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7章
真か嘘か ②
しおりを挟む「そうだ。アンセル薬湯を飲むことを忘れているよ。」
「あ、そうでした。」
さっきの話の流れから、イスカンダーに口移しでクスリを飲ませられる事を警戒しているのか。アンセルはどこかピリピリした様子で薬湯を待っていた。
それが自分を意識しての事だとは分かっていたが、好意の度合いを見極めるにはまだ知り合ってからの時間が短く思えた。
もちろん、自分にとってのアンセルが唯一無二の存在だと本能が告げてはいたが、人間であるアンセルにそれが分かっているかどうか、イスカンダーには判別がつかなかった。
侍女に持ってこさせた薬湯は微かに湯気が立ち、ほんのりと甘い匂いがする。
以前飲ませていたのはもっと野生の草のような青々しさが鼻につく飲みにくい物だったはずだ。
「これは?」
「お医者さまから伝言です。アンセル様が飲みやすいようにと少々改良したという事です。」
その言葉に眉を微かに顰める。
医者はそんな事ひと言も言っていなかったと記憶している。
ただ、アンセルが1人でクスリを飲む姿を痛ましそうに見つめていたようだった。
彼にはアンセルが小さな子どもに見えているのだろう。
長い年月生きている彼はフクロウの獣人だった。
きっとこれは彼からの善意なのだろう。
盆を受け取りアンセルへ差し出す前にひと口自分で含む。
医者の言う事を信じない訳ではないが、自分の口で確認するのが間違いないからだ。
鼻に抜けるスーっとした香りと舌に残る甘い味。
ほのかに残るのはクスリの苦みだったが、これは仕方のないものだ。
これならアンセルにも飲みやすいだろう、と頷いてアンセルに差し出す。
「さ、飲みなさい。」
「は、はい……。」
何故か頬を赤らめて薬湯を受け取ったアンセルは、大人しくクスリを飲んだ。
コクリ、と喉を鳴らしてクスリを飲み込む姿は稚い子どものように見える。
それでも、クスリで濡れた柔らかそうな唇に抗いたがい色気を感じる。
手を伸ばせば触れる事の出来る位置にいるアンセルは、今のイスカンダーにとって麻薬と同じように危険で魅惑的な存在だ。
身を滅ぼすと理解していても触れずにはいられない毒花のようにも思える。
もっとも、静かに薬湯を飲んでいるアンセルにはそんな魔性の雰囲気など欠片もなかったが。
イスカンダーはその姿を眺め、アンセルが自分の庇護下にいる事実に感謝した。
そうして、その事実以外は認められないとばかりにアンセルの傍へ身を寄せた。
「イ、イスカンダー様?」
ビクビクと身を震わせるアンセルの姿にほの暗い喜びを感じてしまう。
今はまだアンセルにこの気持ちを伝える訳にはいかないが傍を離れるつもりはない。
出来るだけ柔らかな雰囲気を纏わせ、アンセルの髪を撫でる。
その柔らかな手触りはイスカンダーのギザギザした心を穏やかにさせた。
イスカンダーを纏う雰囲気は更に柔らかくなり、アンセルの身体からも緊張が解けていった。
次第に薬湯が効いてきたのか、アンセルの目が次第にトロンとしたものに変わってきた。
「アンセルが眠るまでここにいるよ。」
そう告げるとアンセルの身体から力が抜ける。
すう、すう、という寝息が聞こえてきてアンセルは眠りの世界へ旅立ったようだ。
「おやすみ、私の太陽……。」
秀でた額にキスを落としてイスカンダーが部屋を出たのは、それから長い時間が経ってからだった―――。
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