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魔人化
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「こちらリンドネル。大通りで魔人化を確認。暴走型だと判別。早急に対応します」
群衆の騒ぎで途切れ途切れだったが、使者が通信機でそう連絡しているのが聞こえた。そこで、我に帰る。
また、固まってしまっていた。
さっき青年がいた方向を見ると、奇声を発しながら周りの人々に襲い掛かろうとしている魔人がいた。その行動を使者が許すはずもなく、剣で魔人の攻撃を受け止める。
やっぱり、あの人は魔人になってしまったのだ。
「リュレン、セフィネル、移動するぞ。助ける術はない」
ルレファさんが私たちにそう声をかけ、リュレンさんは数秒迷いを見せたがうなずいた。
「……わかった」
ルレファは、リュレンがうなずいたのを見ると、できるだけ目立たないように裏路地に入ろうとした。後ろを振り向くと、あっという間に抑え込まれて、今にもとどめを刺されそうな魔人の姿があった。
「いか、なきゃ」
心に浮き上がる苦い感情を飲み込み、私もルレファさんの後についていこうと、一歩踏み出した、その時。微かに、何かの音がした。その瞬間は何の音かわからなかった。だが、脳は自分の意思とは関係なくその音を、声に、言葉に変換した。
――たすけて、くれ
「――っ!」
気のせいだ。頭が勝手に作り出した幻想だ。気にしてはいけない。早く、ルレファさんの所へ。
「リュレンさん、早く――?!」
今にも使者の前に飛び出しそうだったリュレンさんを、私は反射的に引き止めた。
「ダメです!リュレンさん!!」
胴体に腕を回し、引っ張ってでも行こうとしたが、やはり筋力も、能力も、体力も、体の大きさすら劣っている私では、引き止めるならまだしも、引っ張っていくのは不可能だった。
「離してくれ!確かに、確かに聞こえたんだ!もしかしたら、あの人は、まだ……!!」
「いい加減にしろリュレン!」
様子がおかしいと気づいたルレファも、リュレンを押さえつける。
「気のせいだろう。現実を見ろ……!!理性が戻った様子でもあったか?今目の前の状況を見ろ。使者はどうにかなるだろう。だが、その後どうする?理性が本当に戻ったかすら定かではない奴を連れて、ここを離れるのか?目撃者だらけのここだとすぐ居場所がばれるぞ。」
「――っ!」
リュレンは現実を叩きつけられながらも、まだ諦めきれないように、青年を見る。
「そうです!今ここで出たら、私たちも……!!」
「諦めろ、リュレン!!」
まだ何か反論しようとリュレンが口を開いたとき、群衆から、わっと歓声が上がった。
青年がいた方向を見ると、すでにとどめを刺されたようで、もう動かなかった。今まで別の人に押さえつけられていた青年の家族が、泣きながら遺体に駆け寄る。使者も、それを止めはしなかった。青年の体は、はらはらと少しづつ崩れるように崩壊していき、ついには無くなってしまった。
あれが、魔人の行く末だ。
「……いくぞ、リュレン」
ルレファは、奥歯を噛み締めているリュレンに、静かなトーンで声をかける。
「………ああ」
リュレンもそれに応じ、頼りない足取りで裏路地に向かっていった。
私はあとを追いながら、ふと後ろを振り向いた。
魔人討伐に歓喜する者、魔人の家族に同情する者。様々な人々がいる中で、魔人を討伐し功績を立てたであろう張本人の使者が、一番苦しそうに見えた。その使者は何を思ったのか、ふと顔を上げ、まっすぐこちらを見た。つい合ってしまった使者の目は、まるでどうしたらいいかわからない子供のように、揺らいでいるように見えた気がした。
きっと、気のせいだ。
私たちはそのまま裏路地に入り込み、お互いの視線は、そこで途切れた。
群衆の騒ぎで途切れ途切れだったが、使者が通信機でそう連絡しているのが聞こえた。そこで、我に帰る。
また、固まってしまっていた。
さっき青年がいた方向を見ると、奇声を発しながら周りの人々に襲い掛かろうとしている魔人がいた。その行動を使者が許すはずもなく、剣で魔人の攻撃を受け止める。
やっぱり、あの人は魔人になってしまったのだ。
「リュレン、セフィネル、移動するぞ。助ける術はない」
ルレファさんが私たちにそう声をかけ、リュレンさんは数秒迷いを見せたがうなずいた。
「……わかった」
ルレファは、リュレンがうなずいたのを見ると、できるだけ目立たないように裏路地に入ろうとした。後ろを振り向くと、あっという間に抑え込まれて、今にもとどめを刺されそうな魔人の姿があった。
「いか、なきゃ」
心に浮き上がる苦い感情を飲み込み、私もルレファさんの後についていこうと、一歩踏み出した、その時。微かに、何かの音がした。その瞬間は何の音かわからなかった。だが、脳は自分の意思とは関係なくその音を、声に、言葉に変換した。
――たすけて、くれ
「――っ!」
気のせいだ。頭が勝手に作り出した幻想だ。気にしてはいけない。早く、ルレファさんの所へ。
「リュレンさん、早く――?!」
今にも使者の前に飛び出しそうだったリュレンさんを、私は反射的に引き止めた。
「ダメです!リュレンさん!!」
胴体に腕を回し、引っ張ってでも行こうとしたが、やはり筋力も、能力も、体力も、体の大きさすら劣っている私では、引き止めるならまだしも、引っ張っていくのは不可能だった。
「離してくれ!確かに、確かに聞こえたんだ!もしかしたら、あの人は、まだ……!!」
「いい加減にしろリュレン!」
様子がおかしいと気づいたルレファも、リュレンを押さえつける。
「気のせいだろう。現実を見ろ……!!理性が戻った様子でもあったか?今目の前の状況を見ろ。使者はどうにかなるだろう。だが、その後どうする?理性が本当に戻ったかすら定かではない奴を連れて、ここを離れるのか?目撃者だらけのここだとすぐ居場所がばれるぞ。」
「――っ!」
リュレンは現実を叩きつけられながらも、まだ諦めきれないように、青年を見る。
「そうです!今ここで出たら、私たちも……!!」
「諦めろ、リュレン!!」
まだ何か反論しようとリュレンが口を開いたとき、群衆から、わっと歓声が上がった。
青年がいた方向を見ると、すでにとどめを刺されたようで、もう動かなかった。今まで別の人に押さえつけられていた青年の家族が、泣きながら遺体に駆け寄る。使者も、それを止めはしなかった。青年の体は、はらはらと少しづつ崩れるように崩壊していき、ついには無くなってしまった。
あれが、魔人の行く末だ。
「……いくぞ、リュレン」
ルレファは、奥歯を噛み締めているリュレンに、静かなトーンで声をかける。
「………ああ」
リュレンもそれに応じ、頼りない足取りで裏路地に向かっていった。
私はあとを追いながら、ふと後ろを振り向いた。
魔人討伐に歓喜する者、魔人の家族に同情する者。様々な人々がいる中で、魔人を討伐し功績を立てたであろう張本人の使者が、一番苦しそうに見えた。その使者は何を思ったのか、ふと顔を上げ、まっすぐこちらを見た。つい合ってしまった使者の目は、まるでどうしたらいいかわからない子供のように、揺らいでいるように見えた気がした。
きっと、気のせいだ。
私たちはそのまま裏路地に入り込み、お互いの視線は、そこで途切れた。
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