DTガール!

Kasyta

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がっこうにいこう!

140.5話「きらわれちゃった?」

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 午前の授業の終わりを報せる鐘の音が学校中に響き渡った。

「それでは諸君、また明日に。」

 その数秒前に講義を終え、教材の片付けも済ませていたアンナ先生が鼻歌混じりに教室を出て行く。
 先程までの静寂は喧騒で上書きされ、学校が息を吹き返したかのようだ。
 私も急いで筆を走らせるが、パーティの皆はとっくに片付けまで終えてしまっている。

「遅いよフラム~。ボクもうお腹ペコペコだよ~。」
「ご・・・・・・ごめん。」

 ニーナのお腹の虫が、言葉以上に私に訴えかけてくる。

「フラムはニーナと違ってちゃんと勉強してるからね。」
「ボ、ボクだってちゃんとしてるもん!」

「じゃあ・・・・・・今日の宿題は何だったか覚えてる?」
「え・・・・・・・・・・・・えーっと・・・・・・?」

 ニーナが答えを絞り出そうと首を捻るが、どうやらそれは叶わなかったらしい。

「はぁ・・・・・・今日は宿題無いよ。」
「ホント!? やったぁ!」

 ため息を吐くアリスとは対照的に飛び上がって喜ぶニーナ。
 あれ・・・・・・? でも確か今日の宿題は――

「・・・・・・・・・・・・嘘だよ。」
「ええっ、そんなぁ~・・・・・・。ひどいよアリス!」

「ちゃんと先生の話聞いてないからでしょ。」

 どうやら私の記憶は間違っていなかったようだ。
 そんな二人のやり取りを眺めていると、サッと黒板の文字が消されてしまう。
 慌てて手元の手帖に視線を落とすが、そこには半分ほどの内容しか書き写されていなかった。

「ぁぅ・・・・・・・・・・・・。」
「あとで私のを写せばいいよ。」

「い・・・・・・良い、の?」

 アリスの方へ視線を向けると、彼女が瞳だけ動かして目線を逸らす。

「フ、フラムはちゃんと頑張ってるんだしね。それより、お昼にしようよ。」
「う、うん・・・・・・。」

 机の上に並べていた勉強道具を片付け、席を立った。
 鞄を持つ反対の手でアリスの手を握る。

「ひゃぅ!?」

 小さな悲鳴をあげたアリスに手を振り払われる。
 チクリ、と胸の奥に痛みが走った。

「ご、ごめん・・・・・・なさい・・・・・・。」
「わ、私の方こそごめん! ちょっとビックリしただけっていうか、えーと・・・・・・と、とにかく早く行こう!」

 今度はアリスが私の手をぎゅっと握る。
 柔らかい掌から彼女の温もりが伝わり、少しかじかんだ手が解けるようだった。

*****

「アリスの様子が・・・・・・変?」
「う、うん・・・・・・。」

「ぷっ・・・・・・ふふっ・・・・・・そうね、確かに変ね・・・・・・くくっ。」

 隣に座っているリーフが口に手を当て、必死に込み上げる笑いを堪える。
 その話題の当人は、ニーナとサーニャを連れて夕食の買出し中で此処にはいない。
 ヒノカとフィーは外で訓練中、寮の部屋で私がリーフに勉強を教わっていたところだ。

「・・・・・・・・・・・・?」
「ふふっ・・・・・・ご、ごめんなさい。そうね・・・・・・私達が気にする必要はないわ。」

「そう・・・・・・なの?」
「ええ。あの子自身の問題だから、放っておきなさい。」

「で、でも・・・・・・。」
「それよりフラム。冬休みにアリスと何かあったのかしら?」

 言われてハッと気付く。
 確かにアリスの様子がおかしくなったのは冬休みが終わった後くらいからだ。
 けど――

「・・・・・・な、何も。」

 首を横に振ってリーフの問いに答える。

「あら、そうなの? 私はてっきり何かあったのかと思っていたのだけれど。」
「わ、私の・・・・・・所為?」

 思わずそう呟いてしまった。
 お前の所為だ、と責められているようで。

「遠からず・・・・・・と言ったところだけれど、貴女が心配するような事じゃないわ。・・・・・・だからそんなに深刻そうな顔をしないで、フラム。」

 リーフに優しく頭を撫でられる。

「本当に・・・・・・?」
「ええ。それに、貴女の所為ではないから安心して。もし私達に出来る事があるとすれば・・・・・・普段通りに接してあげる事じゃないかしら。」

「それだけで・・・・・・いいの?」
「本人から何か相談されたら聞いてあげる、くらいで構わないわ。それまではそっとしておきましょう?」

「う、うん・・・・・・。」

 ホッと胸をなでおろす。
 リーフが言うのなら、きっとそれが正しいのだろう。
 しかし彼女の口ぶりからすれば、私の所為では無いにしても原因は私にあるようだ。

 本当に何もしなくて・・・・・・いいのかな?

*****

 雪が薄く積もった街をトボトボと歩く。

「はぁ・・・・・・。」

 漏れた真っ白い溜め息が霧散して消えていく。
 あれから数日経ったが、アリスの様子はあまり変わらない。
 授業が終わって気分転換にと街へ出てみたのだが、空模様と同じく気分は晴れそうにない。

「おや、どうしたんですかい、フラム嬢。団長なら来ておりませんぜ?」

 急に声をかけられてハッと我に帰る。
 気付けば自警団の本部にまで足を伸ばしてしまっていたようだ。
 何事かと団の人達が集まってくる。

「あ、あの・・・・・・その・・・・・・。」

 数人の男性に囲まれて私の足は竦み、唇は震え二の句が継げなくなってしまった。

「ちょっとアンタら、正妻さまが怖がってるでしょーが!」
「痛ってぇ!」

 彼らの後ろから現れたミアの蹴りが、団員の一人のふくらはぎに炸裂した。

「オ、オレら何もしてねぇって!」
「アンタらは立ってるだけで怖がられるんだから、隅っこで小さくなってなさいよ!」

「てめっ・・・・・・言いたい放題言いやがって!」

 団員たちとミアが睨み合う。
 これも私の所為・・・・・・。
 私がこんなに臆病でなければミア達が喧嘩をする事なんて無かったのだ。

「あ、あのっ・・・・・・ご、ごめん・・・・・・なさい・・・・・・。」
「い、いやいやっ! フラム嬢は悪くねぇんですよ! 悪いのはこの――」

「ロクデナシのアンタらよ! さっ、アタシの部屋に行きましょ、正妻さま!」

 ミアが私の手を取って踵を返す。
 そして先程まで言い合っていた団員とのすれ違いざまにその足を踏み付けた。

「痛ぇ!  てめぇ、覚えてやがれ!」
「べーっ、だ!」

*****

「どうぞ、正妻さま。」

 ミアが小さなテーブルに置いた土のカップから湯気が立ち上り、温かい空気とお茶の香りを運んでくる。
 息を吹きかけて冷ましながらゆっくり口を付けると果実の甘さが広がり、お茶の苦味が少しだけ後を引く。

「お口に会いますか?」
「う、うん・・・・・・おいしい。」

「それは良かったです。・・・・・・それで、旦那さまと何があったんです?」
「わ、わかる・・・・・・の?」

「正妻さまがそんなに深刻な顔をするなんて、旦那さまの事に決まってるじゃないですか。」

 笑顔でそう言い切るミア。

「ぐすっ・・・・・・ひっく・・・・・・。」

 気付けば私の目からは零れだしていた。

「ア、アリスに・・・・・・ひぐっ・・・・・・き、嫌われ・・・・・・わたしの、せいで・・・・・・っ。」
「うーん、そんなのはあり得ないと思うけど・・・・・・どうしてそう思ったんです?」

 言葉を詰まらせながらも、ここ数日であった、いつものアリスらしからぬ事柄を挙げていく。
 目を合わせてくれない事や、ぎこちない態度、私を避ける様な振る舞い。
 リーフに聞かされた事も全てミアに伝えた。

「なるほど・・・・・・確かにリーフさまの言う通り、そっとしておくのが一番かと思いますけど・・・・・・旦那さまを放っておくなんて出来ないですよね、正妻さまなら。」

 ミアの言葉に頷く。

「わ、悪いことしたなら・・・・・・ぐすっ・・・・・・ちゃんと謝りたい、から・・・・・・。」
「そう言う話じゃないんですけど、そっとしておくにも時間が掛かりそうですし。・・・・・・そうですね、だったらこう言うのはどうです?」

 そう言って笑みを浮かべたミアが、私の耳元にそっと口を寄せた。
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