和詩集

江馬 百合子

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歌男

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伏せられた瞳が 哀しみの色に染まれど
この別れ言は野へ響かせよう
「これが今生の別れになるやも」
君を残して歩み続ける

優しき君の言の葉は
凩が運んでくれるだろう
声を枯らした歌だけが、私の希望だったのだ

雪に埋もれる 私の現世
雫に濡れる 君の隠り世
君の歌を導とし
千年先に会いましょう


震える歌声は もう此処までは届かない
君への最期の届文までも
「これが今生の別れになれど」
雪にのまれてしまうのだろう

凍えた君の指先を
この両の手で包みたかったが
愛しき君の歌舞が、私のもとへ届くなら

色の灯った私の隠り世
袖を濡らした君の現世
君の歌はやむことなく
千年先に会えるだろう

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