幽霊市場は祭りのように賑わっていたが、私たちを待つのは死だけだった。

第8話 - 影の間の囁き

    戦場は静まり返っていた。最後の小競り合いから上がった煙が、抜け出ることを拒む疲れた幽霊のようにゴーストマーケットを漂っている。

   提灯は弱々しく揺れ、光は幽霊の膿でまだ濡れた丸石の上に曲がりかかる。

呪われた戦いの余韻で、手はまだ痺れていた。興奮はまだ体内を巡り、アドレナリンが不均一に冷たく脈打っている。
     下を見れば、イツキの小さな指がぎゅっと俺の指に絡んでいて、どれだけ見てきたことがあっても彼の無垢な笑みは消えない。

「どう…どうやってそんなことしたんだ？」と、震える息で俺は尋ねた。

    彼はただ微笑み、頬に淡い紅潮が差しただけだ。「僕…できることをしただけ。」

リンは少し前を歩き、口元に嘲るような薄い笑みを浮かべ、静かにからかっているようだった。

   モモの目は彼女を追い、その戦いの最中にリンが俺に近づいたことに鋭い、ほんの少しの嫉妬を含んでいた。

「ちっ…もっと近づけばいいのに。バカども」と、彼女は小声でつぶやいた――ほとんど聞こえないほどに小さく、だがリンはそれを聞き逃さなかった。

   「すねてるやつがいるな」と、リンが柔らかく言った。

モモはオーバーサイズのフーディーをさらに引き下ろした。「すねてなんかない。むしろ気持ち悪いだけ。」

    空気が変わった。冷たい。あまりに冷たい。
霧の中から、幽鬼じみた姿が滑り出してきた。

青白い顔、笑みは不自然に大きく、歯は多すぎる。目はかすかに光り、虚ろだ。

    ゴースト娼館が俺たちの前にそびえ立ち、その看板は風に軋み、囁きは香水と毒のように空気を這った。

一人の女が扇を掲げ、蜜を含んだ壊れた硝子のような声で歌うように言った。「坊や――美しい坊や――夜の味を試してみない？」と、古い香水と海の腐臭を漂わせる手を差し出す。

    別の者が俺を指差し、戯けた、しかし不穏な声で言った。「初物が一番。ここに泊まる？大切に扱うよ。」

一部分の、愚かな動物のような自分が、カーテンの向こうを覗きたがった。だが残りの自分がそいつを首根っこから掴んで絞め、後で後悔するようなことをする前に止めた。

    「ダメだ」とリンが言った。
それだけ。哀れみも恐れも演技もない。マーケットには開けてはいけない扉がある。

   俺は無理に視線をそらした。

再びあの姿が現れた――先ほどの顔を覆った幽鬼の女だ。彼女の声は割れた硝子に蜜を垂らしたように響く。
「まぁ…またあなたね？今日はその宝石の一つを売ってくれる？千個の護符と交換してあげるわ。」

   俺は固まり、反射的に股間を両手で覆った。

イツキは困惑して瞬きをした。リンは笑い出し、モモはまた小さく何かを呟き、リンが俺に近づくのを睨んだ。

   その緊張は馬鹿げていて、恐ろしく、同時にばかばかしかった。

   やがて、俺たちはさらに奥へと歩き、ゴーストの森の中に小さな家を見つけた。小さく、歪で、静かだった。

枝が窓を骸骨の指のように撫でる。中は質素で――マットレス、ちいさなベッド、そして使い古された衣類が置かれていた。

     俺たちの服は裂け、血にまみれていた。俺の服は肌に張り付いて、浸透している。リンとモモ、そしてイツキは身体を拭き始めた。

リンはタンクトップを脱ぎ、着物に着替えようとした。俺の脳は短絡した。
咄嗟にイツキの目を片手で覆った。

     着物は彼女の褐色の肌に沿い、優雅で致命的に見え、提灯の光に胸元がきらりと光った。

彼女の短剣がふわりと浮かび、先端は念のために俺に向けられていた――俺が彼女が何者かを忘れないように。

   モモはその大きなフーディーの下に水着のままで、ぐっとそれを引き寄せた。俺が盗み見したのを見て頬が少し赤くなり、俺は天井が面白いとでも言いたげに振る舞った。

夜になり、イツキは眠っている俺の腕に丸まった。
俺は木製の天井を見つめ、外の囁きが風とともに上がり、また落ちるのを聞いていた。

    リンは焚き火のそばに座り、着物の肩が崩れ、胸元がオレンジの閃光を受ける。誓って言うが、俺が視線を滑らせるたびに短剣はミリ単位で動いた。

俺は諦め、代わりにモモの隣に座り、鼓動の合間のどこかで、彼女の胸に頭を乗せて眠りに落ちた。

       あたたかくて、柔らかい。

モモは驚いて目を見開き、固まった。息が詰まり、袖を握る手が生地を擦り鳴らすほどに力を入れた。

     頬が熱くなり、そのささやかな揺れで軽く跳ねる。リンはにやりと笑って目をそらし、気づかないふりをした。

モモは一瞬固まったが、やがて落ち着いて眠りについた。

    目を覚ますと、まず感じたのは俺の頭がモモの胸に載っていることだった。目を見開き、呪われた手は呼ばれでもしたかのように痒かった。

もう少しで手を伸ばしてしまいそうだった、神よ助けてくれ。呪いが指を奪うかもしれないのを承知で、温かさと危うさが完璧に混ざった感覚に身を任せそうになった。

    ただ…一度触れたい。これが夢じゃないと確認するために。

指を一インチ、動かした。
半インチ。
あと少し――

   「掴むつもりか、それとも心肺蘇生か？」と、リンの声が背後から来て、冷めた声なのに面白がっている。


驚いて飛び起きそうになった。「なっ――！？　ち、違う！　そ、そいつは――えーと――呼吸が変だっただけだ！」

    リンは腕を組み、にやりとする。「そうか。『呼吸が変』ね。彼女が起きてあんたを殺したら、その言い訳をもう一度試してみろよ。」

俺が下を見れば、モモはフードの下で半目を開け、頬を赤らめ、眠そうで冷たい声で言った。「…重いよ。」

     リンは窓際に寄りかかり、月光が彼女の顔を切り裂くように差した。「で、何を考えてたんだ、レンジ？」

「な、何も！　ぜ、ぜんぜん何も！」

   「どうやって…ここに来たんだ？」と俺は尋ねた。

彼女の口調が変わった。低くて古いもののような響きだ。「ここに長くいる。

     マーケットが生の肉を売っていた頃を覚えているほど――噂ではない、本物の肉を。戦争が始まり、腐っていくのをずっと見てきた。明治の頃から。町が川を飲み込む前からね。」

    俺は見つめた。「そんなに…長いのか？」

彼女は柔らかく、しかし鋭く笑った。「多くの魂が名前を纏っていられる時間より長いわ。」

   「ここでは時間は過ぎ去らない。噛みつくだけだ。人々は来た理由を忘れるが、私は忘れなかった。愚かに長居した者からマーケットが何でも奪うのを見てきた。それでも…私はここにいるの。」

    それから彼女は首を傾げた。「で、人間。あんたはなんでここにいる？」

「好奇心だった。そしたらイツキと出会い、モモと会った。残ったのは…」と言いかけて言葉が詰まった。

「…嘘ばかりの人生から逃げてきたからだ。もし呪われるなら、一人じゃない。」

    リンは小さく、含みのある笑いを漏らした。「あんたはあの輝く目の女のために残ったのね。ここみたいな場所が対価を求めるときに効く、あんたの頑固さってやつが残った理由なんだろう。」


俺が横を見ると、モモは眠っていて、フードを被り、呼吸はかすかで不安定だ。額には傷の跡があり、彼女は安らかに見えない。ただ…平静を装うことに疲れている。


    「彼女はあいつらにあんな目に遭わされるべきじゃなかった」と俺は小さく言った。「もしマーケットがまた彼女を飲み込むつもりなら…俺は――」


リンの声が霜を引く鋼のような囁きに落ちた。
「私はあんたのために、そいつらの首を取ってくるわ」と彼女は言った。


    「もしあんたの血が復讐で燃えるのなら、根こそぎ引きちぎってあんたの前に並べてやる。」

俺は瞬きをした――そして愚かなことに最初に浮かんだ考えは、彼女がそれを言ったときに着物がどう動いたかということだった。そして手がぴりぴりした。古くて馬鹿げた衝動が指先を動かしそうになった――

     そのとき、リンの声が刃のように響いた。

「それだけはするんじゃない」と、リンは振り向かずに言った。

     俺は手を伸ばすのを凍りつかせた。まるで誰かに麻痺（パラライズ）を掛けられたかのように腕が固まった。

「あはは、違う――ほら…湿度を確かめてただけだ！」と、必死に取り繕う。

     彼女は一つ眉を上げて振り向いた。「ここで湿っぽいのはお前の頭だけだよ、坊や。」

森は外で囁いた。提灯は揺れた。初めて、ここが少しだけ安全に感じられた。

    俺は再び眠りに落ち、髪が目にかかり、呼吸は安定した。
モモは隣で体を寄せ、うとうとしたまま額が俺の胸に触れた。
        夢の中でも思考は暴れた。

    くそ…動くな。台無しにするな。髪の匂いが良すぎる、なんてこった—

眠りの中で大きく息を飲み、慎重に腕をずらすと、モモの手が半分眠ったまま袖を掴んだ。今、彼女はもっと近い。近すぎる。

     部屋の向こうで、リンは幽鬼の短剣を膝に乗せて座り、目は半分閉じられているが警戒を緩めていない。

何かがおかしい。外の風が止んでいた。

    木々が一度囁き、そして沈黙した。

霧が森を這い回り、カラスが鳴いた。そして、何も起こらなかった。

   そこに――木々の間に影があった。
クロガミ。かつて俺たちを助けたあの男だ。コートが翻り、彼の手は暗闇に輝く印を描く。

   「夢だよ」と彼は囁いた。「魂より安い。」

印が点火した。紫の静電が森を走った。

    そして――すべてが弾けた。

光が歪む。影が液体のように壁を這い上がった。

    息ができない。体が動かない。

空気そのものが叫んでいた。
そして――すべてが硝子のように砕け散った。

   モモと俺は消えた。

鼓動だけが残る。

    リンの目が飛び開き、青いルーンが白目に回り始めた。

   「まずい――幻影だ！」

霧の中から下僕たちが現れ、骨の仮面を被り、無言で、数十体が家を取り囲む中、リンの幽鬼の大鎌は霧から噴き出した。

    イツキは彼女の隣で息を切らして目を覚ました。「な、なにが起きてるの！？」

「奴が魂を幻影フィールドに引き込んでる！」とリンは叫んだ。「家を守れ！」

    —幻影の内側—

果てしない空を落ちている。
風が俺の叫びを引き裂く。

   「モモ！！」

だが地面に叩きつけられる前に、世界は液体になり――空が深い海に変わった。
沈み、沈黙が俺を絞める。

     そして――ぱちん――水は雪に変わる。
俺は咳き込みながら突き破り、黒い月の下、暗いツンドラに膝をつく。

   立ち上がる前に、嵐の中に蠢く声が這い寄った。
「現実を覚えているか、レンジ？」

俺は振り向き、「出てこい！」と叫んだ。

    雪は濃くなり、笑いが反響する。

—現実――小屋—

   リンの刃はさらに一波の霊を裂いた。イツキの鼻血が出て、護符がちらついている。

「まだ囚われてる！　届かない！　届かない！」

   「なら引き戻す！」

—幻影の内側――モモの側—

   モモは目を開けて硬直した。
海岸。あの海岸だ。

空は血のように橙色に染まり、彼女が死んだあの日と同じ景色。

   五つの影が待ち受ける。いじめっ子たち。
そして中心に――クロガミ。

彼の薄笑いは変わらない。「幽霊は溺れないんだろう？」

    彼女の胸は砕けた。
自分がもがき、懇願し、溺れるのを見た――

「いや…またここで…」

   波打ち際に映る自分の姿が手を伸ばし、彼女の手首を掴んだ。

青い炎が彼女の手から爆発する。
幽霊の炎。彼女の目は白く染まる。

   「ぶっ殺す！！」

—現実――小屋—

    リンは大鎌を地面に叩きつけた。部屋は青い光で爆発する。
        霊の紋が時計のように彼女の周りを回る。

外で、クロガミは霧の向こうに立ち、混乱を見ながら見ている。

   「起こせるなら起こしてみろ」と彼は囁き、指を鳴らした。

—幻影の内側――スプリットスクリーン—

  俺は吹雪の中を歩き、血が静脈の中で凍っていくのを感じた。
          モモは幽霊の炎に包まれ、海岸は崩れていく。
リンは霊を切り裂き、現実は縫い目が裂けるように分断される。
イツキは鏡が砕けるのを叫び、彼の映像は血を流す。

    そして見えた――雪の先に青いランタンを掲げる人影が。

リンだ。それとも彼女を装うもの。

   「リン――！？　お前か――！？」と俺は叫んだ。

ランタンが閃光を放つ――白熱した光。

光がすべてを呑み込む。
画面は黒に切り替わる。

    クロガミの声が虚空を引き裂くように響いた。冷たく歪んでいる。
「次に目を覚ましたときには…生きていたことを呪うだろう。」


[エピソード8 終]