DTガール!

Kasyta

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がっこうにいこう!

86.5話「しきたり」

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 後ろ手に寮の扉を閉めると、へなへなと膝から崩れ落ちた。

「よ、良かったぁ・・・・・・。」

 自然に目の端から雫がぽろぽろと溢れだして頬を伝う。
 そんな私を見て同室のマリー・・・・・・いや、マルコ君が驚いた様子で駆け寄ってきた。
 紫色が混じったさらさらの黒髪で、長めの前髪からは私の事を心配する金色の瞳が見え隠れする。

「ロールさ・・・・・・ではなくてローウェル君、どうしたのかね? もしかして・・・・・・駄目、だったのかな?」

 マルコ君の言葉に首を横に振った。

「う、ううん。アリューシャちゃん、またやってくれるって。ばかって言っちゃったのに、ぐすっ・・・・・・気にしてないよって言ってくれて、また仲良くしてくれるって・・・・・・。」
「ローウェル君、男の子があまり泣くものではないぞ。服が汚れてしまうから、部屋に上がりたまえ。」

「あ、ありがとう、マリーちゃん。」
「ワタクシ・・・・・・コホン、吾輩はマルコであるぞ。ローウェル君。」

「そ、そうだった。ごめんなさい、マルコ君。」

 マルコ君に連れられ居間へ行くと、お茶会の準備が整っていた。
 既に二人が座っており、これでこの部屋の全員が揃った事になる。

「上手くいったみたいでござりますね。拙者の言った通りでござりましたでしょう?」

 長い薄水色の髪を後ろで束ねている、独特な口調のレント君。
 髪と同じ色の凛とした細長の目で見つめられると、少し胸が高鳴ってしまう。
 彼の口調は、お祖父様を真似ているという話だ。

「良かったですね、自分も心配していたでありますよ。」

 少し硬い口調のキース君は、王に仕える騎士のお兄様の真似をしているらしい。
 そんな彼女・・・・・・いや、彼の自慢は肩まで伸びたお兄様と同じ金色の髪だ。

「ローウェル君も座りたまえ。今日は吾輩の国で採れた香りの良い茶葉であるぞ。」

 マルコ君は宮廷学士の伯父様を参考にしたと言っていたっけ。
 彼とは幼い頃に何度かパーティでお話したことがある。幼馴染・・・・・・と呼んでいいのかは分からないけれど。

「本当だね。すごく良い香りがしてる。」

 そして私は・・・・・・僕はローウェル。
 あまり男性とお話する機会が持てなかったので、弟の口調を真似ようと頑張っている。みんなの様に上手くは出来ていないが。

 本当は全員が私と同じ歳の女の子なのだけれど、家の仕来りで学院に通っている間は男の子として過ごさなければならないのだ。
 どういう意味があるのかは分からない。

 最初はとても不安だったけれど、こうして同じ境遇の子達と仲良くなれたのは凄く嬉しい。
 お互いが女の子であると知ってしまった事は、四人だけの秘密だけれど。

 マルコ君が淹れてくれたお茶を口に含むとこれまで嗅いだ事の無い香りが鼻孔を抜けていき、ざわめき立つ心を静めてくれる。

「それでアリューシャ殿とは、ちゃんと仲直り出来たでありますか?」
「う、うん。レント君のお陰だよ。」

「”男なら当たって砕けろ”と、よくお祖父様が仰っておられたでござるのです。」
「レント君のお祖父様に感謝だね。」

「でも少し羨ましいであります。学年で一番のアリューシャ殿に宿題を預けられるのは。」
「そうであるな。吾輩もお願いしたいものだ。」

「確か一番最初にアリューシャ殿にお願いしたのがローウェル君でありましたよね?」
「しかし、成績が出てからならいざ知らず、なぜアリューシャ殿のような幼子に頼もうと思ったのでござりますか?」

「そ、それは・・・・・・立ち居振る舞いから貴族じゃないのは分かったし、それであの歳でこの学院に来てるということは、きっと凄い商人の子なのかと思って・・・・・・。そ、その、商人の子は読み書き計算はきっちりと教えられるって聞いた事があったから・・・・・・。」
「それだけでは動機が薄い気がするでありますが・・・・・・。」

「ぅ・・・・・・そ、その・・・・・・他の人にお願いするのは少し怖くて・・・・・・。」
「男子たるもの、恐れには打ち克たなければならないでござるのです。」

「ご、ごめんなさい・・・・・・。」
「まぁ、二人ともそこまでにしよう。今はローウェル君がアリューシャ氏と無事に仲直り出来た事を祝おうではないか。」

「そうでござりましたな。」
「で、ありますね。ですがその前に・・・・・・。」

 キース君がテーブルの中央にあるクッキーに目線を向けた。

「今日は自分が作ったであります。見た目はそれなりに出来ましたし・・・・・・い、一応焦げてはないであります。」

 意を決して皆でクッキーを一枚ずつ掴む。

「で、では頂くでござりまする。」

 一口。
 さくっ。もそもそもそもそ・・・・・・。

 二口。
 さくっ。もそもそもそもそ・・・・・・。

「吾輩の感覚がおかしくなったのであるか・・・・・・? 何も感じぬぞ。」
「そ、そんなことないよ。味も匂いも・・・・・・無いみたい。」

 無味無臭。それがこのクッキーの特徴だった。
 今まではどんな失敗をしてもクッキーの甘い匂いが漂い、焦げた苦味があったりしたものだが。

「うぅ・・・・・・す、すまないであります。」
「い、いや! しかし先日拙者が作った物よりは食べられるでござりますよ!」

「で、でもあれはクッキーの匂いがしていたであります。」

 確かに前回レント君が作った物からは美味しそうなクッキーの匂いが漂っていた。
 それ以外はただの石としか呼べない様な物だったけれど。

「・・・・・・吾輩らは、いつになったらまともなクッキーが作れるようになるのであろうか。」

*****

 無味無臭クッキーの最後の一欠片を頬張り、お茶で流し込んだ。

「ふぅ・・・・・・こ、これで全部終わりかな?」
「うぷ・・・・・・綺麗になくなったであります。」

 口元を丁寧に拭ってから、マルコ君が首を傾げながら聞いてくる。

「そういえば、どうしてアリューシャ氏と言い争いになってしまったのだ?」
「そ、その・・・・・・今年から値上げするって言われて・・・・・・。」

「ふむ・・・・・・それなら銀貨二十・・・・・・いや、三十枚くらいであるか?」
「え、そ、そんなにじゃなくて、今年から銀貨四枚にするって・・・・・・。」

「銀貨四枚・・・・・・ローウェル君ならそれくらい別に問題無いでのではござらぬか?」
「そ、そうなんだけど。いきなり言われたから驚いちゃって・・・・・・つい。」

「そんなにお安いのでありますか?」
「え? 僕、他の人のは分からないから・・・・・・。」

「自分は銀貨八枚でお願いしているでありますが・・・・・・。」
「吾輩は七枚である。」
「拙者は銀貨十枚でござるです。」

「ええっ!? ・・・・・・そ、そうなの?」
「アリューシャさんの成績であれば、銀貨十枚でも安いと思うのでありますが・・・・・・。」

「けれど、その値段で大丈夫なのでござるか?」
「どういう・・・・・・意味?」

「いえ、拙者が頼んでいる子は、生活費や将来の為に貯金していると言っていたでござるから・・・・・・。」
「じゃ、じゃあアリューシャちゃんは・・・・・・。」

「生活に困って無いと良いのでござるが・・・・・・。」

 自分の顔からサーッと血の気が引いていくのが分かる。

「ど、どどどどうしよう! 私、知らなくて! あ、アリューシャちゃんが困ってたら・・・・・・! わ、私、それなのに、それなのに・・・・・・!」
「落ち着くのだ、ローウェル君。アリューシャ氏はまだ学校におるのだから、今すぐお金を持って行けば大丈夫であろう。」

「で、でも、すぐに用意できるのは金貨三枚くらいしか・・・・・・。」
「吾輩も微力であるが力添えさせてもらおう。」

 マルコ君がそっと私の手の上に金貨を載せる。

「拙者も協力するでござる。」
「自分もであります。さぁ、ローウェル君。早く行ってあげるであります。」

「うん! みんな・・・・・・ありがとう!」

 私は何枚かの金貨を手に、アリューシャちゃんの部屋へと駆け出したのだった。
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