幽霊市場は祭りのように賑わっていたが、私たちを待つのは死だけだった。

Ryo Nova

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第4話 - 灯籠の血

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   灯籠が頭上で揺れ、俺の名を囁いた。
そして――彼女が現れた。

ゴーストライトの霞から一人の少女が歩み出る。
海から這い出たばかりのように濡れた髪。透き通るような肌。
      ビキニの上にぶかぶかのパーカー。裸足に近い脚が、灯籠の火に淡く光っていた。
その動きは水のように滑らかで、瞳はまっすぐ俺を射抜く。

モモ。

   言葉を交わす間もなく、彼女は飛びかかってきた。

その手が爆ぜ、幽火の爪が広がる。

   俺が腕を上げた瞬間、呪いが爆発する――肉が裂け、黒い血管が悲鳴を上げる。
    前腕が割け、滑らかな黒曜石の刃へと形を変えた。
口内が軋み、牙が伸び、鋼鉄すら噛み砕けるほどに尖る。

衝突。

    彼女の爪が俺の刃とぶつかり、火花が散った。
石畳を駆け抜け、速すぎて屋台の目すら追えない。
一撃ごとに空気が裂け、幽火が砕けては飛び散る。

彼女は宙で身を翻し、パーカーが跳ね上がる。長い脚、
そしてビキニの曲線が一瞬だけ閃き――空中で爪を振り下ろす。

    その一瞬、パーカーが舞い上がり、白い肌とビキニ越しの尻の線が灯籠の光に浮かんだ。

俺は受け止め、牙を剥きながら笑った。

   「殺すつもりなら、せめてその景色を見ながら死なせてくれよ!」

イツキ(顔を真っ赤にして叫ぶ):
「レンジっ!!な、なに言ってんだよ!?!?」

     モモの瞳が燃え、次の瞬間には姿を消した。
背後。頬に焼けるような痛み――爪がかすめ、血が滴る。

俺は唇の血を舐め、牙を光らせた。

    「可愛いな。もっと踊るか?」

    だが、彼女はそこで止まった。爪が震え、戦いが唐突に凍りつく。

モモの爪が震えた瞬間、灯籠の炎が赤黒く歪み――視界が引き裂かれた。
灯籠の光が彼女を包み、世界が暗転する。
そして俺は見た。彼女の過去――血のように俺の胸へ流れ込む傷痕を。


笑い声。
だが暖かいものじゃない――鋭く、醜く、残酷な嘲り。

    三人の少女。二人の少年。
着崩した制服、毒に濡れた目。

「ビッチ。顔がいいからって調子乗んなよ。」

  いじめ男

「笑えよ、モモ。笑ったら、帰してやるかもな?」

    平手打ち。さらにもう一発。頬が赤く染まる。
教科書は便所に放り込まれ、彼女の泣き声が誰もいないトイレに響く。

そして、浜辺。

    同じビキニ、同じパーカー。友達と笑っていた。
だが奴らが現れ、押し倒す。砂が肌に擦れつき、手が首を押さえ、水が深く引きずり込む。

モモ(むせび、懇願):
「やめて…わたし…息が…できな――」

    誰も聞かない。
笑い声だけが響き、悲鳴は波に呑まれる。
海が彼女を奪った。蒼白の肌。虚ろな瞳。沈黙。

◇ ◇ ◇

   俺はよろめき、胸が締めつけられた。
幽火が消え、彼女はそのままの虚ろな瞳で俺を見つめる。

モモ(小さく震える声で):
「…安らげない。あいつらが、私と同じ血を流すまで。」

    俺は刃を肉に戻し、牙を収めた。
片眉を上げ、微笑を浮かべる。

「なら、ついて来いよ。俺と一緒に、復讐を刻もうぜ。」

    彼女の唇がわずかに曲がった。微笑とも哀しみともつかぬ表情で、頷いた。


その後、クロガミに導かれ、俺たちは細い路地を進んだ。
    灯籠が照らす屋台には、蒸気の立つ怪物の料理。

眼球が浮かぶスープ。血を滴らせる肉の皿。
震える字で貼られた瓶のラベル「処女の生血 ― 生理、極上」。

  イツキが顔を青くして吐きそうになる。

「レンジ…まさか…食うつもりじゃ…」

   俺は鼻を鳴らし、顔をしかめた。
「安心しろよ。俺だって自殺願望はねぇ。」

亡霊の店主が歯を真っ黒にして笑う。
店主:
「さぁ…一口だけでも。極上の月経の血だぞ?甘露だ…甘露…」

   俺は口を覆い、笑いを堪えた。

「極上の月経血?まるでデザートみたいに言いやがる。誰がタンポンスープなんざ啜るかよ。」

   モモが腰を下ろす。パーカーが肩からずれ、ビキニの紐が幽火に淡く浮かぶ。
彼女は眼球スープを手に取り、ためらいなく口に運ぶ。

眼球が歯の間で潰れ、血がゆっくり唇を伝う。

   イツキは胃をひっくり返すようにえずき、地面にしゃがみ込んだ。

「モモ…な、なに考えてんだよ!?」

   彼女は静かに俺たちを見上げる。瞳は空虚だが揺るがない。

モモ(静かに):
「私は…ここに長くいる。この市場に喰われながら、生かされてる。食べ物なんて…これしかない。」

   彼女は何事もないように、もう一口すする。


歩を進めると、囁きがつきまとう。

   その時――上空で鎖が鳴った。

屋根から五つの影が降りてきた。白い炎に包まれた亡霊の暗殺者たち。骨の剣、槍、鉤爪。

その頭領の声が雷鳴のように響いた。

「呪われし器…刃に生まれし者よ。今宵、お前の負債を取り立てる!」

俺は首を鳴らし、肩を回す。呪いが再び溢れ、黒い刃が両腕から咲き誇る。
牙が唇から覗く。

   「晩飯は台無しか。…じゃあ、踊ろうぜ。」

暗殺者たちが襲いかかる。

    モモが並び立ち、フードが舞い上がる――白い脚が閃き、幽火の爪で一人を真っ二つに裂く。
俺は刃を交差させ、嵐のように鎖を断ち切った。イツキが後ろで絶叫し、クロガミは冷ややかに見守る。

血。火花。悲鳴。

   クロガミ(低く、読めぬ声で):
「無謀…だが、止まらぬな。」

暗殺者たちの体が融合し、六本腕の巨大な怨霊へと変じる。
   無限の牙を持つ怪物。灯籠が震え、市場全体が飢えに呻く。

イツキが俺にしがみつく。
「レンジ…お願い…やめ」

   俺は笑みを浮かべ、刃を構えた。
「やめろ?ここからが楽しいんだろ。」

俺は飛び出した。モモも並走する。
鎖が砕け、炎が咆哮し――刃と爪が悪夢を切り裂く。

   怨霊が絶叫し、断片となって消えていく。

頭上の灯籠が血のように赤く光り、囁きが激しさを増す。

  「レンジ…レンジ…呪われし器…死の美少年…」

市場はもうただ見ているだけじゃない。

   飢えていた。

[エピソード4 終]
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