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第9話
しおりを挟む〝それ〟は突然やってきた。
「ゲギィ」と奇声を発しながら、僕等の真横から全身赤色のゴブリンが突っ込んでくる。真横だけではない、背後からも2匹、同種の敵が棍棒を片手に襲い掛かってきた。
「くそっ、こんな時にゴブリンの襲撃かいな」
僕等を先導する『ずんどう丸』さんは荷台の取っ手を放すと、即座に戦闘態勢を整える。それを見て、僕等も臨戦態勢に入った。
『格闘家』である僕、それから『獣人』の『王者』さんは基本的に素手で戦うので、剣を抜いたり盾を構えたりする動作がない分、敵の急襲に対応できる。だけれど、『砲撃士』である『ずんどう丸』さんは重い大砲を構え、弾を装填する時間が掛かる分、どうしても手間が掛かってしまう。
「くそっ、ちょこまか動きよって」
左右に動き回るゴブリンに大砲の照準を合わせられず、『ずんどう丸』さんは苛立ちを露にした。
この世界で冒険する以上、敵とのエンカウントは付きものだ。そしてそれは、自分たちの予期しないタイミングで突然やってくる。僕等の装備環境が整った状態で、わざわざ正面から仕掛けてくる敵なんて居やしない。
こんな風になってしまうのは、何となく分かっていた。
「こっちのゴブリンを片付けたら救援に向かいます。なので、ここは何とか凌いでください」
僕は目の前のゴブリンの動向を伺いながら、『ずんどう丸』さんに呼びかける。
「分かったで」
筒状の大砲を肩に担ぎながら、『ずんどう丸』さんは苦しそうに答えた。
初めての戦闘と言う事で、多少なりと緊張してしまう。それに戦い方も実戦で覚えていくしかないので、現状不明瞭な事が多い。だけれど、そんな事を言っている場合ではない。モタモタしていると、hpを削られてしまうのだから。hpが無くなれば、その時点でゲームオーバー。そうなれば兄さんの手がかりを掴むチャンスも消えてしまう。
そんなの絶対に嫌だ。
僕は何度も首を振り、最悪の幻想を振り払った。
「『王者』さん、1匹お願いしますね」
幸いなことに敵は2匹、そしてこちらも僕と『王者』さんの2人。タイマンであれば、戦いやすいだろう。
僕の指示に了承したのか、『王者』さんは少し離れた所に居る1匹のほうに向かって走り出した。
「よしっ、行くぞ!」
僕はぎゅっと拳を握りしめ、力を籠める。そして、不規則な動きで近づいてくるゴブリンに向かって突き出した。
直後、
「うわ!」
拳に光が収束するようなエフェクトが発生すると、身体がふわっと軽くなり、拳に引っ張られるような形でゴブリンの元へと向かっていく。まるで僕の意志を置き去りにして、身体だけが引っ張られているような感覚。
「グギィィッ!」
そして「ベチッ」と軽い音が聞こえたかと思ったら、僕の拳はゴブリンの顔面に直撃した。
「よしっ、当たったぞ」
あまり実感は沸かなかったけど、ゴブリンが仰け反っているのを見て、良い感触だと思う。
だが――
「へっ?」
ゴブリンの身体から、「1」という白い数字が浮かび上がったのを見て、僕は愕然としてしまった。何故なら、あの数字は僕がゴブリンに与えたダメージだと思われるからだ。
1ダメージ?
結構、激しいスピードで握り込んだ拳を顔面にクリーンヒットした筈なのに……
疑問が湧き上がるけど、それに答えられる者は居ない。
「こっ、今度こそ!」
足を踏ん張り、身体じゅうの力を籠め、力いっぱい拳を握りしめる。そして、至近距離に居るゴブリン目掛けて、繰り出した。
「ゲッヘァッ」
再び、僕の拳はゴブリンの顔面に直撃し、ヤツは大きく吹き飛ぶ。精いっぱい力を込めての一撃だから、さっきよりもダメージが出ている筈。
しかし、蹲るゴブリンの身体から浮かび上がるのは「1」という数値。
ど、どうして?
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