミニレターに書かれていた内容を思い出す。

土日はどうしたいのかを決めてと書かれていたいたので、完全に私に決定権を委ねられた事になる。

どうしようか…?

"土日"という事はお泊まりなのか、両方会えるという事なのか、どちらなんだろう?

夜中になってしまった先日の帰り、仮眠するかどうかを訪ねたら、親切心よりも下心を見抜かれてしまった様で注意を受けたのを思い出した。

お泊まりの計画を立てれば、また注意を受け兼ねないが、こないだの別れ際のキスは相良さんもまだ一緒に居たかったという印なのかな?

何度か"和奏"って呼んでくれたのに、いつの間にか"胡桃沢さん"に戻っていたし…。

そもそも、相良さんは私をからかっているのが面白いだけで好きではないのかな?

好きではなくてもキスは出来るもの?

様々な憶測が頭を過ぎるけれど、相良さんが私の事を好きでも、好きではなくても、私の方がどうしようもなく好きでも、今はただ単に一緒にいたい。

そうだ、二日間あるならば、一日ずつ決めるのはどうだろう?

昼間のデートは初めてだから、相良さんに呆れられない様に計画を立てないと!

感想 0

あなたにおすすめの小説

それは、ホントに不可抗力で。

樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。 「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」 その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。 恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。 まさにいま、開始のゴングが鳴った。 まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。

公爵様のバッドエンドを回避したいだけだったのに、なぜか溺愛されています

水錵 咲
恋愛
お気に入り小説の世界で名前すら出てこないモブキャラに転生してしまった! 『推しのバッドエンドを阻止したい』 そう思っただけなのに、悪女からは脅されるし、小説の展開はどんどん変わっていっちゃうし……。 推しキャラである公爵様の反逆を防いで、見事バッドエンドを回避できるのか……?! ゆるくて、甘くて、ふわっとした溺愛ストーリーです➴⡱ ◇2025.3 日間・週間1位いただきました!HOTランキングは最高3位いただきました!  皆様のおかげです、本当にありがとうございました(ˊᗜˋ*) (外部URLで登録していたものを改めて登録しました! ◇他サイト様でも公開中です)

先輩、お久しぶりです

吉生伊織
恋愛
若宮千春 大手不動産会社 秘書課 × 藤井昂良 大手不動産会社 経営企画本部 『陵介とデキてたんなら俺も邪魔してたよな。 もうこれからは誘わないし、誘ってこないでくれ』 大学生の時に起きたちょっとした誤解で、先輩への片想いはあっけなく終わってしまった。 誤解を解きたくて探し回っていたが見つけられず、そのまま音信不通に。 もう会うことは叶わないと思っていた数年後、社会人になってから偶然再会。 ――それも同じ会社で働いていた!? 音信不通になるほど嫌われていたはずなのに、徐々に距離が縮む二人。 打ち解けあっていくうちに、先輩は徐々に甘くなっていき……

逢いたくて逢えない先に...

詩織
恋愛
逢いたくて逢えない。 遠距離恋愛は覚悟してたけど、やっぱり寂しい。 そこ先に待ってたものは…

絶交した幼馴染と大学の合コンで再会した。

孤独な蛇
恋愛
中学生の浅野春樹は上級生と喧嘩騒動を起こしたことがあった。 その上、目つきが悪く地毛は茶髪のため不良少年のような扱いを受けて学校では孤立していた。 そんな中、幼馴染の深瀬志穂だけは春樹のことをいつも気遣ってくれていた。 同じ高校に行こうと声を掛けてくれる志穂の言葉に応えたい一心で受験勉強にも力を入れていた。 春樹にとって、学校で孤立していることは問題ではなかった。 昔から志穂が近くにいてくれるから……。 しかし、3年生なってから志穂の態度がよそよそしくなってきた。 登下校も別々になり、学校で話しかけてくることも無くなった。 志穂の心が自分から離れていってしまっている気がした春樹は焦っていた。 彼女と話がしたい。笑った顔が見たい。 志穂と一緒に帰ろうと、彼女が部活動を行っている体育館へ向かったのだが……。 そこで春樹が耳にしたのは、自分の悪口を言って部活の友達と楽しそうにしている志穂の声だった。 その瞬間、春樹の中で志穂に対する想いや信頼は……消滅した。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

イケメンエリートは愛妻の下僕になりたがる(イケメンエリートシリーズ第四弾)

便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC” 謎多き噂の飛び交う外資系一流企業 日本内外のイケメンエリートが 集まる男のみの会社 そのイケメンエリート軍団のキャップ的存在 唯一の既婚者、中山トオルの意外なお話 中山加恋(20歳) 二十歳でトオルの妻になる 何不自由ない新婚生活だが若さゆえ好奇心旺盛 中山トオル(32歳) 17歳の加恋に一目ぼれ 加恋の二十歳の誕生日に強引に結婚する 加恋を愛し過ぎるあまりたまに壊れる 会社では群を抜くほどの超エリートが、 愛してやまない加恋ちゃんに 振り回されたり落ち込まされたり… そんなイケメンエリートの ちょっと切なくて笑えるお話

時間を止めて ~忘れられない元カレは完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な人でした 【完結】

remo
恋愛
どんなに好きになっても、彼は絶対に私を愛さない。 佐倉ここ。 玩具メーカーで働く24歳のOL。 鬼上司・高野雅(がく)に叱責されながら仕事に奔走する中、忘れられない元カレ・常盤千晃(ちあき)に再会。 完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な彼には、悲しい秘密があった。 【完結】ありがとうございました‼