DTガール!

Kasyta

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がっこうにいこう!

238話「良い話と悪い話」

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 盛り上がる広場の喧騒を避け、木陰に背を預けて一息。
 二日連続の宴会だっていうのに皆よく飽きないものだ。
 それだけ娯楽が乏しい、ということでもあるのだろう。
 まぁタダ飯というのが一番の要因かもしれないが。

 ザッ・・・・・・ザッ・・・・・・。

 土を踏みしめる音がこちらへ近づいてくる。
 しまったな、抜け出してきたのがもうバレたのか。
 音のする方をこっそり覗き込んでみると、足音の主はファラオームだった。
 どうやらこちらの所在は分かっているらしく、まっすぐ向かって歩いてくる。
 隠れていても無駄そうなので、もたれていた幹から背を離す。

「えっと・・・・・・何か御用ですか、ファラオームさん?」

 正面から対峙する形で彼に声を掛ける。
 いつぞやの決着をつけに来た・・・・・・という訳ではなさそうだが、何やら難しそうな顔で押し黙ったままだ。
 他に掛ける言葉も思いつかないので、彼の返答を静かに待つ。

「其方は確か・・・・・・アリューシャ、だったな。」
「えぇ・・・・・・はい、そうです。」

 彼の言葉には以前のような激しさは無く、穏やかに燻っている炭の火のようだ。

「其方には・・・・・・礼を言わなければならないな。」
「お礼・・・・・・ですか?」

「フラムベーゼがあそこまで成長できたのは・・・・・・やはり、其方のお陰なのだろう。」
「いえ、彼女に潜在能力があっただけです。私はただ・・・・・・ちょっとした切っ掛けになったくらいです。」

「その切っ掛けを、私は与えることが出来なかった。」
「それは、あんなやり方じゃあ・・・・・・。下手をすれば大怪我だけでは――」

「力が無いのなら、元々引導を渡すつもりだったのだ。怪我の大小など些事であろう。」
「そんな! 貴方の子供でしょう!?」

「私の子供だからこそ、だ。」
「それは一体どういう・・・・・・?」

 困惑する俺にファラオームが言葉を続ける。

「イストリア家が何と呼ばれているかは知っているだろう?」

 ――没落貴族。
 そしてそれは・・・・・・領地を見た限り、ただの根も葉もない陰口ではなさそうだった。

「囁かれている言葉の殆どは正しいだろう。しかし、それでもその名に付く権威を欲しがる輩も居る。」

 一部の下流貴族や商人上がりの新興貴族なんかが最たる例だろう。
 要するに箔付けしたい者たちだ。

「実際、フラムベーゼへの縁談は数多くある。資金援助の話と共にな。」

 彼にとっては娘を売り渡せ、と遠回しに言われているようなものだろう。

「そして、子供を産ませてしまえばフラムベーゼは用無しとなる。」

 後は生かすも殺すも相手のさじ加減一つ。
 流石に命を奪うとまでは中々無いだろうが、飼殺されないという保障も無い。そのような状態で生きていると言えるのかどうか。
 そうなる前にいっそ一思いに・・・・・・ということか?

「この婚姻を周知すれば、一年は静かになるだろう。」
「一年、ですか?」

「同性婚とはいえ、野暮な事をするような者は居ないだろうからな。嫌われては元も子もないのだから。」

 更なる縁談を持ちかけるにしても、新婚生活の邪魔はしないということか。
 相手方も縁談が複数舞い込んでることくらいは想像つくだろうし、悪印象を与えて候補から外されたら意味がない。
 確かにそんな奴が居たら流石に俺でも引くわ。
 それで一年待つ、といった感じなのだろう。

「だが、問題が解決したわけではない。」

 そう、俺が結婚したところで貴族の凋落を止める術なんて見当も付かないし、それをどうにかしても今度は上流貴族からの縁談が届くことになるだろう。まぁ、そっちの方がいくらかマシだろうけど。
 そして一番の問題が後継者問題である。
 普通なら一年経って子供ができていれば大半は諦めるのだろうが、俺とフラムにその目は無い。
 凋落するにせよしないにせよ、この問題が大きく圧し掛かってくるのだ。
 俺が男として生まれていればと思わなくもないが、それはそれで問題があるんだよなぁ・・・・・・。
 これら諸々の問題からされようと思えば――

「あの、私が無知なので失礼な発言かもしれませんが・・・・・・そもそも家を取り潰したりできないんですか?」

 貴族でなくなってしまえば良いのだ。
 フラムもきっと貴族という立場にそこまで執着があるわけではないだろう。

「フッ・・・・・・そうか、そういう考え方もあるな。では、今まで仕えてくれた家臣や領民たちはどうなる?」
「ぅ・・・・・・それは・・・・・・。」

「どうした? あのエルザークという男は「そんな事を気にするのか」と返してきたぞ。」
「えっ!?」

 というか、エルクともそんな話をしてたのか!?
 ・・・・・・いやまぁ、しばらくは二人で行動してたみたいだし、そういう込み入った話をしていても不思議ではないか。
 しかし、あの親父と同じ考えに至っていたとは・・・・・・。
 エルクの言葉の意味は「貴族がいちいち平民のことに気を掛けるのか?」ということだ。
 まぁ、彼なら貴族のことを「金と権力を持ったいけ好かないヤロー」くらいにしか思っていないだろう。

 でも、俺は・・・・・・。
 確かにエルクの考えるような平民が目の敵にするステレオタイプな貴族感は抜けないが、それでもそれだけではない事を知っている。
 そもそもフラムがその筆頭だ。しかしそれは殆どの人が知る事はないのだろう。

「それが貴族というものだ。」

 ファラオームはさも当たり前のように、そう言葉にした。

「だが、其方らだけなら・・・・・・家を捨て、名を捨て、自由に生きていくこともできるだろう。」

 そうすれば先程の問題の事なんて考える必要もなくなる。けれど――

「それは・・・・・・止めておきます。」
「ほう・・・・・・何故だ? 其方が提案すれば、おそらくフラムベーゼも反対はすまい。」

「多分そうなると思います。けど・・・・・・きっと、それはフラムの心に大きなトゲを残してしまうことになると思いますから・・・・・・。」

 表には出さないが、彼女の胸の中でずっと苛み続けるのだ。
 そんなのは俺が許せない。

「そう、か・・・・・・。話はそれだけだ、手間を取らせたな。」

 わざわざイストリア家の現状を伝えに来てくれたって事なのだろうか。
 別に今で無くてもと文句の一つも言いたいが・・・・・・まぁ、こうやって二人で話す機会も見つけ辛いか。
 良い方に捉えれば、フラムの隣に居ることを認めてくれたともいえるだろう。
 踵を返して背を向けた彼が、自嘲気味に嗤う。

「其方にこんな話を聞かせたと知れたら、また嫌われてしまいそうだな。」
「・・・・・・いえ、そんな事はないと思いますよ。お父様の事が怖いとは言っていましたが・・・・・・嫌い、とは言っていませんでした。それに、さっきの贈り物も喜んでいましたよ。」

「・・・・・・・・・・・・感謝する。」

 消え入るように呟いた彼の背が広場の波に飲まれるまで見送った。
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